2007.5.29_伊藤幸司――ワンポイントレポート「仙台の牛たん塩焼き」


■2007.5.29_伊藤幸司――ワンポイントレポート「仙台の牛たん塩焼き」

●5.26-27の「5b面白山」では作並温泉に泊まれずに、みなさんにはちょっとがっかりということになったようだ。しかし面白山脈周回には11時間かかったので、もともと温泉などに泊まっている余裕はなかった。
●すみませんと謝らなくてはならないところだが、ブナの美林、カタクリの咲き残りと、シラネアオイやらサンカヨウやらイワウチワまで、(私のメモで)37種の花が稜線を飾っていた。
●それはそれとして、仙台行きの鈍行新幹線が3割引(と2割引)で常時買えるネット購入サービスがあるおかげで、仙台がずいぶん近く感じられた。片道10,590円が7,400円というシニア値段になる。ジパング世代だけにおいしい思いをされたくないという平等感はなかなかのもの、今後仙台起点で作並温泉泊まりというのも考えなくっちゃ、という気分が残った。
●それもそれとして、今回の私の個人的な関心事は仙台名物の「牛たん」だった。「牛たん」とひらがなで書くか、「牛タン」かは現地でも入り乱れて結論が出なかったが、舌を「タン」といわずに「たん」というあたりに和風のニュアンスをこめている「牛たん」が好ましく思えてきた。
●今回の仕掛けの第一弾は仙台駅ビル3階の「牛たん通り」での昼食。正確にいうと手前が「牛たん通り」で奥が「すし通り」になっていて、約50分の乗換時間をメンバーはそれぞれ「たん」と「すし」に。
●私が入ったのは一番手前の「伊達の牛たん」。駅ビルの土産物コーナーを占拠しているようなメジャー店らしい。「極厚牛たん・芯たん定食」(1,575円)というのが看板メニューで、柔らかくジューシー。舌を舌じゃなく見せるという高級志向のように思えた。
●さて帰り。仙台で風呂上がりに行きたかったのは元祖「太助」。ところがメンバーのみなさんは「舌なんかいや」という感じ。私ひとりが別行動ということになり、タクシーで一路「太助」へ。
●「太助」というのは昭和23年に佐野啓四郎という人が焼き鳥のレパートリー拡大のなかで試みた牛タンの塩焼きだったという。タンシチューが数日かけてじっくり煮込むように、塩味で熟成させるというもの。それにオックステールの尻尾スープと麦飯という敗戦復興メニューだった。
●そして私の興味は「太助」の元祖と本家問題。「味 太助」というのが正当派を名乗っているらしいけれど、味では「旨味 太助」であるらしく、両者は100mほどしか離れていない。
●タクシーでまずは「味 太助」へ、定食が1,400円で、単品値段は牛たん3枚900円+テールスープ400円+麦飯100円となっている。若い衆の動きを見ているといわゆるチェーン店の雰囲気で、舌は硬くて薄くて、じつはあんまり味がなかった。スープも薄いみそ汁みたいで、空腹の私でも感激なし。前日の「極厚牛たん・芯たん定食」が輝いて見えてきた。
●すぐに100m移動して「旨味 太助」へ。入ったとたん、こちらは元気があふれていた。おばさんがスープ鍋に張りついていてレジ役もしているらしく、若い衆がキビキビと元気。値段は牛たんが1,260円で、テールスープ420円と麦飯110円をつけた定食にしても同額とか。断るわけにもいかないし……。
●味は、素朴ですばらしかった。鶏の砂肝のようなシャリシャリ感がすこしあって、いかにも庶民的な味ながら、「これが牛たんか」と納得させるものになっている。スープも、おばさんの前だからというわけではなかったが、ダシの利いた吸い物のようなホッとする味わいがあった。
●その「旨味 太助」に行かなかったら、「バブル系豪華牛たん」と「たまたま牛たんチェーン店」という印象しか残らなかった。単独行のおかげでダメ押しが利いたという幸運。逆にみなさんと一緒だったら悲惨だった……かも。本家とか元祖にはそういうリスクが内在している。
●後で調べると「旨味 太助」のご主人は佐野啓四郎さんの息子の佐野八勇さんとか。子どものころ、親父さんといっしょに牛タンを買い集めに回っていたという。素朴だが愛情のある味……だった。
●ちなみにインターネットで見つけた人気ランキング(母数が455と少ないのであまり信用できない)では、上から順に利休、きすけ、旨味太助、伊達の牛たん――までがいちおう他の追随を許さないというトップ4になっていた。
●仙台の牛たんが仙台ならではのものになっているのには理由があると仙台では主張されているらしい。ひとつは材料のぜいたくな使い方。いわゆる牛タンのやわらかいところ、全体の半分ほどしか使われないという。3〜4人前で牛1頭分(舌1本分)だそうだ。
●そしてさらに、全国の焼肉屋で食べられる「タン塩」と仙台の「牛たん」はまったく違うという。牛タンを皮むきし、厚くスライスして数日間「仕込み」という熟成作業をおこなうという。その「仕込み」が店によって違っていて、全体として仙台の「牛たん」を一般的な「タン塩」とはまったく違うものにしているという。
●私は帰りがけに駅ビルで「伊達の牛たん」のお土産を買ってみた。フライパンで焼いただけだったが、私の鈍重な舌では「旨味 太助」の牛たんと限りなく近い味がした。


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