オートメカニック――1988年11月号 パーツうんちく学【1】タイヤの巻(入稿原稿)


伊藤幸司のパーツうんちく学【1】タイヤの巻────1988.11


●クルマの“重さ”

 最初に、オリジナル調査の結果を発表しておこう。乗用車とRVに関するメーカー順位である。

第1位=トヨタ自動車────5180
第2位=マツダ───────2180
第3位=鈴木自動車工業───1360
第4位=いすゞ自動車────1240
第5位=本田技研工業────1100
第6位=富士重工業─────1090
第7位=ダイハツ工業──── 950
第8位=三菱自動車───── 310
第9位=日産自動車───── 60

 お分かりだろうか? 数値の単位はgである。これは、ぼくの自宅に届いたカタログの重さの順位である。
 ぼくはこれを一種のサンプリング調査としてやったので、自動車メーカーの電話を電話帳で調べて、ほぼ同じ依頼をした。
(1)フリーのライターであること
(2)企画段階での資料集めであること
(3)乗用車とレジャー用の現行車種を一覧したいので全車種のカタログを1部ずつほしいこと
 その3点を述べて適当な部署に電話をまわしてもらった。レジャー用のクルマというところで商用車との区別を問われたこともあったが、判断は先方にまかせた。
 第7位までは宅配便で届いたから、送料だけでもずいぶん高額な頼みであったかもしれない。
 第8位の三菱の場合には、どういう理由か半分ほどの車種しか入っていなかった。全車種そろえると重さは倍にはなると思われるが、順位は変わらないだろう。
 また、第9位の日産については「お客様相談室」のオネエサンと30分以上押し問答した末に総合カタログだけを送ってもらった。
 以上がとりあえずの報告である。以後、この連載のなかでこまかく読んでいきたい。

●とりあえずタイヤ

 目の肥えた読者のみなさんはすでにお気づきだと思うが、ぼくはクルマの世界のことをあまり知らない。シロウトである。笑われるのを覚悟の上で、クルマという巨象をなでまわしてみようというのだ。うまくいったらおなぐさみというやつだ。
 さて、最初はタイヤである。最近はクルマのスタイリングにおいてもタイヤが重要な存在になっている。タイヤをはき替えるとクルマが変わるという声も聞く。
 そこでタイヤについても、メーカー7社のカタログを集めた。こちらは郵送で 240円か 350円、「乗用車タイヤ総合カタログ」と最新型タイヤ2〜3種のカタログというのが標準的であった。
 総合カタログは、ブリヂストンにしても横浜ゴムにしてもA4判を4面つなげた長い帯を4つ折りしている。クルマのカタログから見るとあっけないほど薄っぺらであったから、全社の製品の一覧表をつくってみようなどと思い立った。
 しかし、これは膨大な作業になった。カローラクラスの標準仕様になっている「155 SR 13 」だけでも6社が20種類を発売している。

◎155 SR 13
・ブリヂストン───10−12−12−12
・ダンロップ────10−12−12
・横浜───────10−10
・グッドイヤ────10−10
・オーツ──────10−10
・東洋───────12
◎155 R 13
・ブリヂストン───13
◎155 HR 13
・ブリヂストン───14

 ご存じのように、155 というのはタイヤ幅をミリ単位で示したもので、末尾を5にまるめてある。
 つぎにくるSRは高速型(S) のラジアルタイヤ(R) であることをあらわしている。速度コードとしてのSは設計最大荷重状態で走れる最高速度を示しており、時速 180kmまで。ちなみにHがつくと 210kmまでとなる。
 この速度コードは時速50km設定のBからCDEFGJKLMNPQRSTU(Uは時速 200km設定)とあり、その上にH、Vがある。Sはスタンダードかな、と思ったら、堂々たる高速タイプであった。しかしスチールラジアル時代では、これがスタンダードといってもいい。
 上の表では価格を千円単位(百円以下四捨五入)にしてあるので、155SR 13 の値段は1万円から1万2000円までとなる。同じメーカーで同じ価格のタイヤを並べているのはトレッドパターンの違いと見ていい。
 また 155 R 13 というタイヤは1万3000円するが、これは三角形状のブロックパターンのトレッドを刻んだオールシーズンタイヤである。そしてHタイプになると1万4000円。

