毎日カメラ読本(1999-2000カメラこだわり読本)
カタログ探検紀行【2】
1999.11.1……雲台(初稿原稿)



 全国のカメラ店で購入できる「写真・映像用品ショーカタログ」から今回選んだのは雲台である。
 雲台とはまたかなり奇抜な名前だが、英語ではパンヘッドとかボールヘッドと呼ばれているらしいから直訳すればアタマとなる。日本語ではカメラのササエであり、英語では三脚のアタマと、構成上の理解のしかたも大きくちがう。
 ちなみに「脚」を無視して雲台だけにしたのに積極的な理由があったわけではない。脚のほうにも興味はあったが、脚と雲台をセットにした、いわゆる「三脚」をまるごと扱うとなると、要素が複雑になりすぎる予感がしたからである。
 それと「脚」は、単純な矛盾を抱えている。使うときには重く剛性があって高く伸ばせるほどいいのだが、運搬時には軽く、短くあってほしい。けっきょくは妥協的な選択の問題になってくるように思われた。
 雲台もまたかなり矛盾をはらんだ要望を突きつけられている。脚の上に載せたカメラを固定するというのが第一の仕事だが、ただ単に止まればいいというのではない。カメラアングルをこまかく変えるという要望にも応えなくてはならないし、テンションのかかった動きを求められることもある。限りなくこまかくカメラを動かせて、なおかつ求めるポイントで完全に固定できなければいけない。
 つまり「どのポイントでもきちんと止まる。かんたんに解除できる」ということが雲台の理想であろう。そこに向かってどのような技術が投入されているのか知りたくなった。
 それと、ほんとうは、雲台は脚につけて考えるのではなく、カメラにもっと近づけて考えるべき道具なのではないかという予感がしたのだった。
 ちなみに「用品ショーカタログ」から拾った単体販売の雲台は(選びまちがいがなければ)141品目。価格では1700円から14万5000円まで、重さでは90グラムから3.5キロまで。耐荷重を示しているものでは1キロから200キロまでの幅がある。
*なお文中各所に登場する「耐荷重」はそのときどき、ニュアンスが微妙に変化しています。ご注意ください。


■私が全品にさわっています――ハスキー(トヨ商事株式会社)

●オトナが乗って動かなければだめ
 本誌の編集長・平嶋彰彦さんは出版写真部の花形カメラマンだった。甲子園に始まってオリンピックに至るスポーツ写真では600ミリレンズを振り回してきた。
 かれの愛用三脚はハスキーだが、理由は簡単。知らないところで、だれか別の部員が荒い使い方をしていても壊れていない……というのだ。プロ用とされる某有名三脚などはだれかがすぐにネジをバカにしてしまう。写真部の共用備品としてはこわくて使えなかったというのだ。
 そういう話を聞いていたから、ハスキーという三脚は蹴飛ばしてもこわれないというたぐいのバンカライメージが私にはあった。
「個別のカタログを見るとハスキーシリーズは全部、積載荷重が『10キロまで』となっていますね。どういう計算なんですか?」
 日比谷の帝国ホテルの朝のロビーで私はそう聞いたのだった。
 輸入総代理店のトヨ商事は京都にあって、名刺に代表取締役とある小竹正雄さんが、始発の新幹線で東京に出てきてくれた。待ち合わせ場所が帝国ホテルだったのだ。
 若く見えるから最初は60代と思っていたが、大正15年生まれというから73歳。老紳士の答えは意表を突いていた。
「人間が乗った状態で雲台を動かして見るんです」
 ほんとうにやるのかなあ? というこちらの疑いのまなざしを看破されたらしい。
「耐荷重というのには静荷重と動荷重があって、静荷重は動荷重に対して10倍から20倍はないといけない。100キロの重りを載せるんです」
 実際にはどうやるのかというと、三脚を伸ばしきりにして、100キロの重りを載せて1週間放置するのだそうだ。脚と雲台がその重さに耐えきれば合格。ハスキー三脚は脚立代わりにできるという神話の裏付けがここにある。
 動荷重のほうは、止め位置を変えられる鉄塊が用意されていて、重心を変えることで操作できる重さがチェックできるようになっているという。
「耐荷重が10キロなら、100キロの重さで動かないとダメです」
 このあたりになると私には許容量の計算が理解しきれなくなってくるが、冒頭の「人間が乗った状態で雲台を動かして見るんです」といういささか乱暴な方法も裏付けがあってのこと、ということは納得した。
 なお、単体販売の雲台(写真1)は短いパン棒が2本ついた3ウェイ雲台だが、三脚に標準装備された雲台には長いパン棒がついている。当然雲台に人を腰掛けさせてパン棒で動かす場合には長いパン棒でないと大変だろう。それをやってみたい人はパーツリストにある「パン棒長」(2000円)に取り替えるほうがいいかもしれない。あるいは逆に長いパン棒を「パン棒短」にする場合も2000円。
 小竹さんは仕立てのいい背広を着て、格幅もよく、物腰もやわらかい。いかにも社長さんという雰囲気をかもしだしている。それだから、かえって言葉が過激に聞こえる。
「修理もします。それに出荷前、通し番号を振ってある全製品に触れています」
 修理については「用品ショーカタログ」に、次のような記述がある。
「この三脚はネジ回しでかんたんに分解し、すぐオーバーホール出来ます。又、消耗部品もすぐに取替えられます」
「オーバーホール済の修理三脚は、一連No付ハスキーシールを修理済の印として貼付いたします。三脚は更に15年以上のご使用に耐えるでしょう」
 正規カタログのほうを見ると、500円のナット1個から構成部品のすべてが単品で購入できるが、「御自身で修理されるよりも早く、廉価に完全なアフターサービスを致します」とある。
 どうもその文面が小竹さんの口調のようだ。自分の手を汚すことをいとわない経営者であるらしい。でも、キカイ屋さんというふうには、どうしても見えない。

●初代の仕事に惚れたから
 小竹さんはスポーツ用品の美津濃の創業者の家に生まれた。戦前にはスポーツ記録用カメラということでライカの販売をやっていたという。戦後は新聞社が求めるスピグラ(スピードグラフィック)の買い出しをやり、テレビ放送が開始するや、16ミリ撮影機を米軍基地周辺の質屋から100台規模でかき集めるというような、ブローカー的な仕事をやってきたという。
 聞きながら、金持ちの道楽息子というイメージがだんだん固定してくるのだが、戦時中大津の特攻隊で水上機のパイロットだった体験が、もうひとつ小竹さんの根っこのところにあるらしい。「敵の機銃掃射を受けても翌朝までにはなんとか修理するんです。モノに対してはそうじゃないといけない」
 深い意味はわからないが、直すに値するモノであるかどうか、という評価基準が小竹さんには厳としてあるらしい。ライカもスピグラもフィルモ撮影機も、いずれも一流のモノであった。
 そのスピグラの修理から現在の「トヨビュー」は生まれたという。「レンズをコニカとフジとニコンにつくってもらい、コパルにNo3というシャッターをつくってもらった」という。
 そういった戦中戦後の波瀾万丈が終わって、昭和38年に米国商務省の展示会を手伝った。なかにあったクイックセット社のアルミ三脚が営業写真館向けにピッタリだった。
「創業者のレイモンド・ムニという人物は、腕がよかったですね」
 小竹さんにとって、それは扱うに値する三脚だった。
 1933年創立のクイックセット社は最初はコダックの露出計算尺をアルミでつくったりしていたが、飛行機の機体内部に電線を張るために用いられていたアルミパイプを利用して三脚をつくった。
 それが「航空機用軽金属」を使い、独創的なエレベーター装置を備え、システマチックなパーツ構成の大型・軽量三脚だった。「エレベーター三脚」はクイックセット社の発明なのだ。
 それに「今でもこのアルミ素材がいいんです。叩くとビーンと独特の音がする。アルミそのものがちがうんですね」
 以来、小竹さんが国内での輸入と販売と修理を担当しているのだが、全品日本バージョンに調整して出荷しているという。
 ハスキーの雲台は締めるとびくとも動かないが、ゆるめると短いストロークでトルクのかかったフリーになる。もう一段ゆるめると完全なフリーになる。しかし日本バージョンではトルクをかけるバネを変え、ドラムのメッキを変えている。
 映画機材にもかかわった小竹さんの趣味なのだろうが、「ちょっと食いつきながら動くようなトルク」に調整されているのだ。それは写真館で、大判・中盤のカメラを使うとき、「グッと締めて、ちょっとゆるめて小さなアングル調整をして、きちんと締める」という感触を実現している。
 しかしそれだけではない。全品チェックをするのは、たとえばネジに粗悪品が混じっていることもあるからだという。そういうときにはネジ山をこちらで仕上げるという。
「2代目になって品質管理がよくない」と小竹さんはいうがクイックセット社はいまやテレビ用三脚で圧倒的なシェアをもつ米国最大の三脚メーカーに成長しているわけだから、初代の時代のようなこまやかなつくりかたはできなくなったということだろうか。そこのところに小竹さんの目が光っている、ということのようだ。
 ハスキー三脚を扱って、もう40年近くになる。「爆発的には売れないけれど、ぜんぜん売れない月もない」という息の長い商品だったから、これが小竹さんの後半生を取り込んでしまったらしい。


