糸の会10年目のお願い――「いとうコーチ」と呼んでください
………2005.9.1
●8月29日、標高3,100mの北穂高小屋での夜のことです。
●チーズ盛り合わせとオリジナルワイン(驚くほど磨き上げたワイングラスがでてきました)を楽しみながらのミーティングでみなさんに相談したことがあります。
●「先生」というのをやめて、そろそろ別のものにしてもらいたいのだけれど……という提案を初めてしてみたのでした。
●生まれて初めて「先生」と呼ばれたのは朝日カルチャーセンター横浜の登山講師になったときですから、1983年11月。もう20年以上前になります。
●もともと愛称や敬称を使うのが嫌いだったので抵抗はありましたが、5人の講師の末席でしたから甘んじて……という状態でした。
●糸の会のみなさんはほとんどが各カルチャーセンターからのおつきあいですから「先生」役が無難な流れになってきており、ごくまれに「いとうさん」だの「いとうくん」、あるいは「リーダー」と呼ぶ人がいるのですが、そちらが違和感を感じるようになっています。
●そろそろ……、と考え始めたのは、やはり糸の会が10年という節目を考えてのことでした。「師匠」と呼ばれるにはちょっと味が不足しているし、「親分」という柄でもないし、「ボス」でもないし……という話をしたのでした。
●相談に乗ってくれたのは(五十音順に)K石川、I稲田、T高松、K能藤、K山川のみなさん。そこで(どなたの発言でしたっけ)「コーチ」という言葉が出たのでした。(確かめたところ、K山川さんが「じゃ、コージは?」といったのに反応して、I稲田さんが「コーチ」と発言したとのこと)
●なんで気づかなかったのだろうか、と思いました。その数日前に日本のプロ野球界にコンディショニング・コーチという役割を確立した立花龍司の話をテレビで見ていました。簡単にいえば野茂英雄を大リーガー・プレーヤーにした陰の立て役者です。かれが「コーチというのは選手を最善の状態でプレーさせる役目」といっていました。加えて、「コーチ」というのは大型4輪馬車に始まってバスや列車の客車の名称となり、「安全に運ぶ」ことから、指導者としての「コーチ」が派生したと語っていました。「コーチマン」というと御者になるそうです。
●じつは山歩きにおける私の役割を、従来型のリーダー/サブリーダーという方法論から距離をとりたくて、ディレクターとかコンダクターという意味をかぶせて位置づけようとしてきたところがあります。う〜んと引いて「世話役」までも視野に入れてきたつもりです。
●しかし、どうも、しっくりこなかった。……なんで「コーチ」という概念に気づかなかったのだろうかと、思ったのでした。
●これからは「いとうこうじ」ではなくて、「いとうコーチ」と呼んでください。糸の会が「伊藤幸司による登山コーチングシステム」としてこれから(何年か)(すこしは)進化していくという確信があります。
●積極的な意味で、初歩的な山歩きにもコーチングシステムがあるべきだ――と語りたかった、のだった、というふうに、視野が開けてきたのでした。「教える」とか「率いる」とか「案内する」とか、ではなくて、安全・快適(すなわち「がんばらない」)状態で計画をすすめながら、みなさんの状態をできるだけいい方向に向けていく役目として機能したい。
●このところ積極的に考え始めた「70歳超」クラスのみなさんへの対応も、コーチングという考え方で進めるべきかと思っています。(これまでは「実験」とか「モルモット」とかいっていましたが……)
●それと、ごく最近、ある人に書いたメールの内容が、私の、糸の会におけるコーチングの原則をはからずも明らかにしていました。ちょっと複雑な内容なので、前後を切り離して、直接関係する部分だけをここでは紹介しておきます。
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●アシストする側にたってお考えいただければ、そこで100%のがんじがらめのアシストが必要なのか、最後の10%のアシストでいいのかがお互いに通じ合えるかというような、(岩登りでのパートナーシップと似たようなことだと考えますが)問題かと思います。
●だから、「前向き」から「後ろ向き」に、さらに「三点支持に」というふうに技術、危険度に対応することによって、おたがいに危険レベル(個人差と、状況差が大きいと考えています)の判断を共有することが必要なのです。事故が起こる前ならかなり有効にアシストできます。それはたかだか10%程度の安全確保の上積みでいいので、難しいことではないのです。(いい例が、だれかが状況を見てあげるだけでも安全度は格段に向上します。直接助けてあげるというような行動をイメージしているとは限らないのです)
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●「10%のアシスト」あたりが「いとうコーチ」の方法論となるのかもしれません。
●すっかり「コーチ」にはまっています。どうかみなさん、「先生」ではなく「コーチ」と呼んでください。お願いします。「いとうさん」でも、もちろんけっこうですけれど。(2005.9.1)
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