★ここに公開した写真は著作権法上の「私的使用」としてはもちろん自由に使っていただいて結構ですが、私が「山旅図鑑」でさまざまに引用させていただいているWeb上の多くの著作者のみなさんにも、もし使っていただけるチャンスがあれば(クレジット[©ito-koji]をつけていただければ私的使用の範囲外でも)ご自由にどうぞ、と考えています。私個人としてはここに出している写真のデータサイズそのものが、営利的な使用の手前の歯止めとして機能すると考えていますから。
★この花の写真にはキャプションがありませんが、まずは12か月分、ぜんぶ整理できるかどうかということで、時間的にとても手が出せません。個々の写真に対する問い合わせやコメントをいただければ、それぞれの写真に、記名情報として順次加えさせていただきます。(「山旅図鑑」と同様です)
★経緯
*1995年に(あるカルチャーセンターの登山講座が本社法務部の危機管理上の観点からということで終了となって)突如私の個人的な登山講座として糸の会(ITOの会)を発足させることになったのです。そのさい私は皆さんに「半分は私の取材ということなら」という了承をいただいて、首都圏の身近な山を広く見ておきたいということと、いい山があれば時期をずらして繰り返し、集中的に見てみたいという私の利己的な取材のスタイルで「講座」を組み立てさせていただいたのです。
*それに遡ること10年、私は山と溪谷社から『地図を歩く手帳』(1980)を出したことから、朝日カルチャーセンター横浜で1983年から始まった「山登りの手帳・40歳からの登山入門教室」に5人の講師陣のひとり、地図担当講師として参加させていただき、1995年まで40回の実技登山にも参加させていただきました。
*私は大学では探検部でしたから『アウトドア事典』(1983年)とか『初めての山歩き』(1987年)などという本は書いていました。しかし一点に凝縮していく感じの登山というジャンルは苦手でしたし、当時はフリーライターとして昼夜逆転の不健康な生活を送っていましたからどちらかといえば億劫な仕事でした。ただ、長谷川恒夫、大宮求、根岸知、大蔵喜福、中山茂樹さんなど名の知れた登山家のみなさんの初心者に対する指導を現場で見せていただきましたし、写真担当の山岳写真家の内田良平さんからは後に私が「標準的登山道」という概念を発見する重要な示唆をいただいたりしました。
*さて、1995年。みなさんと一緒に山を歩きながら写真を撮るために、私はいくつかの基本原則を定めました。その日、その山で見たものを記録するために、観察レベルを毎回「初参加の人」を想定してリセットし、その日「初めて見たモノ・コト」を意識しながら記録すること、「登山道から一歩も外れず」に撮ること、印刷に対応できるようカラーリバーサル・フィルムで撮ること、などでした。
*ところがカラーリバーサル・フィルムで撮ると、プリントが驚くほど高価になります。記念写真などはだからカラーネガで撮るべきでしたが、私はそのマイナスを逆手にとって、手持ちのフィルムスキャナーでデジタル化し、インクジェットプリンターでA4用紙にプリントして、買っていただくことにしたのです。つまり参加していただいた山の写真がA4サイズのアルバムになっていて、次の山で見ていただけるほか、買っていただくことも可能……ということで私の写真経費も補うことができたのです。
*そうやって撮りためた写真が本格的に使われたのは『がんばらない山歩き』(講談社・1998)ですが、アマチュア用のフィルムスキャナーによるスキャンデータは品質に問題があって、デザインを担当していただいた鈴木一誌さん(ブックデザイナーで糸の会では創設期からの会員)にはずいぶん迷惑をおかけしました。
*次に鈴木さんとのコンビで本にまとめたのは晩聲社の『山の道、山の花』(2007)と『軽登山を楽しむ 山の道、山の風』(2009)ですが、それは山の皆さんに見ていただくために作っていたA4プリントをザックに詰め込んで行って、晩聲社の尹(ゆん)隆道・成(そん)美子ご夫妻に見ていただいた瞬間に決まりました。
*それらの本作りについてですが、1998年の『がんばらない山歩き』のときにはすでにレイアウトは電子化されていて、パソコン上で写真を自由に組み込めばそれがそのまま印刷できました。従来のように写真を1点、1点製版して組み込むというような手間と費用がかからなくなったのですが、まだカラー写真を入れる4色刷りと文字主体の1色刷りを折り(ふつう16ページ単位)で組み立てていくという従来型の印刷システムが残っていました。
