キヤノン通信――54号 Canonの腕をご覧ぜよ 「双眼鏡革命」宣言────新技術を古い器に盛りつける?──1995.7(入稿原稿)


【キヤノン通信 54号 1995.7】

【特集】Canonの腕をご覧ぜよ 「双眼鏡革命」宣言────新技術を古い器に盛りつける?


■双眼鏡はキヤノンの本気に値するか?

 私はここ数年、双眼鏡に興味をもっている。
 きっかけは双眼鏡が肉眼の臨場感を増幅してくれる道具だということに気づいたことだ。ものを大きく見たいとか、引き寄せて見たいという具体的な要求のまえに、風景を観賞するのに双眼鏡という道具を使うと、見えなかったものが見えてくる。というより、気づかなかったものが見えてくる、ということを「発見」したのだった。むかし、子どもの頃に、指眼鏡をつくって見たような集中度の高まりを、双眼鏡はアシストしてくれる。以来、山登りにも積極的に持ち歩くし、列車、船、飛行機からも使う。
 自分でも使い、人にもすすめるようになってみると、日本人の文化にはまだ双眼鏡というものがあまり根付いていないということに気づき始めた(日本はいま世界中の双眼鏡を作っているというのにネ)。
 どういうところでそれを感じるかというと、多くの人が、望遠鏡(単眼鏡)と双眼鏡の基本的な違いというものに気づいていない。登山の講師などをやっているので参加者に双眼鏡をのぞいてもらうことも多いのだが、両目でしっかりと立体視できないまま「よく見えるわ」などと感激している人がじつに多いのだ。立体視――そう、双眼鏡が3Dビューの道具であるという認識がまったく欠如している人のなんと多いことか。
 双眼鏡を突然貸してもらってとまどってしまったというのはしょうがないとしても、家からもってきた双眼鏡の光軸がずれていたり、レンズにカビが生えていてまともに見える状態でないものでも、持ち主自身には壊れている、使いものにならないという認識がない、などということは日常茶飯。もっと驚くことには、双眼鏡を売っている店の見本品の中に、堂々たる光軸ズレ(像がきちんと二重に見えるのだ!)が並べられていたりする。
 そんな状態だからか、円高の影響もあるのだろう、みごとな投げ売りが始まっている。1万円札1枚でケッコウな双眼鏡が買えるのである。もちろん私も目配りを心がけてはいるのだが、実際に手に取ってのぞいてみると吐き気をもよおすようなシロモノばかり、いまだに掘り出しモノにはぶつかっていない。
 なんだか夜店のたたき売り商品を見ているみたいで、双眼鏡というものがたかだかその程度の道具ということになりはしないか、手元にあってもあまり役に立たないモノの代表のようになりはしないか。ファンとしてはしだいにストレスがたまっていく感じなのだ。
 ちょうどそういう時期に、キヤノンが双眼鏡市場に進出した。いったいどういう考えで、いまごろ、わざわざ勝負に出てきたのか。そのへんをじっくり聞きたいという個人的な興味から、この取材を強く希望したのである。
 キヤノン双眼鏡のフラッグシップとなるのは「12×36 IS」という名前で、「12」が倍率、「36」が前面に見える対物レンズの有効口径(mm)を表わしている。一般にはなじみにくい略号ではあるが、双眼鏡を表わす伝統的な表示法をそのまま製品名として使っている。「IS」はイメージ・スタビライザー(画像安定装置)の略で手ブレ補正機能付きということ。
 したがって、双眼鏡を知っている人なら、これが(10倍を超えることから)高めの倍率で、(対物レンズが40mmに満たないところから)セミコンパクトなつくりになっており、ずんぐりしたボディの中にキヤノンお得意の手ブレ防止機能とその電源を内蔵している……というふうに読むだろう。
 ただし私は1年半ほど前に「キヤノンが高品位な手ブレ補正を実現した双眼鏡を開発」(具体的な発売日、価格などは未定)というニュースリリース(1993年9月13日付)を読んでいるので、製品化された「12×36 IS」はそのときの「10×50」と「15×50」のコンビネーションから大きく妥協したという印象をもっていた。本当のところはどうなのだろうか?
 キヤノンがどこまで本気で双眼鏡の過当競争の渦中に入り込んでいこうとしているのかは、もちろん私が一番最初に確かめておきたいことがらだった。
 その点に関しては設計チームのチームリーダー・飯塚俊美さん(レンズ開発センター・主任研究員)がきっぱりとこういった。
「新技術を投入して双眼鏡というもの自体を変えていくことができる、という見込みがあるのでなければ、私たちがわざわざ手を出す必要などありません」
 その新技術というのは、バリアングル・プリズムである。1992年に完成し、1993年1月にはレンズ交換式8ミリビデオカメラLX-1用の10倍ズームレンズに搭載、7月には8ミリビデオカメラUCV1Hiに内蔵された新技術。……ということからすれば、その年の9月に同じバリアングル・プリズムを使った手ブレ防止双眼鏡が開発され、技術発表されたのも、一連の技術開発であったことがわかる。
 もっとも、飯塚さんによれば手ブレ防止双眼鏡の開発はすでに1980年代からやっていて、そこではバリアングル・パワーレンズという屈折率を変える一種の液体レンズの応用技術として考えていたという。
「バリアングル・プリズムの完成によって、その応用を光学系、撮影系を問わず、人間が手に持って見るモノなら何にでも応用してみるという構えでした」
 白状すれば、開発対象は最初から双眼鏡だったわけではない、ということのようだ。
「先に考えたのは単眼鏡(地上望遠鏡)だったのですが、バードウォッチングでも倍率の高い単眼鏡は三脚につけて使うのが常識となっていること、市場がきわめて限られていることから、結果として双眼鏡が本命となったのです」
 ところがいざ双眼鏡ということになって、飯塚さんたちをワクワクさせる条件が次々に見えてきた。
「双眼鏡は、じつは望遠鏡が発明されるとすぐに作られているのです。17世紀の初めです。そして18世紀の終わりにカール・ツァイスによって近代的な双眼鏡が作られて以来100年間、ほとんど変化なしに今日まで続いているのです。双眼鏡に関する特許も調べてみましたが、新しい発明というのはゼロに等しい。その旧態依然たる双眼鏡を、最新の光学技術で変えたいという気持ちがしだいに強くなってきました」
 キヤノンの光学技術によって双眼鏡がどこまで飛躍できるかという可能性については以下詳しく解説していきたいが、ここでは双眼鏡開発のもう一方の牽引力となった総合計画の中心人物、商品企画担当の田中一弘さん(レンズ事業開発室・主任研究員)の分析を紹介しておきたい。田中さんは双眼鏡の価格と性能の分布域を次のように見極めたのだ。
(1)1〜2万円クラス 一応見えるというレベル
(2)3〜5万円クラス まともな光学性能をそなえている
(3)7〜9万円クラス 優れた光学性能の製品
(4)15〜25万円クラス 優れた光学性能とディテールへの十分なこだわり
(5)75〜100万円クラス 手ブレ防止(価格はその後50〜75万円に変更)
 たしかに、7万円台にはツァイスのポケット双眼鏡の傑作「ポケットグラス」の8倍と10倍がある(最近3割ほどの値下げが行われたようだが)。8万円クラスには日本の主要メーカーの7×50が並んでおり、9万円台にはツァイスのポケット双眼鏡の新シリーズがある。
 15〜25万円という切り方をすると、ここはドイツ勢のそろい踏みだ。口径で40mm、42mm、50mm、56mm、倍率はスタンダードな7倍、8倍、10倍。
「目標はツァイスでした。ツァイスには手持ち双眼鏡の決定版といわれている10×40(10倍で口径40mm、価格201,000円。)があります。ライカの10×42(価格155,000円。)もなかなかいいのですが、光学性能ではそのあたりと競い合うという設定です。それから手ブレ防止双眼鏡としてはフジノンのスタビスコープ(当時は100万円。現在は12×40が498,000円、16×40が548,000円)とツァイスの20×60S(750,000円)がありましたから、当然そのレベルをクリア。それでいて価格的にも一般ユーザーの手に届くもの、とターゲットを絞っていったのです」
 最高の光学性能と最新の防振機能を搭載して価格的には田中さんが分類した「優れた光学性能とディテールへの十分なこだわり」の15〜25万円クラスのものという方向が決定したようである。そしてもうひとつ、重さという条件をつけてあったという。それは防振双眼鏡がフジノンで1,800g、ツァイスで1,660gであるところから、それより軽いものにするというものだった。
 そのような指針によって10×50と15×50という試作機ができるのだが、重さは10倍のほうが1,700g、15倍では2,100gになってしまった。田中さんはそこから再度、マーケッティングリサーチによって具体的な商品を絞り込んでいった。
「たとえば、バードウォッチャーのみなさんにいろいろご意見を頂戴しました。するとみなさん双眼鏡は1,000gを超えると重いと感じるというのです」
 たしかに、双眼鏡は軽ければ軽いにこしたことはない。重さが1,8000g(電池別)のフジノンの防振双眼鏡はだから、右手が疲れたら天地をひっくり返して左手でも構えられる(その逆も可)という左右両用になっている。船舶・航空機からのオールラウンドな使用を想定して、片手をいつもあけておきたいという要望もあるからだ。。
 かくして、キヤノンが本気で取り組むに値する領域が、双眼鏡の世界にもあるようだった。

*上の写真がキヤノン双眼鏡のフラッグシップ機「12×36 IS」(125,000円)。キヤノンが最新の光学技術を投入して世界の最高級双眼鏡に突きつけた挑戦状。最高の光学性能と、実用的な手ブレ補正機構を搭載して一般ユーザーの使用を可能にするコンパクトさにまとめあげた。

*下の写真に写っているのは普及タイプのキヤノン双眼鏡。上段にあるのが「8×23AWP」(Aはアスフェリカル=非球面レンズ使用、WPは防水。23,000円)と「8×23A」(15,000円)。下段は左から「10×25A」(22,000円)と「8×25A」(22,000円)と「8×32WP」(38,000円)

*「12×36 IS」の透視概観図。対物レンズと(正立像を得るための)ダハプリズムの間に、手ブレによる光軸のタテ・ヨコのズレを瞬時に補正するバリアングル・プリズムのユニットをはさんである。このバリアングル・プリズムは2枚の光学板硝子を蛇腹状の特殊フィルムで接続して高屈折率液体を満たしたもので、振動ジャイロセンサーで検知した振動量をプリズムの頂角の変化によって吸収して補正する。

*キヤノン双眼鏡12×36 ISの基本性能は以下の通り
倍率 12倍
対物レンズ有効口径 36mm(43mmのカメラ用フィルターネジが切ってあるので各種フィルター使用可能)
実視界 5.6度(1000mにおける視界98m)
レンズ構成 対物レンズ1群2枚、接眼レンズ5群7枚(広視界型)
射出ひとみ径 3mm
アイレリーフ 15mm
プリズム形式 ダハプリズム
コーティング スーパースペクトラコーティング
眼幅調節範囲 60〜70mm
ピント調整方式 接眼レンズ繰り出し方式で、ピント調整つまみによるマニュアルフォーカス
左右視度調節 右眼側接眼レンズ繰り出し方式により、±3Dpt
最短合焦距離 3.7m(接眼レンズ繰り出し量5.9mm)
大きさ 幅141×高さ169×厚さ73mm
重量 890g(電池別)
手ブレ補正機能 バリアングル・プリズムによる光学補正。補正角度±0.9度
振動検知方式 振動ジャイロセンサー×2(ヨー・ピッチ)
消費電力 1.2w
電源 単3形乾電池×2本。バッテリーチェックは上部インジケーターランプ(LED)点灯による
作動保証温湿度範囲 手ブレ補正機構の作動時間は、常温(25℃でアルカリ電池1.5時間、リチウム電池7時間、低温(-10℃)ではアルカリ電池5分、リチウム電池3時間。

