毎日カメラ読本(2002-2003カメラこだわり読本)
カタログ探検紀行
2002.11.1……CCDとの格闘現場/続編(初稿原稿)



 デジタル写真にとってCCDはどれほどの存在なのだろうか。専門家から見ればあまりにも初歩的なそんな疑問をかかえて、CCDを作る会社と使う会社の広報部に共通の取材依頼文書を送った。
 ――今回のテーマは「CCDとの格闘」というふうに考えています。デジタル写真が銀塩写真に追いつき、追い越しつつある今日、その黎明期からの開発エピソードを御社の「CCD博士」というべき役割の方に、お話いただければ……というお願いです。
 もちろん現行商品につながる話もいただきたいのですが、底流に「デジタル写真」のクオリティに対する技術という要素があれば、どういう展開でもけっこうです。
「CCD」とはいいながら、最終的に問題になるのは画像処理にかかわるソフトウェアかもしれません。あるいは「CCDカメラ」としての新しい考え方に関することごと……。どちらにウエイトがかかっていっても、もちろんけっこうです。御社のもっとも力を入れておられるところをお話しいただきたいと思います。――
 ――と、ここまでは前回(『毎日カメラ読本・最新カメラ情報2002』6月30日発行)の書き出しと同じ。
 反応が早かったのはカメラメーカーだった。ニコン、オリンパス、キヤノンという順で取材をした。したがってこのレポートの前編はすべて、デジタルカメラに対してCCDを使う立場としての話だった。
 すこし遅れて富士写真フイルムと松下電器産業での取材が決まった。いずれもCCD開発をテーマにしたものという。ソニーの広報も取材候補をかなり絞るまで動いてくれたようだが、最終的にまとまらなかった。
 取材してみて感じたことだが、私のような素人に対してCCD開発史を語るには、かなり手間のかかる準備が必要になるらしい。富士写真フイルムでも松下電器産業でも、質量ともにすごい資料をいただいた。
 私の能力では心許ないところもあるので、できるだけストレートに報告するしかないだろう。


■富士写真フイルム株式会社
電子映像事業部・乾谷正史さん(開発部長)
同・永島靖夫さん(営業部課長)

●研究・開発の1980年代
 CCDの発明は1970年だったという。米国のベル研究所でシリコン結晶表面に電荷を一方向に送っていく機能素子(Charge Coupled Device、すなわち電荷結合素子)が発明されたのだった。
 この機能素子を撮像デバイスとして実用化したのがいわゆるCCDイメージセンサーということになる。当時米国のフェアチャイルド社が開発した4万5600画素の白黒CCDは1個数十万円もしたというが、富士フイルムでは早速それを購入してカラーカメラを試作したという。
 一貫してCCDの研究・開発に携わってきた乾谷さんの入社はその発明の翌年、71年だそうだから、乾谷さんの技術者人生はまさにCCDとともにあったということになる。
「まずは中央研究所でCCDの要素研究をしていました」
 富士フイルムのライバルは当然コダック社だから、来るべきデジタル写真時代のためのデバイス研究ということになる。CCDは家庭用ビデオカメラによって普及するが、それを横目で見ながらの、遠い地平に向けての地道な研究だったようだ。
 まずは神奈川県の足柄にある研究所に開発拠点を置いて、研究者があちこちに派遣されたという。
「日本ではまず東北大学の西沢先生のところです。半導体技術とはなんぞや、という勉強にいった。
 もうひとつはカリフォルニアでした。シリコンバレーに開発拠点となる新しい会社を作って人を派遣しました」
 そうこうするうちに衝撃の1981年。ソニーがアナログ記録のビデオフロッピーを使うスチルビデオカメラMAVICAの開発を発表して、今でいえばテレビ写真というべきCCDカメラの規格統一と開発競争がスタートしたのだった。
 84年のロサンゼルスオリンピックでソニーとキヤノンの業務用カメラが新聞報道用としてバトルを展開、86年にはいよいよ普及価格の「フロッピーカメラ」でもソニー対キヤノンの一騎打ち……となったが、じつは時期尚早、共倒れして両社とも苦渋を飲むこととなった。
 乾谷さんたちはどうしていたのだろうか――。
 私はその頃ダイヤモンド社の「BOX」という雑誌で電脳文具類のウォッチャーをやっていて、88年6月号で「スチルビデオシステムはビジネス具として何ができるか」という記事を書いている。そこで最新の6機種のスチルビデオカメラを(価格順に)紹介している。
★カシオ(VS-101)28万画素、12万8000円
★ミノルタ(SB-70/90)38万画素、19万8000円(AF一眼レフ装着型裏蓋のみ)
★フジ(ES-1)38万画素、34万円。3倍ズーム内蔵一眼レフ。
★ソニー(MVC-A7AF)38万画素、48万円。6倍AFズーム内蔵一眼レフ。
★コニカ(KC-400)38万画素、49万円。3倍ズームレンズつき一眼レフ(レンズ交換可能)
★キヤノン(RC-760)60万画素、59万円。4倍ズーム付き(レンズ交換可能)
 見直して「フジのカメラもあるじゃないか」と思ったが、じつはそれだけではない。この直後、9月に富士フイルムは世界最初のデジタルカメラ(FUJIX DS-1P)をドイツのカメラショー・フォトキナで発表している。デジタルデータをそのまま2メガバイトのSRAMメモリーカードに記録するというもの。
 民生用のデジタルカメラ第1号は95年のカシオQV-10だが、技術はその方向に大きな流れとなり始めていた。
「他社さんとの違いは、われわれはあくまでも写真を撮るためのCCDを作りたいと考えていたことでしょうか」
 記録メディアとして半導体メモリーを使うと、技術が進歩するほどにどんどん情報量を増やすことができるようになる。そうするとCCDの画素数が増えるにあわせて、自由に画像が記録できるのではないかというのだ。
 圧縮技術とデジタルに記録することと、それに合わせたCCDを開発するということが重要なテーマになっていたという。
 スチルビデオカメラが現在のデジタルカメラと直接つながらないのはサルと人間の関係に似ているかもしれない。テレビ画面に制約されたビデオの静止画では「写真にはならない」というのが乾谷さんたちの結論だった。

