キヤノン通信――7号 ワープロ進化史────キヤノワードを中心にして──1988.11(入稿原稿)


【キヤノン通信 7号 1988.11.7】

【特集】ワープロ進化史────キヤノワードを中心にして


●10歳の誕生日を前に

 日本語ワードプロセッサー(ワープロ)が登場して満10年になろうとしています。
 日本独特の漢字かなまじり文をコンピューターであつかうことはできないか、という試みから生まれたワープロですが、現在では、ビジネス文書の作成になくてはならないものになりました。公文書もワープロ文書があたりまえになり、従来の和文タイプはすでに過去のものとなっています。
 新聞、雑誌、書籍の編集・印刷においても、ワープロが大型のコンピューター植字機と結びついて、印刷体系を革命的に変えてきました。加えて、データベース化など、文字情報の電子化にもワープロ端末は大きく貢献しています。
 しかし、ワープロがこの10年に果たしたもっと大きな役割は、万年筆やえんぴつに代わる筆記具としてであり、ノートに代わるパーソナルな電子ファイルとしてでした。そしてワープロは日本語そのものを変えるほどの影響力をもちはじめています。
 誕生以来、毎年倍増してきたワープロですが、昨年度の総出荷台数(もちろん日本国内分)は 215万8000台で前年比2%減と横ばいになりました。出荷金額も2100億円で前年比10%増ですから、大きな転換期をむかえたということがいえます。
 最終需要を2000万台とすれば、ワープロの普及率はすでに約35%に達しており、今後は情報ネットワークのシステム端末としての高度利用が本格的に問われると予想されます。ちなみに、昨年度に出荷されたワープロを価格帯で「20万円未満」と「20万円以上」に分けてみると、台数では87対13、金額では57対43となっています。

●オフィス用ワープロのキヤノン

 キヤノンは昭和55年の第1号機「キヤノワード55」以降、すべてのキヤノワードシリーズにおいて、文書の互換性を維持してきました。これはワープロメーカーとしては唯一例外的な存在といえます。
 10年前の文書ファイルが使えるということは、古いものを捨てないためにがんばってきたということではありません。すくなくとも10年前に、日本語ワードプロセッサーの未来像をスケッチできたからだと自負しています。
 ゼロからスタートしたワープロですから、各社とも手探りで新しい道をさぐり、実験的な技術を片っ端から商品に投入していくような進化競争を展開せざるをえませんでした。そこにおいても、キヤノンは多くの斬新なアイディアと技術的提案をつづけてきました。現在ではそなわっていてあたりまえとされる基本機能の多くが、キヤノワードから始まっているという事実は技術史において明らかです。
 もちろん、いまでは消えてしまったアイディアも多々ありますが、独自の技術でワープロの完成度を高めていこうという精神が、キヤノワードを今日まで支えてきました。
 キヤノンのワープロの昭和62年度のシェアは、日経産業新聞によると出荷台数で 9.9%の4位です。しかし、本年2月の社中央調査社による全国3500事業所のアンケート調査によると、5人以上の事業所におけるキヤノワードのシェアは、前年の第2位(15.3%)から第1位(16.0%)へと躍進しています。
 ワープロの進化の道をキヤノンもがんばって歩いてきました。そして目的地はまだ遠い……。とりあえず、10年を振り返ってみることにします。

●ワープロ元年=昭和54年(1979)

 3月に東芝が市販第1号のワープロ(JW-10)を発売しました。ひらがなで入力して漢字に変換するかな漢字変換方式は現在もワープーロ入力の基本となっています。東芝はそのインターフェースとして、戦前からのカナタイプのキーボード(JIS配列キーボード)を採用しました。
*東芝 JW-10…… 630万円
 5月のビジネスショーに出品された試作機をキーボードで見ると、全文字配列方式(アルプス、ぺんてる、日本ワードプロセッサ)、漢字コードのツーストローク入力方式(リコー)、表示選択方式(沖)と、インターフェースの模索期であったことがわかります。
 10月にキヤノンが試作機を発表して、日本語ワープロに対する基本的な考え方を示しました。これが翌55年発表のキヤノワード55で具体化されます。
 この年は12月にシャープが全文字配列ペンタッチ入力方式の書院 WD-3000を発売しています。
*シャープ書院 WD-3000…… 295万円