【表1】代表的な双眼鏡の12ブランド、総計234機種の双眼鏡を現行カタログから書き抜いて、とりあえず価格順に並べてみた。双眼鏡の価格は倍率とか口径とほとんど相関関係をもっていない。ドイツの3ブランドに★印をつけてみた。
9,800円 6倍×16mm ビクセン
────1万円────
11,000円 7倍×20mm ペンタックス
12,000円 7倍×20mm オリンパス
12,000円 7倍×20mm オリンパス
12,000円 7倍×21mm ペンタックス
12,000円 8倍×21mm ケンコー
13,000円 9倍×21mm ペンタックス
13,000円 9倍×20mm ペンタックス
13,800円 6倍×20mm カートン
14,000円 8倍×22mm ビクセン
14,000円 8倍×24mm ビクセン
14,000円 9倍×20mm オリンパス
14,800円 8倍×20mm カートン
14,800円 8倍×23mm ミノルタ
15,000円 7倍×20mm ニコン
15,000円 8倍×23mm キヤノン
15,000円 8倍×21mm ケンコー
15,000円 8倍×24mm ペンタックス
15,000円 9倍×25mm ニコン
15,500円 8倍×24mm ビクセン
15,500円 10倍×24mm ビクセン
16,000円 8倍×24mm オリンパス
16,000円 8倍×21mm ケンコー
16,000円 8倍×25mm ケンコー
16,000円 8倍×24mm オリンパス
16,000円 10倍×25mm ビクセン
16,500円 5倍×20mm カートン
16,500円 8倍×30mm ケンコー
16,500円 8倍×30mm ビクセン
16,500円 10倍×24mm ビクセン
16,800円 10倍×23mm ミノルタ
17,000円 8倍×21mm ケンコー
17,000円 8倍×32mm カートン
17,000円 10倍×30mm ビクセン
17,000円 10倍×21mm ケンコー
17,000円 10倍×24mm ペンタックス
17,500円 10倍×40mm ケンコー
18,000円 8倍×24mm ケンコー
18,000円 8倍×25mm ケンコー
18,000円 10倍×25mm ケンコー
18,000円 10倍×24mm オリンパス
18,000円 12倍×40mm ビクセン
18,500円 7倍×50mm ケンコー
18,500円 7倍×50mm ビクセン
18,500円 8倍×20mm カートン
18,500円 10倍×40mm カートン
18,800円 8倍×23mm ニコン
19,000円 10倍×24mm ケンコー
19,000円 10倍×21mm ケンコー
19,000円 10倍×50mm ビクセン
19,500円 12倍×50mm ケンコー
19,500円 7〜15倍×25mm ビクセン
19,800円 7倍×18mm ビクセン
────2万円────
20,000円 7倍×20mm ペンタックス
20,000円 8倍×22mm キヤノン
20,000円 8倍×20mm ニコン
20,000円 8倍×24mm ペンタックス
20,000円 10倍×25mm ケンコー
20,000円 10倍×50mm カートン
20,000円 12倍×24mm ペンタックス
20,000円 6〜12倍×25mm カートン
20,800円 10倍×25mm ニコン
21,000円 6倍×18mm ミノルタ
21,000円 8倍×20mm ビクセン
21,000円 8倍×22mm オリンパス
21,000円 10倍×25mm ケンコー
21,000円 20倍×50mm ケンコー
21,000円 20倍×50mm ビクセン
22,000円 8倍×23mm ミノルタ
22,000円 10倍×25mm キヤノン
22,000円 10倍×25mm ニコン
22,000円 10倍×24mm ペンタックス
22,000円 12倍×25mm ケンコー
22,000円 8〜17倍×25mm カートン
22,000円 8〜17倍×25mm ミノルタ
23,000円 8倍×23mm キヤノン
23,000円 9倍×21mm ケンコー
23,000円 9倍×20mm ペンタックス
23,800円 8倍×25mm ビクセン
23,800円 9倍×20mm ビクセン
24,000円 7倍×35mm ペンタックス
24,000円 10倍×24mm オリンパス
24,800円 8倍×22mm ミノルタ
25,000円 7倍×21mm カートン
25,000円 8倍×23mm ニコン
25,000円 9倍×21mm ケンコー
25,000円 16倍×24mm ペンタックス
25,000円 8〜17倍×40mm カートン
26,000円 8倍×40mm ペンタックス
26,000円 10倍×23mm ミノルタ
26,000円 7〜21倍×40mm ケンコー
26,000円 7〜21倍×40mm ビクセン
26,500円 8倍×24mm カートン
27,000円 8倍×32mm ケンコー
27,000円 8倍×32mm ビクセン
27,000円 10倍×25mm ニコン
27,500円 7倍×42mm ケンコー
27,500円 8倍×23mm ニコン
27,800円 8倍×30mm ビクセン
27,800円 8倍×32mm ビクセン
28,000円 7倍×50mm ペンタックス
28,000円 8倍×42mm ケンコー
28,000円 8倍×42mm ビクセン
28,000円 8倍×18mm ミノルタ
28,500円 7倍×50mm ケンコー
28,500円 10倍×42mm ケンコー
28,500円 10倍×42mm ビクセン
29,000円 8倍×23mm ミノルタ
29,000円 10倍×50mm ペンタックス
29,000円 8〜24倍×50mm ケンコー
29,000円 8〜24倍×50mm ビクセン
29,500円 10倍×50mm ケンコー
29,500円 10倍×30mm カートン
29,500円 10倍×25mm ニコン
29,800円 10倍×25mm ミノルタ
29,800円 10倍×42mm ビクセン
29,800円 8〜17倍×25mm ケンコー
────3万円────
30,000円 12倍×50mm ケンコー
30,000円 10〜30倍×50mm カートン
31,000円 7倍×50mm ビクセン
31,000円 12倍×50mm ペンタックス
32,000円 8倍×25mm カートン
32,800円 8倍×42mm ケンコー
32,800円 7〜21倍×50mm ミノルタ
32,800円 8〜20倍×25mm ケンコー
33,000円 8倍×56mm ビクセン
33,000円 16倍×50mm ペンタックス
33,800円 9〜21倍×25mm ケンコー
34,000円 10倍×23mm ミノルタ
34,000円 10〜30倍×50mm ケンコー
34,800円 8倍×42mm ケンコー
35,000円 8倍×30mm カートン
35,500円 7倍×35mm ニコン
35,800円 8〜25倍×25mm ケンコー
36,000円 7倍×50mm ビクセン
37,000円 8倍×30mm ニコン
38,000円 7倍×42mm カートン
38,000円 7倍×50mm カートン
38,000円 8倍×30mm シュタイナー★
38,000円 8倍×32mm キヤノン
38,500円 7倍×50mm ビクセン
38,500円 10倍×50mm ビクセン
39,000円 7倍×50mm ケンコー
────4万円────
40,000円 8倍×42mm カートン
40,000円 10倍×35mm ニコン
41,000円 7倍×50mm フジノン
41,000円 7倍×50mm ミノルタ
42,000円 7倍×50mm ニコン
42,000円 7倍×50mm ビクセン
43,000円 4倍×12mm ツァイス★
43,000円 4倍×18mm ツァイス★
43,000円 8倍×42mm ペンタックス
43,000円 10倍×42mm カートン
44,000円 12倍×40mm ニコン
44,500円 7倍×50mm フジノン
46,000円 7倍×50mm ニコン
46,000円 8倍×32mm ニコン
46,000円 10倍×42mm ペンタックス
46,800円 6倍×30mm フジノン
47,000円 8倍×30mm シュタイナー★
47,000円 8倍×20mm ライカ★
47,000円 8倍×30mm ニコン
47,000円 6〜12倍×24mm ニコン
48,000円 6.5倍×44mm ビクセン
48,000円 10倍×42mm ミノルタ
49,000円 10倍×40mm ニコン
49,500円 9.5倍×44mm ビクセン
49,500円 15倍×70mm ビクセン
49,800円 8倍×30mm フジノン
────5万円────
50,000円 12倍×42mm ペンタックス
51,800円 7倍×50mm フジノン
52,000円 7倍×50mm カートン
52,000円 8倍×20mm ライカ★
52,000円 10倍×25mm ライカ★
53,000円 11倍×80mm ビクセン
55,000円 20倍×80mm ビクセン
57,000円 10倍×25mm ライカ★
57,000円 30倍×80mm ビクセン
────6万円────
60,000円 8倍×56mm ペンタックス
63,000円 10倍×70mm フジノン
65,000円 11倍×80mm ケンコー
66,000円 6倍×30mm シュタイナー★
68,000円 9倍×63mm ペンタックス
68,000円 8〜16倍×40mm ニコン
────7万円────
72,000円 20倍×80mm ケンコー
72,000円 8倍×20mm ツァイス★
75,000円 8倍×30mm シュタイナー★
75,000円 10倍×70mm ニコン
77,000円 7倍×50mm フジノン
79,000円 10倍×25mm ツァイス★
────8万円────
80,000円 7倍×50mm フジノン
85,000円 7倍×50mm ペンタックス
85,000円 7倍×50mm ニコン
87,300円 7倍×50mm フジノン
88,000円 9倍×40mm シュタイナー★
89,000円 16倍×70mm フジノン
────9万円────
90,000円 8倍×20mm ツァイス★
90,000円 10倍×50mm ペンタックス
92,000円 8倍×20mm ツァイス★
95,000円 10倍×70mm フジノン
97,000円 10倍×25mm ツァイス★
97,000円 15倍×70mm ニコン
────10万円────
103,000円 16倍×70mm フジノン
108,000円 8倍×40mm ニコン
112,000円 7倍×50mm シュタイナー★
112,000円 7倍×50mm シュタイナー★
124,000円 10倍×70mm ニコン
125,000円 12倍×36mm キヤノン
129,000円 8倍×32mm ライカ★
142,000円 7倍×42mm ライカ★
142,000円 8倍×30mm ツァイス★
150,000円 8倍×42mm ライカ★
155,000円 10倍×42mm ライカ★
158,000円 20倍×100mm ビクセン
165,000円 8倍×30mm ツァイス★
179,000円 7倍×50mm シュタイナー★
180,000円 6倍×42mm ツァイス★
188,000円 7倍×42mm ツァイス★
199,000円 7倍×50mm シュタイナー★
────20万円────
201,000円 10倍×40mm ツァイス★
203,000円 7倍×45mm ツァイス★
218,000円 7倍×50mm ツァイス★
224,000円 8倍×56mm ツァイス★
230,000円 15倍×80mm シュタイナー★
231,000円 8倍×56mm ツァイス★
240,000円 7倍×50mm ツァイス★
243,000円 7倍×50mm シュタイナー★
244,000円 10倍×56mm ツァイス★
298,000円 30倍×125mm ビクセン
────30万円以上────
349,000円 15倍×60mm ツァイス★
498,000円 12倍×40mm フジノン
510,000円 7倍×42mm ライカ★
548,000円 16倍×40mm フジノン
750,000円 20倍×60mm ツァイス★

*ツァイス10×40(201,000円)
正式名称はエキスパートシリーズの「10×40B/GAT*Pダイヤリート(中央繰出式)」。Bは眼鏡使用者用アイカップ付き、GAは耐久性ラバー被覆付き、T*は多層膜反射防止コーとレンズ、Pは位相補正コートプリズム、ダイヤリートはダハプリズム小型直視タイプを表す。カタログには「夜明け、夕暮れ時に威力を発揮」とある。この機種はカタログ上では防水と記していないが防雨構造にはなっているようで重さは730g、中身は(たぶん)同じでラバー被覆のない「「10×40B/T*Pダイヤリート(中央繰出式)」もある。こちらは重さ680gで199,000円。

*ライカ10×42(155,000円)
正式名称は全天候型双眼鏡の「10×42BA」。Bは眼鏡使用可能、Aは滑りどめ外装の意味。色は黒とグリーンがある。これは水深5mの防水で重さ890g、ブラックレザー仕上げの「10×42B」もある。このカタログ写真は左からグリーン、黒、ブラックレザーの3タイプ。