*ところが『山の道、山の花』になると、全部4色刷(刷り料金だけが4倍になる)にしてしまえば、カラー写真をどこに何点使おうが、デザイン的な特色(地色や文字色)をどう使おうが、金額は変わらないという時代(インクジェットプリンターと同じレベルです)になっていたのです。
*そこで私は1995年からの写真を新たにデジタル化し(今度もアマチュア用のスキャナーではありましたが)半年ほどかけて分類して、まずは花、と花以外(芽吹き、カエル、木の肖像、自然林、休憩、滝、川、海、チョウ、雨、雲、朝の光、山頂で、ブロッケンの妖怪、山小屋、実り、虫、クサリ場、信仰のしるし、雪遊び、外界の風景、宿、湯……など、など)として、2冊の本にまとめることができたのです。
*その後、カメラのデジタル化が本格化したことにより、2012年からはこのホームページで「発見写真旅・展」を開始、2017年からはそれを「山旅図鑑」と改名して現在に至っています。ただ、図鑑制作にどんどん遅れが出て、それを補完するために2018年からは「写真アルバム(速報)」(のちに「山旅写真・タイムライン」と改称)との2本立てとなって、現在に至っています。
*2020年の春から始まった新型コロナウイルスによる「自宅軟禁状態」を契機に、手をつけられなかった写真整理を開始、まずは一番とっつきやすい「花」から始めたのです。まずは「5月」からボチボチという感じでしたが、5月いっぱいかかってしまいました。他の月についても追々ホームページ上にアップしていきたいと思っています。ご覧いただければさいわいです。
*なお、糸の会はあくまでも「山歩き」の講座ですから、花の写真を撮るためにいちいち立ち止まるわけではありません。完全なスナップショットになりますから、帰ってからその花の名を調べようとしても花しか写っていないということがほとんどです。さらに、私自身は花に詳しくなることよりも、花との出会いがずっと新鮮でありたいと思っているだけなので、いつまでたっても初心者レベルで堂々巡りしている状態、というのが正直なところです。
*最後に、糸の会の発足以降に朝日カルチャーセンター千葉、東急セミナー(第二次)、東武カルチュアセンターでも講座が開かれましたが、私は糸の会とまったく同じ方針で計画を立てさせていただきました。ここにはそれらも組み込まれています。参加された皆さん、関係者のみなさん、わがままを聞いていただき、ありがとうございます。
2020年5月31日 伊藤 幸司
■「サバイバルスピリッツ '87 講義関連メモ」伊藤 幸司(全文) ▲目次へ
■「サバイバルスピリッツ '87 講義関連メモ」
(1)発端
1987年5月1日に、目黒のカレー屋で中込美代子さんという人と会った。目黒駅というのは目黒区と港区、それに渋谷区が接するあたりに品川区がもぐりこんできたようなところで、責任感のある地元意識が希薄である。そこで目黒区側に一軒だけある高級喫茶店に行こうとしたら、コーヒーは飲まないという感じがこちらに伝わってきた。銀座あたりの洋菓子屋の出店だから紅茶やココアでもいいのだが、コーヒーなら何杯でもおかわりできるので、深夜の仕事場とすることのあるぼくにとっては、あくまでもコーヒーの店である。
そこで同じぐらいの値段で紅茶付きカレーの食べられるチェーン店に入ったというわけである。駅ビルなので品川区である。ここではナーン(ペルシャパン)が食べられる。食べながら話を聞くと、夏に10回程度で、サバイバル・キャンプのテクニック講座のようなものができないだろうかというのであった。念のためにその企画を掲げておく。
昨年ぼくは東大和市中央公民館の「青年企画講座・アウトドアライフを楽しもう」で回の講義をするチャンスがあった。念のためにその企画を掲げておく。
第1回…6/27(金)オリエンテーション
第2回…6/29(日)デイキャンプ(奥多摩)
第3回…7/4(金)野外生活術・動
第4回…7/11(金)野外生活術・住
第5回…7/18(金)野外生活術・食
第6回…7/25(金)野外料理・実習
第7回…以後の日程は参加者と相談のうえ決定。
講座終了後2〜3泊の自主キャンプを予定。
