三洋化成ニュース・月1回の山登り1……3年後には槍ヶ岳に登る
………2002.5



●三洋化成工業株式会社「三洋化成ニュース」2002年初夏号 No.412(2002.5)




●写真番号2001.7.20-502
●黒部川源流の雲ノ平方面から槍・穂高連峰を望む。槍ヶ岳から手前にのびてくるのが西鎌尾根。それが左手へのびて裏銀座ルートとなる。富山側から2泊してこの祖父岳(2,825m)に立っている。




●写真番号2002.2.13-337
●美ヶ原高原の雪原。山は蓼科山からはじまる八ヶ岳連峰が見えている。朝のうちは富士山も南アルプスもくっきりと見えていた。北アルプスも山すそはずらりと見えたが、ピークは厚い雪雲のなかに隠れていた。
標高3,067mの御嶽山山頂で、絢爛豪華な雲と夕日のスペクタクルを堪能した。御嶽山は堂々たる3,000m峰でありながら7合目まで車やロープウェイで上がれるので初心者にも登りやすい。山頂部にある山小屋に泊まると、高度障害のチェックになる。




●写真番号2001.7.28-411
●太陽と反対側に霧がわくと、しばしばブロッケン現象を見ることができる。7月下旬のこの日、槍岳山荘の前にみごとなブロッケンが出て、10分近くも消えなかった。観客が何人いても、虹の輪のなかにいるのは自分自身。




◆槍ヶ岳に登りましょう

●日本の高い山々は本州中央部にかたまっています。
●その中心、日本アルプスと総称される山なみのなかで断然人気のあるのが北アルプスの槍ヶ岳なのですが、ご存じですよね?
●本州中部の2,000m級の山々に登ると北アルプスが遠望できる可能性が多いのですが、まず最初にさがすのが「槍の穂」なんです。
●穂高連峰とおぼしき高まりのすぐとなりに冬でも黒々とした矢じりのような突起があったら、それです。富士山はかなり広い範囲から見られるので別格ですが、槍ヶ岳が見られたときには幸運を感謝する気持ちになります。
●ほんの小さな穂先なのにあれほど強烈な存在感を与えてくれるということを知ったときから、多くの人のあこがれになるのだと思います。
●その槍ヶ岳には、かたく見積もっても、山歩きを始めて3年目の夏には登れます。
●ただし、クリアすべき条件が2つあります。ひとつは「山小屋泊まり」に慣れること。標高2,500m以上の山小屋に泊まった経験があればOKです。
●じつは10人にひとりぐらいは高度障害、いわゆる高山病の出やすい人がいて、標高2,000mを超えるとすこしずつ異常が出始めます。軽い脱力感からはじまって、頭痛、食欲不振、嘔吐などに関して、標高2,500m以上で一夜を過ごして異常がなければだいじょうぶです。
●ふたつめは「10kgの荷物を背負って10時間行動できる」という条件です。
●山歩きを始めたばかりのときはザックの重さは6kgぐらいが限度だと思います。軽い・重いのちがいはあっても歩くには大きな支障がないという意味での限界がすぐに見えてきます。
●そして休みを入れながら、無理のないゆっくりペースで歩き続けられる10時間。朝から夕方までの行動枠という意味です。
●最初の数カ月でザックを背負う肩の筋肉ができると、あとは脚力。2年目、3年目とゆっくり時間をかけて、トータルの積載能力を高めていけばいいのです。
●槍ヶ岳は、以前は多くの人にとってあこがれだけの山でしたが、いまでは山小屋が快適になり、最後の岩場も危険な浮き石がほとんど全部セメントで固められて、見た目よりずっとやさしく安全になりました。ルートもやさしいクサリ場と安全なハシゴでかためられています。
●上高地を朝に出て、槍沢ヒュッテで一泊、翌日標高3,000mの槍岳山荘に泊まれば、夕方と朝の槍ヶ岳を堪能できます。3日目は上高地か新穂高温泉経由で首都圏、あるいは中京・近畿圏まで帰ることが可能です。

◆今度の冬には、ぜひ美ヶ原へ

●カルチャーセンターなどで山歩きの講師をして、毎月コンスタントに10日ほど山に出かけている私自身が、この冬に初めて知って感動しているのが真冬の美ヶ原です。
●標高約2,000mの美ヶ原高原には、冬も2軒のホテルが営業していて、松本側からと諏訪側から宿泊客の送迎をしているのです。
●2軒のホテル以外は、ただ白くたおやかな高原がひろがっているだけで、夏は牧場になるその高原を好き勝手に歩くことができるのです。吹雪におそわれて危険なときには柵で仕切られた歩道をたどることで安全に帰り着くこともできます。
●しなやかな白い布をゆったりとかぶせたような高原を歩くと、ぐるり360度に日本のおもな山々が表情を変えながら登場してきます。
●冬型の気圧配置の日には紺碧の空が広がり、太平洋側の富士山、南アルプスのほぼ全山、八ヶ岳が一望できるはずです。
●西の中央アルプス、御嶽山、あるいは東に特異な表情を見せてくれる浅間山も晴れ晴れとして見える確率がきわめて高いのです。
●そしていちばん近い北アルプスは、最高地点の王ヶ頭や、その北側にある王ヶ鼻の展望台からだと、松本市街をはさんですぐにそこにあるのです。
●左手に乗鞍岳の白く大きな山があり、いったん力をためてから厳しくそびえ立っているのが穂高連峰。その右に黒々と槍の穂が立っています。
●目をさらに右に転じると目印は鹿島槍ヶ岳の端正な双耳峰です。両耳をピンと張った白い山にはただならぬ気品があります。
●その鹿島槍ヶ岳からさらに右に山なみをたどると、五龍岳、唐松岳を経て、白馬三山の白いかたまりへと続いていきます。
●北アルプスは日本海岸の親不知に下っていくその北端まで見えるほどなのですが、冬将軍が大量の雪を降らせているときには、その雪雲がピークを隠していることが多いのです。
●南アルプスや中央アルプスがあっけらかんとして見えているのに対して、北アルプスがどこまで見えるかは運と、ふだんの行いによるのです。
●2軒のホテルには写真を撮る人や雪山歩きの人たちがおもいのほかたくさん訪れているようです。とくに美ヶ原高原ホテルは有名な山本小屋の経営で、テレマークスキー、クロスカントリースキー、スノーシューのレンタルもあります。山歩き派にはこちらがおすすめで、スキー経験まったくなしの人ならスノーシュー、ちょっとでも経験のある人なら歩くスキー(クロスカントリースキー)で足の向くまま、雪原を歩いてみることができます。
●厳冬の標高2,000mは、マイナス5度C、10度Cの世界です。そのなかでからだを動かしているうちに、寒さがからだをビシバシと刺激します。気持ちのいい寒さや冷たさがこの世には存在するということに気づくのです。そしてその寒さと、すばらしい白銀の峰々とが、セットで360度の風景を作り上げていることに感嘆の声を上げているはずです。
●夏とは反対の季節に当たる雪の山の美しさと楽しさを味わえるようになると、オフシーズンもメインシーズンもなくなります。そうなればしめたもの。冬の北八ヶ岳や安達太良山、あるいは多くのクロスカントリースキーエリアが行動圏に加わってきます。アイゼンやピッケルを必要とする本格的な冬山登山でなしに、おおいに楽しめる雪の山が各地にあることもわかってきます。


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