●射出ひとみ径の選択

 234機種の双眼鏡を一覧俵にしてみると対物レンズの口径(有効口径)は最大125mm(30×125、ビクセン。)から最小12mm(4×12、ツァイス。)までサイズに10倍もの差があるのに、射出ひとみ径というのは最大7.27mm(11×80、ビクセン、ケンコー。)から1.5mm(16×24、ペンタックス。)までの幅しかない。
 そこで表2では多機種に採用されている対物レンズ口径で、倍率と射出ひとみ径がどう選択されているかを一覧できるようにしてみた。それを見ると明らかなように「射出ひとみ径7mm」を代表するのが、じつに29機種を数える7×50というタイプ。そしてその口径50mmのところに並んでいる射出ひとみ径の5mm(10×50)、4mm(12×50)、3mm(16×50)、2.5mm(20×50)という射出ひとみ径の代表的なバリエーション。
 この場合、射出ひとみ径というのは双眼鏡の正面に見える対物レンズの口径(直径)を倍率で割った数値である。倍率1に対する対物レンズの有効口径ともいえる。その射出ひとみ径を2乗すると「明るさ」を表わす指数になるというのだが、これについてはささやかな疑問があるので後で触れるとして、ともかく、射出ひとみ径が2倍になると明るさが4倍になるというわけなのだ。
 しかし射出ひとみ径はもうひとつ重要な意味をもっている。双眼鏡のカタログには当たり前の常識として書かれていることなのだが、人間のひとみ(瞳孔)は明るさによって大きさを変える。どれくらいかというと明るいところで直径が約3mm、暗闇で瞳孔をいっぱいひらいたときには約7mmの大きさになるという。
 それに対する双眼鏡の射出ひとみ径は、構えた双眼鏡をそのまま30センチほど前方に離して見たときに接眼レンズ内に現れる明るい円のサイズのことで、それが7mm→5mm→4mm→3mm→2.5mmという系列におおまかにくくられるということなのだ。
 肉眼の瞳孔が7mmのときに射出ひとみ径3mmの双眼鏡を使うと、映像は拡大されるが肉眼の瞳孔の面積のおよそ5分の4が使われないから明るさにロスが出る。
 逆に昼間射出ひとみ径7mmの双眼鏡を使っても、人間の側では瞳孔を3mmに絞っているので明るすぎて困るということはない。
 このようなことから昼間使うのなら射出ひとみ径3mmの双眼鏡でも十分だが、夜間の使用も考えられる場合には射出ひとみ径が7mmほしいというわけだ。24時間の「ワッチ」が必要な船舶用や、夜間の観察もあるナチュラリストたちの本格的な自然観察用、あるいは天体観測用として最も信頼されるのが射出ひとみ径7mmの双眼鏡なのだ。とくに星座を楽しむには、天体望遠鏡よりその種の双眼鏡のほうが合理的なのである。
 当然のことながら中間的な射出ひとみ径のものがあるのは、双眼鏡をコンパクトにするためと理解しておいて間違いない。双眼鏡を小さく・軽く作るには対物レンズの口径を小さくするのが一番ということから、射出ひとみ径のサイズを7mmからどれだけ譲歩するかという選択になっていく。ちなみに倍率の方は接眼レンズで簡単に変えられる。
 実際に確かめてみると射出ひとみ径が5mmあると、薄暗くなって人間の視力を阻害し始めたとき、双眼鏡を使うとさらによく見える。いってみれば薄暗がりで暗さに対して威力を発揮し始めるのが射出ひとみ径5mmという目安なのである。
 そしてもうひとつ、人間の瞳孔が3mmに絞られていたとして、それで双眼鏡の接眼部にある直径3mmのひとみからのぞき見るとなると、人間のひとみと双眼鏡のひとみとがピシリと一致しないとそこで光のロスが出る。したがって双眼鏡の射出ひとみ径は大きければ大きいだけ、位置ズレに対する許容度が大きいということになる。
 射出ひとみ径はこのように双眼鏡と肉眼とのマン・マシン・インターフェースとして要の部分なのである。
 ところが、現実にはペンタックスの16×24のように射出ひとみ径の最小値と考えられる3mmの、その半分という大胆なものさえ登場している。
 そこまで小さな射出ひとみ径でも実用に差し支えないのかどうか私にはよくわからないが、常識破りは今に始まったことではない。表2の対物レンズ有効口径25mmのところの10倍と、有効口径20mmのところの8倍とに注目していただきたい。いずれも射出ひとみ径が2.5mmなのだが、ここに有力ブランドが集中している。
 その初めは1969年にツァイスが発売したポケットグラスシリーズの8×20()と10×25()であったようだ。射出ひとみ径3mmを切って、あえて「明るい」とうたった胸ポケットに入る折り畳み式高性能双眼鏡である。そして25年というロングランの末、ようやくデザインセレクションという新しいシリーズに置き換わろうというところ(価格が引き下げられたらしいのはそのためだと思う)。
 射出ひとみ径を小さくして実用上の明るさを確保するために、ツァイスではPコーティング(位相補正コートプリズム)を採用した。内部で起こる光のロスを少なくして明るく、鮮やかにしたといわれる。
 つまり昼間使うのなら射出ひとみ径は3mmなくてもいいということになったのである。キヤノンの今回のラインナップを射出ひとみ径で見ると、次のようになる。

4mm…………8×32W
3mm…………12×36 IS
2.875mm……8×23A、8×23AWP
2.75mm………8×22A
2.5mm………10×25A

 飯塚さんはいう。
「昼間ならひとみ径は2mmちょっとでだいじょうぶです。バードウォッチャーは昼間でも薄暗いところで鳥を探し、朝夕にも多用するので12×36 ISでは射出ひとみ径が3mmを切ることはしたくなかったのです」
 一般にいわれているよりも双眼鏡の明るさには余裕が出てきているようにも思えてくる。
 そしてもうひとつ、取材のときに田中さんや飯塚さんにもっと詳しく聞いておけばよかったと今思うのだが、日本のメーカーのカタログで使われている「明るさ」(ただしキヤノンは不使用)とドイツのメーカーが重視する「薄暮係数」の違いから生じてくる問題がある。これは射出ひとみ径の取り扱い方と大きく関わってくる問題らしい。
 円の面積はたしかπr2なのにどうして (2r)2で「明るさ」を表すことができるのかということに対する素朴な疑問が私にはある。それに対してドイツの薄暮係数は対物レンズの有効口径の大きさと倍率を掛けた上で平方根を求めるという計算方法である。これだと口径が大きくなるほど数値が大きくなるだけでなく、同じ口径でも倍率が大きくなると明るさを増してくる。射出ひとみ径では同じ口径なら倍率が低い方が大きくなり、その二乗によって「明るさ」の数値も大きくなるのに。
 たとえば射出ひとみ径が5mmの場合で考えてみる。「明るさ」というのは5の2乗だから25となるが、「薄暮係数」は倍率によって変わってくる。6×30なら約13、7×35なら約16、8×40なら約18、9×45なら約20、10×50なら約22、11×55でようやく25となる。射出ひとみ径が同じなら口径が大きいほど明るく見えるというわけだ。
 そうなると、夜間、人間の瞳孔が開ききった暗さの中で使うには最強と考えられてきた7×50双眼鏡は射出ひとみ径が7.1mmで「明るさ」は約50と出るが、「薄暮係数」は約19。それに対して射出ひとみ径4mmの10×40では「明るさ」は16と出るが、「薄暮係数」は20である。つまり暗いところでは7×50が明るいが、薄暮状態では10×40のほうが明るく見えるということになってくる。ちなみにキヤノンの12×36は「明るさ」は9だが、「薄暮係数」は約21。なんと10×40より明るいということになる。
 こういう例をおさらいしてようやっとわかりかけてきたのは、飯塚さんのさりげない言葉だった。
「対物レンズ口径の50mmは時代遅れですね。40mm、42mmクラスのダハプリズム双眼鏡は小さいし、射出ひとみ径が4mmあれば星空もかなり見えます」
 倍率を単に「大きく見える」ということや「暗いところでもよく見える」というおおざっぱな評価法から、肉眼の瞳孔も変化する薄暗いところでよく見えるという評価基準にしようというのがドイツ的な「薄暮係数」であるようだ。それによれば口径の大きさや射出ひとみ径に縛られずに高倍率双眼鏡を作る理論的裏付けが得られるわけで、手ブレさえ防止できれば双眼鏡の高倍率化とコンパクト化、そして薄暗い条件での「よく見え度」の向上とを同時に実現できるはずなのだ。

*ビクセン30×125対空双眼鏡(298,000円)
天体望遠鏡メーカービクセンは天体観測用の大口径双眼鏡を各種用意しているが、これはその超弩級天体双眼鏡。バードウォッチングに使われる地上望遠鏡(フィールドスコープ)は口径が60〜80mmだからこの巨大さが想像つこうというもの。重さ11kg。

*ツァイス4×12(43,000円)
デザインセレクションという新しいポケット双眼鏡のシリーズに加わった最低倍率の双眼鏡。正式名は「4×12B DS」でBは眼鏡使用可能のアイレリーフということ。DSはデザインセレクションという意味らしい。重さが175gで、射出ひとみ径を3mm確保しながら対物レンズを最小にしている。これまではガリレオタイプの望遠鏡だったオペラグラスの領域に本格的に進出した高級プリズム双眼鏡として新しい波の先端ともいえる。またこのDSシリーズにはごく近くまで見られる単眼鏡もあって、これも注目される動きのひとつ。

*ビクセン11×80(53,000円)
この11倍のほか、20倍、30倍というトリオでカタログには「天体観測、自然観測に威力を発揮する大口径。月面クレーター、星雲、星団の観測に最適」とある。重さは2.3kg。当然三脚に取り付けて使用するのが基本と考えられているため三脚取り付け用「専用ビノホルダー」が標準装備されている。

*ケンコー11×80(65,000円)
カタログを引用すると「高精度を要求される天体観測や暗い場所での観察に威力を発揮する大口径双眼鏡。口径80mm、高屈折のBak4高級プリズム採用。独自の設計でゴーストを減少した、観光望遠鏡なみの迫力ある眺望です」。重さ2.1kgで三脚取り付け用ホルダー付き。兄弟機に20×80もある。

*ペンタックス16×24(25,000円)
口径24mmのタンクローシリーズの最高倍率モデル。倍率は8倍、10倍、12倍、16倍という4段階。正式名称は「16×24UCF III」でCFは(たぶん)センターフォーカス式のこと。本格双眼鏡がその前にP(ポロプリズム)とD(ダハプリズム)としてあるのに対してタンクロー、タンクローminiシリーズにUという略号をつけている。プリズムはポロタイプ。

【表2】対物レンズの口径で10機種以上に使われているものをポピュラーなものとして、そのひとみ径の大きい順(倍率の小さい順)に並べてみると、双眼鏡の基本的なバリエーションが浮き上がってくる。

◆対物レンズ有効口径50mm
◎7倍→瞳径7.14mm
ケンコー(18,500円) ビクセン(18,500円) ペンタックス(28,000円)
ケンコー(28,500円) ビクセン(31,000円) ビクセン(36,000円) カートン(38,000円) ビクセン(38,500円) ケンコー(39,000円) フジノン(41,000円) ミノルタ(41,000円) ニコン(42,000円) ビクセン(42,000円) フジノン(44,500円) ニコン(46,000円) フジノン(51,800円) カートン(52,000円) フジノン(77,000円) フジノン(80,000円) ペンタックス(85,000円) ニコン(85,000円) フジノン(87,300円) シュタイナー(112,000円) シュタイナー(112,000円) シュタイナー(179,000円) シュタイナー(199,000円) ツァイス(218,000円) ツァイス(240,000円) シュタイナー(243,000円)
◎10倍→瞳径5mm
ビクセン(19,000円) カートン(20,000円) ペンタックス(29,000円) ケンコー(29,500円) ビクセン(38,500円) ペンタックス(90,000円)
◎12倍→瞳径4.17mm
ケンコー(19,500円) ケンコー(30,000円) ペンタックス(31,000円)
◎16倍→瞳径3.13mm
ペンタックス(33,000円)
◎20倍→瞳径2.5mm
ケンコー(21,000円) ビクセン(21,000円)