■どっこい、進歩していた国産の雄――スリック(スリック株式会社)

●「国民三脚」のその後
 アメリカ製のハスキー三脚を見て発憤した日本人がいた。戦後すぐのことである。
 白石製作所の白石さんという人がマスター三脚というのをつくったのだった。1957年にはスリックエレベーター三脚という会社になってニューマスター三脚となり、61年にはフリーターン雲台がつけられた。
 白石さんはいまスリックを離れているが、今回の取材で、あるメーカーの雲台が白石さんのディレクションによるものだと知った。非常にバランスのいい上質な製品であるところを見ると、もうひとガンバリして世界に通用する本格的な雲台を生み出してもらいたいという気持ちになった。
 私もかつて、カメラマンをめざしていたころ、フリーターン雲台のマスター三脚を使っていた。
 その三脚はいつかどこかにまぎれてしまったが、意識のなかでもスリックというブランドは過去のものとなっていた。たぶん、脚の開角度を一定にするステイが取り付けられたビデオ三脚ふうのものがたくさんつくられたころ、気持ちが離れていったのではないかと思う。
 一時期「国民三脚」にまでなったスリックが、輸入三脚にすっかりその地位を奪われてしまったように見えるのはどうしてだったろう。今回、取材に向かう足はかならずしも軽くなかった。
 スリックには有名な三脚伝道師・森さんがいて、カメラショーなどでその立て板に水のごとき口上を目にしたことがある。しかし迎えてくれたのは、ボルテージの高いしゃべり方をする若者だった。
 広報の田原栄一さんは28歳。龍谷大学の法学部を出て、「宣伝部員としてカメラショーをやりたい」ということでスリックに入社した。
「私はラッキーなんです。2年目でカメラショーを担当させていただき、3年目にしてフォトキナへ行かせてもらいました」
 どうしてそういうことが可能だったかというと、4人いた広報宣伝セクションが2人になり、さらに上司の森さんが副社長になったので、ヒラひとりで広報・宣伝・修理を「やらせていただいているんです」という。
 田原さんはそれを、なかなかうれしそうにいう。そうとうの変わり者にちがいないが、入社してすぐに立ち上げたホームページを維持しながら、「電子メールでいただいた問い合わせには100%お答えしたいと思います」と宣言する。エネルギッシュな変わり者である。
 案内されたテーブルの上には大判のファイルがあって、カメラ雑誌に載せたスリックの広告が新旧ズラリと並んでいた。「アサヒカメラ」1969年4月号にわかりやすいフリーターン雲台の広告(図1)があった。
「スリックだけのフリーターン雲台」と書かれた広告本文には、
「カメラ台の回転、上下アングルの調整、水平パーンを単独に、あるいは同時に操作することのできる他に類をみない独特の設計と機構にあります」
とあった。
 たしかにいま、ハンドル付きの3ウェイ雲台とボールをはさむ構造の自由雲台との間にこのフリーターン雲台を置いてみると、依然として斬新ではないか。
「いまでもスポーツ新聞社では90%がフリーターン雲台を使って下さっているのではないでしょうか。スポーツカメラマンのみなさんは重いレンズをつけて半締め状態で動かしたりするので、芯金が削れてきます。芯金をはさむ割りゴマのすき間がなくなると寿命なんですが、4〜5年でオシャカにされる方もいます」
 田原さんは「三脚には寿命があります」とはっきりいう。グリースが切れたからといって機械油を塗ったりするのが最悪で、専用のグリースが効いていないと摩擦部分が減りやすいという。
 ここでいうフリーターン雲台はマスターブラック雲台(写真2)だが、プロ中のプロが激しく使って4〜5年なら、一般アマチュアならそうとうの年数もつということだが、車のブレーキと同じで摩擦部分はすり減ってくるということなのだ。
 ところが不思議なことに、「用品ショーカタログ」に単体で載っているフリーターン雲台は「エクセラフォー雲台」(6600円)しかない。しかし正規のカタログを見ると全部で3種類のフリーターン雲台があることがわかる。価格順に一覧しておきたい。
マスターデラックスブラック雲台…800g…1万円
マスターブラック雲台…770g…8300円
エクセラフォー雲台…440g…6600円
 ちなみに脚とのセットで見ていくと、フリーターン雲台は5種類になってくる。そこで雲台付きの三脚の価格(伸長も)を一覧しておくと、
マスターデラックスブラック三脚…1・65m…3万5600円
マスターブラック三脚…1・65m…2万6500円
エクセラフォー雲台…1・335m…1万7700円
グッドマンエースII三脚…1・2m…1万3500円
グリーンシャンク110三脚…1・43m…1万1600円
という展開になる。写真で見る限り、ついている雲台は全部ちがう。いまではフリーターン雲台がかならずしもスリックの大看板にはなっていないという雰囲気なのだ。
 じつは今回の一連の取材によって発見したのは雲台の「締める」と「ゆるめる」とのあいだに「トルクのかかった動き」が求められているのではないかということである。そういう「抑制された動き」をスリックのフリーターン雲台でやろうとすると、軽いブレーキングをかけながら動かすということになる。身を削りながらフリーターンはおこなわれるようになる。それが、ひょっとするとこのユニークな雲台をちょっぴり扱いにくいものにしているのかもしれない。

●国産最高級の雲台
 そんなことは百も承知ということで、いまスリックのフラッグシップモデルとなっているのが、3ウェイ雲台ではザ プロフェッショナル雲台(2万5000円。写真3)であり、自由雲台ではザ スーパーボールヘッド(5万円。写真4)である。
 田原さんによれば、ザ プロフェッショナル雲台はジッツォやハスキーをライバルとした超大型三脚に標準装備しているもので、パン棒で締めていっても雲台自体が変形しないように、「締め付けコマ」を採用している。
 芯金をU字形の「割りゴマ」ではさんで締めていくと、すき間が縮まるにしたがって雲台そのものが微妙に動いていくのだが、内部に置いた「締め付けコマ」を移動させて芯金を押さえていくと雲台本体は変形せずに役目を果たせる。大判・中判カメラでの商品撮影のような場合に、雲台を締めたりゆるめたりするごとに微妙に生じてくるアングルの狂いをシャットアウトできるのだ。
 しかも「ビデオ用グリースを入れてなめらかに動くようにしてあります」という。たしかに動きは洗練されていて、短いストロークでピシッと止まる。世界の一流品に肩を並べる3ウェイ雲台になっているように思われた。
 もうひとつは自由雲台のほうのだが、昔からあるプロ自由雲台(1万200円)やバル自由雲台(6600円)に加えて、価格が5万円というザ スーパーボールヘッドが登場している。重さ1・25キロで巨大だが、ネジを締めかげんにしたときのすべりが梨地っぽいドライな動きで、好感が持てた。
「うちは親会社がパイプメーカーなので、他社が電気溶接で板状の材料を筒にしているのに対して、引き抜き管ですから堅い材料で寸法精度にすぐれています。ミゾ入りパイプというのも、精度が要求される。これは自慢できるんです。
 それで、カーボンよりもAMT(アルミ+マグネシウム+チタン)合金の開発に力を入れて、厚さわずか0・8ミリという軽量三脚をつくったのです。プロ700DXの脚の重さ2・2キロというのはジッツォのカーボン3型と同クラスで、価格は脚だけなら2万2500円。これはすごい三脚だと思います。小型の500DXになると軽さではカーボンに追いつかれますが」
 広報と宣伝と修理をひとりでこなす田原さんが、最後にひとこと、有効打を放った。


■日本の輸出三脚メーカー――ベルボン(日本ベルボン精機工業株式会社)

