石川 和美さんのポイントゲット・レポート「ヤマビルの生態と防除方法」
………2006.4.20


■2006.4.20――石川 和美さんのポイントゲット・レポート「ヤマビルの生態と防除方法」
 糸の会ではお世話になっています。石川和美です。
 4月8日の岩櫃山に参加の折、伊藤コーチより「ヤマビル」について書いてください、ということでしたので、娘(仕事でヤマビルを研究している)に資料をもらって、やっとここにお知らせすることができました。
●はじめに
 4月になると暖かい日が続き、ヤマビルが活動を始める時期です。正しい情報を知っていればヤマビルを怖がらずに安心して山を歩くことができます。
●ヒルの仲間
 日本ではおよそ60種がしられているようです。多くは淡水性。
 チスイビル……水田などに見られたが、農薬などにより最近ではほとんどいない。
 陸上に生息する種類はすくない。
 コウガイビル……庭や石垣よく見られる。吸血性はない。
 日本国内では、陸上で吸血するヒルはヤマビルのみ。
●ヤマビルとは
(1)分類――環形動物(ミミズの仲間)ヒル類顎蛭目
(2)学名――Haemadipsa zeylanica japonica
(3)体の色――赤褐色で背面に3本の黒い縦線
(4)大きさ――1.5cm〜8cm
(5)歩き方――前後に吸盤を持ち、尺取虫のように移動
(6)活動時期――5月から10月(特に6月〜7月)気温が25℃以上で雨が降っているとき、
 雨上がりに特に多く見られます。しかし7月〜8月の日照りが続く頃は、地面が乾燥していて、潜って隠れているのであまりでてきません。
 11月〜4月は越冬します。(土壌、苔、落葉、石の下など)
(7)生息場所 水分の多い沢筋、吸血対象となる動物が通る歩道や獣道、作業のために人の出入りが多いスギ林など
●吸血方法は、
 前吸盤の中央に逆Y字に3歯が70〜80個並んでいます。吸血する時はこの歯を使って皮膚を逆Y字型に傷つけてヒルジン(血液の凝固を抑制する物質でヒルの唾液に含まれる)をだして吸血します。それと同時に痛みを感じさせないモルヒネのような物質を出すため、吸血されていても気が付きません。そのため、血が止まらず(だいたい体重の10〜20倍の血液を吸います。驚くとは思いますが、出血量は僅かなので、人命にかかわることはありません)衣類や靴下などが赤く染まり、後で気が付くことが多いのです。
●吸血された場合の処置
(1)吸血しているヒルをすぐに除去する。マダニ(口下片が残る)とは異なり、無理に除去しても問題ありません。
(2)傷口から血を押し出すようにして、ヒルジンなどのヤマビルの体液成分をしぼり出しておけば治癒が早い。ポイズンリムーバーを使えば簡単に搾り出すことができるので便利。また傷口を清潔な水でよく洗って消毒しておくことも大切です。
(3)レスタミンコーワ軟膏などの抗ヒスタミン剤(虫刺され薬やかゆみ止め)を塗布し傷口に絆創膏を貼っておくとよいでしょう。個人差はありますが、数時間出血が止まらないこともあります。一度は出血が止まっても、風呂に入ると血液が流れ出てくる場合があります。またアンモニアは絶対に使わないことです。また傷口は人によっては、痒い、腫れる、化膿などの症状がありますが、1〜3週間で治ります。発疹や発熱などの症状がある場合は、皮膚科医にかかることをお奨めします。
●防ぐ方法は、
 ヤマビルが登ってこないようにすることが一番の予防法です。
 少しの隙間からでも侵入します。足元から近づいて靴を登りますので、足の吸血被害がほとんどです。また、草丈の高い場所では草をつたって付着したり、急斜面で手や膝などが地面に接した際に付着することもあります。なるべく肌が見えないように衣類を着用し、靴、靴下、ズボンの裾などに、忌避剤をスプレーしたほうがいいでしょう。
 市販の液体サロンパスや防虫スプレーでもヤマビルは嫌がります。山林の作業、渓流釣り、キャンプ、登山などでは専用の忌避剤(ヤマビルファイター。販売・ヤマビル研究会)をつけて乾かしておくと、耐水性で一週間ほど効果があります。
 また、その他には立ち止まって休憩していると、ヤマビルが登りやすくなってしまうので、急ぎ足で歩くほうが良いかもしれません。
●分布域
 昔からヤマビルは山奥に住んでいましたが、近年、野生動物に付いて里山の民家周辺にまで下りてきています。居住付近での被害は薬剤だけに頼らず、環境の整備(雑草の手入れ、日当たりを良くする)、吸血動物(シカ、サル、ウサギなど)対策など、総合的に防除する必要があります。
 また、見方を変えれば、ヤマビルは野生動物が多く生息する場所で生きているので、ヤマビルがいるということは、それだけ自然が豊かであるともいえるのです。
●終わりに
 以上の内容は娘の所属しているヤマビル研究会の資料をもとに、許可を得て書かせていただきました。より詳しくは、写真なども載っていますのでぜひ、「ヤマビル研究会」を検索してホームページを見てください。
 では、この資料が、これからの皆様の楽しい山歩きの役に立てれば幸いです。
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■コーチから
●ありがとうございました。
●ヒルはほんとうに恐ろしい。薄気味わるい。
●この21世紀に、生存本能だけで生き残ってきた悪魔の虫という感じがします。が……クマを恐れるのとヒルを恐れるのとはどちらも人間の暗愚の反映ではないかとも思うのです。
●知らないことから始まる恐怖は勝手にどんどん増殖しますが、危険をきちんと理解しようとすると、恐怖のかなりの部分が自分の影であることが分かってきます。逃げまわっているクマと出合うのはほぼ絶望的ですが、ヒルはこちらに向かってくる数少ない攻撃的生き物としてドラマチックな体験をさせてくれます。
●谷重和+石川恵理子というおふたりによって、「ヤマビル」という暗黒に光があてられています。http://www.tele.co.jp/ui/leech/index.htm


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