ぼくはそこで3、4、5、6、を担当したのだが、少人数の尻すぼみ型、最後の日にはぼくと担当の関田賢治さんだけという最悪の事態を心配するほどになった。
首都圏での「青年活動」はなかなかむずかしいのだそうである。すこし利口になっていたので中込さんにそのことを話すと、彼女は東大和の件も知っているとのこと。ソンジャア、話が早い。人数には心配せずに、ひとりでもふたりでも、来てくれた人になにがしかのメッセージをぶつけることを心がければいい。それに、途中からでも参加できるような節目をつくること。
……10回という枠で考えてみると、なかなかの大講座である。とにかく企画を立ててみた。
1. 体力と頭脳。サバイバルとアドベンチャー
2. 地図踏破(日本編)
3. 地図踏破(世界編)
4. ゲストデイ
5. 歩くこと、運ぶこと
6. 食べること、眠ること
7. 対人、対自然、対時間、対自分(夜から日の出に向かって一直線ハイク)
8. ゲストデイ
9. 見ること、やってみること、続けること
10. まとめ(夜からサバイバル・クロスカントリー)
これが結局、つぎのようなスケジュールになった。中込さんがまとめてくれたとじこみ式の参加者用パンフレットから引用しておく。
文明に囲まれた生活で、私たちは自分に本来備わった能力を眠らせているのではないでしょうか……。この講座では冒険、探検、サバイバルのスピリッツを学び、実際に行動することによって、その力を蘇らせ、新しい自分を開拓していきます。もちろん基本は楽しく、自分のペースでやるということです。
[a]どこで、何ができるか
1. 6/12(金)体力と頭脳の使い方を考える。サバイバルとアドベンチャー
2. 6/19(金)地図踏破・日本編。山、川、原野、海岸、島……
3. 6/26(金)地図踏破・世界編。熱帯、極地、国境、食料……
[b]この夏のキャンプ&山歩き相談
4. 7/3(金)何でも相談。プラン、装備、技術など
5. 7/10(金)ゲスト講演「カナダの父、自然から教わったこと」ローリー・イネステーラーさん
6. 7/12(日)サバイバル・ハイキング “北北西に進路をとれ”
[c]行動の基本を考え、人間の能力を見直す
7. 7/17(金)歩くこと、運ぶこと
8. 7/24(金)食べること、眠ること
9. 7/31(金)対人、対自然、対時間、対自分
10. 8/7(金)見ることとやってみること。続けること。まとめ
★4. 5. 6 は公開講座です。
構造的にいうと、1. の総論が 7. 8. 9. 10. の各論で支えられる。7. 8. の技術面のうち、とくに登山用品が有用な部分については 4. で実物およびカタログ類を見てもらう。2. 3. で各地の地図を見ておいてもらうわけだが、直接的なフィールド感覚は 5. のゲスト講演に期待し、地図のハンドリングについては 6. と番外の自主キャンプ(後で紹介する)で、重点的に使用してみる──というかたちになった。
なお、この講座は青年教室で無料。参加資格は自由だが、メンバー制になる。4. 5. 6. を「公開」としたのは、別途呼びかけのチャンスをつくったものである。とくに 6. のサバイバル・ハイキングには子どもの参加も考えていたので、そのさい講座参加者にはサブリーダーになってもらう必要があった。
ついでに、4. のゲスト講演、6. のサバイバル・ハイキングと、番外のサバイバル・キャンプについても、中込さんがつくってくれたチラシから引用しておきたい。
その1
〈参加募集〉
あなたは今、あなたの力を眠らせてはいませんか? 自然と向き合い、ふれあうことの大切さを学ぶ連続講座です(一回のみの参加も受け付けます)。アウトドアスポーツの好きな人、歩くことが好きな人、山が好きな人、自然が好きな人……etc. どうぞこの講座で充電を。
・講演会「カナダの父・自然から教わったこと」──講師 ローリー・イネステーラー氏
・この夏のキャンプ&山歩き等の計画、なんでも相談──講師 伊藤 幸司氏
・サバイバル・ハイキング “北北西に進路をとれ”──北北西に針路をとって、道なき道を歩きます。行く手には何が……
その2
'87 サバイバル・ハイキングのお知らせ
ふだん怠けている身体を一挙にめざめさせるため、歩こう! 自分の限界に挑戦しよう! 思わぬ自分に逢えるかもしれない……
とき…7月12日(日)午前8時集合
集合場所…田無駅改札口(キップ売場)
雨天の場合も決行!