●乗用車タイヤは1000種類を超えた

 かなりの時間をかけ、一覧表にしながらカタログを読んでいくと、タイヤの種類はあきれるほど多い。とりあえずタイヤの種類だけを数えてみると次のようになった。

(1)バイアス1種(偏平比0.96)
・10〜15インチリム用────────18
(2)バイアス2種(偏平比0.86)
・14インチリム用────────── 6
(3)バイアス3種(偏平比0.82)
・12〜14インチリム用────────42
(4)バイアス78シリーズ(偏平比0.78)
・────────────────── 0
(5)ラジアル82シリーズ(偏平比0.82)
・10〜15インチリム用─────── 235
・10インチ────25
・12インチ────47
・13インチ────76
・14インチ────75
・15インチ────12
(6)ラジアル80シリーズ(偏平比0.80)
・10〜14インチリム用────────22
(7)ラジアル75シリーズ(偏平比0.75)
・14〜15インチリム用────────16
(8)ラジアル70シリーズ(偏平比0.70)
・10〜15インチリム用─────── 252
・10インチ────12
・12インチ────53
・13インチ────95
・14インチ────90
・15インチ──── 2
(9)ラジアル65シリーズ(偏平比0.65)
・12〜15インチリム用─────── 112
・12インチ──── 3
・13インチ────23
・14インチ────49
・15インチ────37
(10)ラジアル60シリーズ(偏平比0.60)
・12〜15インチリム用─────── 289
・12インチ────11
・13インチ────60

・14インチ────127
・15インチ────91
(11)ラジアル55シリーズ(偏平比0.55)
・14〜16インチリム用────────18
・14インチ──── 1
・15インチ──── 1
・16インチ────16
(12)ラジアル50シリーズ(偏平比0.50)
・15〜16インチリム用────────43
・15インチ────30
・16インチ────13
(13)ラジアル45シリーズ(偏平比0.45)
・16インチリム用─────────── 3

 以上を合計すると約1000種類が乗用車用として発売されているということになる。
 さきほどの 155 SR 13 というタイヤは(5)のラジアル82シリーズの13インチリム用に含まれる。
 ラジアルタイヤで「シリーズ」というのは偏平比(偏平率)による分類であることはご存じのとおり。タイヤを輪切りにしたとき、断面の最大幅に対して高さが82%のものを82シリーズというわけである。
 上の表で(1)から(4)はバイアスプライタイヤで、(5)から(13)がラジアルプライタイヤになっている。ここで注目したいのが偏平率で、バイアス1種の96パーセントからラジアルの45%まで、ほぼ順に並んでいる。これはそのままタイヤの進化順になっているのだそうだ。
 空気入りのタイヤが初めて開発されたのは 100年前のことで、英国のダンロップは元祖として世界に君臨していた。
 しかしモータリゼーションの波がアメリカに及ぶと、タイヤの耐久性を増すために、カーカスとよばれる一種の包帯をタイヤ内に巻くようになった。それをバイアス……つまり斜めに交互に張り合わせて空気圧を高め、タイヤの変形に対するバネ効果を生じさせた。
 バイアスタイヤはアメリカで全盛期を迎え、技術革新によって、96%→86%→82%としだいに偏平になっていった……ということはカーカスコードによって真円の断面にふくらもうとするチューブをコントロールして、接地面積を拡大していったことになる。
 (4)に偏平率78%のバイアスタイヤがある。これはバイアスタイヤに高速耐久性を発揮させるため、トレッド部内側にベルトの“たが”をはめるなど新技術の産物である。しかし、それはヨーロッパで主流をなしつつあったラジアルタイヤに王座を奪われる最後のあがきともなった。
 ヨーロッパから登場したラジアルタイヤ……すなわちカーカスコードを放射状(車輪軸から放射状)にしてベルトで“たが”をはめたタイプは、高速走行時の操縦安定性と耐久性にすぐれていた。
 乗り心地は落ちたが、道路がよくなり、クルマのサスペンションが改良されてその弱点をカバーした。ラジアル化に遅れたアメリカのタイヤメーカーに対して、たとえばフランスのミシュランは世界のトップ企業となり、ラジアル技術の導入が早かった日本のメーカーもそれに続いた。
 そういう開発史を知ると、バイアス3種の偏平率82%をラジアル化したのが(5)の82シリーズであったことがわかる。だからこれは、ザ・ラジアルという意味で「155 R 13」と書き、つぎの80シリーズからは「155/80R 13」のように偏平率が記号で示される。
 しかし80シリーズや75シリーズはマイナーにとどまり、ラジアルタイヤのシリーズ化は82→70→65→60と進み、55→50→45あたりまできているということなのだ。
 それにしても、タイヤの種類の多さには素朴に驚く。世界企業ブリヂストンの場合にはタイヤと名のつくものをじつに1万7000種類もつくっているというから、7社合わせて1000種類余というのは微々たるものということになろう。しかしネジをつくるのとは違うわけだから、いささか度を越している。