●ワープロ第2年=昭和55年(1980)

 2年目には、まず東芝の改良型(JW-10 モデル2)が出て、つづいて日本電気(NWP-20N)、沖電気(レターメイト80)、富士通(オアシス 100)が発売にこぎつけました。富士通は現在も同社の標準としている親指シフトキーボードを提案しました。
*東芝 JW-10モデル2…… 340万円
*日本電気 NWP-20N…… 425万円
*沖電気レターメイト80…… 185万円
*富士通オアシス 100…… 270万円
 キヤノンは12月にキヤノワード55を発売しましたが、これは、(1)ローマ字入力、(2)ブロック編集、(3)熱転写プリンタという画期的な機能を搭載したものになりました。
*キヤノワード55(CW-55)…… 260万円
 ローマ字入力は現在約70%のユーザーが利用しているという調査(情報処理学会)があるように、カナキーを押す代わりに英文タイプのアルファベットキーのうち19だけを利用してかな入力をするものです。
 ブロック編集は罫線で囲んだスペース内を個別に推敲・編集できる機能で、最初はキヤノン独自の用語でした。
*キヤノワード55の名称は誕生年の昭和55年にちなむもので、2桁シリーズは上位機として60、80などの名機を生み、普及機として45、35、40などに展開していきます。
 そして現在、ワープロの90%以上が採用している熱転写プリンタは、しばらくはキヤノンだけのものでした。べつに独占したわけではなく、他のワープロメーカーはパソコン用のワイヤードットインパクト方式のプリンターを採用していたのです。キヤノンだけが、あえて、ワープロはパソコンと違わなければいけないという理由から、静粛性と高品位で熱転写方式を選んだのです。もちろん、この第1号機から24ドットを採用しています。
 コンピューターの文書作成機能であるワードプロセッサーと、日本語を書くためのワープロは違うものだというキヤノンの基本理念は、このキヤノワード55を脚つき一体型とし、キーボードに向かうと表示画面が斜め下前方に見える人間工学的な設計になりました。これによって、ワープロとして初めてグッドデザイン賞を受賞することになりました。

ワープロ第3年=昭和56年(1981)

 この年は多くのワープロメーカーが誕生し、100万円以上、300万円以下の価格帯で、それぞれの第1号機が発売されました。この年に新しく登場したのは、松下通信、横河、三菱、日立、リコー、日本デジタルと記録されています。
*松下通信 JD-1000…… 298万円
*横河 WORDIX …… 235万円
*三菱 M 8510 …… 293万円
*日立 BW-20…… 250万円
*リコー RIPORT 600 …… 448万円

●ワープロ第4年=昭和57年(1982)