もちもの…食糧・飲みもの・雨具
お金…電車賃・保険代(1人 100円程度)
コース説明…入間市駅より出発。北北西に進路をとります。目標は小川町。途中に川あり、山あり、街ありのバラエティにとんだコース……。もし途中で疲れても、交通機関を使って帰ることも可能です。
申し込みなしの当日参加も可能です。ただし時間厳守。問い合わせ先・中央公民館・中込まで
その3
私たちはこの瞬間(とき)を待っていた!
'87 サバイバル・キャンプ in 秩父
いよいよ待ちに待った S・キャンプの日が来ました。今は、未知なる体験に挑戦する期待で胸が踊っています。これからも現在のメンバー+α でこういう機会をもちたいものです。そのためにも今回、充分安全には気をつけてください。
▷とき… 8月7日(金)〜9日(日)
7日午後7時の講義終了後、中央公民館を出発します。
▷コース・スケジュール
8/7…西武秩父駅まで電車。そこから初日のビバーク地を探して歩きます。沢沿いの好条件の場所が見つかったら、とりあえず腹ごしらえ。盛大+豪華な夜食が終了したら、就寝 or 徹夜のおしゃべり…? 夕食の献立=天ぷら、オープンサンド等、スープ。
8/8〜9…コースはほとんど決めていません。地図を片手に、おもしろそうなコースをひたすら歩きます。ただし、遅刻の小林さんを迎えに行くことだけは忘れないようにしないと……、夕食の献立=すいとん(何が具になるかわからない)
▷もちもの(ここに書いてあるのは必要最小限のものです)
・衣類・着がえ=ヤブこぎがあるので長そでシャツ、長ズボンを用意。夜も寒くなるのでセーターも用意。
・靴=スニーカーも可
・雨具=折りたたみ傘。レインウェア(ポンチョが好ましい)
・水=水筒やポリビンで1リットル以上。
・特大ゴミ袋 5〜6 枚=寝具など多目的に使います
・手さげポリ袋=ゴミを持ち帰るなどやはり多目的に
・食器=どんぶり+はし+カップ
・トイレットペーパー
・バッテリーライト
・新聞紙
・お金=電車賃+夕食材料+保険代200円+?
・行動食=チーズ、サラミソーセージ、カマボコ、チクワ、小魚、ナッツ類、塩味ビスケットなどが一例です。
★夕食の材料は、買い出し班が7日に用意します。
★この予定表の中には、私自身まだ不明な点があります。出発前に伊藤講師と確認します。また、今回は出欠席の確認をあらかじめとりたいと思います。(保険をかける際、名簿が必要になります)ゆえに出席の方は私に必ず電話してください。中込。
(2)主題
この日はさすがに早めに公民館について1階の事務室でお茶をいただいた。会場はじゅうたん敷の部屋で、会議机を壁に寄せ、5〜6人 の人が床に直接座っていた。好ましい雰囲気である。この部屋は8本の机を並べて正方形にするのが普通のようだ。8☓2=16人であれ、8☓3=24人であれ、定員を決めてしまうと入れ物に対しての「未満」や「オーバー」が気になってくる。座るというのはいい。ひろびろとした気分が味わえる。それに寝転んで話したら、ちょうど定員である。
みんなにはこのとき、参加者の氏名・住所が記されたパンフレットが配られた。人数枠は20人分取ってあって、すでに10人の名が並んでいる。のちに3人が加わった。
女性は河西さんひとりだったが、ひとりでも来てくれてよかった。毎回、参加者と同じように参加してくれた中込さんと2人で、そうとう強力な女性パワーを発揮してくれたからである。
学生・生徒という分類をすると、中川くんと渡辺くんの2人がともに高校3年生、足立さんは大学の5年生(正確にいうと、あえて卒業せずに1年間休学中とのこと)である。
青年教室に精神年齢で参加したのは宮永さんで、戸籍年齢は70歳とのこと。山歩きをよくされるとのことで、地図にはとても詳しく、地形図を使うときには磁北と真北との狂いを示す偏角図面上にあらかじめ引いておくほどの本格派である。
あとの人たちは二十代の独身者で技術畑の人が多かった。勤めを持つ人たちが毎週金曜日の夜に来てくれるとしたら、大変な努力である。それに応えることができるだろうか。