●国際派のラインナップ
 ベルボンの創業は1955年だが、当初は輸出専業の三脚メーカーだった。会社案内によると国内販売を開始したのが69年で、「近年は国内でも、第一位のシェアを獲得しました」という。
 もちろん国内市場で覇を競ってきた相手はスリックだが、スリックが最初からマスター三脚というプロ仕様の製品をもっていたのに対して、本格的なプロ用モデルを投入したのは87年、マーク7シリーズからだ。
 しかしその前、すでに74年には米国市場に対して現地生産体制をととのえ、81年には台湾工場を建設、台湾から米国への特恵関税を利用すると同時に海外市場への輸出競争力を高めていった。
 日本の三脚メーカーが台湾の低価格製品によって大きな打撃を受けたときに、ひとり業績を伸ばしてきたという点で、ベルボンは日本の国際ブランドということができそうだ。
「三脚メーカーでは、ビンテングループに次いで世界第2位ではないかと思います」
 ベルボン商事の倉部博さんはいう。英国のビデオ用三脚で知られるビンテンのグループにはフランスのジッツォとイタリアのマンフロットが入っている。いかに強力な存在かわかろうというものだ。
 そういう世界のマーケットに対して96年には7層構造のカーボンファイバーとマグネシウム合金を組み合わせた超軽量三脚カルマーニュシリーズを発売した。それにマグネシウム合金製のクイックシューや雲台を加えて三脚の新素材競争の最前線に立ったのだった。
 国際市場を意識していることがわかるのは雲台の名称である。たとえば現在8種類あるボールヘッドは次のようになっている。
PH-173G…1万2800円
PH-163G………9800円
PH-163HA……9800円
PH-153…………5000円
PH-243…………2600円
 以下はマグネシウム合金の軽量タイプ。
PH-273……1万9000円
PH-263……1万6000円
PH-253…………8500円
 PHはパンヘッド(雲台)の略で、3桁の数字の末尾の3が自由雲台であることを示している。ちなみにビデオ用雲台が8、カメラ用のパン棒付きが0と7ということだ。
 真ん中の数字はサイズを示していて、三脚側のカルマーニュ640Nの6、カルマーニュ530の5などとゆるく連動する。
 ゆるくというのは、たとえばベルボンのフラッグシップ三脚がマーク-7Gであるように、三脚名称がかならずしも規則どおりにはなっていないが、7サイズとか6サイズという見当はつけられるようになっている。ジッツォのように耐荷重によって0型から5型まで整然と分けているのと比べると破綻があるが、デザイン的な統一感はそういう規則性によってかなり保たれている。
 3桁の数字のアタマは開発番号だそうで、最初に1がつくので数が大きくなるほど新型ということになる。
 最後についたアルファベットは色を変えたときに加えるということだからPH-173Gはグリーンの新型につけられた名前ということになる。
 PH-163HAはメタリックブラウンだそうだが、アルファベットが重なったのはマイナーチェンジをあらわしているという。
 ともかく、統一感を保ったシリーズ展開はベルボンの力量を感じさせるところである。
 ジッツォはサイズ表示が耐荷重によっているが、ベルボンの場合はどうだろうか。
「耐荷重は誤解をまねきやすいので、カメラをつけてブレない『適正カメラ重量』という考え方をしています。使う人と使う条件によって一律にいきません。総合カタログでも別表でクラス分けしています」
 ベルボンのクラス分けというのはなかなか徹底している。
◎コンパクトカメラ
〜300g…単焦点
〜600g…ズーム
◎35ミリ一眼レフ
〜1000g…標準系ズーム、50ミリマクロ
〜1500g…200ミリズーム、100ミリマクロ
〜2000g…300ミリズーム、500ミリレフレックス
〜4000g…300ミリF2・8
〜6000g…600ミリ、大口径レンズ
◎中判カメラ
〜2000g…6×4.5、6×6
〜3000g…6×7、6×9
◎大判カメラ
〜3000g…4×5フィールド
〜6000g…4×5ビュー
◎ビデオカメラ
〜1500g…8ミリ、コンパクトカムコーダー
〜2500g…フルサイズカムコーダー
 以上の分類に対して、各三脚の適性度を示している。「携帯性と安定性を両立」する組み合わせを「最適」として、携帯性を重視した小さめの選択を「適正」、携帯性を考慮せずに安定性十分のものを「過剰」として、その三脚のカメラ適合範囲を示している。

●売れ筋雲台
 ベルボンでは現在自由雲台が8機種のほかに、パン棒付きのカメラ用雲台が6機種、ビデオ用雲台が4機種ある。いずれも新旧のタイプを順次入れ替えながらサイズバラエティを維持している。
「3機種限定」ということで倉部さんに選んでもらった売れ筋雲台の第一は、PH-263(写真6)。マグネシウム合金製超軽量ボールヘッド。1万6000円。
「ベルボンの自由雲台はボールを左右からはさみこむ構造になっています。線接触ですが、一番固定力のある位置で止めるようになっています」
 ボールの止め方で一般的なのは下から押し上げるのだが、外観からもわかるようにクリップでボールをはさむような構造になっている。
 球体をその球面全体できちんと押さえるというのは不可能に近い。下手をすると数点でしか接触しないことになる。ベルボンではそれを線接触にすべく、努力したというのである。
 次はPH-460(写真7)。マグネシウム合金採用の2ハンドル3ウェイ雲台で1万9000円。ついでに3番目がPH-360N(写真8)。1ストップ2ハンドル式雲台で8700円。
 倉部さんが選んだ雲台は3機種とも6サイズである。パン棒付きの2ハンドル3ウェイ三脚にマグネシウム合金の軽量型をもってきたのはわかるとして、3機種めに価格の安いPH-360Hをもってきた。マグネシウム合金の620gに対して1000gあるが、価格がなんと半分以下になっている。これがスリックのグランドマスターのフリーターン雲台と競合するところにある。
 6サイズのパン棒付き雲台ではほかにPH-260Gというのがあって、こちらは締めたときにアングルが変化しない「止めゴマ」方式の高級機になっている。スリックで「締め付けコマ」といっているものと基本は同じで、高級雲台ではこれからスタンダードになってくる方式のようである。
 マグネシウム合金雲台がこの「止めゴマ」方式を採用していないのは、「アルミよりゆがみが出にくい」からだそうで、同じトルクで締めたときに、「マグネシウム合金のほうが食いつきがいいんです。2倍とか3倍の固定力があります」ということなのだ。
 それと、マグネシウム合金はアルミと比べると3割ほど軽くなるのだそうだが、マグネシウム合金のボール雲台は最初、ボールはアルミのムク材で表面に硬質アルマイト加工をしていたのが、現在では中空鍛造による中空ボールに切り替わっている。しかしまだアルミボールだ。「将来はマグネシウム合金の中空ボールにしたい」と倉部さんはいう。
 ところで、締める、ゆるめるということについては、どんなチェックをしているのか?
「一定のトルクをかけて締めた上で荷重をかけていって、何キロまで動いてはダメ、というような計り方をしています」
 ゆるめるほうはどうだろうか。
「たとえば4分の1回転ゆるめたときに100gから600gの範囲で動く、というような基準をもうけています」
 そういうチェックの基準は三脚が受け持つカメラ重量によって当然変わってくる、というのがベルボン的考え方になる。
 そこでもうひとつ質問。締めすぎに対する注意というのはありますか?
「締める方向に関してはいくら締めても大丈夫です。人間の力で壊れるものはNGですから」
 価格競争のなかで力を蓄えて、いよいよ本格的なプロ用三脚の領域に競り上がってきた勢いを感じさせる。倉部さんが最後につぶやいた。
「ジッツォなんかと比べても、国産はダメとは思いません」


■パイプのマジック――マンフロット(本庄株式会社)

