軽登山講座────伊藤幸司
*この講座はBIGLOBE(NECビッグローブ)が公式に設置したstation50において2005年から2010年にかけて105回連載したものです。

【伊藤幸司の軽登山講座032】スノーシューのすばらしさ――2007.2.10



■伯耆大山で――2003.1.17
スノーシューで最初に試みたのは大山の森林限界まで登ってみることだった。初挑戦でも驚くほどの登坂力を発揮した。これがMSRデナリ・クラシック(17,800円)



■札幌・キロロスキー場で――2004.2.28
雪質を求めて北海道へ。宿泊付き格安航空券で札幌に行き、キロロスキー場と札幌スキー場で歩いてみたが、北海道より本州の急峻な山のほうがスノーシューにはおもしろいと知った。


●下り専用スノーシュー

 カナダやアラスカの北極圏周辺ではスノーラケットが冬の実用的な道具となっている。名前から想像するとおり、最初はテニスラケットを足にくくりつけたに違いないという形をしていて、それが耐荷重の要請からしだいに大きくなったと確信できる。
 日本では雪が湿っていて重いのと、地形が急峻なので足運びに自由が少ないのとで、うんと小さな輪カンジキが実用的であったようだ。
 輪カンジキは登山用としても雪の山を登るのに不可欠な道具として現在に至っているが、人によってはスキーのほうが合理的だとする。デポして戻れるなら、下りのことも考えてスキーがいい、ということかもしれない。
 輪カンジキは携行性にすぐれているので、縦走登山なら輪カンジキとアイゼンという組み合わせが圧倒的にいい。
 ところが西洋カンジキのスノーシューが日本の山でもすばらしく合理だということ知ってから、雪と触れあう計画が断然おもしろくなってきた。
 その前は歩くスキーで悪戦苦闘していた。最初は北八ヶ岳の麦草ヒュッテでテレマークスキーを借りたことに始まる。テレマークスキーは一般的なクロスカントリースキーと基本は同じだが、平地型から山岳型へと分岐して、靴が昔のシングルスキー・登山兼用靴に近かった。それならスキーを捨てて歩くことになっても問題ないということで、いろいろ体験してみることになった。
 歩くスキーは北欧型でつま先だけが固定されている。かかとの押し出しができず、エッジもない状態で曲がるために考えられたのがテレマークターンで、スキーを前後に開いて体重を前足にかける。
 テレマークターンは深い雪の中で回るにはすごく合理的な方法だというところまではわかったし、うまくできたときの気持ちよさは格別なものがある、といいうところもわかった。
 しかしスキースクールのように上達することをめざしたのではなかった。麦草ヒュッテからメルヘン広場までの6kmの国道を下るのなら初めての人でもできるに違いないと考えたのだ。直滑降で行けば道が曲がるのにあわせて曲がっていけるはずだし、どうしても方向転換したければ踏み替えターンで十分にいける。生まれて初めての人だって大丈夫にちがいない。
 だいたい、中高年になって山歩きをはじめた人のほとんどはスキーにも縁がなかった。生まれて初めてスキーをはくという人も多いのだ。
 当然、ケガが心配になる。ところが歩くスキーはつま先しか固定されていないので転んでも足をひねる危険がほとんどない。7年間に転んだシーンは無数に見たが、足を痛めたのは2例。100%安全とは言い切れないが、深い雪のなかで存分に転げ回る楽しさは満喫できた。
 しかし、上達せずに楽しめる範囲が、登りの傾斜、下りの傾斜ではっきりと区切られる。転ぶ転ばないではなく、行ける、行けないがはっきりしてしまうのだ。やはり上達しなくては行動範囲が広げられない。初心者チームはほとんど同じ場所へくり返しいくしかなくなっていった。
 その、歩くスキーから、スノーシューへと切り替えたきっかけは新しいスノーシューを見つけたからだ。
 私はそれまでスノーシューにはあまり好感を持っていなかった。たかだか西洋カンジキだろうと決めていた。図体が大きい上に高価だった。
 ある日、登山用品店で、ペラペラで安っぽいスノーシューを見つけた。MSRというアメリカのクッキングストーブのブランドがついていた。一体形成のプラスチックの田下駄のようなものに、ペラペラのゴムベルトが何本かついているだけのシンプルな構造だった。
 私にはモノライターの直感がいくらかあるから、それがとんがった技術者のとんがった作品だということがすぐに想像できた。私がいつも原則としているマルチシューズ(すなわちわたしのランニングシューズでも使えるか)への対応としても画期的な締め具に違いなかった。
 すぐに買ってはいてみるとフィーリングも問題なかった。さっそく周囲のみなさんに勧めて、伯耆大山と三瓶山、札幌周辺、利尻・礼文と立て続けにスノーシューハイキングを実施した。
 その結果わかったのは、ロープウェイで上がって、急斜面を下ってくるような使い方がおもしろいということだった。
 急斜面ということではスキーの上級ゲレンデ以上の斜面が圧倒的におもしろい。それも雪崩の危険のない林間を半分雪に埋まりながら下るというような、これまでぜったいにやれなかったことが、簡単にやれて、技術を問わない。すなわち初心者でも冒険的なエクストリーム・スノーシューといった気分が味わえるのだ。
 厳冬期の八甲田山に出かけたのは、翌シーズンだった。以来、雪の急斜面を下る楽しみを満喫している。


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