もうひとつ、初日に名簿を埋めていた10人のうち、5人ほどがチラシを見て興味をもったという。公民館活動は必ずしも低調ではないにしても、青年活動は絶望的だというのである。公民館の活動は広報のチラシで伝えられるにだが、この地域の青年たちがそんなものを見ているはずがない。では企画を工夫して新聞の情報欄に、というわけにもいかない。というのは参加者を居住地域で制限してしまうからである。田無市に住んでいるか、田無市内の企業や学校に通っている人を対象とする地域行政の一環である。
そこで今回、中込さんは1,000枚のチラシを刷って、市内の独身者用アパートなどを選びながら、1枚ずつポストに入れていったという。1,000枚で5人は「そんなもんじゃないかナ」という歩留まりだそうである。場合によっては駅前でビラ配りもするという。公民館の青年活動というのは、まず、そのあたりから見ていかないといけない。
さて、最初の日のテーマは「体力と頭脳の使い方を考える──サバイバルとアドベンチャー」というのであった。総論だから何と書いてもいいのだが、このシリーズでとりあげる「サバイバル・スピリッツ」というものの座標だけははっきりと示しておかなければならないという気持ちが強くあった。グシャグシャの文字で書いた講義用のメモを補強したら、次のようになった。
〈1〉「現在」の使い方
時間の使い方とサバイバル/アドベンチャーとの関係。ほんの数秒間感じられる心理学的「現在」が連続してつくり上げる体験密度。生きる屍からの脱出(サバイバル)
〈2〉肉体の行動能力(期間的モノサシ)
・1日…時速5kmで24時間歩き続けられるとすると120km。これにどれくらいまで近づけられるか。オートバイで林道ばかり800kmを走った仲間の例。トライアスロン競技では遠泳3.9km+自転車180.2km+マラソン42.195kmを連続してやってしまう。
・1週間…無補給で、生活に必要な荷を全部背負って歩くこと。(バックパッキング)
・1か月…短期行動と長期行動との境目となる期間。肉体的な余力をあてにした短期決戦型手法が可能。業務出張やスポーツ遠征などで、精神疲労に対して耐久性があり、体力的にも安全度が高く、体験の集積はそうとうのレベルにまで達する。それがしばしば肉体の酷使をもたらすが、環境の違いを自分のスケジュールで押し通してしまうために起こるムリからの結果である。
・3か月…表面的なカルチャーショックはすでに通過しているが、そろそろ身動きのとれないような深刻な人間関係の渦に巻き込まれる。食べ物にしても、舌ではなく腹で食べる主食に対して十分な順応が問われる。それができていないと現地化はそれ以上進まない。いわば深部に達する順応の期間。
・10年…自分が「おもしろい」と感じる行動を10年続けることができると、知識や体験が増えるだけでなく「特定多数」の仲間との世界ができ上がっている。そのなかで自分の果たすべき役割も分かっており、ある特定のアイテムについては第一人者となっているはず。持続力の蓄積効果は10年あたりで突然、周囲への影響力を持つようになる場合が多い。
〈3〉肉体の行動能力(空間的モノサシ)
・日本列島縦断は約3,000km。これはもちろん二本の足で60日前後で歩き通すことが可能。植村直己さんの例のように、日本縦断3,000kmは南極大陸横断の最短ルートとほぼ同じ距離であり、イヌイット(このときはエスキモーと呼んでいました)の村々をつなぐ北極海岸1,200kmの4分の1のスケール。
・1時間に歩ける距離は競歩の選手なら14km前後にもなるが、普通は5km前後。だから普通のペースで歩くと、立って見たときの地平線が1時間の範囲になる。逆にいえば、人間の目の高さからでは4km程度しか見渡せないほど地球は丸い。
・人間は登坂力については誇ってもいい。鉄道は1,000分の1(パーミル)で勾配を表示して急勾配で2度程度、車道は100分の1(パーセント)で勾配を表して設計基準では8度以下。それに対して人間の登攀力は私の言う(歩きやすく整備された)標準的登山道で20度前後です。
・周囲の温度についても衣類や飲食物を工夫することによって驚くほど広い範囲に適応できる。中緯度高圧帯で体験する50℃から、極地でのマイナス50℃まで、季節と場所を選べば比較的簡単に体験できる。
〈4〉サバイバルとアドベンチャー