◆対物レンズ有効口径42mm
◎6倍→瞳径7mm
ツァイス(180,000円)
◎7倍→瞳径6mm
ケンコー(27,500円) カートン(38,000円) ライカ(142,000円) ツァイス(188,000円) ライカ(510,000円)
◎8倍→瞳径5.25mm
ケンコー(28,000円) ビクセン(28,000円) ケンコー(32,800円) ケンコー(34,800円) カートン(40,000円) ペンタックス(43,000円) ライカ(150,000円)
◎10倍→瞳径4.2mm
ケンコー(28,500円) ビクセン(28,500円) ビクセン(29,800円) カートン(43,000円) ペンタックス(46,000円) ミノルタ(48,000円) ライカ(155,000円)
◎12倍→瞳径3.5mm
ペンタックス(50,000円)

◆対物レンズ有効口径40mm
◎8倍→瞳径5mm
ペンタックス(26,000円) ニコン(108,000円)
◎9倍→瞳径4.44mm
シュタイナー(88,000円)
◎10倍→瞳径4mm
ケンコー(17,500円) カートン(18,500円) ニコン(49,000円) ツァイス(201,000円)
◎12倍→瞳径3.33mm
ビクセン(18,000円) ニコン(44,000円) フジノン(498,000円)
◎16倍→瞳径2.5mm
フジノン(548,000円)

◆対物レンズ有効口径30mm
◎6倍→瞳径5mm
フジノン(46,800円) シュタイナー(66,000円)
◎8倍→瞳径3.75mm
ケンコー(16,500円) ビクセン(16,500円) ビクセン(27,800円) カートン(35,000円) ニコン(37,000円) シュタイナー(38,000円) シュタイナー(47,000円) ニコン(47,000円) フジノン(49,800円) シュタイナー(75,000円) ツァイス(142,000円) ツァイス(165,000円)
◎10倍→瞳径3mm
ビクセン(17,000円) カートン(29,500円)

◆対物レンズ有効口径25mm
◎8倍→瞳径3.13mm
ケンコー(16,000円) ケンコー(18,000円) ビクセン(23,800円) カートン(32,000円)
◎9倍→瞳径2.78mm
ニコン(15,000円)
◎10倍→瞳径2.5mm
ビクセン(16,000円) ケンコー(18,000円) ケンコー(20,000円) ケンコー(21,000円) ニコン(20,800円) キヤノン(22,000円) ニコン(22,000円) ニコン(27,000円) ニコン(29,500円) ミノルタ(29,800円) ライカ(52,000円) ツァイス(54,000円) ライカ(57,000円) ツァイス(97,000円)
◎12倍→瞳径2.08mm
ケンコー(22,000円)

◆対物レンズ有効口径24mm
◎8倍→瞳径3mm
ビクセン(14,000円) ペンタックス(15,000円) ビクセン(15,500円) オリンパス(16,000円) オリンパス(16,000円) ケンコー(18,000円) ペンタックス(20,000円) カートン(26,500円)
◎10倍→瞳径2.4mm
ビクセン(15,500円) ビクセン(16,500円) ペンタックス(17,000円) オリンパス(18,000円) ケンコー(19,000円) ペンタックス(22,000円) オリンパス(24,000円)
◎12倍→瞳径2mm
ペンタックス(20,000円)
◎16倍→瞳径1.5mm
ペンタックス(25,000円)

◆対物レンズ有効口径23mm
◎8倍→瞳径2.88mm
ミノルタ(14,800円) キヤノン(15,000円) ニコン(18,800円) ミノルタ(22,000円) キヤノン(23,000円) ニコン(25,000円) ニコン(27,500円) ミノルタ(29,000円)
◎10倍→瞳径2.3mm
ミノルタ(16,800円) ミノルタ(26,000円) ミノルタ(34,000円)

◆対物レンズ有効口径21mm
◎7倍→瞳径3mm
ペンタックス(12,000円) カートン(25,000円)
◎8倍→瞳径2.63mm
ケンコー(12,000円) ケンコー(15,000円) ケンコー(16,000円) ケンコー(17,000円)
◎9倍→瞳径2.33mm
ペンタックス(13,000円) ケンコー(23,000円) ケンコー(25,000円)
◎10倍→瞳径2.1mm
ケンコー(17,000円) ケンコー(17,000円) ケンコー(19,000円)

◆対物レンズ有効口径20mm
◎5倍→瞳径4mm
カートン(16,500円)
◎6倍→瞳径3.33mm
カートン(13,800円)
◎7倍→瞳径2.86mm
ペンタックス(11,000円) オリンパス(12,000円) オリンパス(12,000円) ニコン(15,000円) ペンタックス(20,000円)
◎8倍→瞳径2.5mm
カートン(14,800円) カートン(18,500円) ニコン(20,000円) ビクセン(21,000円) ライカ(47,000円) ツァイス(49,000円) ライカ(52,000円) ツァイス(90,000円) ツァイス(92,000円)
◎9倍→瞳径2.22mm
ペンタックス(13,000円) オリンパス(14,000円) ペンタックス(23,000円) ビクセン(23,800円)

*ツァイス8×20(72,000円)
正式名称は「ポケットグラス8×20BP(中央繰出式)」でBは眼鏡使用可、Pは位相補正コートプリズム使用という意味。重さは180gで全長93mm。25年以上のロングセラーであるばかりでなく、これのソックリさんが全世界でポケット双眼鏡という概念を浸透させた。いまはその弊害も見えてきたというところだろうか。ポケット双眼鏡が小さくて高倍率というだけではない、ということに気づいたのはもちろんツァイスで、新しいシリーズは10倍、8倍、6倍、4倍という展開になり、6倍と4倍は射出ひとみ径を3mmとしている。

*ツァイス10×25(79,000円)
正式名称は「ポケットグラス10×25BP(中央繰出式)」。発売25周年を迎えた現在のカタログでも「像の明るさ、鮮やかさは中型機なみ」とある。「小型・軽量の高性能機。Z型に折りたため、胸ポケットにすっぽりと入ります」。重さ200グラム、全長110mm。

*キヤノン8×22(20,000円)
正式名称は「8×22A」でAは接眼レンズ部に非球面(アスフェリカル)レンズを使用しているということ。特殊ラバーコートを外装として2軸折り畳み式。キヤノンの誇るスーパースペクトラコーティングを施して、カタログのキャッチコピーは「ワンランク上の見え味を誇る、コンパクトなオールラウンダー」という。

*キヤノン10×25(22,000円)
正式名称は「10×25A」で接眼レンズ部に非球面レンズ使用、スーパースペクトラコーティング、特殊ラバー外装に2軸折り畳み式など8×22と同様。いずれもダハプリズムを使っているため鏡胴は直線的でスマート。10倍ながら8×22と同様最短合焦距離を3mとしているのは、山野草の観察などにも活用できる近接能力拡大傾向に合致するもの。

●双眼鏡の視野について

 双眼鏡を、臨場感を増幅させてくれる道具というふうに考えると、高倍率はかえってそれを阻害する要因になってくることに気づく。たいていのカタログには「1,000m先の視界(m)」というのが記されている(ただしキヤノンは表示していない)。
 1,000m先に見える範囲(円形とすれば直径の大きさ)では、当然のことながら倍率が大きくなるとその範囲は狭くなる。大きくは見えるが広くは見えないので、遠近感そのものは倍率とともに強調されていくとしても、ワンポイントの拡大鏡になってしまう。
 じつは私も、たまたま6×30という低倍率の双眼鏡を手にするまで、広い範囲を見られるということの重要さに気づかなかった。風景を風景全体の広がりを失わずにボリュームアップして楽しむには倍率より視野の広さの方が重要なのだ。
 スポーツ観戦なら、どこに座っても見るべきものをじっくりと探し出せるという気分。大きな会議場で発言者の表情の変化を情報に加えるというようなことも、低倍率で十分に可能なのだ。肉眼のわずか数倍の双眼鏡倍率が、臨場感と情報の密度を予想以上に増幅させてくれる。
 ところが、そういう低倍率の双眼鏡はオペラグラスとかスポーツグラスとよばれて、軽くて安いものだからついそちらの方に手をのばしてしまう。お手軽は結構なのだが、それは別種の双眼鏡というべきもので、今回一覧している234機種の中には含めていない。
 ここで取り扱っている双眼鏡は屈折式天体望遠鏡で一般的なケプラー式のレンズ構成を採用し、光学系の途中にポロプリズムやダハプリズムを入れて正立像を得ている。いわゆるプリズム双眼鏡である。それに対していわゆるオペラグラスは対物レンズに凸レンズを使い、接眼レンズに凹レンズを使って正立像を得るガリレイ式で、望遠鏡としては視野が狭いという欠点があるため低倍率で軽いものという領域から脱皮できない。
 対物レンズと接眼レンズにともに凸レンズを使うケプラー式光学系の後ろにもう1枚凸レンズを置いても正立像が得られるのでこれを地上望遠鏡とする作り方もあるそうだが、全長が長くなり、しかも暗くなるという欠点をかかえているという。
 双眼鏡ができるだけ明るく、できるだけコンパクトという方向に進化してきたと考えると、低倍率・小口径の実用性を求めるというのが重要である。4倍から6倍程度の質のいい双眼鏡が各メーカーから続々と作られる機運が高まってきたのは、双眼鏡にとってしあわせな時代の到来を予感させる。
 さて、低倍率なら広い範囲が見えるというのはセオリーには違いないが、それだけではあまりにも無策である。そこで主な倍率ごとに「1,000m先の視界」という項目を調べてみたら、倍率が高くなっても広い範囲が見られる双眼鏡があるということがはっきりと示された。
 たとえば7倍双眼鏡。全部で45機種あったが、1,000m先の視界は105mから163mとずいぶん違う。一番狭いのはケンコーの7×50(28,500円)で「実視野」が6度、「見かけ視界」は42度である。
 この見かけ視界は実視界に倍率をかけた数値で、いわば倍率1倍のところに立ったとしたら何度の視野に相当するかというもので、じつは(双眼鏡をのぞいているという意識がなくなったときの)体感的な視野の広さを表している。そういう意味で双眼鏡の臨場感の大きさを表す目安といっていい。
 それでは7倍双眼鏡の中で一番視界が大きいのはどれかというとペンタックスの7×35で、実視界9.3度、見かけ視界65.1度となっている。
 8倍双眼鏡は70機種を数えるが、視界が一番狭いのはツァイスの8×20(90,000円)で1,000m先の視界が95m。実視界5.4度、見かけ視界43.2度である。それに対してビクセン8×30は1,000m先の視界が148m(これは7倍双眼鏡の上から4番目の広さに当たる)という広い視界で、実視界8.5度、見かけ視界68度となっている。
 51機種ある10倍双眼鏡ではどうだろうか。カートンの10×30(29,000円)が1,000m先の視界87m、実視界5度、見かけ視界50度で最も狭いが、同じカートンの10×42では1,000m先の視界が115mあって、7倍双眼鏡の中にもこれより視野の狭いものが2機種あるほど。実視界6.5度、見かけ視界65度となっている。
 すでに前頁の表3で広視界設計(見かけ視界65度以上)の双眼鏡40機種とそれに続く60度以上のもの31機種を一覧してある。
 キヤノンの12×36は見かけ視界67.2度で7番目に並んでいるが、1,000m先の視界98mで実視界5.6度という双眼鏡はほかに3機種ある。ニコンのコンパクトシリーズ・ゴクー9×25(17,000円)とケンコー9×21D.H.(コーティングによって23,000円と25,000円)。すなわち9倍で見かけ視界50.4度というスタンダードなものがあるわけだが、それらと同じ視界を確保しながら倍率が12倍となっている、といえる。広い範囲をできるだけ大倍率で見たいという双眼鏡の本来的な進化方向のひとつが広視界設計ということになる。
 じつは広視界双眼鏡のトップにあるビクセンの15×70(49,500円)はカタログ上で実視界5度、1,000m先の視界44mとあったが、実視界が5度なら1,000m先の視界は87mになるだろうし、1,000m先の視界が44mなら実視界は2.5度になるはずで、どちらが間違っているか問い合わせてみた。なにしろ第1位なのだから放置できない。
 ビクセンというメーカーは広視界設計のものにはそれを表す(W)という記号を名称に加えているのだがこれにはないので当然実視界と見かけ視界の方の誤植だろうと思ったが、技術担当者は実視界5度で見かけ視界75度に間違いありませんとのこと。これはカタログ上ではかなりすごい双眼鏡ということになる。
 だいたい広視界ということについてはドイツ勢はあまり熱心ではないようだ。それなのに広視界の第4位にツァイスの15×60という大口径双眼鏡がきている。カタログによるとプロフェッショナルタイプで「ツァイス全機種の中でも、最高の高性能機。専門の高度な要求に応えます」とある。349,000円という価格もすごいが、重さは1.58kgとヘビー。射出ひとみ径は4mmで薄暮係数は30と、ドイツ的な計算ではツァイス中、最も明るい双眼鏡なのだ。そしてドイツ勢では唯一の広視界設計。
 この広視界設計ということにキヤノンは積極的にかかわっていこうとしている。飯塚さんたちはすでに実行済みなのだが、試作機の15×50のほうはなんと80度という超広角視界だった。
「接眼レンズ部に非球面レンズを使うと見かけ視界80度という広視界も可能なのです。80度というと、のぞいたときに丸い視野界が見えません。だからのぞいているという感じがしません。もっともバーチャルリアリティのモニターでは視界90度というのもありますから双眼鏡はまだまだということでしょう」
 ではなぜ12×36では見かけ視界が67.2度まで後退したのだろうか。
「広視界にするだけならそうむずかしくはないのですが、視野の周辺部までシャープさを保とうとすると視界は狭い方がいいいのです。一般に星を見る人は周辺までピントを気にしますが、バードウォッチャーは中心の解像度がよければ周辺部はあまり気にならないようなのです。ですから周辺部で解像度が落ちても視界を大きくとっておいた方がいいか、視界の全域でシャープであることを求めるか、設計者の選択すべき分岐なのです」
 視界の広さを後退させたのはもちろんシャープさを追求したということなのだが、カタログで大きくうたっている「フィールドフラットナー・レンズ」がここで登場する。
「フィールドフラットナーレンズを1枚使っているのにニコンの7×50SPがあります。あれは見かけ視界が50度ぐらいなので1枚でいいのです。ところがこちらは67度ですから、2枚必要だったのです」
 12×36 ISのカタログでは次のように書いてある。
「双眼鏡では世界で初めて、ダブレット・フィールドフラットナー・レンズを採用。これは、最高級双眼鏡に採用されてきたフィールドフラットナー・レンズを2枚構成にするという、キヤノン独自の贅沢な光学設計です。これにより、像面湾曲(平面にピントを合わせた時、周辺部がボケてしまう現象)を大幅に低減。67度という広視界のすべてが鮮明さを損なわず、迫力ある像が得られます」
 ちなみに非常に高性能な双眼鏡を作っているフジノン(富士写真光機)ではフラットナーレンズを標準搭載したF-SXタイプシリーズを6×30から16×70まで6機種そろえている。そのカタログには次のようにある。
「F-SXタイプは、フジノンの技術を結集した像面フラットタイプの双眼鏡です。像面をフラットにすることで、視野周辺の観測を可能にし、よりシャープで正確な色を再現するとともに、歪みや非点収差を最小限に食い止めることができます」
 日本の双眼鏡はこれから、臨場感を追求する広視界を実現しながら、フィールドフラットナー・レンズなどの搭載によって視界全体におよぶシャープさの追求がおこなわれていくのではないかと思われる。キヤノンがフラッグシップ機の下位機種に当たる8×32WP(38,000円)にも「フィールドフラットナー・レンズが生む、クラス最高の見え味」という採用の仕方をしているところが、新しい。