●夢に見たトップの座へ
 90年にフジフイルムは仙台の工業団地に富士マイクロデバイスという会社を設立して、CCDを製造する方向に進みはじめる。いよいよ製品化を視野に入れた動きに出た。
 最初に作ったのは2/3インチVT方式という130万画素CCDだった。
「100万画素以上だとサービスサイズとほぼ同等の画質を作れるんじゃないかということで、130万画素にしたんです」
 このVT方式というのは全画素読み出しの電子シャッターつきCCD。
「ムービーの場合はインターレースで1/60秒ごとに半分ずつの絵を表示しているんです。ムービー用の電子シャッターというのは全体の画素数の半分が露光できればいいんですが、静止画を撮ろうと思ったらそれではいけない。すべての画素に対して同時刻にシャッター機能を働かせなくてはいけない。
 電子シャッターがついて、なおかつメガピクセル、そういうCCDが必要なんだという結論になりました」
 このCCDを仙台の富士マイクロデバイスで生産。それを組み込んだのが95年の業務用一眼レフデジタルカメラ(FUJIX DS-505)となった。
 これはニコンのボディを借りて、ボディのみ130万円だった。そして値段を下げられないかということで、自社製ボディでレンズ一体型(FUJIX DC-300)とした。価格は24万円まで下がって、かなり売れたという。
「で、これをなんとか10万円切るカメラにすれば、民生で受け入れられる。そのために1個1万円を切るようなCCDにしなくてはダメだ、画素数は100万画素以上で、という目標が立ったのです」
 それを開発するに当たって「取れ高を増やさないといけない」というので、CCDサイズを小さくすることを考えた。
「2/3インチで130万画素だったVT方式では6.8ミクロンだった画素ピッチを、5.6ミクロンにして1/2インチで150万画素にしようと」
 ところがそれに対して社内で激しい論争が起きた。当時すでにソニー、松下という大手が高画素のCCDの開発をすすめていた。それに対して、富士フイルムが後から始めてどうやって勝てる製品が作れるかという不安の声だった。
 はっきりいえば、カメラの設計のほうではよそのCCDを使いたい。それに対してなんとか自社製のCCDを使ってほしいという社内論争だった。
 結論からいうと事業部長の判断で自社製に決まった。
「でそれが縦型のユニークなデザインで評判になったFinePix700なんです。民生用で150万画素は当時としては一番多画素で、値段が9万9800円。10万円を切りました。
 オリンパスがその前にCAMEDIA C-1400Lを出していますが、12万8000円。で、結果として爆発的に売れまして、トップシェアに躍り出た」
 97年にオリンパスが火をつけたメガピクセル戦争は、98年には富士フイルムによって燃え上がった。

●ハニカム構造という魔法
 その画素数競争の中で、フジフイルムは不思議な算数を持ち出した。
「画素数は優劣が分かりやすいんですね。私どもが150万画素といったときに、よそさんが130万画素しかなくって、次の年によそさんが150万画素にしたらうちは200万画素、よそさん300万画素ときたときにうちはハニカムCCDをもってきた。ハニカムだと記録画素数を倍にとれるので他社さんの400万画素、500万画素ですよね」
 その「倍」というのが「ハニカム信号処理による記録画素数」のことらしく、逆に私などは不信感を募らせてきた。信号処理なら何でもありじゃないか……と。
 ハニカムというのは蜂の巣状の配列のことだそうだ。ビデオ用の長方形画素からデジタルカメラ用の正方形画素が生まれたかと思ったら、フジフイルムだけがそれを45度傾けたハニカム配列にして、「水平・垂直の画素ピッチが約70%に縮小し、それによって解像度が1.4倍になり、記録画素数が2倍になる」としたのだ。
 案の定、そういうアピールは、画素競争が一段落すると反転する。
「画素数を増やすというのは解像度、きめ細かさを上げたいがためなんです。画素数は格子模様の面積ですが、刻み目の細かさはその平方根です。100万から200万では画素数が倍になって解像度が1.4倍になったけれど、400万から500万で画素数が2割5分上がっても、解像度では1割しか上がらないんです。
 その逆に確実に起こってきていることは画素が小さくなっているので入ってくる光の量が少なくなって、出てくる電気信号のレベルもしょぼくなってくる。解像度は上がったけれどそのほかのところを見ると画質的に、もっぱら悪くなっていくだけ。
 さらに画素を小さくしていくと、光を受け止めるところの長方形の短い方の辺なんて光の波長にちかいところまで来てしまう。人間が感じるのは0.4ミクロンから0.7ミクロンぐらいなので、光の波長に近づいて光が入っていくことが難しくなりつつある。
 ということで2ミクロンを切るあたりが、物理的に限界じゃないか。となるとコンパクトカメラでは500万画素ぐらいが限界だろうなと」
 ここでまたハニカム配列CCDの登場となる。
「従来型のCCDでは1画素と呼ばれる領域は正方形なんですが、その受光部は実は長方形なんです。脇に垂直CCDと呼ばれる転送路が必要ですから。そういう正方形が碁盤の目のように並んでいる。
 ところがスーパーCCDハニカムはその正方形を45度回転したような格好をしていまして、その中のフォトダイオードの部分が八角形をしています。
 利点は何かというとフォトダイオードの一個一個を大きく作ることができるんです。同じフォトダイオード数のCCDを作ったとするとピッチも狭くなるんです。水平方向・垂直方向でみると解像度が高くできる。
 微細化すると解像度以外の指標が悪くなるというところを、ピッチを小さくしてダイオードを大きくするということに成功したんです」
 フォトダイオードと転送路をどう並べるかという命題を追いつめてブレークスルーしたという話になる。話が転送路のところにきて、猜疑心のある私も身を乗り出すことになった。