・英語の原義は企業のサバイバル戦術とか新しい戦略で突進するアドベンチャービジネスなどに近いのではないかと思う。日本では最近、サバイバルという言葉が教育界にまで利用されようとしているようだが「たくましさ」程度に飼い馴らすことができると思ったら大間違いだ。もともとスポーツの良き伝統は「紳士」や「騎士」の育成にあったわけだが、スポーツではルールを定めた上で競い合うということを忘れてはいけない。サバイバルやアドベンチャーの精神がスポーツマンシップと決定的に違うのは、ルールに従うのではなく「自分でルールを見つける」ことにある。行動が対自然、対人間、対社会のいずれでも、自分のルールで戦えばいい。つまり「対等の関係」などというものはどこにもないのだ。
・それを人格の問題にすり替えてはいけない。サバイバルやアドベンチャーは絶対価値にもとづく行動なのである。ただ、サバイバルには受身の状態からの脱出や勝利といったニュアンスが強い。だからここでは「アドベンチャー」をセットにして考えるようにしたい。スポーツにおけるディフェンスとオフェンスの関係に近いかもしれない。
・人によってはアドべンチャーを芸術や学問に求めることもできる。自分自身の考えと方法とで何かを行ったとき、それはすでにアドベンチャーといっていい。成功が、とか失敗とかは、あるいは最後までわからないかもしれない。果てしないトライアル&エラーということもありうる。しかしそれはたぶん、人間が人間として生きる基本条件とも思われる。
〈5〉装備(武器)
・行動フィールドにおける衣食住。ヘビーデューティとは何か、ライトエクスペディションとはなにか。
このメモから想像できるように、第1回の話はこちらが言いたいことを勝手につまみ上げては、丸めて投げた感じになった。参加者には “災難” の2時間であったのではないかと思う。これを総論とすると、各論としての 7. 8. 9. には次のようなメモを用意した。メモを見るかぎり、こちらのほうが具体的にみえる。しかし、しゃべっている当事者にはまったくわからない。
7. 歩くこと、運ぶこと
◎ピッチとスタンス、◎登りと下り、◎ウォーキングハイとはなにか、◎時速・あるいは水平距離と高度との関係、◎尾根と谷、◎道の種類、◎道と道しるべ、◎雪と岩、◎運搬における肩、額、頭、◎背中と腰への荷重、◎高度障害、◎日射病、◎遭難、◎巡礼という名のロングウォーク
8. 食べること、眠ること
◎うまいものとまずくないもの、◎副食主義と主食主義、◎登山派と極地探検派、◎腹いっぱいの定量摂取、◎空腹にならないように食べる定時摂取、◎熱エネルギーと栄養、◎調理の火・水・器・時間、◎食糧の保存性と重量、◎調味料とその味について、◎排泄、とくに最初におこる下痢または便秘の正体、◎安眠のための温度・寝床・安心(安全)・時間、◎環境としての虫と風、◎眠ることと寝ること、◎寝袋は広げる前に活用する、◎ビバークの仕方、◎車中泊
9. 対人、対自然、対時間、対自分
◎笑顔について、◎個体識別、◎仲間・同志・恋人、◎逃げる技術、◎危険と恐怖、◎ペナルティについて、◎行動のマイペース、◎自分の時間、◎行動のための正しい判断と、判断を正しいものにする行動、◎定着型と移動型、◎開眼
こんなメモはこれを読む人にはたいした意味をもたないかもしれないが、語ったとは言えないでも、語ろうとした項目の一端は見えるかもしれない。
(3)そして今日
朝・晩、少しずつ凌ぎやすくなり、季節がいつのまにか秋にバトンタッチされていることを感じます。キャンプのその後、いかがお過ごしでしょうか。実は今日お願いがありましてペンを執りました。例のサバイバル・キャンプのメンバーを中心にして、先日の講座のまとめを作ろうということになり、その巻頭を飾る意味で、伊藤さんに原稿をお願いしたいということになりました。私たちに良きアドバイスなどをいただけたら、この上なくすばらしいことだと思っています。この原稿依頼の件、如何でしょうか……。
中込さんからのこの手紙の日付が8月24日だから、秩父で新聞紙とゴミ袋だけで2夜をすごしたサバイバルキャンプの2週間後である。そして原稿の締切が1か月後の9月24日とされている。その締切日まぎわに、ぼくは「タナシ──田無市公民館」というファイリングをひっくりかえして、ワープロを打っている。中込さんにはまたひと面倒かもしれないけれど、2ページの紙面に入る内容で書くことを放棄してしまって、4倍の8ページ目になっている。印象記にすれば何ページあってもきりがない──というくらい、ぼくにとってはおもしろい体験だった。話すために考えるという大きなチャンスを与えられたのと、そろそろ家庭をもってもおかしくない “青年” たち何人かが最後までつきあってっくれたことが、とても励みになった。暇な人間とはいえ、出入りの激しかったこの夏、金曜日を9回確保できたのがラッキーだったとも思う。