●60シリーズをはくクルマ

 約1000類の乗用車用タイヤを分類したら、「ラジアルプライ60シリーズ」の14インチリム用が最多で、127種類あった。そこで、これをタイヤ幅ごとに分けてみた。

・165/60 HR 14タイプ──── 2
・175/60 HR 14タイプ────20
・185/60 HR 14タイプ────31
・185/60 VR 14タイプ──── 1
・195/60 HR 14タイプ────32
・195/60 VR 14タイプ──── 1
・205/60 HR 14タイプ────26
・205/60 VR 14タイプ──── 1
・215/60 HR 14タイプ──── 6
・215/60 VR 14タイプ──── 1
・225/60 HR 14タイプ──── 6

 これらを標準装備しているクルマのうち、カローラ軍団にかかわるタイヤだけを取り出してみると次のようになった。ただしぼくの怠慢から、三菱のいくつかの車種と日産のサニーは欠落している。

◎175/60R 14 78H
1300cc……スターレット(Ri, ターボR,ターボ S)
1500cc……カローラII(SR-i スポーツパッケージ) コルサ(SX-i スポーツパッケージ) ターセル(VS-i スポーツパッケージ)
◎185/60R 14 82H
1000cc……シャレード(GT-XX)
1500cc……ファミリア(グランツ) ジェミニ(irmscher TURBO) パルサー(トリプルビスカス フルオート・フルタイム ミラノ X1-E) MR2(S) カローラ(GT) カローラII(GP ターボ) コルサ(GP-ターボ) ターセル(GP-ターボ)
1600cc……シビック(Si, Si エクストラ)インテグラ(GSiエクストラ) CR−X(Si) ジェミニ(irmscher DOHC, ZZ) エチュード(Gi) ファミリア(GT,GT-X, ∞, GT-Ae, カブリオレ) ミラージュ(VIE R, XYVYX DOHC 16V, CYBORGDOHC 16V) パルサー(X1 ツインカム, ミラノX1 ツインカム) ラングレー(GT ツインカム) リベルタビラ(SSSツインカム) MR2(G,G-Limited) カローラ(GT) スプリンター(GT) スプリンター・シエロ(GT) カローラFX(FX-GT) スプリンター・ トレノ(GT, GTV, GT APEX) カローラレビン(GT, GTV, GT-Z, GT APEX)
1800cc……レオーネ(RX/IIフルタイム4WD)
◎195/60R 14 85H
1600cc……ミラージュ(CYBORG DOHC16V T) スプリンタートレノ(GT-Z) カローラ・レビン(GT-Z)
2000cc……アコード(2.0Si) アコードクーペ プレリュード(2.0Si) ピアッツァ(XS ターボ, XE ハンドリングバイロータスターボ) アスカ(LG) スタンザ(Xi5アウトバーン, Xi5アウトバーン DOHC) カリーナED(G, G-Limited) セリカ(GT, GT-R, GT-FOUR) コロナ(GT-R) コロナクーペ(GT,GT-R) ビスタ(GT) コロナSF(SF-GT)

 ずいぶんある。しかも走りのいいクルマが並んでいる。最初の 175/ 60R 14 78H のように速度コードが最後にくるものが多いが、この場合の78は「荷重指数」というもので、指数60の 250kgから 179の7750kgまでが定められている。78H は 425kg以下の荷重で時速 210kmまでOKということをあらわしている。

