三洋化成ニュース・月1回の山登り3……なぜ「月1回」なのか?
………2002.9



●三洋化成工業株式会社「三洋化成ニュース」2002年秋号 No.414(2002.9)




●写真番号1997.9.20-306
●石割山から山中湖の北岸をゆっくりと下っていく尾根道の秋。この道は花の豊かな夏もいいが、寒さの厳しい真冬もいい。富士山が正面にある標高1,000m超の散歩道。




●写真番号1996.10.27-128
●奥秩父の金峰山と瑞牆山の分岐にある富士見平小屋。ここに泊まる人は多くはない。かつては小屋泊まりの山も、アプローチの短縮でどんどん日帰り可能になっていく。




●写真番号2001.9.12-217
●ちょっと自信のついてきた登山者におすすめなのが木曽の御嶽山。標高3,000mの小屋に泊まると、素晴らしい黄昏と曙を期待できる。日本アルプスの全貌もみごと。




●写真番号2000.10.14-122
●菅平高原から四阿山を見上げると、真田の十勇士がここをトレーニングフィールドにしていたという説が信じられる。牧場の駐車場から登山道を小一時間も登ると、北アルプスの全山が広がってきた。




◆「毎月?」から「1回だけ?」へ
●私の山歩き講習会は「毎月1回」を前提としています。そして「1年後」の飛躍的な進歩を保証してしまいます。
●カルチャーセンターなどで募集するときには3カ月単位になるのが普通なので、まず最初の3回に勝負をかけることになります。「楽」から「ちょっとハード」、あるいは「長めの稜線歩き」や「岩っぽい山」などを組み合わせて変化を演出しようとするわけです。下山後の温泉+ビールが決定的という人ももちろん想定します。
●「3回来てくれた人は1年続く」というのが私の信念ですから、4〜5〜6月と来てくれた人には当然7〜8〜9月と続けてもらうわけですが、1〜2〜3月というのを常識化するにはかなり努力しなければなりません。
●考えてみれば、いい季節に1度か2度……という山歩きをイメージしている人を毎月山へ引っ張っていこうというのですから、無理があります。太平洋岸の冬の山の素晴らしさを知ってほしいという気持ちだけでは押し切れません。
●そこで、カラダの内側に一種の時限爆弾を仕込んでいくのです。1年後には「山へ行かないと落ち着かない私のカラダ」というところまでもっていくのが狙いです。でも3カ月では肉体までは操作できません。ココロの隙を突いていくのです。
●日常から離れて山を歩くと、精神的な解放感が最初にきます。そこに若干の、肉体的達成感が加わるとリフレッシュメントなどというレベルでは表現できない充実感が得られます。
●それを私は心理療法的にやるのではなく、頭で考えているよりはるかに大きな力がカラダに潜んでいる、ということの発見物語としたいのです。
●簡単にいえば、現場で「力を抜けばもっとやれる」という指導をするだけなのですが、肉体的能力に大きな変化はないにもかかわらず、実力以上のことができた、という錯覚を引き出すのです。自己啓発的方法とでもいうのでしょうか。
●そのうちに、毎月のカレンダーに山の印を1個つけるだけでは物足りなくなってきます。行きたい山が増えてくる時期でもあり、「月1回」の山歩きを万全のものにしたいという気持ちが、山歩きの頻度を高めてみる方向に働くようです。
●経験的にいえば「月2回」というのが穏やかな安定ラインのようですが、多くの人にとって「月1回」で始めた山歩きの1年目の成果はそのあたりになるのです。

◆私が夢見る肉体操縦術

●山好きの人たちがよくいう言葉ですが、山頂に立つと「つらさも吹き飛ぶ」のだそうです。これは私が一番理解できない心境です。
●私は学生時代から堂々(?)たる身体虚弱派でしたから山登りの合宿ではバテた体験はたくさんあります。……が、つらい山はどうやったってつらいのです。つらい山はどうやったっておもしろくない。
●山頂に立って吹き飛ぶ程度のつらさは、そんなにつらくはないはずだと、私は思うのです。「ちょっとしんどい思いをしただけに、山頂に立ったときの感激もひとしお」……というあたりが、実像に違いないと思うのです。
●カラダに余力が残らないほどつらいところに追い込んだら、その後、後遺症が残らないはずがありません。私が見ている限り、かなりしんどい思いをした人でも、「3日間階段の上り下りが大変だった」という程度です。ただ、筋肉痛が消えるまでいくらか不便な生活を強いられるのと、カラダが壊れてしまったような不安な日々が続くのです。
●ところが、筋肉痛がきたからカラダが壊れたという認識が、じつは間違っていると知った瞬間に状況は変わります。
●筋肉痛は力仕事をして破壊された筋肉繊維を毛細血管が修復にかかっている状態の痛みであって、その修復によって筋肉はそれ以前よりも強化されるというのが運動生理学的常識になっているようです。一流アスリートたちはだから100%の力を出して筋肉を破壊し、筋肉が元の状態より数パーセント強化された超回復と呼ばれる状態でまた100%の出力をして……ということを繰り返してパワーアップを図っているというのです。
●そこで適度の筋肉痛を引き起こすように歩こうとすると、これがまた奥深い。筋肉の方が先にどんどん慣れてしまうので、筋肉を鍛えるというようなことは、かなり過激にやらないとダメだということが分かってきます。肉体恐るべしです。
●かくして筋肉痛との正しいつきあい方が見えてくるころ、私はいよいよ「山へ行かないと落ち着かない私のカラダ」への遺伝子操作的マジックを開始するのです。
●それが連載第1回にかかげた「3年後には槍ヶ岳」という目標設定であり、「山小屋泊まりの体験」と「10kg背負って10時間の行動」という課題になります。トレーニング不要という基本姿勢が、すこしずつトレーニング効果を意識する山歩きへとシフトしていくのです。
●そのような状態を「ハマってきた」と私はいうのですが、私が山で撮った写真の注文傾向ではっきりと分かります。山の体験に対する価値観が急激に変わってきます。
●そこで私は、本格的な登山技術講習会や旅行会社の登山ツアーへの参加をすすめます。ひょっとすると槍ヶ岳ではなく、モンブランが目標になるかもしれないからです。目標は大きければ大きいほどいいわけですし、残された時間は、みなさん、あまり多くはない。意志とお金と時間と幸運とがそろえば、エベレスト登山にもトライできる時代なのですから。


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