【表3】見かけ視界の広い順に並べてみると「広視界」あるいはワイドアングルと呼ばれる65度以上のものは意外に少ない。ツァイス、ライカは「実視界」もカタログにないので計算値を使用した。(★印はキヤノン)

75.0度──ビクセン──(B)15×70──49,500円
72.0度──ケンコー──12×50W──19,500円
70.0度──ケンコー──20×80──72,000円
69.0度──ツァイス──15×60GAT*──349,000円
68.0度──ケンコー──8×30W──16,500円
68.0度──ビクセン──(ZR)8×30(W)──16,500円
67.2度──キヤノン──12×36 IS──125,000円★
66.4度──ケンコー──8×25W──16,000円
66.4度──ニコン──8×30E(C) CF・WF──37,000円
66.4度──ビクセン──(Z)8×32(W)──27,000円
66.0度──ケンコー──20×50W──21,000円
66.0度──ケンコー──12×25WIRスーパーワイド──22,000円
66.0度──ニコン──12×40(C) CF・WF──44,000円
66.0度──ニコン──10×35E(C) CF・WF──40,000円
66.0度──ビクセン──(ZR)20×50(W)──21,000円
66.0度──ビクセン──(B)20×80NEW(W)──55,000円
66.0度──ビクセン──(ZR)12×40(W)──18,000円
66.0度──ビクセン──(Z)10×42(W)──28,500円
66.0度──ペンタックス──12×50PCF II──31,000円
65.6度──カートン──8×25WP──32,000円
65.6度──カートン──8×30WP──35,000円
65.6度──ケンコー──8×32W──27,000円
65.6度──ビクセン──(HR)8×22(W)──14,000円
65.6度──ペンタックス──8×40PCF II──26,000円
65.6度──ミノルタ──8×22ワイドアングル──24,800円
65.1度──ペンタックス──7×35PCF II──24,000円
65.0度──カートン──10×42MC──43,000円
65.0度──ケンコー──10×40W──17,500円
65.0度──ケンコー──10×25W──18,000円
65.0度──ケンコー──10×25WIR──20,000円
65.0度──ケンコー──10×42W──28,500円
65.0度──ビクセン──(M)10×24(W)──15,500円
65.0度──ビクセン──(HR)10×25(W)──16,000円
65.0度──ビクセン──(ZR)10×30(W)──17,000円
65.0度──ビクセン──(ZR)10×50(W)──19,000円
65.0度──ビクセン──(BC)IF10×50(防水型)──38,500円
65.0度──ペンタックス──10×50PIF──90,000円
65.0度──ペンタックス──10×50PCF II──29,000円
65.0度──ミノルタ──10×25ワイドアングル──29,800円
65.0度──ミノルタ──10×42ワイドアングル──48,000円

 以上が広視界双眼鏡と呼ばれるもの。以下見かけ視界が60度以上のもの

64.0度──フジノン──16×70MT-SX──89,000円
64.0度──フジノン──16×70FMT-SX──103,000円
63.0度──ツァイス──10×40B/GAT*Pダイヤリート──201,000円
63.0度──ツァイス──10×56BDS──244,000円
63.0度──ビクセン──(B)30×80──57,000円
63.0度──ライカ──ライカ10×42/BA──155,000円
62.4度──ケンコー──12×50──30,000円
61.6度──ツァイス──8×30B/GAT*Pダイヤリート──165,000円
61.6度──ライカ──ライカ8×32BA──129,000円
60.3度──ペンタックス──9×20MCF──13,000円
60.2度──ツァイス──7×45BDS──203,000円
60.0度──キヤノン──8×32WP──38,000円★
60.0度──ケンコー──10×24──19,000円
60.0度──ケンコー──10×21 IR──19,000円
60.0度──ケンコー──10×25 RC──21,000円
60.0度──ケンコー──8×25 RC──18,000円
60.0度──ツァイス──8×56BDS──224,000円
60.0度──ニコン──15×70 IF・防水型・HP──97,000円
60.0度──ニコン──8×30D II IF・RC・WP──47,000円
60.0度──ビクセン──(ZR)10×24──16,500円
60.0度──ビクセン──(HR)10×42(防水型)──29,800円
60.0度──ビクセン──(M)8×24──14,000円
60.0度──ビクセン──(HR)8×32(防水型)──27,800円
60.0度──フジノン──8×30FMTR-SX──49,800円
60.0度──ペンタックス──12×24UCFIII──20,000円
60.0度──ペンタックス──10×24UCFIII──17,000円
60.0度──ペンタックス──10×24UCFWR──22,000円
60.0度──ペンタックス──8×24UCFIII──15,000円
60.0度──ペンタックス──8×24UCFWR──20,000円
60.0度──ミノルタ──UC8×18──28,000円
60.0度──ライカ──ライカ8×42BA──150,000円

*ペンタックス7×35(24,000円)
正式名称「PCF III」はポロプリズム(P)式のセンターフォーカシング(CF)方式の代3世代という意味。7×35、8×40、7×50、10×50、12×50、16×50というシリーズで、7×50と16×50以外の4機種は見かけ視界が65度以上の広視界設計。この7×30は重さ720gと最軽量モデルとなっている。

*ビクセン8×30(16,500円)
アスコットというポロプリズムタイプのシリーズで、12機種のうち9機種が見かけ視界65度以上の広視界設計。重さ640gで、カタログでは野外スポーツ観戦、バードウォッチング、自然観察、天体観測、監視、といった用途を揚げている。最短合焦距離8mは新しい流れからすればいくらか遠め。

*カートン10×42(43,000円)
ポロプリズム双眼鏡のアドラブリックMCシリーズのひとつで、595gという軽量に広視界設計。シリーズは「メガネをかけたままで使えるハイアイリリーフ設計」が売り物のようだが、この10×42だけは広視界設計のためかアイレリーフが9.6mmとメガネ使用者にはちょっと不足。

*ツァイス15×60(349,000円)
一眼レフカメラを首からぶら下げているような重量感と、双眼鏡の本家・ツァイスがみずから「最高の高性能機」と呼ぶヘビーデューティ。残念ながら私はさわったことはおろか、見たこともない。

*ニコン7×50(85,000円)
日露戦争を契機に双眼鏡を開発し始めたという日本の本家ニコンの7×50にはトラディショナルタイプの7×50CF・HP(42,000円)と7×50トロピカルIF・防水型・HP(46,000円)と、この7×50SP防水型の3機種ある。これに関してカタログには「とくに天体観測用に開発。像の平坦性に優れ、視野周辺部まで歪みのない像が得られます。7.1mmのひとみ径と多層コーティングにより、星像は明るくシャープです」

*フジノン6×30(46,800円)
正式名称は「6×30FMTR-SX」。Fは接眼フラットナー、MTは気密タイプ、Rはラバーカバータイプ、SXはフジノン独自のEBCコーティングの略号。この6×30双眼鏡はあまりスマートでないことと、価格が半端でないことで日本ではほとんど売れないと思うけれど、クラシックタイプとしてももっと評価されていい。

