坂井 正勝さんのポイントゲットレポート「11.8蓼科山で熊との遭遇」
………2005.11.13


■2005.11.13――11.8に蓼科山で熊との遭遇レポート……坂井正勝さん
 千葉の坂井です。17年11月8日火曜日、山歩きの友人と諏訪ICで別れた後、単独で蓼科山へ向かいました。霧が峰高原へ向かった友人とは翌日温泉宿で、報告会をやる予定でした。
 女神茶屋と頂上までの登りと下りの4時間半を一気に片付けるつもりで、登り始めました。
 急坂ですが、お天気は快晴、風も心地よく鼻歌交じりです。振り返ると南アルプスなどがとても綺麗です。
 ところが、頂上直下付近から、北よりの突風が吹き荒れ始め、小雪も舞い始めました。頂上での昼食や眺望もそこそこに、迂回路を下山することに決めました。
 蓼科山荘の分岐点からは天祥寺原方面へ深い森の中を歩を進めました。黄葉の枯葉が敷き詰められた森の中は、秋の陽差しを浴びてとても綺麗です。苔むした枯れ木も渋い芸術品のようにさえ見え、満足です。
 分岐点から30分ほど経った頃です。下山進行方向左手の森に、人の気配と視線を感じたのです。距離にして私から10メートル位の所です。きっと、休憩してんだと思いつつ、目を凝らしてみると、なんと「森の熊さん!」です。
 体長1メートルかもう少し大きいようです。熊さんは木に片手を掛けるような姿勢で、私の方を見たまま「固まって」いました。
 私はと言えば、熊さんとわかった瞬間からやはり「固まり、熊さんから眼を離しません」でした。どちらも次の行動をどうすればよいのか指示待ちの状態です。
 一瞬のことなのですが、見詰め合う時間がえらい長ーく感じられました。と、次の瞬間突風が吹き、熊よけの鈴がなりました。熊さんは、驚いたのか木から手を離し、くるりと背を向けて、私から遠ざかっていきました。
 しかも、私の下山方向です。私は、我に返り、とりあえず、来た道を頂上方面に登り返し始めました。
 息を切らさない程度の速さで歩きながら、「熊さんが追っかけてくるかもしれない。頂上付近は吹雪いているかもしれない。」と最悪の事態を想像する一方、「私の人生に悔いはなかったかな?少年時代は?青年時代は?そして今は?結婚生活や家族は?仕事は?人づきあいは?自由に楽しめた?」等と言うことをサッと振り返り「意外とマンゾクな人生だった!」と「過去形」で感謝していました。
 10分ほど登り返した所で、今度は上の方から音がしました。人でした。彼も同じルートで下山してきたのです。ほっとしました。
 状況を説明しました。しかし、彼は、膝が弱いので、このまま下山コース、つまり熊さんが降りてった方向へ行くというのです。
 私も腹を決めました。「大きな声で話ながら歩きましょう!それでも襲われたらあきらめましょう」と初対面の二人が、話題が途切れることがないようにと、かなりプライベートなことまでも明け透けにキューアンドエーしながら下山しました。
 約2時間半後、目的地に到着したときは手を取り合って喜び合いました。で、今日も生きています。
【コーチから】
●人生の、最初にして最後と思われる熊との遭遇体験、おめでとうございます。
●坂井さんのとった待避行動は正しいものであったといえます。米田一彦さんの『山でクマに会う方法』には次のように書いてあります。
「無言でじっとクマの目を見つめながら、静かに後退するほうがよい。私はいつもこの方法をとっている。いずれにせよ、背中を見せ、走って逃げるのは致命的だ。クマは本能的に逃げるものを追う」
●坂井さんはもう、意図的にクマと出会うようにしない限り、たぶん二度とこういうチャンスはないでしょう。お疲れさまでした。ちなみに米田さんはまだクマとの遭遇を体験していない人に対して、次のようなイメージを提供しています。
「遠くにいるだけなら心配はない。そっと立ち去ろう。距離が近くても、まれにクマがこちらに気づいていないことがある。その場合は、声をかけたり手を振ったりしてこちらの存在を知らせる。たいていのクマは逃げるはずだ」
●クマとの遭遇についてはいずれどこかで書きたいのですが、できればその前に私自身が遭遇したいもの。(学生時代の夏、知床の山中に、2年にわたり合計1か月以上いたにもかかわらず、襲われもしなければ、姿も見ませんでした。当時、我が探検部は無雪期半島縦走をやっていたので4〜5年にわたり、20〜40人規模で毎回1か月ほどの合宿を組んでいました。相手はツキノワグマではなくて、ヒグマです。だれかが食われていてもいいはずなのに、はるか遠くに姿を見たというのがあったくらい。私自身は糞のにおいで緊張したことがあったくらいです)
●坂井さんのレポートを読むと、「森の神様」に会ったという精神的緊張が非常によくわかります。熊さんありがとうと感謝してください。
●ちなみに米田さんのようにクマを守ろうとしている人たちの本意はこういう一文にあらわれています。
「クマはむやみに人を襲わないが、危険を感じれば攻撃してくることもある。見つけても、双眼鏡でながめる程度の距離を保つこと。事故が起こればそのクマは射殺されるし、他のクマもとばっちりで殺されるだろう」
★ところで、坂井さんのこのメール、新しく設定した「レポート」として受け取らせていただくことにしました。(2005.10.26の項参照)
★「約1,000字を目安にした山のレポート(定型的な山行記録ではなく、出来事のエッセイ)をレポートとしてこのホームページ上で掲載させていただくことを条件に「1ポイント」(2ポイントの場合もあります)さしあげます」というもの。10ポイントで日帰り参加の☆1個(年度に縛られません)になります。
★「古い山行でもOK」としていましたが、「糸の会以外の山行でもOK」としましょう。坂井さん、ありがとうございました。会計記録に「1pt」を加えておきます。


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