*リコー RIPORT 400 …… 270万円
*日本デジタル・文作くん…… 138万円
 キヤノンは2月にキヤノワード60を発売しました。価格は55と同じで、情報処理システム「ワードカルク」を標準装備。計算、グラフ、検索、並べ替えを完全自動化しました。
*キヤノワード60(CW-60)…… 260万円
 また、英文処理においてもワードラップ・アラウンド、ライト・アジャストなどの機能をととのえました。はやくも音響カプラーによる通信機能をそなえて、文書を電話で送信することを可能にしています。
 5月になると富士通が My OASYS を発売。これは75万円という破格の値段で、ワープロは 100万円を切る価格競争に突入します。
*富士通 My OASYS ……75万円
 それを追って、キヤノンは8月にキヤノワード45を発売。これは 100万円をわずかながら切りました。本体・キーボード・プリンタの分離型を採用し、ベストセラー機となりました。
*キヤノワード45(CW-45)……99万8000円
*日本タイプ・ハイライター……77万円
 均等割付機能などが新しく搭載されましたが、キヤノワード45の成功は10ポ、12ポ併用で毎秒30字印字の熱転写プリンターにありました。
*日本電気 NWP-10N……99万8000円
*日本デジタル・文作くん三世……97万円
 当時特許事務所が作成する正式文書は12ポ(4号相当)と定められ、和文タイプで打たれていました。そこに12ポで印字できるワープロが登場したのです。24ドットの熱転写方式が公文書印字として認められるや、たちまち特許事務所に普及、法律事務所などにも浸透していきました。
*リコー RIPORT 320 ……99万8000円
*東芝 TOSWORD JW-1 ……59万8000円
*日立・ワードパル 10 ……99万8000円
 ベストセラーになった背景には、もうひとつ、入力時の反応スピードの向上があります。内部メモリーを大きくしてシステムプログラムをフロッピーディスクから本体内にロードしたため、機械がだまりこんでウンウンうなるようなイライラが解消されました。システムプログラムが本体内にロードされる間、バッハのメヌエットが流れるといったことも評判になりました。
*この一括IPL(イニシャル・プログラム・ロード)方式は、昭和62年にキヤノワード400が RAM-disk を採用して、かな漢字の自動変換で驚異的なスピードアップを実現することになります。
 ワープロにおいては「ソフトを生かすハードをつくる」というキヤノワードの基本姿勢が、ここで多くのユーザーに理解されたのはさいわいでした。
 つづいて9月にはキヤノワード60Sを発売しました。
*キヤノワード60S(CW-60S) …… 230万円
 この年のもうひとつの新しい芽は、東芝の TOSWORD JW-1 でした。ポータブルタイプとはいえないまでも、液晶画面を採用して、その後のハンディワープロの原型を示しました。
*東芝 TOSWORD JW-1 ……59万8000円

●ワープロ第5年=昭和58年(1983)

 この年にはワープロの二分極化が起こります。キヤノワードミニという新しいポータブル・シリーズが誕生し、爆発的に売れたのです。
 ポータブルワープロは、前年の末に東芝が液晶画面を採用して先鞭をつけ、4月にシャープがペンタッチ式のものを出しました。キヤノンは11月発売と3番手ながら、ポータブルワープロの決定版になりました。
*ポータブルワープロの1〜3番機
*前年12月=東芝 TOSWORD JW-1 ……59万8000円
*4月=シャープ WD-800 ……49万8000円
*キヤノワードミニ 5(CM-5) ……29万8000円
 そのキヤノワード・ミニ5は価格が30万円を割ったことに加え、画期的な「ひらがき変換」が採用されたのです。まだ、かなを漢字に変換するのに精一杯の時代でしたから、ひらがなで入力しておいて、後から漢字に変換するという方式で、入力時に思考をさまたげない工夫をしました。現在のかな漢字自動変換から見れば幼稚なものですが、“かな入力”→“漢字変換”でユーザーの気分はそうとう楽になったはずです。
 ともかく、小さい、軽い、カンタンに加えて、24ドット明朝体の高品位文字とB4判までの用紙サイズを満たし、しかも指定位置印字で原稿用紙やカードへの印字も可能にしました。
 コストダウンは、当時、数万台ベースで生産していた電子タイプライターとの共通化などによって実現したのですが、このキヤノワードミニ5は爆発的に売れ、異常な人気で3カ月のバックオーダーをかかえたほどです。それによって、パーソナル&ポータブルワープロのブームに火をつける役回りになりました。

●早くもレーザープリンター

 キヤノワードシリーズのほうは、4月発売のキヤノワード45Sに、60に搭載されていた「ワードカルク」を標準装備しました。
*キヤノワード45S(CW-45S) …… 129万8000円
 そしてワープロ初のイメージリーダーを搭載し、イラストや写真を自由に取り込める現在のワープロの先駆となりました。画期的だったのは、その読み取り部を熱転写用リボンカセットと交換式にして、プリンターに内蔵したことです。
 おなじ4月に、キヤノワード高速処理システムを発売しましたが、これはキヤノワード60Sとレーザープリンター(LBP-10CW)を連動させたもので、大量文書・高速処理のアウトプットを可能にしました。そしてこれがワープロ初のレーザープリンターとなり、また32ドット印字の先駆けになりました。
*キヤノワード高速処理システム…… 395万円
 コンパクト・レーザープリンターは、現在キヤノンがシェアの80%を占めています。きれいで静か、かつ高速で大量処理にも対応するため、最新のDTP(デスクトップパブリッシング)の主要な出力方式になっています。この高価なレーザープリンターをワープロにつけたのは、キヤノンのテーマのひとつである「高速・高品位」を満たすものであったからです。なお、高品位印字については熱転写プリンターで、10万円台の機種から56ドットを実現しています。この、56ドット印字ヘッドは 360dpi(1インチあたり 360点)という密度によって、コンパクトレーザープリンタとほぼ同等の印字品位を実現しています。
 同じ11月にはキヤノワード35が登場。見やすいチルト機構つき12インチCRT をそなえ、紙面と同じ感じのリアルレイアウト表示を可能にしました。
*キヤノワード35(CW-35)……72万5000円