●安さの陰に仕掛け
 私はマンフロットの小ぶりの三脚を1本もっている。
 高く伸びなくてもいいから数十秒というスローシャッターの切れる軽い三脚がほしかった。量販店にいったら荒削りな作りの三脚が目について、それがすごく割安に感じたので買ったことを覚えている。
 ネジの締まりなど最後がフニャッとしていて不安なのだが、構造上まだ余裕があるということがわかるので、使えるところまで使ってみようという気分になった。
 マンフロット社の日本総代理店になっている本庄を訪ねたら、その理由がわかった。ショールームにスタジオ用のスタンド類があって、じつに多彩な組み合わせが可能になるシステムパーツ群になっている。なあ〜んだ、ライトスタンドと同じじゃないか。
 数寄屋橋のソニービルのディスプレーにマンフロットのポール類が使われているとのことだが、三脚よりも、スタジオ用スタンド類よりも、ディスプレーセットのマンフロットはもっともマンフロットなのだという気がした。
 何種類かの太さのパイプと接続具で、無数のバリエーションが展開できる。それぞれの展開に会わせて、パイプの両端に足をつけたり、器具の取りつけを可能にしていくうちに、全体が巨大なシステムになってしまったという印象なのだが……重要なのはそのどこを見てもマンフロットであるということ。
 荒削りなくせに基本デザインがしっかりしているように感じたのは、三脚がライトスタンドなどと同一の地平にあるということからくる合理性であったのだ。
 たしか、マンフロットは急に市場にでてきましたよね?
 東京営業部の竹原史典さんによると、マンフロットの創業は1969年。イタリアの写真家マンフロットさんがガレージでつくりはじめたライティング用品や三脚が始まりという。
「日本へは12〜13年前からある商社を通して入っていたのですが、あまり売れませんでした。……というのは、わが社が扱うようになってからでも、はじめはあんまり売れなかった。いろいろ改良を加えて、ようやく売れる商品になってきたのです」
 マンフロットというグループ名の中に個々の会社があるらしく、ライティング支持具は創業者の名を冠したリノ・マンフロット+カンパニーという会社がカタログを作っているが、これはおもしろい。さまざまなポール、脚、クランプ、ジョイントがそれぞれに発明神話をもっているような顔つきで並んでいる。
「スタジオ用品ではすごいメーカーではないでしょうか。OEM生産もかなりありますから、プロはなにかしら使っていると思います」
 マンフロットにはまた別に映画スタジオ用のAVENGERというブランドもある。
 そのアイディアコンテスト的バリエーションは、本庄がつくった写真三脚の日本語版カタログにも横溢している。「用品ショーカタログ」にない小物で、たとえば「一脚サポート」というのがある。W字型の針金細工のようなようなものをミニボール雲台に取りつけておくと、一脚を寝かして地面に近づけたところで、変形三脚となるというもの。価格表にないのでこれは絶版かもしれない。
 あるいは「フレックスヘッド」というのがある。一脚用のゴム製の雲台というか、ゴムジョイントというか、ゴムの伸縮でカメラを横位置から縦位置まで曲げられるというもの。当然その中間角度も力のいれ具合でどうにでもなる。35ミリカメラ用とコンパクトカメラ用があって、いずれも2700円と出ている。
「新製品がどんどん出てきます。むかしはもっとおもしろいものがいろいろありました。いろんなものが、おもしろすぎて消えていったという感じですね」
 スリックのグリップ式自由雲台(旧名アクショングリップ)と似た「グリップアクションボール雲台」というのもある。ハンドルレバーを握ると雲台がフリーになり、離すと固定されるという構造になっている。
 そういうアイディア商品オンパレードという流れと、パイプの単純な組み合わせの基本設計とが両輪となってマンフロットの不思議な魅力をつくっている。

●雲台の考え方
 竹原さんに3機種の雲台を選んでもらったが、マンフロットの3タイプを代表する売れ筋商品ということだ。
 パン棒式は#141RC(クイックリリース付ベーシックヘッド。写真9)で重さ1キロ、最大荷重容量6キロの3ハンドル3ウェイ雲台となっている。
「パン棒は短くして操作性をよくしています。短くてもグリップが太く、ゴム製で滑らないのでまわしやすくなっています」
 この141雲台は中判カメラまでに対応してクイックリリース付きが1万2000円で、なしが1万1000円。
 3ウェイ雲台の上位機種には耐荷重で12キロまでのものがあるが、興味深いのはむしろ小型のほう。耐荷重3キロという3Dジュニアヘッド(8000円)と3Dスーパージュニアヘッド(8600円)はパン棒さえなくしてしまって、ノブやラチェットハンドルと呼ぶレバーで締める。自重が500グラムから600グラムと、かなり軽量になっている。
 しかしやはり、パン棒の締めぐあいは好みによるだろうが、カキッと止まらない。最後のところで一瞬締め上げるという気分が残る。
「パン棒タイプのものでは、締めたときにずれる部分があります。精密なフレーミングができるギアード雲台がありまして、アマチュア用の410型が売れています」
 価格が3万円の#410ジュニアギアーヘッド(写真10)は重さ1400グラムで、耐荷重が5キロある。ギア操作を解除してカメラ位置をおおよそ決めてから3ウェイ雲台の動きをギアの歯送りでコントロールする。
 さらに大型の#400ギアーヘッドになると耐荷重10キロで大判カメラにまで対応できるので「スタジオ用」としているが、計測器用という需要もあるという。そちらは価格も9万7000円とかなり高価なので一般的とはいいにくい。
 そういう意味で、#410ジュニアギアーヘッドが精密3ウェイ雲台という新しい重要を喚起しつつある。これは油圧やグリースの粘着力によってなめらかな動きを求めたビデオ用雲台と同じように、固定するという機能より、動かすという側面に重点を置いている。
 従来型の雲台の「締める」と「ゆるめる」の中間領域に適当なフリクション、あるいはテンションを加えた制動モードのある雲台が増えてきているが、これはその制動モードが主役になっている。締めなくても、ゆるめなくても、カメラをその位置で固定できる。
 自由雲台では#352RCミディボールヘッド(写真11)が売れているという。
 重さ400グラムで耐荷重が4キロまであるので「中型レンズ付き35ミリカメラや軽量中判カメラを保持できる」としているが、特徴的なのは大きめのレバーである。このレバー形状はライトスタンドなどと同じなのだそうで、この場合は右回しでも左回しでも締まる。
 レバーは締まる→ゆるむ→締まるという単純な動きしかしないのだが、上にカメラが乗った状態によってはじゃまになるかもしれない。
「じゃまなときには、レバーをちょっと引き出すと、角度を変えることができます」
 こういうところにマンフロット流の思い切りのよさが出てくる。
 そして同じ耐荷重4キロの新製品に#308DIYボールヘッドというのが登場した。
「これはボールがフェノール樹脂なんです。それとゴミのつきやすい自由雲台をできるだけいい状態で使っていただけるように、かんたんに分解して掃除できるようになっています」
 DIYはもちろんドゥー・イット・ユアセルフのことで、「自分で分解してください」というマンフロットの基本方針に基づいてのこと。
 脚のクイックストッパーも効かなくなったら、ボルトを締めれば、また効くようになるという。市販の工具で全部バラせるようにしてあるのは、どうぞ、自分でメンテナンスして下さいという意味でもあるようだ。
 マンフロット三脚は北イタリアのアルミ生産地で生まれたというが、創業者リノ・マンフロットさんのアイディアマンぶりが随所に見られるということなのだろう。――もっとも、マンフロットさんは、現在はグループ企業のひとつであるジッツォの社長になっているという。


■三脚の老舗――ジッツォ(株式会社ケー・エフ・シー)

●クラシックがスタンダード
 ジッツォ社の80周年カタログを見ると、「8機種の登山用カーボンファイバー三脚と、48機種のクラシックアルミニューム三脚と、10機種の一脚と、18機種のヘッヅ(雲台)」がラインナップされていると書いてある。
 いわゆるジッツォ三脚は「クラシック」ということになる。なんでクラシックなのかよくわからないが、日本総特約店となっている株式会社ケー・エフ・シー、コンスマー部の岩間弘さんは次のようにいう。
「修理では、35年とか40年前のものも引き受けます。小さな改良点はいくつかあっても、基本スペックが変わっていませんから、機能はほとんど戻せます。壊れても一生使えるというわけです」
 半世紀近くも前のものがまだ使えるということと、その時代の三脚が現在も先端的に通用するということとが重なると、やはりそこにジッツォ神話が生まれてくる。
 カタログによると、ジッツォ社は1917年に創業しているが、アルセーヌ・ジッツホーヘンさん(と読むかどうか?)が始めたのは乾板用フィルムバックのメーカーだった。最初は木枠の、つぎに金属枠のホルダーだった。
 そしてすぐに、カメラメーカーに成長する。1920年代のことである。
 カメラメーカーとして大成しなかったからかどうか、シャッター、絞り、セルフタイマー、ケーブルレリーズなどのアクセサリーメーカーになっていく。
 三脚メーカーになる発端は「第二次世界大戦中に軍用の銃座をつくり始めたこと」とカタログにはある。それが戦後写真用品としての三脚に生かされる。
 初代のアルセーヌさんは1960年にリタイアし、その跡は娘のヴィヨンヌさんが引き継いだらしいのだが、その夫(名前は記されていない)が50年代を通じて現在のジッツォ三脚の基本ラインを構築したとある。たぶんこれが、ジッツォの三脚を「クラシック」とよぶ経緯なのだろう。
 しかし、いくら老舗とはいえ、基幹商品群を「クラシック」と呼ぶ感覚は理解しにくい。
 勝手な憶測だが、1992年にジッツォ社は大きく変貌する。ヴァイテック社(と読むのだろうか?)に買収されて、各種写真用品の生産を中止、パリ郊外に新工場を建設して写真用三脚メーカーとして特化した。
 マンフロットの取材で創業者リノ・マンフロントさんがジッツォの社長になっていることを知ったが、それは三脚市場においてグループ企業であるジッツォとマンフロットの棲みわけがおこなわれるということを意味している。
 それともうひとつ、ジッツォが世界に先駆けて実現したカーボンファイバー三脚は、日本のテレビクルーが標準三脚としている英国製のビンテンと似ていると思ったが、これもグループ企業のノウハウを導入したものととらえていいようだ。
 1992年を境にして、ジッツォは大きく変貌しつつあるということができそうだが、それは写真用三脚の最高級ブランドとして地位をさらに磐石のものにする、という方向に動いているようだ。