●第3世代ハニカムへ
 画素が小さくなるということは、画素ごとの信号を流す転送路のスペースも制約されるということになる。
 CCDでは画素を垂直につなげて信号をバケツリレーのように送り出す垂直CCDと、その信号の流れを1本にまとめて送り出す水平CCDという2種類の転送路が特徴的な仕掛けとなっている。
 その垂直・水平は直線的に電子を流すということから考えられていて、電子をわざわざジグザグな流路に流し込むなどということはだれもやりたがらなかったという。
 ところがやってみると早く流れる。広いところをジグザグに流すと流しやすいということが明らかになってしまったのだ。
 フォトダイオードの前にマイクロレンズというのが付いていて集光するわけだから、八角形のフォトダイオードは面積も大きくとれれば、円形に近い合理的な形というのが狙いだったが、デメリットを覚悟していたジグザグの転送路が思わぬ可能性を秘めていた。
「現在は第3世代スーパーCCDハニカムということで、最初のコンセプトをすこしずつ実現しています」
 乾谷さんたちは、たとえばCCDのタフネスということを考えているという。画素加算信号処理というのがそのひとつ。
「画素加算処理というのは演算処理なんですでにデジタルデータになっているところからです。強度が0から255(8ビット)の間のRGBについていえば、R(あるいはG、B)の信号がもうできている状態で、R(あるいはG、B)の面だけで4つの画素を串刺しにします。近くにありますから赤としては似た赤なんですが、その4つを足し算して行きまして、それで一個の画素を作るんです。
 もし123ぐらいのを4つ足したら255を突破してしまって、そりゃ真っ白けになるのかというと、そうじゃなくて、もともと4つを足すことが予定されているので、そのつもりで露光して足してひとつの画素を作ります。だからここで信号レベルは4倍になっている。画素は1/4になります。
 これは600万画素ですから画素が4分の1になると150万なんですが、960×1280の121万画素のものをつくります。
 画素数は少なくなりますが、ISO800とか1600とかの高感度のCCDが作れます。これによって静止画の感度をトリックでなしに上げることができます。
 もうひとつは動画の方ですが、画素混合処理というのを行います。CCDイメージセンサーの中でおこなってしまうので、電荷レベルの操作なんです。
 まずは垂直画素混合なんですが、対応するG(あるいはB、R)同士の電荷を足し算してしまいます。電荷はバケツに入った水のようなものなんですが、2つのバケツの水を片っ方の水に入れてしまう。するとバケツの数は半分に減りました。バケツの中身は約2倍になってます。という状態なんですね。
 それにさらに水平画素混合という処理をします。いったんできた水平1列のなかで、隣接する同じ色どおしを足します。するとここでも電荷が4倍、画素は1/4になります。
 バケツの数が減ったのでユックリ運ぶことができる。読み出すべきものの数が減ったので楽に読み出せる。こうすることによって640×480のVGAサイズで1秒間に30フレームの読み出しレートも達成できる。
 じつはそれをやるときに間引きをしてやれば早く読み出すことができるのですが、間引きというと単に捨てちゃうだけ。捨てちゃうんじゃなくて、信号をもっと有効に利用して、高感度にしつつスピードアップしました。
 静止画を撮るときの液晶モニターに動画が出ているんですが、その動画がやはり高感度になりましたので、2倍明るい。
 静止画でISO800、ISO1600の高感度と、1秒間30フレームのVGAの高画質動画が実現しました。
 じつは最初にスーパーCCDの開発発表をやったときに、すでにこういうことは潜在的にできるんだということを申し上げているんです。ただ、実現するに当たってはCCDだけでなく周辺の信号処理もそれなりのことをしてやらなければいけないということがあって、CCDとあわせて処理のLSIも作ることによってようやく今年、具現化できた。原理原則からいえばできることは初めから分かっていました」。
 これは静止画に有効な方法と考えられた全画素読み出しから、古巣のテレビ対応CCDへもUターンできるという新しい可能性を開いたといえる。
「ジグザグの転送路はかつてソニーがやって放棄したものなんです。効率が悪いといわれたけれど、やってみるとメリットが大きかった」
 そもそもハニカム配列はどういうものだったかというと、
1)視覚特性に合ったCCDセンサー
2)画素が八角形で大型のフォトダイオード
3)多画素数でありながら全画素読み出し
4)ハニカム構造で2倍の画素数で記録する
 フィルムメーカーであり、カメラメーカーでもある富士フイルムならではの直感というものが、最初からハニカム配列にあったのではないだろうか。フィルム・カメラメーカー的な説得方法ともいえるものが語られている。
「写真が撮られるいろんなシーンのそれぞれの持っている信号の特徴を調べてみました。周波数分析をしてパワースペクトというのを見てみると、人物の写真は明るさの変化が少ない。建物は明るさの変化が大きく水平・垂直の線が多い。木の葉の絵はあらゆる方向にきめ細かい信号がある。
 いろんなシーンを調べて平均的なものをとらえてみると、水平・垂直方向にきめ細かい信号があります。斜め方向にはないですよ。それが被写体の平均的特徴。地球上では水平と垂直が安定な状態ですから当然のことなんです。
 それからすだれを傾けながら見ると水平・垂直方向のときに一番はっきり見えて、斜めのときにはよく見えない。
 まず地球上のものが水平・垂直方向に多くの情報を持っている。人間の目も同じように水平・垂直にはよりきめ細かいところまで識別できるが、斜め方向にはあまり細かいところまで識別できない。それらを考えれば水平・垂直方向によりきめ細かくとらえられるものが大事だということになる。
 それってスーパーCCDの特徴ともなってくるんです。水平方向にはより目が詰んでいますから高い周波数までとらえることができますよ。だけど斜め方向は従来型より粗いピッチになっている。
 網点を使った印刷の場合も同じです。印刷は網点で作られているので網をどの方向に置くかで方向性がでる。印刷学会でこのハニカム構造の話をしたところ、網点はスミとCMYの4色を使っているのですが、スミ版の網をどちら方向に向けるのかというと、まさにハニカムCCDと同じで45度。それを経験的にやってきた。なるほど……そういうことだったのかという反応でしたね。
 JPEGなど圧縮の技術で、サブサンプリングという基本的な方法があるんですが、正方格子から画素をひとつおきに抜きますと、抜いても画質劣化がほとんど分かりません……という有名な圧縮法があって、1/2圧縮できますと。
 写真には方向性がないが、印刷や通信の世界では限られた情報でやりくりしている。CCD技術にも同じような考え方を導入したということです」
 富士フイルムは独自のCCDをひっさげて、メーカーとして名乗りを上げた……ということができる。ユニークなCCDメーカーということでコダック社とともに注目度を上げている。