●ワープロ第6年=昭和59年(1984)

 ワープロのシェアでは富士通がずっとトップを走っていましたが、この年、キヤノンがトップに立ちます。その主役はミニ5、ワードボーイ10、ミニ3のパーソナル御三家でした。
 この年20万円を切ったワープロは以下のとおりです。
*4月=ブラザー・ピコワード……8万8000円
*7月=ワードボーイ10(PW-10)……14万8000円
*7月=キヤノワードミニ3(CM-3) ……18万9000円
*10月=シルバー精工デスクワード JX-20……14万8000円
 新しいシリーズのワードボーイ10はバッテリー駆動のポータブル機で、当時これに先行するのはブラザーのピコワードだけでした。しかしピコワードは電子タイプライターというべきものでした。
 ワードボーイ10は14万8000円という価格でファミリーユースをねらい、キーボードに50音配列を採用して、そのはしりになりました。
 同時に、キヤノワードのポータブル機ではミニ3も発売され、こちらは20万円を切りました。
 キヤノンは5月にキヤノワード35Eを発売。これは35の普及版ですが、レイアウト機能を3段階にして、(1)リアルレイアウト(用紙のイメージ。現在もキヤノワードの特徴となっている)、(2)1/2 縮小表示、(3)レイアウトパターン表示としました。現在のパーソナルワープロではごく一般的に採用されている組み合わせです。
*キヤノワード35E(CW-35E)……54万8000円
 7月にはもう1機種、キヤノワード40が発売されています。これは、3つの入力モードとして漢字指定変換と文節変換に、新しい「一括変換」を加えたものです。世界初のA3判大型用紙対応の熱転写プリンタ、「ワードカルク」の標準装備、8種類の文字といった多機能になりました。
*キヤノワード40(CW-40)……89万8000円
 8月に富士通がビジネス用ワープロの端末機能をもつポータブル機を発売して、またひとつの方向を示しました。
*富士通 OASYS Lite ……22万円

●ワープロ第7年=昭和60年(1985)

 ワープロがどこまで安くなるのか、キヤノンとカシオがシーソーゲームを展開した年になりました。低価格競争は2月発売のキヤノン・ワードボーイPW-10J (8万8000円)で幕を開け、8月には常識を超えた価格のワードボーイPW-10E(4万9800円)を出しました。
 この年10万円を切ったワープロは以下のとおりです。
*2月=キヤノン・ワードボーイ PW-10J……8万8000円
*3月=ブラザー NEWピコワード 200……9万8000円
*5月=日立 MINE=FW-200……9万8000円
*6月=キヤノン・ワードボーイ PW-10S……9万8000円
*6月=カシオ HW-120 ……8万9000円
*6月=ソニー HW-30……9万8000円
*7月=富士通 OASYS Lite S ……8万2000円
*7月=カシオ HW-100 ……5万8000円
*7月=東芝 Rupo JW-R10……9万9800円
*7月=キヤノワードミニ3L(CW-3L) ……9万9500円
*8月=キヤノン・ワードボーイ PW-10E……4万9800円
*9月=リコー・マイリポート 15 ……9万9800円
*10月=キヤノワード PEN 24 ……7万4800円
*10月=九州松下パナワードミニ7……7万4800円
*11月=シャープ WD-50/55 ……6万9800円
*11月=日本電気・文豪mini3……7万9800円
*11月=キヤノン・ワードボーイ PW-20……4万9800円
*11月=富士通 OASYS Lite U ……4万9800円
*11月=富士通 OASYS Lite K ……7万9800円
*11月=富士通 OASYS Lite M ……5万9800円
*11月=キヤノン・ワードボーイ PW-30……5万9800円
*11月=ブラザー・ピコワード 210……7万9800円
*11月=リコー・マイリポート 5……4万3800円
*12月=カシオ HW-110 ……3万9800円
*12月=カシオ HW-700 ……6万9800円
*12月=エプソン・ワードバンク S……9万9800円

