2009.8.25――稲葉 和平さんから「9e西穂高岳」問い合わせ


■2009.8.25――稲葉 和平さんから「9e西穂高岳」問い合わせ

●伊藤幸司様
●いつもお世話になっています。
●「9e. 西穂高岳」に参加させていただきたいとおもいます。
●ただし、「9e. 西穂高岳」はダブルストックの技術が上級という条件ですので、コーチからみて私の技術・体力・知力では危険度が高いと判断される場合には、その旨お知らせください。よろしくお願いします。
●また、改めて書こうとおもっていますが、先日の赤岳からのズブズブの下りで、「膝に痛み」の気配を初めて経験しました。そのため、途中からどうしたら膝に負担をかけないで歩けるか、膝の筋肉を休めながら歩くにはどうしたらいいか、など考えながらゆっくり歩きました。
●その「ゆっくり」歩いたことの意図せざる効果(かどうかは定かではありませんが)で、今回は山から帰って二日たっても足腰にまったくといってよいほど痛みを感じることが無く、疲労が残っていません。身体が山歩きに慣れてきたということなのでしょうか。

【コーチから】
 現場でお話ししたとおり、硫黄岳→横岳→赤岳→阿弥陀岳→御小屋尾根を下山というルートをダブルストックで下ったのですから、参加されたみなさんは技術的には西穂高岳にも十分通用します。なぜなら、ダブルストックを谷側のシングルストックにして山側の手を十分にハンドホールドとして使えば安全領域は拡大します。さらにストックをしまって最終的な「三点支持」をとることで安全性は驚くほど拡大します。
 ただし八ヶ岳稜線と北アルプス稜線では大きな違いがあります。高度感です。同じ難易度の岩場でも、落ちたら死ぬとしか思えない断崖上にあれば、緊張感はもちろん違っています。以前八ヶ岳で心拍数を調べた記録を『がんばらない山歩き』で詳述しましたが、赤岳〜阿弥陀の稜線で想像外の高い心拍数を記録したのは高所恐怖症の男性でした。心理的な高所恐怖が実際には肉体にも大きな変化を与えます。
 そういう意味では、稲葉さんに対する不安は、高所恐怖気味、あるいはバランスに対する不安があって、そういう場面では明らかに体の動きが堅くなります。……ということは他の人より難易度を上げてしまうことになります。
 その、広くいえば技術的問題点を解決するためには「絶対に命は守る」という最終技術、すなわち「三点支持」を納得できる領域にまで高めておかなければなりません。
 西穂高岳に参加されるのであれば、それまでのどこかの山で三点支持を体験していただきますし、クサリ場での安全装置を用意します。が、もうすこしきちんとした考え方をすれば、この機会に稲葉さんに岩登りの基本を教わっておいてほしいのです。
 そういう場合、一般にはフリークライミングの基礎をすすめます。あの、スパイダーマンのような動きを体験してもらういいチャンスだからです。しかし今回の稲葉さんの場合には、新しい領域に踏み込むのではなくて、縦走登山のクライミング技術の入口の入口を体験できるといいと思います。
 そのへんのところはじつは私は情報をほとんど持っていませんので、先方にご迷惑かとも思いますが岡田恭子さんに問い合わせてみてください。いい先生のいい講座があればラッキーかと思います。
 岩場での体の動きがもっとのびのびとならないと、頭と体のギャップが想定外の事故を誘発しないとも限りません。私はプロガイドではないのでロープで安全を確保するという方法をとりません。命を守る最後の部分は、西穂高岳なら自分でできるはずですし、これまで問題を感じたことはありませんでした。岩場に対して体がすなおに動いてくれれば、大きな問題は起こりえないと考えています。


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