林 智子……あたまをつかったちいさいおばあさん
ピンクさんと――2009.1.29
■ピンクさんと――2009.1.29
もし 私の 心の奥の深いところに 何か 痛みというようなものを
感じる 部屋があるとしたら 彼女と私は かなり 近いものを 持っているのかもしれない。
彼女は 大学で 英語を教えており 文章を書く人でもある。
彼女の 文章の中に <私が母を殺したのだ>という 一文がある。
なんということだろう。
私を 捉えて 離さない。
< もっと カッコよく 自分を飾ったって 良かったのに。
自分を ごまかしたって 良かったのに。>
不思議なことに 彼女とは これまで さまざまなところで 出会ってきた。
最初は シャンソンの教室で。
同じ頃に プールで。
おぼれそうになりながらも 決しておぼれない いさぎわるい・・けれど・・
潔いよい そんな 泳ぎ方で。
太った 体型は どうみても 体育会系では ないのに 泳ぎを 止めない。
数年の後 今度は 歌の教室で 出会うことになった。
穏やかに 彼女は <あら・・また・・会っちゃった・・うふふ・・・>と 楽しそうに笑った。
いま 二人は 同じ歌を歌い 共に ソプラノ担当だ。
<大学生のころ 私は ピンクさんと呼ばれていたの>と 言う。
いつでも 淡いピンクのブラウスに ピンクのネックレス。 ピンクのバックを 持っている。
色白の彼女に とけそうな ピンクは よく似合い 彼女の笑顔が・・・ そう 童女のようだと
私は 思う。
歌う時 彼女の発音は 英語そのもの。音程は しっかり 外れている。
二人並んで 巻き舌の彼女の 発音を 私は聞く。
歌うこと。
それが いつしか 呼吸と同じことになり 喜びと 悲しみと 歌は 一緒になった。
いつか <上を向いて歩こう>を 教室で 皆と 歌った時
<娘と一緒によく歌った歌なのよ。 娘は 5年前に 癌で死んでしまったの。
40歳にもなっていなかったの>と ひっそりと つぶやいたのが ソプラノの美しい Kさんだ。
一瞬 時が 止まった。
ポロポロと 美しい涙を こぼした Kさんは 決して 泣きはしないような しっかり者なのだろうと
ひそかに 私は 思っていたのだけれど。
ピンクさんと 私。 歌いましょうね。
どすの利いた 英語風な ソプラノだって いいじゃない。
ころころと 転がらない 悲鳴のような ソプラノだって いいじゃない。
私も ひそかに 願っている。
どうぞ ピンクさんが もう 苦しむことがありませんように。
ピンクさんは もう 充分 充分 心が 痛かったのですから。
強がったり 意地悪など 出来ない ピンクさんなのですから。
弱くて 強い ピンクさん。
私は ピンクさんから 学ぶ。
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