 キヤノワードの新しいPENシリーズは英文タイプライター機能をもち24ドット明朝体を打ち出すPEN 24 もありました。
 またミニシリーズを見ると、ミニ5の廉価版ミニ5L(22万円)、つづいて上位機種のミニ7(29万8000円)を発売。ミニ7はワープロで初めて 3.5インチのフロッピーディスクドライブを内蔵しました。ちなみに、ミニ5はオーディオテープによる外部記憶を可能にしていましたが、それもワープロでは初めての採用でした。ミニシリーズは8月にミニ3L(9万9800円)で10万円を割ります。
 一方では、キヤノワードの最上位機種キヤノワード80が登場します。キヤノワード40で新しく採用した一括変換の変換率が、この80で大幅に向上しました。
*キヤノワード80(PW-80)…… 138万円
 キヤノワード80のもうひとつの特徴は記憶容量が大きいハードディスクを搭載したことで、電源ONでクイックスタート。これもまた先駆けで、価格も常識破りになりました。
 キヤノワード35Eの価格をさらに下げたキヤノワード30は、白い画面に黒い文字が描かれるペーパーホワイトのCRT を搭載しました。「ペーパーホワイト」もこのときのキヤノンのネーミングが、のちに一般名称になります。同時にキヤノワード40Sも発売されています。
*キヤノワード30(CW-30)……39万円
*キヤノワード40S(CW-40S) ……79万8000円
 キヤノンがこの1年に発売したワープロは合計13機種になりますが、この年に発売されたワープロは全部で90種を超え、メーカーもエプソン、沖電気、カシオ、九州松下、サンヨー、シャープ、シルバー精工、ソニー、東芝、日本タイプ、日本デジタル、日本電気、日立、富士ゼロックス、富士通、ブラザー、プラス、松下通信、松下電器、ミノルタ、リコー、と20社を超えています。
 そのなかでは、12月に発売になったカシオのカシオワードHW-110が3万9800円でこの年の最低価格を記録しました。
 しかし、このなかからベストセラー機として頭をもたげたのは12月に発売になった東芝のルポ50でした。これは40字×3行の液晶ディスプレイをそなえ、 3.5インチのフロッピーディスクドライブを内蔵。24ドットで JIS第2水準漢字もサポート。印字も縦・横印刷でB4判まで可能といったことから、ルポ旋風を巻き起こしたのです。
*東芝・ルポ50(JW-R50F)……12万8000円

●ワープロ第8年=昭和61年(1986)