●耐荷重がベースのシステム
「三脚は重いほうがいい――がジッツォの基本です」
 ひょっとすると、この考え方が「クラシック」なのかもしれないが、正論である。持ち運びということを考えるから、みみっちく軽さを求めてしまうのだ。
 三脚の役割としては、どこまでの重さのカメラセットならきちんと固定して撮影できるかが明記されていなければいけない――というふうにジッツォは考えているようだ。
 そこで「耐荷重」が重要な役目をになうことになる。ジッツォの三脚は「型」に分類されているが、クラシック三脚では、次のようになる。
00型…耐荷重2・5キロ
0型…耐荷重2・5キロ
1型…耐荷重4・5キロ
2型…耐荷重6キロ
3型…耐荷重9キロ
4型…耐荷重12キロ
5型…耐荷重15キロ
 カーボンファイバー三脚では少しちがってくる。
2型…耐荷重6キロ
3型…耐荷重12キロ
5型…耐荷重18キロ
 この耐荷重は、正確にはどういう意味でしょうか?
 岩間さんはちょっと困った顔をした。
「基準が一様でないので、こちらとしては載せたくないのですが、ジッツォ社では『三脚として機能する重さ』としているようです。室内で、最高の条件で、重心がとれた状態で、カメラがブレない重さの限界ということのようですが、実用的にはあくまでも目安ですから」
 ともかくジッツォ三脚では「型」がサイズ分類になっていて、雲台もこの「型」によってサイズ分けされている。雲台の名称の4桁の数字の頭から2つめの数字がそのサイズを表している。
 雲台のタイプは3種類ある。ラショナル雲台というのがいわゆる3ウェイ雲台だが、これに「合理的」というようなジッツォ独自の名称をつけている。
 ラショナル雲台は細身でスマートだが、大型になるほど背が伸びていく。そこでビューカメラ用の5型雲台が水平に広がるかたちでつくられた。その構造だと同じ強度なら軽くできるということで、ラショナル平型雲台として2型、3型、5型とラインナップがととのっている。
 ほかに自由雲台があるが、ボール部を横置きにして大きめのカメラプレートをつけているのでボール雲台というふうに見えない場合もある。かなり凝ったデザインといえる。
 いずれも一目見ればジッツォというデザインであり、質感であり、こちらも基本デザインは代わりないが、かなり大きなマイナーチェンジが現在進行中だそうだ。
「パン棒の握り部の形状が握りやすいものに変わります。9月中に全部切り替わると思いますが」
 岩間さんによると、14〜15年前まではラショナル雲台一辺倒だったのが、単品で平型雲台が売れるようになり、最近では自由雲台が伸びているという。
 とくに「ボール雲台は2型で、平型雲台は3型」だそうだ。
 そういう流れのなかで選んでもらったジッツォ雲台の3機種は、まずマグネシウム合金製ボール雲台のG1275M(2万円。写真12)。
 重さが534グラムなので、カーボンファイバー三脚の2型に取り付けると(三脚は長短2機種あるがいずれも重さ1520グラムなので)2キロほどにまとまる。
「三脚は重いのがいいというのがジッツォにとっては不滅の法則なんです。ところが欧米でもシルバー層の写真家が、高価でも軽い三脚を求めるようになって、新しい市場が開けてきました。ジッツォにはカーボン三脚を最初に出したという自負があります。なによりも、これがヒットして軽量三脚のスタンダードになってきました」
 マグネシウム合金の2型自由雲台はそういう意味で新しいジッツォのシンボルとなりつつある。
 岩間さんがつぎに選んだのはG1371という3型のラショナル雲台(写真13)。これは「用品ショーカタログ」には2万1000円とあるが、パン棒の握りが新しくなって、新しい価格表では2万2000円となっている。
 ジッツォ三脚では耐荷重6キロの3型雲台がスタンダードということでこれを選んだということだが、G1372(2万6000円)とG1371のちがいはクイックシューがついているかいないかというところ。自由雲台とラショナル雲台の主要機種はすべてクイックシュー付きと、単純なネジ止めプレート仕様とを選択できるようになっている。
 もうひとつ重要なのは、ラショナル雲台は補助パン棒で「ロードをかけられる」という点だ。フリーの状態で一定のテンションがかかる。自由雲台にも平型雲台にもその機能はない、ということに注意しておきたい。
 3機種目は「ひとめでジッツォというのにしましょう」ということで。「30年来おなじみ」のラショナル平型雲台の大判カメラ用G1570(写真15)。重さが1262グラムで耐荷重が10キロ。お値段は2万9000円。
 このラショナル平型雲台は2型、3型、5型というラインナップになっているが、全部マグネシウム合金製のものも用意されている。5型の場合、G1570Mにすると、262グラム軽くなって4000円高くなる。
 とにかくジッツォは過半の雲台をアルミ製とマグネシウム合金製の2本立てにしつつある。精密な金型からつくっていく開発コストを考えると、さすが三脚の王者。そうとうの力ワザといわざるをえない。
 じつは私はジッツォの一脚を2本もっている。あるとき必要があって一脚を求めたが、買うそばからどんどん壊れた。雨の日に山へもっていくと壊れてしまうという印象だった。最後にジッツォの2本が残った。脚に対するジッツォ神話の根強さは、(たまたまの結果のようにも思えるけれど)そういうところにあるように思われる。


■スイス製が輝いた――アルカスイスとフォーバ(株式会社ケー・エフ・シー)

●テンション調節機能の標準化
 ジッツォの取材が終わって周囲を見回したら、じつにりっぱな自由雲台があった。雲台もりっぱだが、上に乗ったアルカスイスの4×5判カメラも堂々たるものだから、神々しくさえ見えてきた。
 ケイ・エフ・シーではジッツォの三脚、雲台以外に、スイスのカメラメーカー・アルカスイス社とカメラスタンドメーカー・フォーバ社の自由雲台をあつかっている。
「ジッツォにはセンターに軸のあるボール雲台がないものですから」
 と岩間さんはいう。
 アルカスイスのものは2機種。マグネシウム合金製で、どちらも4×5まで使える。
モノボールB-1…5万9000円(写真15)
モノボールB-2…10万円
 大判カメラの名機アルカスイスの4×5カメラを載せていたのは重さ1500グラムのB-2のほうだが、一回り小型で重さ650グラムのB-1のほうでさえ、4×5のビューカメラが扱えるという。B-1が大型で、B-2は超大型ということになる。
 ジッツォでは可動部が意図的にコンパクトにつくられていたけれど、こちらは逆に、大きなボールを採用している。B-1で使われているのは直径5センチのボールだが、これはまず、上部のカメラ支持プレートへの支柱を極端に短くして、カメラ側からのゆれの発生をできるだけ押さえるようにしている。
 固定は、ボールを下から押し上げる一般的な方式を採用しているが、お椀型のプレートを採用して、両側から包み込むような動きをするようだ。そのため締め付けに大きな力を必要としない。
 さらにボールは球形というより卵形、あるいはなすび型で、カメラを45度以上に傾けてセットしたときに摩擦係数が上がって十分なテンションがかかるようになっている……という。
 しかし、一番重要なのは「テンション機構」で、テンション調節ネジのところに示された数字を手がかりにして、締め付けノブをフリーにしたときに載せたカメラが倒れない程度のテンションをかけられるようになっている。
 テンションを変えながらボールを動かしてみると、梨地が擦れ合うような、いくぶんかさかさした感触がある。
 最初のうちはオイルで湿った粘っこい滑らかさと比べて、いくぶん粗雑な気分がするが、そのうちに、こちらのほうがダイレクトな感触であることに気づく。機械精度そのものの滑り感というような深みのあるテンションを手が覚えはじめてしまう。とても気持ちいい軽いブレーキング感である。
 超大型のB-2のほうは、直接手にはしなかったので、うかつにも見逃してしまったが、B-1のボールをもうひとまわり大きなボールで包んで、前後・左右を2方向独立したコントロールを可能にしてあるという。超望遠レンズ付きの35ミリカメラや4×5ビューカメラの使用を本気で考えた自由雲台ということができそうだ。
 一方、フォーバ社の自由雲台は「高精度の真球」が売り物のようである。このミニスーパーボール(2万9000円。写真16)は重さ580グラムだが、ボールの直径は63ミリもある。
「用品ショーカタログ」には載っていないが、フォーバ社の総合カタログには大型のスーパーボールというのがあって、直径76ミリのボールを使って重さ1300グラムの自由雲台となっている。アルカスイスとかなり似たコンセプトのコンビネーションということになる。
 またアルカスイスもフォーバもクイックプレートの使用をスタンダードと考えているようで、カメラ取り付けプレート部がクイックシューとなっているモデルが用意されている。そしてクイックプレートにはどちらも35ミリ用、マミヤ用、ハッセル用、ユニバーサルタイプとあり、そういう意味でも、非常に似ている。
 フォーバのボールの動きは、アルカスイスのものとはずいぶんちがうように思えたが、価格が半分だからしょうがない――か。ボールを締めるのはプラスチック製のブレーキシューである。
 もちろんテンション調節ノブがついている。