■松下電器産業株式会社
半導体社CCD事業部・黒田隆男さん(第一開発グループ主幹技師)
同・高島三男さん(企画課チームリーダー)

●CCDを育てたのは家庭用ビデオ
 CCDは日本がいまだにイニシアチブを握っている半導体デバイスであるという。
「ビデオの技術では日本が圧倒的に強くて、家庭用のムービーを日本で早く商品化しようということを家電各社でやっていましたので、必然的に日本でCCDを商品化するモチベーション・フォースが非常に強かったということです。
 80年代の真ん中へんでCCDの量産が始まります。これは日本のメーカー各社ほとんどいっせいにです」
 ちなみに松下グループの半導体事業は52年の松下電子工業の設立に始まる。電球から真空管、トランジスターという流れを早くも察知した松下幸之助がオランダのフィリップス社との合弁で立ち上げた最先端工場だった。
 フィリップス社との関係はじつに93年まで続く。それによって松下グループはテレビカメラ用の撮像管(真空管タイプのもの)でも主要メーカーとしての地位を保ちながらCCD時代に突入した。老舗である。
「CCDはご存じのように半導体ですので、我が社の最初の家庭用ビデオカメラのCCDは、当時2万円台の中頃です。いまよりひと桁高かった。
 半導体ですからチップのサイズが大きければ1枚のウエハーからとれる数が少ないうえに良品率も落ちるんで当然高くなります。値段を下げるためにこのチップをどんどんどんどん小さくしていこうというのが今もって続いている状況です。
 小さくするということは必然的にレンズ径も小さくなる、したがってシステム全体も小さくなるという流れできています。
 最近はCCDがシステムの大きさを決める状況にはなくなってきてますけれども」
●CCDはアナログで仕事する
 黒田さんはじつに37ページというプリントを用意してくれていた。「毎日カメラ読本様・取材用参考資料」とあって、第1部は撮像の基本動作と、CCDが勝ち残った理由、第2部は松下のCCD技術に関する8つのトピックスとなっていた。そのプリントに従って、講義が始まった。
「まず撮像素子とは一体何をやるものなのかというと、光学像が持っている情報をいかに忠実に画像の信号に変えるかということです。
 で、光学像が持っている情報は、餅焼き網みたいなCCDの上に、光の像として結ばれます。そのとき光の像が持っている情報というのは、どの場所に、どんな強さで、どんな色の光がきているか、ということです。その情報があれば光学像は再現できるわけですね。さらに時間で変化するものは時間がパラメーターとして入ってくる。
 ですから位置と強度と波長(と時刻)の情報をいかに光学像から引っ張り出せるかということが撮像素子の役割だと思っています。
 ところが実際、目で見る像と、モニターに写す、あるいはハードコピーで出したものとはけっこういろいろ違いがある。そこの差をどれだけ減らすかが課題なのですが、実際の像と画像情報として出てきているものの差が、私は広い意味でのノイズだといっていいと思っています」
「で、CCDはどういう機能を持っていないといけないかというと、まずセンサアレイ部(受光部)。光が当たってその光を電気信号に変えて蓄積するところ。光電変換して電荷蓄積をするところですね。
 で、それを運んでいくシフトレジスター部(電荷転送部)。これが電荷を出口まで運んで行く。
 出口まで運ばれていった信号電荷、ま、ふつう電子ですけれど、電子の量がどれぐらいあるかというのを計る出力部分。
 つまり受けるところと運ぶところと最後出口で電子が何個きたか勘定すると。それだけあれば撮像素子としての機能を持っているということになります。
 一般にCCDと呼ばれているのは、この運ぶところをCCDというもので構成しているデバイスという意味で、正確にはCCD型撮像素子です」
 デジタルカメラというから最初から1と0のデジタルかというと、そうではない。CCDという半導体デバイスは光から変換した電子の量をそのまま(どうも物理的に)出口まで運んでいって、そこで始めて数値化する。いわば電子のバケツリレーをさせられるアナログ型肉体労働センサーになっているようなのだ。
 私が素人ゆえに興味を持っていたのは、そのアナログ部分の素顔についてだったが、黒田さんの基本講座はまさにそのあたりに向かって進みはじめた。
「時間的にも空間的にも連続的にあるのが本来の光学像ですけれど、撮像素子にするときにはある時間内の蓄積ですし、撮像素子側では区切られた個々の画素の中での積分なんで、この画素の内側でこまかく見てどこからきたやつかというところまでは分解できないわけですね。
 これが2メガだったら、200万画素あるわけですけれど、画素ごとに平均化しただけの話になっちゃっているわけです。
 だから時間的にも空間的にもそこである、区切った領域の中で平均化したもので置き換えてしまっている――というのがまずひとつの、実際の光学像との違いになっている。
 解像度を上げようというのはまさにそこなんです」