 前年、こづかいで買えるまでになったワープロが「ワープロブーム」を巻き起こし、この年も70種を超えるワープロが新しく生まれました。ワープロメーカーの顔ぶれもほぼ固定し、24ドット印字と JIS第2水準のサポート、文節変換・複文節変換に大型ディスプレーといったユーザーの基本的な要求がかなえられるようになりました。
 この年はサン・キュッ・パのカシオをキヤノンが抜き返して明けましたが、キヤノンは早くも低価格競争から抜け出て、キヤノワードの3桁シリーズの充実をはかります。その意味でも、この年はワープロの本格普及の始まりとなりました。
 パーソナルワープロのおおよその水準を見てみると、3月発売のエプソン・ワードバンクJが JIS第2水準までの漢字をROM で搭載し、4月、松下電器が4万円台で初めての24ドット印字・文節変換を実現しています。
*エプソン・ワードバンクJ……13万8000円
*松下電器パナワード FW-K5……4万9500円
 11月になると、シャープが3万円台で24ドット・文節変換となり、同じ月に富士通はROM カードによる機能拡張方式を提案しました。
*シャープ WD-20/25 ……3万5000円
*富士通の OASYS Lite F-ROM 7 ……11万8000円
 さてキヤノンは、3月にワードボーイ PW-15(3万8000円)を出して低価格競争には終止符を打ち、以後ポータブルタイプも性能の向上をはかり、11月には32ドット(10.5ポ)印字のワードボーイ32を出すにいたります。
*キヤノワード PEN 16 (CW PEN-16)……3万9800円
*ワードボーイ PW-15……3万8000円
*キヤノワード PEN 24E(CW PEN-16)……5万4800円
*ワードボーイ PW-50……5万9800円
*キヤノワードミニ8(CW-8)……7万4800円
*キヤノワードミニ9(CM-9)……10万8000円
*ワードボーイPW-60 ……5万9800円
*キヤノワード360(CW-360) ……24万8000円
*ワードボーイ32(PW-70)……6万9800円
 キヤノワードに目を向けると、3桁の数字で 3.5インチフロッピーデッキの搭載を示す新シリーズのトップパッターは、3月のキヤノワード350。プリンター内蔵で12インチCRT がついた「ハイコンパクトキュービックスタイル」がユニークでした。得意のデータ処理機能は表計算、偏差値・関数計算からのグラフ自動作成、データのソート・セレクト・クラスに加えて、ページ検索やラベル編集などが可能でした。
*キヤノワード350(CW-350) ……22万8000円
 つづいて5月には2デッキのキヤノワード450。350のビジネス仕様という位置づけです。7月にはキヤノワード360で辞書をROM 化して漢字の一括変換のスピードアップをはかりました。
*キヤノワード450(CW-450) ……44万8000円
 10月発売のキヤノワード350Sは画像フロッピー付き、11月のキヤノワード460はパソコンの標準システムとなっているMS-DOS対応となりました。
*キヤノワード350S(CW-350S)……18万8000円
*キヤノワード460(CW-460) ……48万8000円
 そして11月にはキヤノワード550が「超高精細・大型表示画面」で登場します。32ドット・50CPS(字/秒)の高品位・高速印刷と、解像度をアップした14インチCRT でのA3横サイズまでの縮小編集機能。そしてイメージリーダーは16階調になり、イラスト・写真の読み取りも可能になりました。そしてワープロ初のFAX通信機能搭載。
 このキヤノワード550のもうひとつの特徴は、CPUに究極の16ビットといわれる80286 をいちはやく採用したことです。これはパソコンに一歩先んじた採用でした。これで処理スピードはさらに上がりました。
*キヤノワード550(CW-550) ……97万8000円
 また、3月に発売になったキヤノワード80Sは漢字変換モードに全自動一括変換を加え、郵政省のJUST-PC に対応する「キヤノワード通信」を採用しました。音響カプラーによる通信は昭和57年のキヤノワード60からですが、モデムの使用で高速になりました。この段階で、パーソナル機とビジネス機がすべて通信でつながるのはキヤノンだけでした。
*キヤノワード80S(CW-80S) …… 138万円

●ワープロ第9年=昭和62年(1987)