■超精密削り出しの自由3兄弟――エモ(株式会社ケンコー)

●フォトレールシステムから
 ライカの部品をつくっているそうだが、ドイツのエモ社という精密機器メーカーがかなり壮大なフォトレールシステム(写真17)を構築している。
 超望遠撮影や近接撮影のブレを追放するカメラサポート法としてだそうだが、複雑な構造形状をしたアルミレール上に、レンズを装着したカメラを適切な支持位置できちんと固定する。そのための高さ調節リング付きのレールベースやレンズ先端部を固定するテレレンズサポートなどシステムパーツを組み合わせることによってフォトレール上に完全にセットアップすることができる。
 それを、三脚に取り付けた大型自由雲台に載せて撮影にかかるのだが、仕掛けが大きい場合には、前後に並べた2本の三脚の上にフォトレールを載せることまで可能にしている。その場合は2個の自由雲台がフォトレールを支えることになる。
 そのフォトレールシステムに使われているのが大型パノラマ・ヘッド4500(7万円)という雲台で、直径60ミリのボールを使って、耐荷重5キロとしている。
 フォトレールシステムには入り込めないようだが、たぶん同じ作り方をしている小ぶりの雲台が中型パノラマ・ヘッドJr.7500(5万8000円。写真18)である。直径40ミリのボールで3キロの耐荷重を獲得している。
 値段がなかなかのものだが、それはこの雲台が金属材料を型に流し込んでつくるダイキャストではなく、ムクの金属塊から削り出していく切削加工によってつくられていることによるのだろう。
 その結果、軽量化が若干犠牲になっているようである。耐荷重の数値はメーカー間での相互比較では当てにならないが、大型のほうが耐荷重5キロで、自重1900グラム、中型は耐荷重3キロで自重900グラムとなっている。
 軽量は、このシステムではあまり強く求められていないと考えるほうがいいかもしれない。携帯性より、ブレないということが、複雑な支持姿勢を求められるこのシステムでは重要であるはずだ。
 いくぶん重めという点を認めれば、この2つの雲台自体がなかなか革新的である。
 写真18に大型のレバーが見えるが、これはレバーの向きを使いやすい角度に変更できる。基部にあるノブは雲台ベースが回転するので、そのストッパーになっている。
 回転については、最上部のカメラ取り付け用プレート(着脱式)も回転式であり、小さなノブはその回転止めとなっている。ここに付属のパンニングレバーを差し込むとパンニングヘッドに変身する。
 じつはそのとき、肩のところにあるノブをはずしてボール軸と称する棒を挿入すると、当然ボールは動きを封じられて上下動しかできなくなる。自由雲台が3ウェイ雲台になる、というより、ビデオ雲台の方向に近づいてくる。
 そうは問屋が卸さない――かどうかのところで、エモ独自のカタログスペックが重要な意味をもってくる。
 それは「ボール締め付け圧調整」である。雲台本体の下から3分の1あたりに黒い帯がまわっているが、これがボール締め付け圧調節リング」で、大型は50〜5000グラム、中型は50〜3000グラムの「無段階調節」が可能となっている。
 上限の数字は耐荷重と同じだから、わかりやすくいえば50グラム相当のテンションから完全な締め付けまで、どの重さでも加えることができるということになる。
 この機構についてのくわしい解説をケンコー側ではもっていないようだったが、ドライな滑り感触がしだいに堅くなっていくようすは、ただものではない、という印象だった。油圧やグリースで粘性をもたせたビデオヘッドの代わりをボールヘッドで可能にできるのかまではわからなかったが、この雲台は「滑らかに動く」ということと「動きの軸を固定する」ということによって、新しい価値を創造しようとしている。
 耐荷重2・5キロの小型自由雲台として位置づけられているクワトロ・アクシアル#7000(写真19)は重さが350グラムと軽量化がはかられている。ボール径も25ミリと小さくなった。
 クワトロ・アクシアルは「4軸」という意味だから興味をそそられたが、うえから順に、1=カメラプレートの回転、2=ボール軸を差し込んでティルト、3=ボール軸を抜いて自由雲台、4=三脚プレートの回転、というのだから、なんだかだまされたような気分。要は雲台上下に回転プレートがあり、ボールの動きを一方向に制限することができるということ。
 むしろアイディアとしておもしろいと思ったのは、カメラプレートと三脚プレートの間で雲台本体を上下ひっくり返すことが可能なことで、カメラを縦位置にしたいときに、これが動きの自由度を大きくしてくれる可能性がある。
 さわってみた程度程度の判断ではまちがっているかもしれないが、この雲台は大型、中型とは一応別ラインという感じがした。


■ファッション雲台――ノボフレックス(株式会社近代インターナショナル)

●ライカもニコンも
 ドイツ、ノボフレックス社の自由雲台マジックボール(写真20)は、ともかくボールのブルーが印象的だ。1998年のヨーロッパ工業デザイン賞を獲得している。
 しかしそれよりも大きな自慢がある。
「フォトキナで、ライカとニコンが、展示していたすべてのカメラをこのマジックボールに載せていました」
 近代インターナショナルの代表取締役・増田時久さんはいう。雲台自体がこれほど衝撃的なデビューを果たした例はないだろう。
 なによりも、ボールそのものが主役になっている。そのボールをクランプ(カタログではソケットといっている)がつかんで、好きな位置で軽く止まる。接触面にはプラスチックが使われているが、滑りの感触もまたデザインのうちというように心地いい。
 タネも仕掛けもないように見せながら、文句なしの自由雲台になっている。――というのは可動範囲が全方向に120度もある。ボールを包んでしまうとどうしても限定されてしまう可動域を解放したデザインだから、機能美の追求としても画期的なのだ。雲台におけるコロンブスのタマゴといっていい。
 このマジックボールは重さ950グラムで耐荷重10キロとしている。グリップを長さ10センチのパン棒に取り替えると、印象はかなり積極的なものになる。
 しかし、デザイン的緊張感をつくりだしている不安定さは、上に載せたカメラが次の瞬間にはコロンと落ちないかというところにある。そのために「カメラ重量に対応できる完全なフリクションコントロール」が可能になっている。すなわちカメラがコロンと落ちてこないで止まり、かつ自由に動く。
 フリクションは硬質表面処理をしたアルミボールをプラスチック板で押さえているので滑らか、かつ、しっとり感にあふれている。
 どこからみても、秀逸といっていい。あとは値段と重さだが、35ミリカメラだったら、後続商品のマジックボール・ミニが耐荷重5キロで自重330グラム。価格も2万8000円とかなり割安感がある。遠くから見ると大小の区別がつかないほど似ていて、操作感も変わらない。
 ノボフレックスというと超望遠レンズ用の保持器具や、さまざまな接写システムで知られている。新製品にブルーのラインを入れるブルーラインプロダクトというデザインポリシーを立てているが、このマジックボールのブルーがその象徴的役割を果たしている。


■顔になる商品がほしかった――アルカス(コニカマーケティング株式会社)