【表4】アイレリーフが15mm以上のものだと眼鏡をかけていても視野がけられないとされる。ドイツ勢はすべて「眼鏡使用者対応」としている。

27.0mm──カートン──7×50MC──52,000円
25.0mm──ケンコー──7×50──28,500円
23.0mm──フジノン──7×50FMT-SX──77,000円
23.0mm──フジノン──7×50FMTR-SX──80,000円
23.0mm──フジノン──7×50FMTRC-SX──87,300円
23.0mm──フジノン──10×70FMT-SX──95,000円
22.0mm──カートン──7×42MC──38,000円
21.5mm──ケンコー──7×42──27,500円
21.0mm──ビクセン──(B)20×100──158,000円
20.0mm──ビクセン──30×125対空双眼鏡──298,000円
20.0mm──フジノン──6×30FMTR-SX──46,800円
20.0mm──ビクセン──(Z)8×42──28,000円
19.0mm──ケンコー──7×50──18,500円
18.5mm──ライカ──ジオビット7×42BDA──510,000円
18.5mm──ビクセン──(ZR)7×50──18,500円
18.0mm──ビクセン──(Z)7×50──31,000円
18.0mm──ビクセン──(Z)8×56──33,000円
18.0mm──カートン──7×50WP──38,000円
18.0mm──カートン──8×42MC──40,000円
18.0mm──キヤノン──8×32WP──38,000円
17.6mm──ニコン──6〜12×24D CF Zoom──47,000円
17.5mm──ビクセン──(BC)IF7×50(防水型)──36,000円
17.5mm──ビクセン──(BC)IF7×50R(防水)──38,500円
17.5mm──カートン──10×50IB──20,000円
17.4mm──ビクセン──アリス(M)6×16──9,800円
17.1mm──ニコン──15×70 IF・防水型・HP──97,000円
17.0mm──カートン──8×32IB──17,000円
16.6mm──フジノン──8×30FMTR-SX──49,800円
16.5mm──カートン──10×40IB──18,500円
16.4mm──ニコン──8×40D CF・防水型──108,000円
16.3mm──ニコン──10×70SP 防水型──124,000円
16.2mm──ニコン──7×50SP 防水型──85,000円
16.0mm──ニコン──7×35E(C) CF──35,500円
16.0mm──ビクセン──(B)IF7×50(防水型)──42,000円
16.0mm──ケンコー──8×42──28,000円
16.0mm──ケンコー──10×50──29,500円
15.4mm──ニコン──エスパシオ10×40D CF──49,000円
15.4mm──ニコン──エスパシオ8×32D CF──46,000円
15.0mm──ニコン──10×70 IF・防水型・HP──75,000円
15.0mm──ニコン──7×50 CF・HP──42,000円
15.0mm──ニコン──7×50トロピカル IF・防水型・HP──46,000円
15.0mm──ビクセン──(Z)10×42(W)──28,500円
15.0mm──ビクセン──(Z)8×32(W)──27,000円
15.0mm──キヤノン──12×36 IS──125,000円
15.0mm──ビクセン──(B)15×70──49,500円

【表5】近くはどこまでピントが合うか。最短合焦距離5m以内の双眼鏡の一覧表から、双眼鏡の新しい波が見えてくる。ここでは1mから5mまでのクラスに分けて価格順に並べてみた。

◎1mクラス
1.0m──ミノルタ──フラット双眼鏡 UC6×18──21,000円(145g)
◎2mクラス
2.0m──ビクセン──アスコット双眼鏡 (HR)10×25(W)──16,000円(270g)
2.0m──カートン──シームシリーズ SEEM-7──25,000円(327g)
2.0m──ミノルタ──フラット双眼鏡 UC8×18──28,000円(144g)
2.0m──ミノルタ──コンパクトオートフォーカス双眼鏡 10×23──34,000円(400g)
◎3mクラス
3.5m──ビクセン──アスコット双眼鏡 (HR)8×22(W)──14,000円(260g)
3.0m──ニコン──COMPACT ゴクー7×20 CF III──15,000円(210g)
3.0m──ニコン──COMPACT ゴクー9×25 CF III──15,000円(270g)
3.0m──キヤノン──8×23A──15,000円(250g)★
3.0m──キヤノン──8×22A──20,000円(300g)★
3.0m──キヤノン──10×25A──22,000円(310g)★
3.0m──キヤノン──8×23AWP──23,000円(400g)★
3.0m──ニコン──COMPACT エーエス8×23 CF──25,000円(305g)
3.0m──カートン──シームシリーズ SEEM-8──26,500円(353g)
3.0m──ニコン──COMPACT エーエス10×25 CF──27,000円(325g)
3.0m──ライカ──8×20BC──47,000円(223g)
3.0m──ライカ──8×20BCA──52,000円(223g)
3.3m──ライカ──8×32BA──129,000円(625g)
3.7m──キヤノン──12×36 IS──125,000円(890g)★
3.0m──ツァイス──7×45BDS──203,000円(1,210g)
◎4mクラス
4.0m──カートン──チャーミィ6──13,800円(154g)
4.0m──カートン──チャーミィ8──14,800円(154g)
4.0m──ビクセン──アスコット双眼鏡 (ZR)8×24──15,500円(590g)
4.0m──ビクセン──アスコット双眼鏡 (ZR)10×24──16,500円(590g)
4.0m──ビクセン──コンパクトタイプ アエロED(ME)7〜15×25──19,500円(375g)
4.5m──ビクセン──アルティマ双眼鏡 (Z)8×32(W)──27,000円(520g)
4.0m──ビクセン──防水双眼鏡 (HR)8×32(防水型)──27,800円(635g)
4.0m──カートン──シームシリーズ SEEM-10──29,500円(430g)
4.9m──ニコン──TRADITIONAL 7×35E(C) CF──35,500円(610g)
4.6m──ライカ──10×42/BA──155,000円(890g)
◎5mクラス
5.0m──ビクセン──コンパクトタイプ (M)8×24──14,000円(250g)
5.0m──ニコン──COMPACT 8×23V CF II──18,800円(365g)
5.0m──ニコン──COMPACT スピノザ8×20D CF──20,000円(210g)
5.0m──ニコン──COMPACT 10×25V CF II──20,800円(395g)
5.0m──ニコン──COMPACT スピノザ10×25D CF──22,000円(250g)
5.0m──ビクセン──防水双眼鏡 (HR)8×25(防水型)──23,800円(380g)
5.0m──ニコン──OUTDOOR シェルテ8×23 CF・WP──27,500円(425g)
5.0m──ニコン──OUTDOOR シェルテ10×25 CF・WP──29,500円(485g)
5.0m──カートン──ウォータープルーフ 8×30WP──35,000円(740g)
5.0m──ニコン──ADVANCED エスパシオ8×32D CF──46,000円(550g)
5.0m──ニコン──ZOOM 6〜12×24D CF Zoom──47,000円(590g)
5.0m──ビクセン──アルティマ双眼鏡 (Z)ED6.5×44──48,000円(700g)
5.0m──ニコン──ADVANCED エスパシオ10×40D CF──49,000円(675g)
5.0m──ビクセン──アルティマ双眼鏡 (Z)ED9.5×44──49,500円(700g)
5.0m──ライカ──10×25BC──52,000円(243g)
5.0m──ライカ──10×BCA──57,000円(243g)
5.0m──ニコン──ZOOM──8〜16×40 CF Zoom──68,000円(875g)
5.0m──ニコン──HIGH GRADE 8×40D CF・防水型──108,000円(840g)
5.0m──ツァイス──8×56BDS──224,000円(1,459g)
5.0m──ツァイス──10×56BDS──244,000円(1,426g)

*ミノルタ6×18(21,000円)
フラット双眼鏡と名付けた世界最小のダハプリズム双眼鏡。良くも悪くもビジネスツールとしてのデザインコンセプトが優先されたように見える。私にいわせれば6×18が本命で、8×18は撒き餌。視界と明るさを犠牲にしたデザインが実用性を確保してあるかどうかが、問題となるところ。

*ツァイスルーペ単眼鏡4×12(左。33,000円)と6×18(36,000円)
4倍は重さ45g、6倍は58g。ポケットからさりげなく取り出して、専門家がルーペを使うような仕草で活用できる。美術館・博物館でも使える明るさをきちんと確保しているという。まったく同じレンズではないかとおもえる双眼鏡が4倍、6倍ともで43,000円であり、かつ単眼鏡は身体障害者用物品であるために非課税だそうだが、それにしては割高という感じもする。

*ツァイス単眼鏡3×12(47,000円)
双眼鏡ではないが双眼鏡の進む道に大きな影響を与えるものではないかとして取り上げた単眼鏡の傑作。同じコンセプトの国産品が最近は双眼鏡売場でかなり目立つようになってきた。使ってみると倍率がわずか3倍でも見るということに対するアシスト効果は相当大きい。低倍率の存在価値に気づくきっかけとして、このような単眼鏡が果たしている役割が大きいのではないかと思う。重さ54g。

●眼鏡対応と最短鑑賞距離

 まず基本的なところからいえば、双眼鏡は左右それぞれの眼に合わせて視度を調節できるようになっている。一般的なセンターフォーカシング(CF)では、右側の接眼レンズ部が回転するようになっているはずなので、まず左目で左側のレンズを見ながらフォーカシングつまみによって(できれば遠景に)ピントを合わせる。双眼鏡は左目の視力に合ったピント位置を確認したことになる。次に右目で右側レンズを見ながら右側接眼部を回転させて同じ目標地点にピントを合わせる。これによって左目の視力に合わせたが故に狂っていたかもしれない右目の視力に右側レンズのピント位置が補正されたことになる。あとは中央のピント調節つまみで自由にフォーカシングすればいい。
 それに対して防水型の双眼鏡の中には個別フォーカシング(IF)という方式があって、この場合は左右それぞれの接眼レンズ部でそれぞれ両眼がよく見えるように調節する。かなりわずらわしいように思えるが、一定の距離より遠方を見る場合にはピントを操作する必要がほとんどないから、視度調節と距離調節機能を兼用してしまう、という考え方もできる。したがって、用途が決まっている場合にはなかなか合理的ともいえる。
 眼が悪くても、単純な近視や遠視なら双眼鏡がそなえている左右の視度差調節機能でカバーできるが、見るという行動をアシストする道具だけに眼鏡をかけた人にもかけない人と同様の使い勝手を保証できればそれに越したことはない。
 ツァイスとライカは名称中に眼鏡使用が可能であることを示していて、基本的に全機種OK。そのかわり、カタログにはアイレリーフの記載はない。シュタイナーになると眼鏡の使用についての可否に関する記述さえないが、眼鏡使用者は接眼部のアイカップを折り返すと眼鏡をかけたままでも視界の全域を見ることが可能になる。
 このへんのことを飯塚さんに聞いてみた。
「ツァイスのアイレリーフは計ってみると15mmぐらいです。もっともアイポイントの定義のしかたで数ミリ違ってくるのでこうだと決めるわけにはいかないのですがね。
 一般に15mm以上あれば眼鏡をかけていてもケラレないといわれます。広視界の双眼鏡ほどアイレリーフを長くとっておきたいところです」
 このアイレリーフの一覧表(表4)を作ってみたら、フジノン双眼鏡がこれに関して積極的であることが見えてきた。ニコンも相当がんばっている。それと比べるとキヤノンが上位2機種だけというのはちょっと残念。
 しかし、(と強引に話題を転じると)どれだけ近くのものが見られるかという双眼鏡の新しい波に対しては、キヤノンは敏感に反応していることが次ページの表によって明らかになる。
 最短1mのところにあるのは新製品である。ミノルタの6×18は最短距離2mの8×18とのフラット双眼鏡のシリーズで、ダハプリズム双眼鏡でありながらスリムタイプのカセットテープケースとほぼ同じサイズにまとめている。レンズ視野も円形から矩形に変えて、射出ひとみ径を(6×18なら3mmのところ)1.8×3mmと記してある。すなわち円の上下をカットして矩形の画面に仕上げているのはカメラファインダーの作り方と似ている。
 3mクラスのところを見るとライカ、ニコン、キヤノンの3社が申し合わせたようにここに力をそそいでいる。コンパクトタイプが主流なのは当然として、ライカの8×32、ツァイスの7×45とキヤノンの12×36 ISという本格派も並んでいる。
 この12×36 ISの最短合焦距離3.7mについて、飯塚さんは設計者としてこんな話をしてくれた。
「何かを見ようとするとき、眼をうんと近づけていって見ようとすると寄り眼になってしまいますよね。双眼鏡の場合は光軸が固定されているので寄り眼にならないうえに倍率がかかっているので、近くを見ようとすると左右の像が一致しなくなるんです。
 たとえば12倍の双眼鏡の場合、12m先のものが1m先に見えるわけです。最短合焦距離の3.7mにあるものは30cmに相当するわけです。このあたりになると設計値としてはOKでも眼の筋肉がよく動かない人だと限界点を超えてしまいます。見えても、眼が緊張します。
 ですから足元を見られるような双眼鏡は倍率と最短合焦距離の関係をよく考えないといけないのです」
 しかし緊張を強いられる至近距離がオーバースペックと決めつける必要もない。「見にくい人は片目で見てもいいのですから」
 じつは最近の双眼鏡の接近能力の拡大の蔭には「単眼鏡」の存在があると私はにらんでいる。
 たとえばツァイスのデザインセレクション・シリーズは4×12、6×18、8×20、10×25の4機種だが、それぞれの片側レンズだけを取り外したようなデザインセレクションの「モノ」シリーズがつくられていて4×12と6×18にはとくにルーペ単眼鏡という名前がついている。
「モノ4×12B DB」は遠用で4倍、接眼部を引き出して約30cmまで近づけるルーペモードでは5倍になるというもの。倍率が変化するほどレンズを引き出しても使えるのは単眼鏡だから。
 じつは知る人ぞ知るルーペ単眼鏡の傑作にツァイスの「3×12B」(Bはもちろん眼鏡使用者用アイカップ付き)があって、約30cmまで接近できて近用倍率は5倍。「モノ4×12B DS」や「モノ6×18B DS」はその延長線上にあるうえに、新しい低倍率双眼鏡「4×12B DS」や「6×18B DS」もこれの延長線上に生み出されたといっていいと私はにらんでいる。
 このような小さくて、近くも見られる観賞用双眼鏡、単眼鏡は、いままで双眼鏡とルーペの中間領域で適切なアシストができなかったところに進出し始めている。ミノルタが新しく発売したフラット双眼鏡のように、会議用としてのアピールも時代の要請を受けるだろう。
 使われていない双眼鏡があそこにもある、ここにもあるという状況になってようやく、ユーザーも「高倍率」の呪縛から解き放たれつつあるようだ。