 新しいシリーズの登場です。ワンボックスタイプのα-10 は3月の発売で、36ドットヘッドを搭載した4色自動カラープリンターが画期的でした。ポータブルのキヤノワードミニシリーズはミニ5以来のスタイリングでしたが、これは大胆なラジカセ風になりました。
*キヤノワードα-10 ……15万8000円
 つづいて4月には、B4フル表示の12インチCRT をそなえたα-100が発売になりました。α-10 の書斎型という位置づけです。
*キヤノワードα-100……18万8000円
 αシリーズは9月にα-1、11月にα-10 のステップアップ機α-20 が出ました。とくにα-20 はバックライトつきの大型液晶画面をそなえ、56ドット(12ポ)印字を可能にしました。システムROM による高速処理と3変換モード全自動一括変換、4色自動カラープリンター、パソコン&キヤノワード通信といったものが、αシリーズの個性となりました。
*キヤノワードα-1……12万8000円
*キヤノワードα-20 ……19万8000円
 8月に発売になったキヤノワード400はオールインワンスタイルの本格ビジネスワープロで、超高精細56ドットヘッドを搭載。RAM-diskによる一括IPL (イニシャル・プログラム・ロード)で高速処理が可能になり、新方式の全自動即時変換が実用化しました。
*キヤノワード400(CW-400) ……35万8000円
*キヤノワード500(CW-500) ……60万8000円
 また、キヤノワード500は400のプリンターバリエーション機で、コストパフォーマンスのよいキヤノンのコンパクト・レーザープリンターを接続することが可能になりました。
 12月に登場したのがキヤノワードシリーズの最高級機・プロ1000。これはすでにデスクトップパブリッシング (DTP)の領域にあるワープロで、高度な編集機能と、印刷機能をそなえています。ワープロはわずか9年の間に、 1ビジネス、 2パーソナル、 3DTPにはっきりと3極化してきたといえます。あるいは、体ばかりでかかったワープロが、簡易印刷機にまで成長してしまったともいえます。
*キヤノワード・プロ1000…… 198万円

●ワープロ第10年=昭和63年(1988)

 2月に出たα-250はパソコンユーザーに浸透しました。パソコン標準MS-DOS対応のためPC98シリーズとコンパチになり、21万8000円でマルチプランが使えることから、一番安いMS-DOSパソコンとして有名になったのです。
*キヤノワードα-250……21万8000円
*キヤノワードα-200……16万8000円
 つづいてα-20 の普及版α-200が発売されました。
 3月にはキヤノワード700が登場。文書ワーク支援システム「CACS」搭載を搭載して、用例変換、類義語検索、郵便番号・地名索引などを活用することができるようになりました。
 ワープロのAI(人口知能)化をはかる支援ツールとして、キヤノンのCACS(Canoword AI Composition Suporting-system) は、文書作成の流れを構想段階→入力段階→推敲段階→校正段階などに分類し、各段階を支援するツール群を提供しようというものです。入力段階ではかな漢字の自動変換を有効に支援し、すでに名詞の意味分類から助詞情報までを判断するにいたっています。つぎの課題として、推敲/校正段階の強力な支援機能も開発中です。「CACS」は順次システムを拡張してインテリジェンスを高めていきます。
 キヤノワード700はとくに1024×704 ドットの高密度画面をそなえ、ハードディスクと RAM-disk で高速文書ワークを実現しています。2文書編集機能、章編集、印刷イメージ同時表示なども可能になりました。
*キヤノワード700(CW-700) ……82万0000円
 7月になると4桁のキヤノワード4000が38万8000円という価格で登場しました。これはハードディスクや各種検索機能、MS-DOS対応などがオプションとなっただけで、700の弟分にあたります。
*キヤノワード4000(CW-4000)……38万8000円


●インテリジェントなα新シリーズ

 10月に発売になったキヤノワードα-3 SUPERは文書支援システム「CACS」によって、かな漢字変換の(1)全自動即時変換、(2)全自動一括変換、(3)指定変換に加えて、(1)用例変換、(2)文体変換のAI変換を利用することができるようになりました。
*キヤノワードα-3 Super……14万8000円
 また、56ドットのマルチカラー印刷では12ポ(56ドット)、10.5ポ(48ドット)、7ポ(32ドット)と3種類の文字を使いわけることができます。カラーは黒、赤、青、緑、に加えてイエロー、マゼンタ、シアンの合計7色を自動印刷しますから、掛け合わせで色をつくるのも簡単になりました。
 画像入力ではイメージリーダーでの平面画像の読み込みに加えて、テレビやビデオの画面、あるいはフロッピーカメラでとらえた立体画像をビデオインターフェイスから取り込めます。
 ディスプレーは高密度のCRT で50字×20行を通常表示とし、1/2 縮小時には 100字×41行で編集ができます。
 また、α-330は12インチCRT をそなえ、3.5 インチフロッピーの2デッキタイプ。パソコン機能を活用して表計算、表計算型データベース、グラフ作成などをおこなうことができます。
*キヤノワードα-330……21万8000円



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