●高級自由雲台の先駆け
 アルカス・エルデ(写真21)という自由雲台は大小2種類に、色がブラウンとハンマートーングレーの2色ある。
 大きいほうがエルデ3065。重さが835グラムで3万円、小さいほう……といってもひとまわり小さいという程度だが、エルデ3055は重さが610グラムで2万5000円となっている。
 大きいほうは中判カメラまで、小さいほうは一眼レフに標準系ズーム程度までという適合案内をしているが、耐荷重表記などはない。
「耐荷重をよく聞かれますが、使用用途によって条件はさまざまにちがってきますから」
 販売企画担当の川畑隆浩さんの考え方は、いわば日本のメーカーの一般的な見解といっていい。だからこの場合、重さにあまりこだわらないのいいのなら、大きいほうを買っておきたい。商品名になっている3065の65は本体の円筒の直径が65ミリであるかららしい。小さいほうはだから直径が55ミリ。ボールの直径はそれよりもひとまわり小さいということだ。
 たぶん、これを売っている人も、ラベルなんかがはがれたらサイズを計ってみないとどちらだったかわからないということになるだろう。それほどのそっくりさんだから、使い勝手はどちらも同じ。価値はサイズではなく、日本の高級自由雲台の先駆けとなった精密加工雲台としての仕上がりにある。
 このアルミのボールは真球で設計されている。真球が主張されるということは、球ではあっても必ずしも真球でない雲台が一般的ということらしい。そこのところをきちんと精密に作り上げた。
 それからボールは、かならずしも滑らかな表面に仕上げてなくてもいい。たとえば有名なライツの小型雲台は、ボールのところをルーペで見ると、細かな筋がついている。その筋が止まりの良さに大いに貢献しているという例がある。
 しかし川畑さんたちの雲台は逆の方法をとった。滑らかにして、その表面をタフラム加工というので超硬度に仕上げたのだ。
「表面加工したら、ヤスリも歯が立ちません」
 つまり、金属と金属が接触しながら削り、削られる関係のなかで止めたりゆるめたりすることから完全に脱却している。硬い表面をもつ精密な形状のボールを、同様に精密な受け皿で押しつけて固定しようというのだ。
 ほかにも必要なことがあった。まずはクイックシューを標準装備したこと。雲台が精密になってくると、カメラの取り付け部から振動が発生する危険がある。カメラ側のネジ山をいためないという配慮も加えれば、きちんとしたクイックシューを常用するのが賢い選択となる。
 高級雲台はだから一種の自衛措置として専用のクイックシューを用意するのが一般的になっている。アルカス・エルデ雲台は全機種にクイックシューをつけてしまった。
 もうひとつ。当然のことながら、この雲台には「カメラの重みに応じたコントロールノブ機構」がついている。フリーにしたときに一定のテンションがかかっていて、カメラが動かない程度にコントロールされている。
 問題はそこから先だ。カメラを細かく動かして、きちんと止めようとしたときに、滑らかに動いて、ピタリと止まるかどうか……だが、この雲台は国産としては最初に、そういう新しい品質を訴えて実現した。そして、今回の取材でいろいろさわった程度の経験からいうと、5万円クラスで並んでいる最高級自由雲台の手触りとほとんど同じ領域に達している。そういう意味では、すごくお買い得といえる。
「発売して、もう6〜7年になります。いまでは3つ4つお持ちになっているお客様もいます。御要望もたくさんいただきますけれど」
 それにしても、どうしてこんな高級雲台が突然登場してしまったのか。
「ちょっとクレージーな開発ストーリー」なんだそうだが、コニカブランドにぶら下がってすき間商品をつくっているだけでいいのかという、根元的な問いがトップから降りてきたらしい。
 当時はまだ、「コニカには一眼レフがある」ということで、一点突破から商品戦線の構築。そして面的展開になる起爆剤を見つけようということで、「ほんとうにいいものをつくろう」ということになったのだった。
 コニカ的聖戦のシンボルとしてある技術者に開発依頼をしたところ、この雲台ができあがってきたという。「顔になる商品の開発」は大成功し、国内での高級雲台の先駆けとなっただけでなく、じっさいによく売れた。コニカマーケティングとしては万万歳の結果となったのだった。
 その後、さらに小型のアルカス・ブルーメ(1万2500円。写真22)を追加したが、これもクイックシュー付き。さらにその後、クイックシューを省いたブルーメ2(8500円)を追加した。


■一芸のくせものたち――ジオットス、LPL、カルマン、ベネチア(株式会社LPL)

●LPL的なりゆき主義
「スリックさんやベルボンさんのような老舗に対して、うちはうちなりに特徴を出してきたつもりです」
 と取締役で管理部統括部長の田中明さんはいった。
 たしかにLPLがもっている雲台は系統的とはいえない。そのかわり個性派だ。
 まず、ラインナップがととのっているものにジオットの自由雲台がある。耐荷重で3キロから12キロの5機種だが、ちょっと待てよ。耐荷重12キロの最高機種の重さが660グラムしかない。これまでの各メーカーのスペックからすれば信じがたい数字になっている。そこで耐荷重と自重との関係を一覧してみると、次のようになる。
12kg(660g)…2万9800円
8kg(565g)…2万2000円
6kg(355g)…1万9000円
4kg(220g)…1万6000円
3kg(152g)………8500円
 この耐荷重ってなんですか?
「ある重量を載せて、90度手前にして耐えられる重さですかね」
 いわゆる静荷重を、重心をはずしてはかっているということになるだろうか。
「耐荷重3キロのものは1キロ以下のカメラを載せられます」
 ……ということは耐荷重12キロのもので4キロのカメラまでという目安になる。フムフム、それならなんとなく常識的結論だ。
 ともかく、統一感のあるデザインの雲台が大小並んでいる。価格的にも安物というわけではないようだ。
 ジオットスってどこのブランドなんですか?
 しかしそれはいえないという。台湾のある精密機械メーカーが電子関係の仕事のほかに雲台もつくっているというのだ。専業ではないかわりに、多品種少量生産のできる工場設備を有効に使ってかなり広範なモデルをラインナップしている。そのほんの一部をLPLが従来からの仕事のつながりであつかっているという。
 なかでも最高機種のMH-2000(写真23)はユニークな「2ボール」になっている。上下2つのボールをレバーひとつで動かせるので、何が便利かというと、カメラを水平に構えたまま左右にちょっと動かすことが可能になる……という。
 たしかに、カメラを前後・左右に水平移動させるのは接写用の微動装置にまかされてきた。自由雲台にそういう動きが加えられるというのは新しい試みといえるだろう。
 手に触れてみると、動きはかなり滑らかで、「ボール締付け圧調整機能」によるテンションが効いてくる。2つのボールがギクシャク動くというふうにはなってこない。あるひとにはすばらしく使いやすい雲台ということになるかもしれない。
 ジオットスのそれ以外の雲台は一般的なものだが、「ボール締付け圧調整機能」は装備されている。
 2ボール自由雲台の微調整機能を専門にやってきたのに、LPLブランドのアングル微調雲台(8900円。写真24)がある。
「10年前からあるんですが、今年からカタログに載せました」
 開発設計部の総括課長・神谷克美さんによると、コピースタンドに取り付けて企業ユーザー向けの製品となっていたのが、この雲台部だけがほしいという問い合わせが毎月30件から40件もある。そこで「面倒くさいから」とカタログに載せたというのだ。
「用品ショーカタログ」の71ページの左下隅にあるが、写真で見て魅力を感じるものではない。しかし、複写や接写を頻繁にやる人には、最後の段階でのカメラの微動ができるのとできないのとでは作業効率が大きくちがっている。雲台とカメラの間にこれをはさむだけでその苦労が簡単に解消できるとなれば、8900円は安い買い物ということになる。
 マンフロットでいま人気のギア雲台の仲間ということになるけれど、こちらはむしろ補助雲台という役回りだ。
 もうひとつ、3つめの自薦雲台をどれにするかで田中さんと神谷さんはかなり悩んでいたが、LPL油圧雲台FH-18S(5万9800円。写真25)になった。
 今回、雲台の中にビデオ雲台は含まない努力をしてきたが、完全に排除するつもりもなかった。写真の撮り方によっては、あらかじめ水平をとってからパン主体に撮影するビデオ雲台の方が使いやすいという場合がある。あるいは、ビデオ撮影が主体で、カメラにも流用したいという優先順位の付け方もあるだろうと考えていた。
 LPLのこの油圧雲台は、いわばご自慢の製品であるようだ。
 田中さんはいう。
「グリースの粘度でなめらかさを出しているオイルフリュードではなくて、シリンダーに油を入れて圧縮する本格的な油圧雲台なんです」
 本格的油圧式は動きの滑らかさにおいて調整幅が広いという利点があるが、構造が複雑になるのだそうだ。
 とくにシリンダーに油を入れるときには、油槽にシリンダーを漬けて1週間放置、金属表面を油になじませると同時に、人間の目には見えないような小さな気泡まで追い出しておかないといけないのだそうだ。
 15年ほど前、3管式の本格的ビデオカメラ用の雲台をつくることになったら、そのシリンダー部はよそではつくれないことがわかった。というより、まかせられないことがわかった。そこで自社開発してしまったというのだ。
「30万円クラスのものを6万円で出せた」というのがLPLの成果だったが、いまでは「あの時やっておいてよかった」ということになる。いま同じ金型を起こすとなるとたいへんなことになる。一度がんばっておいたから、長い間売り続けることができて、トータル台数ではかなりのものになっている。ロングセラー商品として成功したのだ。