●CCDの主役は転送路
 CCDでは受光部としてのフォトダイオード、その脇にVCCD(垂直CCD)と呼ばれる転送路があって、一般に画素と呼ばれているのは受光部と転送路を合わせたものの面積になっている。
 垂直CCDで転送された電荷はHCCD(水平CCD)と呼ばれるベルトコンベアに順番を整えながら集められて出力部のアンプに送り込まれる……というのが基本形になっているという。
「で、CCDの本質は何かというと、個々のフォトダイオードからの電荷をためるコンデンサーを並べておいて、その下側、床下に相当するところをつないでしまった。
 コンデンサーは電圧をかけたところに電荷が蓄えられるわけですね。するといままで電圧をかけていたところに電荷が溜まっていたけれど、この電圧をかけるのをやめてとなりに電圧をかけると、こっちに移ってくる。そうやって電荷を順番に動かしていくのがCCDですわ。
 構造は単結晶シリコンの上にゲート絶縁膜があって、その上に多結晶シリコンでできた電極が並んだかっこうになっている。
 四相駆動CCDというのは現在スタンダードな方式なんですが、フォトダイオードが1列に2000個あったら2000本の配線が必要かというとそうではなくて、4個ごとに同じ線につながっていて、同じクロックの電気パルスをかける。4種類のクロックで動かすCCDを四相駆動といいます」
 四相駆動の原理はCCDの基本中の基本なのだが、けっきょく私には分からなかった。要は水路にゲートを作って、それぞれの区画に量の違う水を入れ、そのゲートを開け閉めして量が変わらないように流していこうとするときに4ブロックを単位にして操作するとうまくいくという操作法らしい。
「CCDでは画素数と光学サイズが決まるとひとつの画素のサイズが決まって、そこにフォトダイオードと転送路を入れるので、転送路をできるだけ小さくしたい。九分九厘四相駆動が使われているのはその合理性なんです」
 垂直CCDから流れ出た電子は、隣の列、またその隣の列というふうにきちんと排出された順とその量をまもりつつ合流して、水平CCDと呼ばれる流路を下っていく。
「水平CCDのほうは、いわば枠外に作れるので幅を取る自由度があり通行量を大きくできます。垂直CCDは10-20kHzなんですが、水平は10-20MHzで、速さが3桁違うんです。
 逆にいえば水平CCDは速く動かさなければならないので、四相駆動で尺取り虫みたいに伸びて縮んで、伸びて縮んでというような複雑なことはやらずに、単純なゲートの開け閉めですむ二相駆動というのを使います。電位差によって流れを止めたり作ったりする。
 垂直CCDはゆっくりでいいけれど小さな面積でたくさん扱いたい。水平CCDは簡単な方法で速く動かしたい。CCDという名のベルトコンベアです」

