林 智子……あたまをつかったちいさいおばあさん
イキイキ奮戦記 3――2010.8.30
■2010.8.30――イキイキ奮戦記 3
甘いとうもろこしや 大きな大根を手に 満面の笑みでもって 高笑いをする予定だった。
額に汗し 虫の存在に仰天し 大蜂に追いかけられて泣くなど 多少なりとも <やりました>という
何らかの 努力あってこそ 得られるのが 喜びや 恩恵というものだったのだろう。
トウモロコシにしても 大根にしても。
今回の イキイキの畑作りに関して ちょっと 老後というものを 視野に入れつつ
少しは 私だって考えたのだから 当然 すべては 良い方向へ 向かうはずと 信じていた。
大きな 努力はしなくても 野菜の作り方を 学ぶことができるなんて ラッキイ・・・・
何の疑いもなく 鼻歌交じりで 自転車を走らせる 日々だったのだ。あの日までは。
最初は良かった。ファーマー林としては 何を着て行こうかな・・畑仕事なんだから 思い切り おしゃれな
エプロンもいいしね・・つなぎなんか 一番 正統的かつ おしゃれなスタイル・・かも・・
和風な 田植えスタイルよりは 絶対 アメリカの 叔父さんファーマー ケビン君みたいな
かっこにしようっと・・
ウエスタンな帽子や それに 何といっても必須なのは あの渋い カーキイ色の ゴム長だ。
ホームセンターで売っている 花柄の手ぬぐいが ぶら下がっているような あの 思い切り 和風な
思い切り 農業でーす・・と云ってるような 麦わらも 方向は ちょっぴり 違うけど
この際だから 一度はかぶってみようっと・・などと。
大した量でもない かわいいもんの ビールとレモン酎ハイだったのに。
弘前の新興住宅街にあった そのレストランンが やたら 暗い 真っ暗闇のなかに
ぽつりとあったとはいえ 普段の頑丈な私だったら あんなに たやすく 転びなんぞはしなかったのに。
4人の女が たらふく食べて たったの 5000円という 信じられぬ事態に 驚き
それが喜びとなり あっという間もなく 私は 走り出してしまった。
嬉しさのあまりに 走り出し 暗すぎて 躓き 転び 全身したたかに打ち ついでに 顔をベンチに
ごっつんと ぶっつける 悲劇と なった。 バカミタイ。
痛く 悲しく 情けなく 愚かしく 恐ろしく ぐちゃぐちゃなる 経験であった。
転んだことは ショックだ。
さらに 怪我の治るまでは 動けない という そのことが 大事態だ。
自分の すべての時間が 止まってしまった。
それは 誰のせいでもなかった。
自分の 生き方 そのものから 起きてきたことだ。
偶然でも何でもない。
呆然と 憮然としつつも 遠からず 起きたことだと 私は 感じていた。
動けぬとは いったい どういうことなのか・・・その気持ちは どうなのか。
顔に多少の傷と いまだ残る 膝の痛みとも疼きともつかぬ 痕跡を残してしまった。
しかし 神様は 私を見捨てなかった・・・しばしのブランクを経て後 農園に行った。
大袋いっぱいの ジャガイモ。
休んでいる間に 種から植えたという モロヘイヤが 私の身長ほどにもなり
それがもう 収穫の 時を迎えていた。その みずみずしくも かわいい 葉っぱもいただいた。
私が いててと うめいていた 一カ月半の間にも 里芋の 葉っぱは スクスクと巨大に
芸術的な形となり ほかの なにもかもが 目いっぱい でかく なっているのだ。
ぐるりと 周りを 取り囲んでいる栗の木も すでに いがが大きく 棒でつついたら
収穫は いかばかりか・・自分のものでもないのだけれど 楽しみが増す。
自然はすごい。
畑の土 草 周囲の木々から 来る香りが 山と 同じだ。
一か月半の 私の空白など 自然にとっては 痛くもかゆくもなく 炎天下
野菜たちが 笑って 私を待っていた。
この時期に 必要な作業の後 ・・・ 前のかごには ゴムの長靴と エプロン。
後ろのかごには 袋いっぱいの収穫物を 乗せて 久しぶりの 農園から 私は 自転車を走らせる。
もちろん 学生時代なんかの 鼻歌付きで。
ちょっと<ウフフ>だ。 おもわずわらっちゃう。 しっかり 棚ボタだナ。これこそ。
再び 私も考えた。今後 あの時のような 愚かな行為は 避けよう。
よし 絶対に絶対に もう転ぶものか。
そのために 人は <もう年だから あんまり お酒は飲まない>といい <もう年だから
むやみに じたばた 走り回ったりしない>といい <もう・・だから・・>と 賢いようなことを
云うのだ。
高齢者と呼ぶには まだ早い 64歳。 お酒だって なにほど飲んだというのだ と
半分は なにかのせいにしながらも 反省などはしない主義の 常ではあるけれど
今後は もう少し 心して 賢く やっていくことにするのだと 決めた。
それにしてもな・・・と私は思う。
もともと かなりのアルコールにも びくともしなかった 中学時代の 女友達は 今回の
クラス会でも どんどん どんどん 飲んでも ケロリとしたものだった。
彼女は 別人種だ。 ケロリどころじゃない サラリとした 髪の毛もナチュラルで 美しく 見とれた。
姓が変わるのが いやだと言って 結婚をしなかった 彼女・・いったい どう生きて来て
あの 凛とした美しさなのだ。
<しかるに わたしは もう駄目だ。 もともとダメだったのだから こうなったら ほんと もう駄目だネ。
でも だめだってなんだって 生きるのだからね・・しっかりしなくちゃならんよ。智子さんも。>
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