●最初はフィルムクリップ
 LPLは昭和28年の創業だそうで、現像時にフィルムを吊るすさいに便利な重りつきのフィルムクリップの発明が最初。それから引き伸ばし用の固定マスク。そして8ミリシネフィルムを切ったりつないだりするスプライサーのあたりから特許や技術力で勝負する体力が付いてきて、シネ用品では編集機に進出し、写真用品では引き伸ばし機がバックボーンになっていく。
 西武線の所沢から入った東村山市に工場と本社があるが、つくるものもあれば商社として扱うものもある。
 三脚ではドイツのカルマンを扱っていて、3800円から9000円まで4機種の自由雲台もそろえている。ヨーロッパでは知られた写真用品メーカーで、似た者同士の関係が20年ほど続いているという。
 あるいはベネチアというビデオ三脚がある。ベネチアはイタリア、じつはこれカルマンより古くから扱っているマンフロットの三脚で、ベネチアはLPLがつけた日本国内でのブランドなのだ。
 そういう長いつきあいが可能になるのは、ロングセラーが成立しているからであろう。そのことを田中さんは「クレームがあまりないんです」という。
 そういう安心な製品ばかりでもあるまいに……と私などは思ってしまうが、なんとLPLではありとあらゆる商品の全品検査をおこなっていて、必要があれば手を入れてしまうという。売る前に一度分解してしまうこともあるという。
「ミニミニ三脚など、毎月何万本と出る場合でも、全品チェックしています。長年の習慣で」
 ということなのだ。ハデなラインナップにはなっていなくても、きちんと育てられているものもあるということなのだ。


■革命的ディスクブレーキ――エルグ(共同写真要品株式会社)

●考える人、つくる人
 ブランド名のエルグは「仕事量」をあらわす物理の単位だそうだが、そういう意味を知らないでやってきた文系の私にどれほど理解できるかはわからない。しかしこの企画で雲台をやりたいと思ったのは、前回カメラバッグの取材で共同写真要品を訪ねたとき、変わった雲台を目にしたことに始まる。
 かねてから、雲台のような道具こそ最先端技術をそなえた町工場的ラボラトリーで本気でつくればおもしろかろうにと感じていた。その部外者の無責任な期待をはるかに超える、不可解ですごみのある雲台が、なんと14機種も並んでいるではないか。
 工業製品の企画・設計を業とする富所〓(日ヘンに完)之さんがエルグの生みの親なのだが、まず「円板の動きを止める」というディスクブレーキ雲台を展開した。
 ディスクブレーキという視点に気づけば、従来型の雲台はドラムブレーキだということに気づく。
 世の中に最初に評価されたのはSS-4Wayというモデル(写真26)。これは高さが117ミリあり、重さが1050グラム、最大荷重を18キロとしている。
 かたちが奇抜で、じっさいに手に持っても、どこがどうなっているのかよくわからないが、可動軸に円板がついた2ハンドル3ウェイ雲台と見ればいい。このモデルはそれにカメラプレート部の回転軸を加えて4ウェイとしている。雲台部全体でパンすると「ヨーが発生するので、4つめの回転部をつけた」と富所さんはいう。
 ともかく厚い金属円板をレバーで締めることによって軽くしっかりと止めることができる。
 レバーのかたちが奇妙だが、「ハッセルブラッドを載せたときには雲台まで両手で包むように持つ」と聞いて、このレバーが指先で軽く動くことの意味がわかったように思う。
 富所さんは「手のひらでロックして、はずすときには押せばいいのです」というが、指で軽くつまんだり、引っかけたりするだけで締めたりゆるめたりできる。指の位置に合わせて、レバー角度を変えることが可能になっている。
 これがグッドデザイン中小企業庁長官特別賞を受賞した。
 同じ受賞作のN75L-3Way(写真27)も高さ118ミリだから大きさはほとんど同じだが、重さは690グラムとおよそ3分の2になっている。アルミ合金のなかで最高の強度をもつ超々ジュラルミンを採用して小型軽量化をはかったもの。それでも最大荷重は30キロと大幅に増加した。じつは価格も大きく上昇して、12万円となってしまった。
 富所さんが引いた設計図を現実にする役が富士金属産業という会社をやっている野島忠雄さんだ。ムクの金属材料から削りだしてつくるのだが、工作精度をプラスマイナス100分の2ミリで管理するために、作業精度は1000分の1ミリ、すなわち1ミクロンを維持しなくてはいけないという。
 それだけなら、単に数字上の精度だが、野島さんはクレージーなことをやっている。超々ジュラルミンに硬質アルマイトの表面加工を50ミクロン乗せていく。その幕厚の50ミクロンも作業精度にかかわってくる。
 そういう表面処理を、なんとネジ穴にまでほどこしている。それでいうことがいい。
「道具は部品点数が少なくなるほど故障が少なくなるけれど、単純な構造にしようとすると、加工のむずかしさが浮上してくる」
 どういうことをいっているのかというと、写真にあるような雲台ひとつつくるのに、なんと800工程もかかるという。どこをどういじって800工程になるのか私にはピンとこないが、加工した面をきちんと仕上げてから次の面に移るというような漸進的な工程を組むことで精度を維持しているらしい。
 でもなんで、1個ずつ削り出すというような面倒くさいことをやるのかという疑問には私でもこたえられる。溶けた材料を鋳型に流し込んでつくるダイキャストでは精密な金型を1個つくったら、その費用を回収できる数量を設定しなければならない。そうなるとモデルチェンジなど簡単にやれなくなる。
 野島さんは一度に10個ぐらいずつしかつくらないようだが、ということは1回の生産ロットを10個で考えることができる。100個売れる間には10モデルを世に送り出すことができるかもしれない。
 ……ということは、要望に会わせてどんどん改良を加えたり、用途に合わせたイージーオーダーも可能ということになる。
 雲台がそういう道具になりつつあるかもしれないと思ったのは、MR-2P2Way(写真28)を見たときだった。
 これも高さは140ミリだからそれほどちがわないけれど、幅と奥行きが増して大きくなった。重さが1700グラムになり、最大荷重は200キロという。
 一体何に使うのかというと、600ミリとか、1200ミリという超望遠レンズ専用の雲台と考えられている。
 写真ではカメラを取り付けるプレートが回転軸の最上部に上がっているが、これを180度まわして、ブランコの腰掛けのように下死点に下がったところにレンズを載せる。するとレンズ台がぶら下がった状態だから安定する。
 よく見るとディスクの外面にピンが2本頭を出しているが、これを押すとレンズが前後に40度ほど傾いたときにロックがかかる。あるいは水平の位置でロックする。レンズが何かの拍子にコトンと倒れかかっていく事故を防ぐ強力なガード機能になっている。
 それにしても、キヤノンの1200ミリレンズは重さが16キロ半しかない。ボディをつけて、重心を少しずらして取り付けたとしても、最大荷重を200キロとするのはやりすぎではないだろうか。
 やりすぎはあちこちにあるように思えるが、大きな荷重に耐えることは悪くない。精密な計測器や業務用の光学機器になれば、重さはすぐにふくらんでくる。これくらいの精密雲台になると、そういう需要もでてくるはずだ。
 ともかく、採算を度外視して、まるで試作品づくりのようなやりかたをしているようなのだ。ネジは油圧転造といって、1平方あたり4〜6トンの力を加えながら型押ししているという。そのときには圧力で750度から800度の熱が発生して、加工硬化という現象を引き起こす。ステンレスは熱伝導が低いので、表面は硬化しても、中心はねばりを失わないという。
 そういうていねいさを積み上げていって、「プロ用として10年はメンテナンスフリーでいく」というのだ。
 しかしそういうことばの現実的な裏付けエピソードがある。エルグの雲台は海水中で使ってもどこからも錆がでないというのだ。使い終わったら真水で洗って、放っておけばいいという。
 単に頑丈とか、精密とかいうのではなく、材料と加工の頂点をきわめようとしている。雲台という目的を忘れているかもしれないというほどに、実験的で革命的なのだ。


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