軽登山講座────伊藤幸司
*この講座はBIGLOBE(NECビッグローブ)が公式に設置したstation50において2005年から2010年にかけて105回連載したものです。

【伊藤幸司の軽登山講座053】糸とロープ――2008.3.25



■私の裁縫セット
デンタルフロスと古い針セットと、飛行機に持ち込んでも問題にならないはさみ。



■1993年に作ったロープ見本
上から下に(01)から(11)までの細いロープを並べてある。(01)が私が常用している太さ2mmのロープ。登山用の3mm補助ロープは(11)。



■(01)テトロン八打2mm(破断強度85kg)白
小物入れに、丸めて放り込んである。1993年当時、1m当たり30円で、綿ロープより高く、クレモナと同等だった。


●ほぼ完璧なデンタルフロス

 私の登山道具の中には小物袋があって、こまごまとした危機管理ツールが入っている。
 その中に真ちゅう製のシャープ芯入れ(茶筒を細く小さくしたような缶ケース)がある。東京オリンピックの頃のものだ。
 中に入っているのは縫い針。大小20本ぐらいはあるかと思うけれど太い糸を通せるもの以外はほとんど出番がない。
 かつて外国にも出かけていた頃には、けっこう使っていた、ボタンかがりもすれば、バッグのほころびも直し、最悪のケースではテントの破れもなんとかできるという態勢をとっていた。
 もちろん糸が必要だ。昔はロウびきの麻糸が基本だった。コートに大きなボタンをつけるときに使うと聞いたが、最強の糸ということで持っていた。
 その麻糸が最近ではうまく見つからなくて、ポリエステルの糸を買っていた。強度は十分にあるらしいが、フワフワと小太りの感じで、針も穴の大きなものしか使えなくなった。
 そこに登場したのがデンタルフロスだ。長い糸が巻かれていて、小さなプラスチックケースに入っている。先端を引っ張り出して、適当な長さに切って、歯間の汚れをとる糸だ。
 これは細くて長いナイロン糸が撚られずにそのまま束ねられている。引っ張りにはものすごく強い。水濡れにも強いからテントの修繕だって(いまはやることはないと思うけれど)かなり効果的にできそうだ。
 問題がないわけではない。けっこう複雑に縫っても、引っ張ると抜けてしまいそうなほど滑りがいい。つまり最後のところをほどけないように結ばないと、勝手に緩み、勝手にほどけてしまう危険がある。
 しかし、結びの問題は、修理修繕の全体からみればあまり大きな問題ではない。緩んでも、ほどけても、止まっていればいいわけだし、基本的には釣り糸の扱いを学べば解決する問題だ。
 おまけに無色透明という感じの糸だから、場違いなところに使っても目立ちにくい。汎用性があるということになる。「最強の糸」として、いつか役に立つのではないかと思っている。


●補助ロープのさらに補助

 登山用のロープには伸びるロープと伸びないロープがあることをご存じだろうか。
 一般に「ザイル」とも呼ばれる登攀用ロープは登山者が墜落したときの衝撃を和らげるべく「伸びて止まる」ように作られている。太さ10〜11mmのものをシングルで使ったり、8〜9mmのものをダブルで使ったりすると考えておいていいだろう。
 それに対して補助的な作業に用いられる登山ロープはかなり大きな耐荷重性能をもち、かつ伸びないように作られている。
 この講座ではすでに「ロープという非常装備」(講座38)で太さ6mmの補助ロープについて語った。ここではもっと細い、糸とロープの中間に位置するものについて考えてみたい。
 私の、針と糸が入っている小物袋にはロープも入っている。束ねて放り込んであるので何メートルかわからないけれど、10mmはあるはずだ。
 そのロープの太さは2mm。白いので(さりげなく使えると考えて)カメラケースを腰にぶら下げるひも(大工さんや植木屋さんが道具袋を腰につけるようなぐあい)にしたり、登山靴の靴底がパカッとはがれた人の靴底を固定したり(これはすぐに緩んであまり成功していない)、テントを張るときには張り綱(四方へ引っ張ってテントを固定するロープ)にする。旅行では洗濯ロープにもする。
 じつは1993年のことだが、マンガ雑誌(集英社の「スーパージャンプ」)で「ネイチャーパイロット」という連載をやっていて、その第15話としてロープワークを扱った。そのときにひととおり用意したロープの見本が、私のファイリングシステムに残っていたので、カラーコピーをとってみた。
 11種類のサンプル帳になっているのだが、上から順につぎのようなロープとなっている。
(01)テトロン八打2mm(破断強度85kg)白
(02)テトロン八打3mm(破断強度140kg)白
(03)ケブラー2.8mm(破断強度120kg)白地
(04)テクミロン3mm(破断強度240kg)緑
(05)テクノーラ1.7mm(破断強度210kg)ピンク
(06)マーロープレスト4mm(破断強度620kg)黄色地
(07)綿金剛打ち4mm(破断強度35kg)白
(08)クレモナ金剛打ち4mm(破断強度120kg)白
(09)ポリエチレン3mm(破断強度100kg)濃緑
(10)蛍光パイロン金剛打ち3mm(破断強度131kg)赤と黄
(11)登山用補助ロープ3mm(破断強度146kg)黄色地
 7番の綿ロープが格段に弱い以外は、太さ3mmのもので破断強度が100kg以上になっている。4番だと240kgもあり、6番は4mmだが、なんと620kgとある。ちなみにこれらのロープは東急ハンズで一気に買い集めたので、それぞれに使われるジャンルと理由があるのだろう。
 クレモナは「講座38」で6mmロープのエピソードを書いたけれど、4mmで120kgだから3mmだと100kgを割りそうだ。現在でも海ではいろいろ使われているし、荷造りロープとしても扱いやすい。なによりも結びやすいロープといえる。
 さて、私が常備している非常用ロープは1番のテトロン八打2mm。一般の靴ひもより細いかもしれない。新品状態で静かに引っ張る限り85kgまで耐えるのだからかなりヘビーな仕事に使える。
 そのことを表現するためにマンガのストーリーではブランコをつくった。蜘蛛の糸にぶら下がっているようなブランコだから、最初は別のロープで安全を確保した。結局、耐荷重ぎりぎりで使うと、表面はごまかせても結び目などが伸びて次には使えない状態になった。
 いざとなったら、このロープを2本、4本、8本と束にすれば、緊急時の力仕事にも対応してくれる。荷重をかけたら1本ずつブツン、ブツンと切れていくというような事故ももちろんありうるけれど、それでも極細で耐荷重性能の高いロープを10m以上持っていると、かなりいろいろな使い方が可能になる。


★目次に戻ります
★トップページに戻ります