★0127「岩場の登り方・下り方」
▲伊予ヶ岳 2015




 この人は、なんとなく不安定に見えますね。ここでロープを2本握っているのは不安感が大きいことの表現だと私は見ます。安全の8割ぐらいをそのロープに託している。2本の足と右手で安全に立ちながら、左手で次のホールドを探す、という段階ですが、立っているのがやっとという感じがします。岩場では「3点支持」で「100%の安全を確保する」という気持ちがとても重要になります。もちろん私としては、一度立ち止まって、ここから再スタートというメリハリを求めました。



 この人は一見無理な姿勢に見えますが、力量があるのでトッ、トッ、トッ、と登っていく瞬間の、たまたまの瞬間画像で、ここから右足に体重をかけて一気に高度をかせごうというところ。



 慎重派の登り方と私には見えました。両手・右足の「3点支持」で安全を確認し、左足の置き場所を確認しているところです。この日は岩がいくらか濡れているので、見ている側からこまかいところはわからないのですが、足場を「慎重に探している」というふうに見ました。



 できればゆっくりでもいいけれど「3点支持」を維持しながら連続的に進む努力をしてもらていところですが、動きが止まっているんですね。左手がロープではなく「木の根」を持っているのは「伸びたり縮んだり」「重心をかけると左右に振れたりする」ロープより安全性が高い、のではあるのですが、それが積極的な判断でないなら、「ロープをうまく使ってやろう」という意欲に欠けていると感じますね。まだ上がありますから、できればロープを自分なりに信頼できる道具としてほしいところです。



 じつはここがこの岩場の最大の山場で、まあ、一般登山道の標準的な岩場でしょうか。ロープにしろ鎖にしろ、ぶら下がると壁面に押し付けられる感じになるので、いくぶん厄介な場面です。この場面で、鎖の左側にステップを探してみる、というような試みをする人は一ランク上、と私は見ています。ロープや鎖に支配されたくない、という感覚が出てくれば今後につながると思うのです。



 下りにこの「難所」を覗くと、難易度が二段も三段もアップします。ロープや鎖に全面的に頼っている段階で、まっすぐ立って背中越しにこの先の二歩目、三歩目、四歩目ぐらいを見られるようになったら、3,000m級の一般ルートを歩けるようになるのですが……。



 一般ルートの岩場では、事故が起きないようにロープや鎖が設置されていますが、登山者が「どう登るか」ではなくて、ロープや鎖にぶら下がる人がいた場合に、ある期間、事故が起きないように「補助的」に設置されています。素材の強度も需要ですが、耐久性も重要で、登山者が命をかける「登山用ロープ」とは「主役」と「脇役」ほどの差があると考えるべきです。とくに結び目などが心配になります。ゆえに、ある程度乱暴に引っ張ってみることは、ロープの結び目をチェックするという以上に、ロープに体重がかかったときに、どの方向に振られるかを確認しておくという点で重要です。



 ここでは、時に事故も起こるそうですが、登山道の岩場など初めてというような旅行者というべき女性もすいすい登っていくんですね。運動好きな人なら気持ちよく登れちゃう、というところで私たちは慎重すぎる上り下りをしているわけです。元気な男性ならテレビで見るレスキュー隊や運動選手のロープ登り、ロープ下りのやり方で爽快に通過できると思います。でも3.000m級の山に登りたいという夢があるなら、登山用の登り方、下り方を「三点支持」というまだるっこしい方法でやれるようにしておく必要があるのです。



 登り、下り、難しい、やさしい、というどんな場面でも、一瞬止まって周囲を見られるかどうか、が、岩場での安全に大きく影響すると私は考えています。
 この伊予ヶ岳は「千葉のマッターホルン」だそうですが、この山の鎖場は登山技術のなかで命を守るもっとも重要な「三点支持」を身につけるのに最適なゲレンデといっていいと思います。登山は早ければいいというのではありません。三点支持で登ったからと言って、遅くなるわけでもないんです。二足歩行を四足歩行、それも洗練された四足歩行に切り替えるだけだと考えるのです。
▲写真149点