●タイヤからクルマを見る

 あれだけ多くの種類のタイヤがあって、そこから選び出しているのだから、同じタイヤをはいているクルマは、少なくともその“走り”において同じ車格といえる──のかどうかが、しだいに疑わしくなってきた。それが見えてくることだけを楽しみにカタログを読んでいたぼくは、少々不安になってきた。
 そこでカローラ軍団とシビックが標準装着しているタイヤを抜き出してみた。

◎カローラ軍団
(1)145 SR 13 ──────── 1300
   165/70R 13 79S──────1300、1500
  ★175/60R 14 78H───── 1500
(2)155 SR 13 ──────── 1300、1500、1500D、1800D
   175/70R 13 82S──────1500
  ★185/60R 14 82H───── 1500、1600
(3)165 SR 13 ──────── 1600、1800D
   185/70R 13 85S──────1600
  ★195/60R 14 85H───── 1600
◎シビック
(1)165/70R 13 79S──────1300、1500
(2)175 SR 13 ──────── 1500、1600
(3)175/70R 13 82S──────1500
(4)175/65R 14 82H──────1600

 偏平率の異なるタイヤのサイズ対応は個々に厳密に調べなければならないが、おおざっぱな目安としていえば、82シリーズから70シリーズへはタイヤ幅で20ミリアップ、70シリーズから65シリーズへは10〜20ミリアップになる。また1インチアップのリムにすると70シリーズから65シリーズへは同一幅、65シリーズから60シリーズへは10〜20ミリアップとなる。
 それによると、カローラ軍団は「セイムリム」の82と70シリーズ。それに、★印をつけた「プラスワンリム」の60シリーズをチューンアップバージョンとして、(1)〜(3)の3グループをもっているといえそうである。
 それに対してシビックのほうは渋い選択をしているようで、車格のアップに応じてタイヤを1種類ずつ当てはめているように思われる。ホンダのクルマはアメリカへの輸出車も同じタイヤをつけているというから、なにか独特の哲学がありそうだ。少なくともキメ打ちしている。
 もっともカローラ軍団とひとくくりにしたのでは、あいまい過ぎるかもしれないが……。
 手間ばかりかかって意味の見えないままの一覧データをもって、ぼくはブリヂストン・商品企画部の五十嵐さんに会った。乱雑なデータから意味をもつ糸口をひろい出すには、専門家の助言が欲しかったからである。
 合わせて、五十嵐さんにはタイヤのプロとしての話も聞いた。
 新車に標準装着されるタイヤは、以前はどちらかといえばコストに傾いて選択された。ところが最近ではタイヤが車のバリエーションの一要素とされる例が多くなったという。
 騒音や振動などクルマの乗り心地にかかわる点に気を使っていたのが、グリップ性能やウエットのブレーキ性能など“とんがった”味つけの個性的なタイヤも求められるようになったわけである。
 それは、クルマが“経済性”から“走りの快感”に焦点をあてていることにもよるのだろう。標準装着タイヤの偏平化は、82SRであったものが70SRへと移り、あるいは70SRをつけていたクルマが、一気に60HRもはく。
 このような動きによるクルマ側のメリットのひとつは、偏平化によってワンサイズ大きなリムを使うことができ、それによってブレーキドラムも大きくできるなど、高速走行時の安全性も高めることができることである。
 もうひとつの新しい動きが65シリーズにあらわれているという。ドイツ車が採用しているように、ルックスはパーソナルセダンだが想像以上のスポーティな走りもするといった方向である。高運動性と快適性を共に求めるユーザーのニーズが、乗り心地に関する新しいバランス感覚を生み出したといえる。
 しかも65シリーズまでは82、70シリーズから「セイムリム」で、はき替えることができる。クルマメーカーにとっても、タイヤメーカーにとっても、そういう意味で注目株になっている。
 タイヤは、単純にいえば材質と構造とトレッドデザインの3つの技術ででき上がる。そして車を支え、駆動し、制動するという3つの役目を果たしている。「支える」という役目では静粛、柔軟、安定、耐久力、耐摩耗性といった特性を引き出し、「駆動」と「制動」では直進性や加速G、コーナリングの切れや路面の変化に対するグリップ感など、クルマの性格を変えてしまうだけの能力を引き出せる。それら個々の性格づけができるという意味で、タイヤは限りなくおもしろい……と五十嵐さんは語るのである。
 そして、そのおもしろさは結局、ドライバー自身が、そのドライビング技術によってはじめて味わうことができることなのだ。


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