●勝ち残った理由は完全転送
「いろいろな撮像素子の方式が考えられた結果、CCDという方式が勝ち残った最大の理由は、完全転送というモードを完成させたことによります。
 完全転送というのは、電子が残らないように転移する、という意味です。100個の電子をもらったらその100個を隣に受け渡す。
 やりとりする間に電子が増えたり減ったりしないということは、イコール雑音が出ないということです」
 きちっとした仕事とエネルギッシュな仕事を両立させようとすると往々にしてストレスが溜まってくる。CCDはある意味極端なところにたどり着いたらしいのだ。
「デバイスそのものがノイズを発生しないというのはほかの半導体デバイスにはないと思います。電子が全部出てしまう――半導体用語で空乏化というのですが、それができるのはCCDだけだと思います」
 CCDの特徴は素材にあるのだろうか。あるいは運転方法によるのだろうか。
「両方です。素材のシリコンの中に入れる不純物濃度と電圧の関係を極限まで追い込んできたのです。
 ほかのデバイスは不純物濃度がもっと高いので、電圧をいくらかけても空乏化しないというか、動ける電子が全部なくなっちゃうというところまでいかない。濃度が高いと動ける電子の濃度も高いので出そうとするとものすごい電圧がいって、けっきょく追い出す前に電解的にもたなくなって、そういう状態が実現できない」
 つまりパワーで押し出そうとしてもうまくいかないらしいのだ。強力な掃除機でブイ〜ンとやるのではなく、しゃがんで刷毛で掃き集めるというようなまだるっこしいやり方をイメージしたくなる。
 ある程度の電圧で電子が残らない程度に不純物の少ない素材でできているということは、ひょっとしたら、デリケートな動作だけに特化したものというふうに理解できる。上品な仕事に特化したために完全空乏化が実現できた――ということのようだ。
「汚れが少ないことによってきれいさを保っているというのがCCDです。完全転送があるということは、不完全転送というのがあって、出来が悪くて出っ張りができて流れるのを阻害しでしまうとノイズが起きるというようなことです。流れていくときにヘンな出っ張りは絶対にないようにしないといけない、というのがCCDの設計・製造の大事な点です」
 単純に、物理的な傷みたいなものを考えていいのだろうか。
「半導体のデバイスを作るというのは選んだ不純物を、コントロールしながらたくさん入れたり、ちょっとだけ入れたりするんです。その入れ方が不均一だとあるところは入りすぎたり、あるところは少なすぎたり、ということになる。
 ベースとなるシリコンの純度は昔でテン・ナイン(99.99999999%)ですからね。いまだいたい15乗ぐらいですからその10万分の1きれいになっている。そこに、選んだ不純物をほんのちょっとだけ、それも均一に、コントロールして入れてやる。
 従って、CCDそのものが半導体のそういう技術的恩恵を受けています。そのあたりをうまくコントロールできなかったらとても商品化できなかった」

●小さな容器を完璧に使いこなす
「出口の出力アンプのところで信号電荷の量がいくつあるのか計るのですが、ここでは小さな入れ物に入れて出力電圧を高くして電位を正確に計ることができます。電荷“転送”素子だからできる方法なんです。
 CCDというのは転送路で、自分のことと隣のことだけ考えたらいい……というのが本質なんです。隣からもらうときと、隣へ渡すときのことだけです。隣とのやりとりさえきちっとやれる状態にしておけば、あとは初めから終わりまで、何千段という動作ではありますけれども、問題ない。完全転送の連続なんすから」
 いただいた資料の中に「最終ノイズ電子数5〜10個(現状)」とあった。これを完全転送というには分母がどれくらいあるのだろうか。
「ま民生用のこのレベルのもので動かしている電子数は最大2万個ぐらいですかね。2万個動かして、最後に5個か10個ということです。プロが使う放送用なら電子数はその数倍になります」
 ノイズの小ささはまさに空乏化を実現したことによるというのだが、最近はそのノイズの小ささよりむしろ、扱える信号、つまりS(シグナル=信号)の大きさが評価されるという流れも出てきた。最大に扱える電子の量が、基本性能の大きさみたいなものとして評価される時代が到来しつつあるのではないだろうか。
「そう思います。入ってくる光の量が多ければ、ノイズも多いんです。ただし入ってくる光の量がSだとしたらノイズはその平方根なので、Sが大きいほどS/Nの値は大きくなります。
 10ミクロンの画素というとプロ用ですが、プロのかたから解像度は上がったけれど絵は悪くなったじゃないかという声が聞かれる場合があります。解像度はよくなったけれど飽和は減っちゃったねと」

●量産を可能にした過保護
 話は一度さかのぼって、松下電器産業がCCD開発に寄与した技術のいくつかを歴史的にたどってみることになった。
 最初はCCDの量産効率を飛躍的に改善した白キズ解消のワザについて。
「初期のCCDでは量産化にとって最大の難点だったのが白キズでした。白いキズがポツポツ出るやつばっかしで、今ではたまたまなにかの事故で非常に悪いのが出たときにしか見られませんが、どうしても消えない白キズに悩み続ける……という状態が続いていたのです。
 キズというのは中にナトリウムとか、鉄とか、いわゆる重金属が残っていることが原因だということはわかっていました。
 ウエハーの重金属汚染をなくすように、なくすようにラインを整えてはいても、搬送系でもメタルの上に置かれるとか、いろんなことがありますので、いたるところにそういった汚染の危険があるんです。
 ……で、入ってきた汚れをどうするかということで、まず考えたのはIG処理(特別な高温工程)でした。
 IG処理前のシリコン基板には酸素が溶け込んでいるんです。溶融酸素は原子のままであっちこっちに溶け込んでいる状態なんです。
 そこで高温の熱処理をやります。すると基板の表面に近いところでは酸素が外部に放出されてDZ(無欠陥層)という領域ができるとともに、基板内部にはバラバラに溶けていた酸素が集まったようなかたまりができます。そのMD(微小欠陥層)というのが、汚染が入ってくるとそこへ取り込んでくれるような役割を果たしてくれるのです。
 もうひとつはエピウエハーと呼ばれるものです。エピはエピタキシャル成長、日本語では気層成長という方法です。るつぼの中でどろどろに溶けたシリコンの中からウエハーをず〜っと引き上げてくるときに炉をとおして上からガスを流して、ガスから結晶幕を成長させるんです。
 ガスの中で一層ずつきれいにやっていきますので、結晶性が良くて欠陥がないのですエピウエハーは。
 それでうまくいくだろうと思っていたら、最初はきれいでも、変なのが入ってくると防御能力があまりなかった。
 そこで最終的に、IG+エピという非常に過保護なウエハーをつくることになったのです。他社さんも追随して、一時はそれがスタンダードになりました。松下が開発した量産技術のひとつです。
 CCDの場合にはちょっとした汚れでもノイズが出やすかったからで、ほかのデバイスではそこまで必要なかったのです。ところがその後線幅の細いDRAMではセルが小さくなっているのでちょっとした漏れ電流でも影響があるので、CCDを作るようなデリケートな配慮がだんだん必要になりはじめてきています」

