三洋化成ニュース・月1回の山登り5……登山道をもっとよく見て!
………2003.1



●三洋化成工業株式会社「三洋化成ニュース」2003年新春号 No.416(2003.1)




●1/25,000地形図「筑波」の等高線を利用して標高50mごとに直径100m相当の赤○を描いた。○が連なっていると勾配1/2で約30度、ひとつ分空きがあると勾配1/4で約15度となる。青い◇は地図上で計った水平距離500mの目盛り。赤○も青◇も8個で1時間と概算できる。




●写真番号1998.12.22-135
●登山道がケーブルカーのトンネルの上を越えると「筑波嶺の/峰より落つる男女川……」の男女川源流となり、そこから約30度の急斜面の登りにかかる。




●写真番号1997.6.14-230
●万葉集によれば、筑波山は万葉の時代から若者たちの「登山」を見てきたかもしれない。江戸の町からは、このピークが富士山に次ぐランドマークであったという。




●写真番号1998.12.22-224
●東斜面にはロープウェイがかかっている。平日でも営業していることの多い弁慶茶屋からつつじが丘へと下る途中で、ロープウェイが降りていった。




●写真番号1998.12.22-132
●筑波山のケーブルカーは前半、20度ほどの勾配で登っていく。登山道がそれに沿う。標高500mあたりにあった中ノ茶屋は今はない。




◆一般ルートという名の登山道

●登山道によって山に登る……というのは、じつは登山の大前提ではないのです。
●本格的な登山では自分で道を切り開きながら登るのが本領で、登山道を使うのはアプローチに過ぎないということも多いからです。たとえば沢登り、岩登り、冬山の雪氷登攀などでは、自分たちでルートを決めないと前進できないという場面が少なからず生じてきます。
●では登山道はだれにとっても「登山の道」かというと、そういうわけでもありません。だれもが歩けるとなると、一般ルートなどと呼ばれる区間に限られます。そして一般ルートとされる登山道を見ていくと、驚くほどシンプルな構造だということに気づきます。「30度の斜面に20度の道」と私はいうのですが、斜面が急なところでは道はジグザグを切って歩きやすい勾配を保ちながらのびていきます。
●三角定規を机に立てて30度の勾配を見てみると印象は緩やかですが、スキー場だとこれが上級斜面になります。登山者がまっすぐに登ろうとするとかなりつらい傾斜ですし、下りは人によっては垂直に思えたりします。
●日本の山の30度という傾斜の代表は富士山で、五合目以上の富士山では、道はジグザグを描きながら登っていて、おおよそ20度という勾配になっています。
●富士山の登山道が日本の山の「標準的」な骨格と考えていいのです。ただ、山によって足元の表情と、周囲の環境が違うので印象としては千差万別に思えます。

◆私の「1時間モデル」

●わかりやすくいえば、私たちが利用する登山道は一般登山者が安全・快適に歩けるように整備された道ということになります。ですから昔から所要時間の計算できる部分として「1時間に300m」という概算がなされてきました。高度差で時速300mという意味です。
●その「1時間に300m」を私はちょっとちがう観点から山登りの「1時間モデル」としてみたのです。
●日本の登山道の標準タイプとしての20度の道を「約17度」として、それを1時間で登るという登り方を標準化してみたのです。
●約17度をここでは「1000分の300」と言いかえます。すなわち1km先で300m登る勾配の道とするのです。そして「1時間後に300m登っている」というのではなく、平地を時速4kmのスピードで歩くエネルギーを水平方向と垂直方向とに分けて出力したときに、水平に1km、垂直に300m進む……と考えたのです。
●すると私が「標準的」とした登山道の「標準的」な登り方では水平方向に時速1kmというシンプルな目安が得られたのです。「あと500m、頑張れ」といわれたら、30分と計算しなくてはいけないのです。
●で、水平方向に1kmというのは、時速4kmのうちの15分ぶんのエネルギーですから、残りの45分ぶんが300m上昇するために使われたということになります。垂直に100m体を持ち上げるのに15分かかるということがいえるのです。
●あるいは前進エネルギーの3倍が体を持ち上げるために使われているということが、このモデルから明らかになってきます。このエネルギー配分から、登りの歩き方のコツがつかめてきます。前進しようとするのではなく、体を真上に持ち上げようとする歩き方です。

◆登山道の8つの顔

●登山道は、ずっと「標準的」なのではありません。歩くに従ってさまざまに変化します。そこで道を斜面との関係で区分けしていきます。
●等高線がしっかりと描かれている国土地理院の地形図を使うのですが、等高線と直角に交わる登りと下りの区間があります。小さなジグザグでも真上(真下)を目指す気持ちが強いのですからこれに含めてしまいます。
●それから等高線と平行な水平トラバース。右手山側と左手山側というふうに分けておきます。そして斜面を斜めに横切るトラバースの、右手山側と左手山側の、登りと下り。これで区分は8つになります。
●登山道は原則として道を間違えると違う斜面に入って行きます。従って、進む予定の道の斜面との関係を地形図で見ておけば、、道を間違えたり、地図が間違っていたりすればすぐにわかります。しかもそれは、たった1区間での間違いですから、10分か20分も戻れば間違いをリセットできます。
●登山道を斜面との関係で見られるようになると、ナビゲーションはかなり高度なところに行きつくはずです。


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