ぼくの名簿上で13人、公開講座(ハイキングを含む)への参加者を加えると30人近くになるのではないかと思える人々と出会ったわけだが、いま、ぼくと同じようになにがしかの文字や絵で自分のページを埋めている人たちがいて、どこか心の底で “同志” という関係をとり結んでいる。関係の深い、浅いを問いたくないのでばくはすべてを “仲間” とよんでしまうが、その仲間が田無のあたりに何人かいる。そしてその仲間たちはまた、今年の春まで4年間つづいたという自発的青年教室「マッたなし」の太い底流へも、何人かの仲間を介してつながっていくらしいのだ。
公民館で出会って、時代を共有しはじめた若者たちが、またちいさな輪をひとつつくったといえるだろう。サバイバルとしてか、アドベンチャーとしてか……。
PS──大学休学中の足立さんが、10月初旬に中国に渡れることになったとの連絡を受けた。休学の第一の理由が実現する。
★追加──企画担当・中込美代子さんが書いた
「サバイバル・スピリッツ '87」って何だ…… !? 講座の概要
▶趣旨──担当者はこう考え、この講座を企画した。
私たちは現在、文明にどっぷり浸かって暮らしています。私たちに本来備わっているはずの能力や感覚を出し惜しみして、その挙げ句、その力を眠らせてしまったり、あるいは失ってしまっているのではないでしょうか……。例えば歩くこと一つをとってもそうです。
また、日々煩雑な暮らしの中で、夢を描いたり、空想に耽ることを忘れていないでしょうか……。
そこで、冒険・探検・サバイバルのスピリッツだけを味わい、少しでも眠っている力を蘇らせたい、自分の世界を広げたい、新しい自分に出合いたい──そんなことを目的にこの講座を企画しました。
▶日程・場所
6月12日〜8月7日 毎週金曜日 午後7時〜9時
(7月12日のみ日曜日)
中央公民館3階会議室・野外・他
▶講師とゲストの紹介
●伊藤 幸司氏
1945年生まれ。早稲田大学探検部OB。その頃、ナイル河やユーコン河をカヌーでくだるなどの冒険をはじめとして、アジア、北米、アフリカ各地を歩く。地平線会議世話人。オペレーション・ローリー日本実行委員。フリーカメラマン。
その情熱に裏打ちされた数々の名言が、我々をシビレさせる。しかし寡黙ではないようでいて、実は寡黙である。つまり伊藤氏は形容詞を殆ど使わないことを私は発見してしまったのである。自分を限りなく信じているんだと、私は思う。野性的でキラキラ光る目が印象に残る伊藤氏である。
●ローリー・イネステーラー氏
1946年、カナダに生まれる。その大自然の中で、幼い頃から狩猟を経験したり、父親からサバイバルテクニック、野外生活術を学ぶ。1969年来日。放浪の旅の途中で地より日本に立ち寄り、そのまま住みついてしまう。日本での数々の職業を経て、現在はフリーランサー(浪人ローリー)。山に入ったり、カヌーで川下りすることが何よりの楽しみだそうだ。
▶内容
[a]どこで、何ができるか
1. 6/12(金)体力と頭脳の使い方を考える。サバイバルとアドベンチャー
2. 6/19(金)地図踏破・日本編。山、川、原野、海岸、島……
3. 6/26(金)地図踏破・世界編。熱帯、極地、国境、食料……
[b]この夏のキャンプ&山歩き相談
4. 7/3(金)何でも相談。プラン、装備、技術など
5. 7/10(金)ゲスト講演「カナダの父、自然から教わったこと」ローリー・イネステーラーさん
6. 7/12(日)サバイバル・ハイキング “北北西に進路をとれ”
[c]行動の基本を考え、人間の能力を見直す
7. 7/17(金)歩くこと、運ぶこと
8. 7/24(金)食べること、眠ること
9. 7/31(金)対人、対自然、対時間、対自分
10. 8/7(金)見ることとやってみること。続けること。まとめ
★4. 5. 6 は公開講座です。
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