●元祖補色フィルター
 最近ではデジタルカメラでは原色フィルターが主役になりつつあるけれど、テレビカメラ、ビデオカメラのスタンダードなっている補色フィルターでは松下が開発した色差順次カラーフィルターが一時は「99.9%この方式」というほどになったという。
「インターレースモードとプログレッシブモードの違いはご存じですよね。ビデオカメラはNTSCと呼ばれる標準のテレビジョン方式を採用してきたのですが、当時はいったんメモリーに取り込んでどうこうするという余裕はないので、CCDの出力そのものをインターレースの駆動にすることが必要でした。
 インターレースというのは全部で約500本の走査線のうち、奇数行だけの約250本と偶数行だけの約250本を交互に出すわけです。
 だからCCDもこうやろうと。それがフレーム蓄積で、約500本のフレームデータを1/30秒で読んで、まずは奇数行だけ1/60秒で送り出します。次にまたフレームデータを1/30秒読んで偶数行だけ送り出す。これを連続してモニター出力では1/60秒のフィールドデータが連続してインターレースになっていく。
 じつはそれをやったのはソニーさんなんですが、原色フィルターをベイヤー配列にして、奇数行だけ、偶数行だけ送り出した。ディスプレーとのマッチングは非常にいいんです。ところが、時間軸で考えると非常に問題があったんです。
 といいますのは、1/30秒かけて蓄積したものを1/60秒に圧縮して表示しているので、奇数行を読む1/30秒と偶数行を読む1/30秒とのあいだに50%の時間的重なりが生じてくるんです。
 実際にこれを見てみると、パンをしただけで、汚い絵になるんです。毎回毎回ピタッピタッとその時間軸の情報だけ出すんじゃなくて、前のと半分重なって、後のとも半分重なっている。ただ色分離は簡単です。偶数行だけ、奇数行だけの話だから」
 当然のことながら、1/60秒のフィールドごとに読んで出すという作業が好ましい。フレーム蓄積ではなくフィールド蓄積にしたかった。
「とにかくうちではその絵ではNGだねということです」
 松下方式では、最初の1/60秒で奇数行と次の偶数行の2行分を足した情報から色分離をしてモニターに送り出す。
 次の1/60秒では偶数行と、次の奇数行の2行分を足した情報を取りだしていく。「行加算」という方法をとったのだ。
 なんでそんなややこしい方法が必要なのかというと、CCDそのものは白黒センサーなので、その上に特定の色だけを取り出せるフィルターをかぶせて、いくつかの画素の情報を合わせることで色を再現しなければならない。
 たとえばRGB各色のフィルターを縦に3列並べたストライプフィルターだと、横並びの3画素で色を取り出すので解像度は1/3に落ちてしまう。コダックで発明されたベイヤー配列というのはRGBにGをもうひとつ加えた4画素から色分離する方法で、現在ではデジタルカメラに多く採用されている。
 黒田さんたちは補色フィルターを使った新しい方法を見つけ出したのだった。
「ともかくフィールド蓄積には問題がありました。異なる画素の信号を足すわけです。違う画素の信号を足してちゃんと後の色分離の処理できるの、というのが最大の問題やった。
 松下はその解を見いだしたわけです。それが色差順次と呼ばれている方法です。単に色を分離するだけならいろんな色の組み合わせもあるんですけれども、色分離ができてかつ色の再現性が良くて、感度が良くて、といういちばんバランスのとれたムービーの業界標準となった松下の方式の色配列です。一時はほとんど100%みなさんこれを使われていました」
 CMYにGを加えた4画素分を2セット並べて微妙に配列を調整したフィルターで、そこからRGBの情報を取りだしていく。この方式は82年に発表されて85年に製品化されたという。

●電子シャッター機能搭載CCD
「民生用で量産するもので電子シャッターが使えるようにしたのは松下が初めてだと思います。
 CCDに光が当たりっぱなしになっていると蓄積電荷量が増えていきますが、全部捨ててしまって、改めて読み出すというのが電子シャッター。ですから捨ててからあと読み出すまでが本当の蓄積時間になるわけです。
 いままでなら1/60秒間蓄積しっぱなしだったんですけれど、途中で1回捨てるという動作を入れるようにすることによって電子シャッターという機能を足したということです。
 捨てるだけだったらどうにでもなるんじゃないかと思うんですが、じつはそうはいかなくて、捨てた後と読み出した後とが同じ状況でないといかんわけですよね。
 捨てるとき、たくさん捨てすぎて、次に読み出そうとしたらまだ読み出すだけ入ってこないとか、捨て足りなかったら、こんど捨てきれずに残っているやつを読み出すことになる、あるいは信号があるはずなのに出てこない、とか。
 なんでそんなことが問題になったかというと、完全転送モードのCCDにはなっていなかった。同様に、完全空乏化フォトダイオードもまだ実現していなかった。そういうバラツキをつぶしていくことによって電子シャッターが実現してきたのです。
 今のデジカメではスタートは電子シャッターでやって、露光の終わりは光学シャッターを閉じるというものが多いのです。だからデジカメの光学シャッターには、開けるのは最初から開けておいて、電気的にリセットをかけて閉じるのだけ精度良くやりましょうというのが多い。電子シャッターの合理的な導入ということになります」