●素材と精度。

 ようやく双眼鏡の一般論について触れたので、いよいよ飯塚さんたちの開発エピソードをひとつふたつ報告しておきたい。
 双眼鏡ならではの話としては、東京は板橋あたりの町工場のようなところで簡単に作られているモノであるところから、甘く見ていたところがあったという。自分で作ってみると、なかなかどうして大変だったそうなのだ。
 ひとつは双眼鏡が2本のレンズを使っているということにかかわるむずかしさだった。
「光軸が2本あるということなんです。その光軸ズレが厳しくて、カメラでは光軸がフィルムに対して直角であるべきところでも角度にして5分、10分といった傾きまで許容されるのに、双眼鏡では2本の光軸のズレが、JIS規格でさえ2分以内に押さえなければいけないことになっている。実際それを超えると像が二重に見えてしまうのですからね」
 双眼鏡がいまだに金属ボディを使っているのは光軸を狂わせたくないからだという。
 しかしただ狂わないように精密・堅牢に作るだけなら大キヤノンには造作もない。問題はその2本の光軸上に蛇腹でつないだ2枚のガラスに液体を入れたバリアングルプリズムが置かれていることだ。
「バリアングルプリズムはフラフラと動く状態なので、2軸が同時に同じように動かないと光軸がずれてしまうわけです。動くときは機敏に動くけれども、動いてはいけないときには光軸を狂わしてはいけない。そういう矛盾した注文に応えるために、工場に泊まり込みでやりましたね」
 しかしバリアングルプリズムにロックをかけておいたとしても、内部は液体。温度変化や環境のさまざまな影響、たとえば気圧の変化などによって、液体がいくらかでも膨張すると、それがたちまち光軸ズレを引き起こす。この難問解決に半年かかったという。
 バリアングルプリズムが動いているときでさえ、左側と右側とが歩調をピッタリ合わせて同じ補正をし続けてくれないと、双眼鏡は勝手に「ロンドン・パリ」になってしまうのだから始末に負えない。2個のバリアングルプリズムの動きを同期させるというのも双眼鏡ならではの難問であった。
 双眼鏡がカメラ用のレンズと勝手が違っていたことが、もうひとつある。それはカメラのレンズではフィルムに記録された画像を分析的に調べることができるのに、双眼鏡の結像系は人間の眼だということ。
 飯塚さんはボヤく。
「双眼鏡では、理論づくで収差を少なくしたからといってよく見えるとはかぎらないんです。ツァイスと比べると、あちらの方が収差は大きくてそれほどすぐれているとは思えないのによく見える。双眼鏡ならではのカンどころがあるんですね。カメラ用のレンズは平面を平面に記録したときの収差を取り除いていけばいいのだけれど、肉眼で見るというのはそれとは違うし、2本の光軸で見ているわけですから」
 材質がドイツのものは違うということはないのだろうか。キヤノンは環境問題に敏感だから、今度の双眼鏡でも鉛を使わない光学ガラスにこだわったようだ。クリーンなレンズが性能がいいとは限らないからである。
「いろいろ調べてみても、ツァイスが材料面で特別なものを使っているとは思えないんです。光学の世界では、材料は同じでも研磨の面精度やプリズムの直角度によって分解能がちがってくる。それに倍率がかかってくると、狂いが想像以上に大きく出てくるのです。ツァイスはともかくキッチリ作っています」
 マニアチックな作りのカタログを見るとプリズムの材質にBK7というのとBaK4というのがあってBK7が一般的な材質でBaK4が最高級と書かれている。しかし実際には値段の差はあまりなく、BK7、BaK4それぞれにさまざまなグレードがあるのだという。
 試作機ではカメラ用の望遠レンズでよく使われるUDガラス(キヤノンが開発した特殊分散ガラスで、ニコンのEDガラスと性能を競っている)を対物レンズに使用したが、12×36 ISでは省いている。どうしてなのか。
「UDガラスや蛍石は倍率が高くなると順次効果を発揮するのですが、どんな場合でもいいというわけではないのです。色消し(色収差の補正)効果の出方はカメラレンズとほぼ同じでした」
 コーティングはキヤノンが誇るスーパースペクトラコーティング。一時期一眼レフ用の高級レンズにSSCという名を付けたほど信頼性の高い多層膜のコーティングである。
「コーティングはカメラレンズではカラーバランスを整えるという仕事が重要なのですが、双眼鏡では色眼鏡になってしまってもいいんです。東独にあったツァイスが黄色いレンズの双眼鏡を作っていたことがありますが、着色されたレンズでもかまわないのです」
 双眼鏡ではだからコーティングの仕事はレンズ面での乱反射を押さえてフレア、ゴーストといった乱れを生じさせないようにすること。それによって画像はコントラストを増して鮮鋭になる。
「光学的に測定するとマルチコーティングが格段にいいはずなのです。ところが眼では感じにくい。ツァイスがまだ単層コーティングのものも残しているのには、そういう現実的な評価というものがあるのだと思います。
 それとマルチコーティングをしたものはレンズ表面に光を反射させると複雑な色が見えますね、そのとき左右のレンズが見かけ上違って見えることがある。これも2本の光軸を必要とする双眼鏡ならではのむずかしさといえます。性能的にまったく問題ないのですがカッコ悪い」
 このことから、マルチコーティングを中途半端にやるよりも、レンズに色をつけてしまった方がいいという考え方も出てくる。
 紫外線と赤外線を両方カットするルビーコートも、そういう知識をもって見ると、実用的な面と、実利的な面とが相乗効果をあげている。ただし透明率は低くなる。
 キヤノンはどうしたかといえば、マルチコーティングをしたうえで12×36 ISにはカメラ用の口径43mmのフィルターをつけられるようにした。UVフィルターをつければ紫外線をカットできるし、濃いNDフィルターをつければ太陽の黒点観測も簡単。飯塚さんたちはあくまでもカメラレンズとの関連から双眼鏡を発想していこうという考えのようである。

【表6】双眼鏡は防水であるに越したことはない。しかし防水処理をすると重く高価になるのも事実。そこで防水機能を備えたものをブランドごとに重さの順に並べてみた。防水内容はカタログなどに書かれているとおり。

◎カートン
375g(防水)──32,000円(8×25)──ダハプリズム
740g(防水)──35,000円(8×30)──ポロプリズム
890g(防水)──38,000円(7×50)──ポロプリズム
◎キヤノン
400g(防水)──23,000円(8×23)──ポロプリズム
730g(防水)──38,000円(8×32)──ダハプリズム
890g(防滴)──125,000円(12×36)──ダハプリズム
◎ケンコー
1,150g(水深5m)──39,000円(7×50)──ポロプリズム
◎シュタイナー
485g(生活防水)──47,000円(8×30)──ポロプリズム
485g(生活防水)──38,000円(8×30)──ポロプリズム
540g(水深5m。窒素充填)──75,000円(8×30)──ポロプリズム
560g(水深5m。窒素充填)──66,000円(6×30)──ポロプリズム
695g(水深5m。窒素充填)──88,000円(9×40)──ポロプリズム
1,000g(水深5m。窒素充填)──112,000円(7×50)──ポロプリズム
1,000g(水深5m。窒素充填)──112,000円(7×50)──ポロプリズム
1,030g(水深5m。窒素充填)──199,000円(7×50)──ポロプリズム
1,030g(水深5m。窒素充填)──179,000円(7×50)──ポロプリズム
1,140g(水深5m。窒素充填)──243,000円(7×50)──ポロプリズム
1,930g(水深5m。窒素充填)──230,000円(15×80)──ポロプリズム
◎ツァイス
263g(防水)──92,000円(8×20)──ダハプリズム
560g(防水)──165,000円(8×30)──ダハプリズム
600g(防水)──142,000円(8×30)──ダハプリズム
730g(防水)──201,000円(10×40)──ダハプリズム
790g(完全防水)──180,000円(6×42)──ダハプリズム
800g(防水)──188,000円(7×42)──ダハプリズム
1,030g(防水)──231,000円(8×56)──ダハプリズム
1,200g(完全防水)──218,000円(7×50)──ポロプリズム
1,210g(窒素ガス封入完全防水)──203,000円(7×45)──ダハプリズム
1,260g(防水)──240,000円(7×50)──ポロプリズム
1,426g(窒素ガス封入完全防水)──244,000円(10×56)──ダハプリズム
1,459g(窒素ガス封入完全防水)──224,000円(8×56)──ダハプリズム
1,580g(防水)──349,000円(15×60)──ダハプリズム
1,660g(防水)──750,000円(20×60)──ダハプリズム
◎ニコン
425g(防水)──27,500円(8×23)──ポロプリズム
485g(防水)──29,500円(10×25)──ポロプリズム
610g(防水)──47,000円(8×30)──ダハプリズム
840g(防水)──108,000円(8×40)──ダハプリズム
1,360g(防水)──46,000円(7×50)──ポロプリズム
1,485g(防水)──85,000円(7×50)──ポロプリズム
1,972g(防水)──97,000円(15×70)──ポロプリズム
1,985g(防水)──75,000円(10×70)──ポロプリズム
2,100g(防水)──124,000円(10×70)──ポロプリズム
◎ビクセン
380g(防水)──23,800円(8×25)──ダハプリズム
635g(防水)──27,800円(8×32)──ダハプリズム
700g(防水)──29,800円(10×42)──ダハプリズム
815g(防水)──36,000円(7×50)──ポロプリズム
815g(防水)──38,500円(7×50)──ポロプリズム
830g(防水)──38,500円(10×50)──ポロプリズム
1,300g(完全防水。窒素ガス封入)──42,000円(7×50)──ポロプリズム
◎フジノン
720g(気密タイプ)──49,800円(8×30)──ポロプリズム
730g(気密タイプ)──46,800円(6×30)──ポロプリズム
1,270g(気密タイプ)──41,000円(7×50)──ポロプリズム
1,370g(気密タイプ)──44,500円(7×50)──ポロプリズム
1,410g(気密タイプ)──51,800円(7×50)──ポロプリズム
1,420g(気密タイプ)──77,000円(7×50)──ポロプリズム
1,520g(気密タイプ)──80,000円(7×50)──ポロプリズム
1,560g(気密タイプ)──87,300円(7×50)──ポロプリズム
2,100g(気密タイプ)──63,000円(10×70)──ポロプリズム
2,160g(気密タイプ)──95,000円(10×70)──ポロプリズム
2,160g(気密タイプ)──103,000円(16×70)──ポロプリズム
2,160g(気密タイプ)──89,000円(16×70)──ポロプリズム
◎ペンタックス
330g(JIS4級防まつ形日常生活防水)──22,000円(10×24)──ポロプリズム
330g(JIS4級防まつ形日常生活防水)──20,000円(8×24)──ポロプリズム
660g(JIS4級防まつ形日常生活防水)──46,000円(10×42)──ダハプリズム
660g(JIS4級防まつ形日常生活防水)──50,000円(12×42)──ダハプリズム
660g(JIS4級防まつ形日常生活防水)──43,000円(8×42)──ダハプリズム
1,210g(JIS4級防まつ形日常生活防水)──60,000円(8×56)──ダハプリズム
1,320g(JIS4級防まつ形日常生活防水)──68,000円(9×63)──ダハプリズム
1,650g(水深5m。JIS7級防浸形防水)──90,000円(10×50)──ポロプリズム
1,650g(水深5m。JIS7級防浸形防水)──85,000円(7×50)──ポロプリズム
◎ミノルタ
500g(防水)──26,000円(10×23)──ポロプリズム
◎ライカ
625g(水深5m)──129,000円(8×32)──ダハプリズム
890g(水深5m)──155,000円(10×42)──ダハプリズム
890g(水深5m)──142,000円(7×42)──ダハプリズム
890g(水深5m)──150,000円(8×42)──ダハプリズム
1,490g(防滴)──510,000円(7×42)──ダハプリズム

