三洋化成ニュース・月1回の山登り11……冬を楽しむ道具立て
………2004.1



●三洋化成工業株式会社「三洋化成ニュース」2004年新春号 No.422(2004.1)




●写真番号2003.1.17-125
●新しいタイプのスノーシューは軽・薄・短・小。格安で歩きやすい。凍った車道などでは軽アイゼンの代わりもするので心強い。




●写真番号1997.3.1-908
●山国育ちの元山男もメルヘン街道でドッテンバッタン。育った時代にはスキーと縁がなかったとか。お尻に青あざの人はいたが骨折は皆無。




●写真番号2002.1.9-310
●■写真020109=310 シラビソの樹林の中は、展望がない代わりに風もない。夏道を危険なしにそのままたどれるのも北八ツの特徴のひとつ。




●写真番号2001.3.14-218
●北八ツの茶臼山から麦草峠への下りは格好の滑り台。連なって下っていくといろんなハプニングが待っている。




●写真番号2003.1.17-201
●山陰の大山。スキーリフトを降りてから森林限界ぎりぎりまで登ってみると、なかなかの急斜面。スノーシューだと登りも楽しい。




◆北八ヶ岳というプレイグラウンド

●深田久弥は『日本百名山』でこう書いています。
「2,800mという標高は、富士山と日本アルプス以外には、ここにしかない。わが国では貴重な高さである。この高さが厳しい寒気を呼んで、アルピニストの冬季登山の道場となり、この高さが裸の岩稜地帯を生んで、高山植物の宝庫を作っている」
●八ヶ岳連峰は北アルプス〜中央アルプス〜南アルプスと並ぶ巨大山脈のわきにあるので印象としてはずいぶん低いけれど、本州中部で標高約2,500mといわれる森林限界を超えて、堂々たる高山帯を備えているというわけです。夏に赤岳と硫黄岳の中間にのびる横岳の岩稜を歩くと、足元から展開する高山植物の箱庭はみごと、というほかありません。
●しかし、ここで取り上げるのは岩稜の南八ツではありません。夏沢峠から北、というより、私の判断ではもうひとつ北側の中山峠から北に広がる北八ツです。
●そうやって北八ツから天狗岳をはずすと標高が2,500mを超えることはなく、シラビソなどの常緑の森に覆われているのです。冬になるとこの森が登山道のいわばガードレールの役割を果たしてくれるのに加えて、適度の雪で夏よりずっと歩きやすい道になります。
●冬山の危険の3大要素というべき滑落と雪崩と吹雪の危険から守ってくれる緑のバリアが秀逸なのです。加えて山小屋というサポートが手厚いのです。中山峠の黒百合ヒュッテから1時間半で高見石小屋、1時間で麦草峠の麦草ヒュッテ、そこから2時間半で縞枯山荘(あるいはロープウエイ山頂駅)となります。その北にも山小屋はありますが、この4つの山小屋が標高2,200m以上で通年営業しているということから、北八ツはすばらしい冬のプレイグラウンドとなったのです。
●そしておまけが冬の晴天率。太平洋側の気候に属するので、冬には抜けるような青空と黒い森、適度の雪と冷たい北風というぜいたくな環境がそろうのです。
●以前、小さなテレビ番組でカメラスタッフのためにズック靴にレジ袋をはかせて、軽アイゼンで固定するという方法をとりました。あとはスキー場取材の服装でOKです。足りないところは、私のオハコ「貼るカイロ」です。気温が低いので低地の湿った雪よりずっと扱いやすいのです。

◆歩くスキーからスノーシューへ

●冬の北八ツでは閉鎖されたメルヘン街道(国道299号)を歩くスキーで6kmの大滑降というのを毎年楽しんできました。
●じつは麦草ヒュッテが歩くスキーの深山幽谷への進化型・テレマークスキーのメッカなので、そろえている靴がよかった。いざとなったらスキーを脱いで歩いて帰ればいいので、安心して初心者を連れて行けたのです。
●それと、つま先だけでスキーとつながっている北欧型スキーでは転んでもほとんどけがをしません。雪の中で転び回るという楽しさがたっぷりと味わえるのが魅力でした。
●ゴアテックスのレインウエアを用意したら、雪の山で転げ回る楽しさは格別です。林間の深い雪の中にズブッともぐったり、急斜面に飛び込んで滑り落ちたり……。
●歩くスキーで森の中に入っていくというのは、そういう深い雪との戯れが目的なのです……が、解決できない問題が残りました。
●中高年になってから山歩きを始めた人たちのほとんどはスキーを知りません。南国の出身でスキーを習う機会がなかったか、若い頃に人並みにスキーをする機会はあったのに、残念ながら相性がよくなかったか、です。
●ですからどうしてもうまくならない人がいます。10人に6人は山歩きのバリエーションとしてほどほどにエンジョイできるようになります。しかし2人はもうコリゴリ。そして2人がはまります。
●問題は初心者が楽しむにはコースがほとんど平坦でなければならないというところです。技術を上げずに、だれもが楽しめるコースをさがす……というのが、山歩きとだんだん離れていく原因のようにように思えてきました。いつも決まったゲレンデに出かけるような気分です。
●そんなとき、スノーラケットに起源をもつスノーシューと日本古来の輪かんじきとの中間タイプを見つけたのです。MSRという個性的なキャンピングストーブがあって、ガソリン、灯油、軽油などを使えるマルチフューエルバーナーが有名ですが、そのMSR社のスノーシューは2万円弱という魅力的な価格に加えて、プラスチックのお盆に靴を固定したようなシンプルな構造に開発者のセンスが光っていたのです。フラットなので落ち運びが簡単で、ズック靴にもフィットする締め具がすばらしいのです。
●これで歩いてみると、スキーの上級ゲレンデのわきの樹林地帯を下るのが楽しくなります。深い雪にはまりながら、半分ずり落ちる感じでほんとうにルンルン気分になるのです。ついでに深い雪の中に転がり込むのも、スキーよりはずっと軽快。山の深い雪との関係が、スキーよりずっと近いものになりました。スキー場が上質の雪の在処――とすれば、リフトやゴンドラで登って、スキーゲレンデの脇の樹林の中を下ってくるという新しい初心者向きの遊びが簡単に出来るのです。今度の冬は八甲田山や北海道で、存分に粉雪ワールドを堪能したいと思います。


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