■プログレッシブスキャンCCD
「プログレッシブ方式のCCDというのがないわけではなかったのですが、特殊な用途のものでした。
 その時点ではデジカメがこんなに広がるようになるとは思っていなくて、パソコンとのマッチングのよさだけを考えていたのです。
 パソコンのディスプレイはプログレッシブスキャンですので、パソコンで画像を扱うときにはインターレースよりプログレッシブのほうがはるかに扱いやすいですし、正方格子でそれでやるのが一番いいだろうと。
 その辺の関連で、プログレッシブスキャンのCCDがこれから必要になるはずだと。いままでみたいに特殊用途にしか使えないような大きさとか値段のものじゃだめだということで、民生用に使えるようなプログレッシブCCDを開発しようと決めました。
 ところが非常に大きな技術課題が浮上してきたのです。いままではフォトダイオードが1列に500あっても半分の250の信号を扱えればよかったわけです。
 ところが全画素読み出しのプログレッシブでは500個のフォトダイオードが並んでいれば500個の信号を扱えるCCDでないといけない。
 すなわち、垂直CCD1本あたりの、扱う信号の数が倍になる。あるいは扱える電荷量が半分になっちゃう。それをどう克服するかというのが技術的な最大の課題でした。
 直感的にいいますと、これまでは高温工程を何回も通ってボヤ〜ンとだらけたようなものになってしまっていた。それをシャキッとした作りに変えた。
 そうすることによって、従来技術に対して、転送できる電荷量を1.8倍に上げることができました。それによってプログレッシブスキャンのCCDが実現されました。2割、3割上げるとかはありましたけれど、2倍に上げるというのはありませんでしたので。
 要素開発に2年ぐらいかかっているうちに、カシオからQV-10が出まして、パソコンよりデジカメという手があるんじゃないかと。
 プログレッシブスキャンというのを開発したら、それは思惑からはちょっとずれていたけれども、CCDそのものの品質改良には大きな貢献をしたということです。それにそのCCDはデジカメ分野で、けっこう使われました」


■図1
富士フイルムが独自に開発した「スーパーCCDハニカム」と呼ばれるものの構造図。一番上にあるのがマイクロレンズで、受光素子のフォトダイオードの1個1個に対応する集光レンズ。その下にRGB三原色フィルターがあって、マイクロレンズごとにRGBのいずれかのフィルターをかぶせるかっこうになっている。上から3枚目に見えるのがCCD撮像素子の本体で、八角形の部分が受光素子。その周囲を取り巻く平面が垂直CCDと呼ばれる転送路。白い矢印が転送路の中心に描かれており、それが集まって水平CCDの転送路から流れ出ることが、これまた白い矢印で示されている。
■写真1
FinePix F601(8万9800円)
第三世代のスーパーCCDハニカムを搭載した1/1.7インチ310万画素の光学3倍ズーム搭載機。テレビ画面いっぱいのフルフレームVGA動画を音声付きで撮影できる。画素加算信号処理によりISO1600相当の超高感度撮影までできるが、これはデジタルズームと似た考え方で感度をズームアップするもの。
■写真2
FinePix S602(12万5000円)
コンパクトタイプのF601と同じCCDを搭載しながら、大口径6倍光学ズームと各種マニュアル撮影機能を搭載した高機能機。
■写真3
FinePix S2 pro(ボディのみ31万円)
第三世代スーパーCCDハニカムを搭載した一眼レフでニコンFマウントによってニッコールレンズに対応する。CCDの光学サイズは35mmのハーフサイズに近似しているので、ニッコールレンズを焦点距離を1.5倍した画角で使用でき、レンズのボケを生かした写真なども35mm判にちかい感覚で撮影できる。有効画素はS1proの310万画素から617万画素にほぼ倍増。記録画素も1212万画素となった。
■図2
松下電子工業(現松下電器産業半導体社)が97年に映像情報メディア学会論文賞を受賞したオンチップ層内レンズの解説図。この断面図の下半分がCCD本体で、受光素子のフォトダイオードと、電荷を流す垂直CCD(転送路)が埋め込まれた状態になっている。不要部分に光が入るとノイズが発生するために遮光幕をもうけているので、じつは1画素中の受光面積が以外に小さいことが分かる。そのためトップレンズと書かれたマイクロレンズからカラーフィルターを通過してきた光を、さらに層内レンズによって集光している状態を描いている。急激な高画素化は、このような高密度設計によってデジタル写真の画質を向上させてきた。この図は数百万画素の1個について解説している。
■写真4
松下電器が産業が供給しているデジタルカメラ用CCDの外形写真。小さい方は1/6インチの35万画素CCD、大きい方は1/1.7インチ231万画素CCD。光学サイズが(対角線で)約3mmと約9mmという違いがある。同じ231万画素CCDには1/2.6インチ(約7mm)というのもあり、それぞれが時々のニーズを満たすべく開発されてきた。
■写真5
LUMIX DMC-LC40(オープン価格)
401万画素CCDとライカ製DC VARIO-SUMMICRON F2.0-2.5、3倍ズームを搭載した高級機仕様。ズミクロンという名のレンズはライカ用標準レンズとしてあまりにも有名。実売価格7万円台だったLC-5と比べるとお買い得価格になっている。またライカのデジルックス1とまったく性格の違う兄弟機となっているのも興味深いところだ。


★トップページに戻ります