★テレビ朝日深夜放送「PRE*STAGE」のミニ連載「Front Row」
第9回・ゴミ袋キャンプ冬版
1992.1.7-9ロケ→1.13-17放映
*テレ朝の「プレステージ」はウィキペディによると「1988年10月11日から1992年10月16日まで月曜から金曜に放送されたテレビ朝日の深夜帯番組」で、出演者には「梶原しげる、小島一慶、中村浩美、千田正穂、東国原英夫、飯星景子、蓮舫、ラサール石井、竹中労、矢吹藍子、川口雅代、高市早苗、中村あずさ、TARAKO、中條かな子、田中綾子、成田路実ら」という名前が列記されています。
そこでアシスタント・ディレクターたちがこころみたいろいろなアイディアのひとつが栗田郁也さんのアウトドア企画で、1本30分ほどの作品を月〜金の5回連続として切り刻んだ状態で曜日ごとのMCに見せるので、東国原英夫なんていうMCは毎回見る気なしに見せられたという渋い顔の役回りでしたね。私のメモが残っているのでページ末に。
★「山旅図鑑brog」007……貼るカイロの出現(2023.1 アップ)
■私が初めて「貼るカイロ」を本格的に使ったのは1992年1月7-9日、秩父・武甲山の裏側にある橋立川の源流でした。当時、私はテレビ朝日の深夜番組「プレ・ステージ」に小さなコラム番組を持っていて、いろいろなアホ実験をやっていたのですが、そのひとつに「ゴミ袋キャンプ」があったのです。その後社会情勢が変わって上野駅に段ボールハウスが林立するようになりますが、私がゴミ袋で雨具を作り、必要ならビバークもできるということの意味を伝えようとしていたのは、ホームキャンピングのブームの中で「ヘビーデユーティ」信仰へのアンチテーゼとしてでした。
■それがどうして「貼るカイロ」なのかというと、夏バージョンの続きを真冬の山の中でやろうということになったのです。体験するのはもちろん私と、女優のタマゴさん、とデズニーランドのバイトに人生を賭けているという女子大生2人、裏方ではこのシリーズに出世を賭けていたアシスタント・ディレクターの栗田郁也さん。さすがに雪が積もっていてもおかしくない時期であり、場所なので、どうするか……。私は農業用シートでインディアンのテント(ティピー)を作り、貼るカイロで暖をとることにしたのです。
■その当時、使い捨てのポケットカイロは普及していましたが、貼るカイロは「低温やけどに注意!」とされて夜間に使用するときに「下着にはる」のは危険とされていたのです。そこで「貼るカイロ」の本格的な実験としたいと考えたのです。私はその頃ダイヤモンド社の「BOX」というビジュアル誌でレギュラー・ライターでしたから、そちらに載せるということで、主要なカイロメーカーから商品を提供してもらったのです。
■秩父でビニールハウスに使う農業用シートを購入して現場に向かうと恐ろしく寒かったですね。気温は0℃前後で風もなかったのですが、火の気がないと寒さが攻撃的になるんですね。若い女性3人はそれに心細さが加わっていたはずです。さっそく透明シートで大型テント(ティピー)を作り、まずは食事。当然、からだが温まる鍋パーティになりました。そして新聞紙を配って「紙布団」とし、カイロメーカー各社の製品群から好きなものを選んでもらって、いよいよ就寝ということになったのです。
■私とディレクターは同じ体験をしながら、異常がないかチェックしました。冷静に考えれば、テント内温度は0℃前後で無風。地面との断熱は完璧ではありませんが、肩から腰までは新聞紙でもかなり断熱できています。問題は熱源ですが、それは朝になったらわかります。……けど、その前にわかっちゃいました。なぜなら眠れないのです。持ってきた服を全部(タレントKさん6枚、女子大生Sさん8枚)着ても眠れないのです。ただ、服を5枚着た女子大生Iさん、ただひとりだけが、熟睡していたのです。
■貼るカイロが有効に働いているのは間違いないとして、一定時間が経ったとき、低温やけどになっているという恐れが当然ありました。……というわけで何度か起こして異常がないか確かめたのですが、全くないとのことでした。翌朝、彼女はまったく無事、何度も起こしたのに、良く眠れたそうなのです。そこで肌着にカイロをどのように貼ったのか再現してもらうと、いま写真で確認できるのは全部で22枚(記録では26枚となっています。足裏にも貼っていたのでしょうかね)、ベタベタと身体中に貼りつけていたのです。
■勝因はなんだったか。肌着でした。冬のロケに加えて野営、しかも常識はずれの一夜ですから、事故が起きたらけっこう厄介なことになります。絶対に最後の砦、的なところは押さえておかなくてないけないのです。そこで出演者3人には登山用品店で高価な肌着を上下支給したのです。ちなみに私は自前でしたが、ディレクターはモルモット用として同じ肌着を自分にも支給したかと思います。カメラクルーは徹夜で張りつくことはなく、少し下った林道に止めた車で待機としました。結局、常識的な貼り方をした人は皆、眠れはしたものの、寒さで何度も目が覚めるという一夜でした。ただひとり、全身カイロの女子大生ひとりが快眠を得たのです。
■登山用の肌着が肌の湿り気を積極的に排出できるようになったのは米国デュポン社が開発した「乾式オーロン」の肌着が登場してからだと思います。古くから知られていたのは純毛の肌着が湿り気を繊維内に抱き抱えてくれる、というものでしたね。貼るカイロは最高温度が60℃前後ですから、湿度が絡まなければヤケドにはなりにくいのです。この事件? によって、私は冬の山歩きの重要な装備として「貼るカイロ」を積極的に使うようになりました。