●手ブレ防止機能の挑戦状

 手ブレ防止双眼鏡の元祖といえばフジノンで、いまから10年以上も前のことだという。その原理についてはカタログにこう書いてある。
「フジノンスタビスコープは対物レンズと接眼レンズの同一線上に正立プリズムが配列されています。この正立プリズムは高速ジャイロモーターを持った回転自在のジンバル機構に取り付けられており、そのジンバル機構の中心であるピポットポイントは対物レンズと接眼レンズのちょうど中間に取り付けられています。振動が起こり、スタビスコープ本体が揺れてしまっても、プリズムの向きはジャイロモーターによって振動前と同じ方向を向いたままになっています。プリズムの中心・向きは変わりませんから目標は静止しているように見えます」
 はっきりと理解できたわけではないが、双眼鏡のちょうど真ん中に当たる位置にプリズムを置いて、2軸で自由に動くようにしておき、それがあたかも中空に浮いて同じ方向に向き続けているようにしているらしい。双眼鏡の向きが少し変わってもジャイロ機構によってプリズムはその直前に向いていた方向を維持しようとするので、その直前の映像をしばらくのあいだ手放さずにがんばってくれるというのだ。
 飯塚さんたちはこれをプリズムジンバル方式と呼んでいた。ブレの補正角が5.5度もあるので振幅の大きな船舶や航空機で使用する場合の手ブレ防止に最適な方式であるという。あえて欠点をさがせば単3形電池を4本使用してジャイロモーターを回すのだが、フル回転になるまでに1分ほどかかるという始動の遅さ、それに手ブレしない状態でパンニングしたときには逆にそれを阻害するようにジャイロ機構が働いてしまうこと。
 それに対してツァイスは光学系がヤジロベーのように吊られているのだそうだ。完全にメカニカルなこの精密スタビライザーは細かい周波数の揺れを取るということで、キヤノン方式と直接ぶつかりあう存在になってくる。電気を使わない完全メカニカルというのは使用環境によっては圧倒的なメリットがあるが、ブレ防止のメカニカルな作動が尾を引いて長い余韻を残してしまうというのが欠点。キヤノン方式との関係でいえば、メカにこだわるかメカトロニクスに進展するかの違いということになる。
 さてキヤノンのバリアングルプリズムは、振動ジャイロセンサーで縦揺れと横揺れを検知してマイクロコンピューターが最適な補正値を+0.9〜-0.9度の範囲で計算、それに基づいて左右それぞれのバリアングルプリズムが駆動制御して光軸を急激に変化させないようにする。その間、1Hz(1秒周期)の揺れなら1/10にまで抑え込み、10Hz(1/10秒周期)の揺れなら1/30の抑止率にまで上昇する。
 この手ブレ補正の性能についてはすでに8mmビデオカメラで実証済みだが、いわゆる手ブレと、走行する自動車が発生する振動を効果的に除去する周波数特性になっている。ただしその光軸補正作業はプリズムの2枚のガラスの角度を変化させるだけなので、補正角が0.5〜0.6度とフジノンの1/10程度しかとれない。したがって波にもまれる船の上で使うとなると、大きなブレを吸収しきれない。
 どうもキヤノン&ツァイスとフジノンの間には大きなギャップがあるらしい。こでフジノンのカタログを読んでみると、キャッチコピーは「揺れている場所で使って欲しい双眼鏡です」とある。具体的に、次のように解説されている。
「揺れる乗り物の上で、双眼鏡を構え、必死に目標物を探す。激しく揺れ続ける視界の中で目標物はなかなか見つからない。
 やっと発見、と思った瞬間、ガタンと一揺れ、アレレ!? と思ったときには目標物はすでに視界の外へ。また、一からやり直し……。激しく振動する船の上や飛行機の上から、双眼鏡を覗いたことがある方ならきっとおわかりいただけるはずです。――(中略)――フジノンスタビスコープは、激しく揺れる場所において、まさに威力を発揮する画期的な双眼鏡です。視界の揺れを取り除き、静止した状態で目標の探索、追跡、観察を可能にしました」
 こうなるとフジノンはハードアクション型ということになりそうだ。カタログをよく読んでみると「手ブレ」などというヤワな表現はどこにもない。
 そこで、もしこれらの双眼鏡を「防振対策双眼鏡」という名でくくれば、キヤノンとツァイスは手ブレ/微振動吸収型、フジノンは大・激振動吸収型ということになる。
 ではツァイスの20×30は大きい・重い・高いの三重苦かというと、それだけのものであるという。私は商品企画を担当した田中さんにこんな風に聞いてみたのだった。
「試作機が出たときに、あれは軍用に違いないと思ったのですがね……」
 そうしたら田中さんはピシャリといった。
「キヤノンは軍用はやりません。軍用規格というのには兵隊さんが腹立ち紛れに蹴っ飛ばしても壊れないというような頑丈さが要求されるらしいんです。何メートル上からコンクリートの床に落としてもOKとか。私たちは軽くて・小さくて・安いものに技術を投入していくのです」
 もちろん地面にポトンと落としたら――よほど運がよければ無傷のまま、かもしれないというのがキヤノンの双眼鏡ということになる。
 たとえばそのことが防水にも表れている。双眼鏡では水深5mに沈んで水圧がかかっても短時間に引き上げればOKというのが完全防水のひとつの基準になっているようだ。JISでは7級の防浸防水に当たるが、キヤノンの12×36 ISはJIS4級の防沫防水。どの方向から雨に当たってもいいが、洗うのはちょっと無理という日常生活防水になっている。これをカタログでは「EOS-1Nと同等の防滴設計」と表現している。
 そしてさらに保証。30年保証をかかげるドイツの高級双眼鏡と比べるといかにも見劣りする「1年保証」は、この双眼鏡が35ミリカメラや8ミリビデオカメラと同じものと考えているからである。だからといって、すぐにこわれるというわけではない。
「一番不安なのはバリアングルプリズムですが、最初に製品化したバリアングルプリズムはソニーのTR900に搭載したものです。それを見てもプリズムの故障率は低いんです。ただ、7〜8年経つと高い山でプリズム内に気泡を生じるようになることが分かっています。平地に降りれば元に戻るのですが、そういう自然劣化が起こることは起こるんです」
 ともかく、キヤノンの双眼鏡開発グループはツァイスの20×60SとフジノンのS1240/S1640を目標として開発した10×50と15×50を、さらに大きさと重さと価格のすべてを1/2にするという目標につなげて12×36 ISを完成させたのだった。

*キヤノンの12×36 ISはちょっと見るとポロプリズム双眼鏡のように見えるが鏡胴が直線的になるダハプリズムを使用している。対物レンズの根元にバリアングルプリズムのユニットを取り付けてあるためにボリューム感がある。しかし握ってみると890g(+電池)が案外軽く感じるのは、そのバリアングルプリズムのあたり、グリップ部に重心があるからだろう。

*フジノンS1240(498,000円)
カタログで見るだけなので、どんな感じなのか分からない。ハンドグリップに利き腕側の手を入れて、約2kgのアレイを振り回す感じだろうか。揺れる船を想定しているとなると、もう一方の手はどこか手すりにつかまっているのだろう。アクション映画の小道具としてこういう道具が当たり前に見られるようになると、双眼鏡もずいぶん懐の深い感じになっていくにちがいない。

*ツァイス20×60S(750,000円)
これは見ただけでさわっていない。とにかく大きくて、ケースに入れたらどうやって運ぼうかという感じ。首にかけて歩くのがいちばんコンパクトかもしれない。それでも20倍でブレなしで見られる快感は、ハンティングや自然探査には最強の双眼鏡には違いない。

*迫力と臨場感の「高倍率12倍/67°の広視界
12×36 ISはより細かく観察したいというニーズに応える12倍の高倍率。高倍率双眼鏡のもつ「手ブレを起こしやすい」「視野が狭くなる」といった欠点をキヤノン独自の防振機能と優れた光学設計でクリアした結果、12倍ならではの迫力ある像が余すことなく堪能できます。また、見かけ視界67°の広視界もトップレベルをいくもの。ダブレット・フィールドフラットナー・レンズがもたらす周辺まで鮮明な像とあいまって、かつてない臨場感を生み出します。さらに、十分な大きさのダハプリズムの採用により、かたちのよい円形をした、かげりのない瞳(接眼部に見られる明るい円)を実現しました。――セールスマニュアルより

【表7】代表的な12ブランドのカタログから合計234機種をリストアップしたらズーム双眼鏡はこの18機種。これを多いとみるか少ないとみるかは人によってかなりちがうはずだ。
以下の表記は、倍率=見掛け視野=射出ひとみ径=アイレリーフ=最短合焦距離=重さ=価格
◎カートン
6〜12倍×25mm=35.4〜48度=4.2〜2.1mm=11.5〜14.5mm=6m=305g=20,000円
8〜17倍×25mm=40〜54.4度=3.1〜1.5mm=11.5〜10mm=6m=305g=22,000円
8〜17倍×40mm=41.6〜65.3度=5〜2.4mm=14〜13.5mm=12m=670g=25,000円
10〜30倍×50mm=37〜66度=5〜1.7mm=11.5〜10mm=15m=790g=30,000円
◎ケンコー
7〜21倍×40mm=38.5〜65.1度=5.7〜1.9mm=5〜10mm=?=730g=26,000円
8〜17倍×25mm=39.2〜52.7度=3.1〜1.5mm=?=?=295g=29,800円
8〜20倍×25mm=36.8〜52度=3.1〜1.3mm=?=?=295g=32,800円
8〜24倍×50mm=37.6〜57.6度=6.3〜2.1mm=5〜10mm=?=880g=29,000円
8〜25倍×25mm=36.8〜65度=3.1〜1mm=?=?=295g=35,800円
9〜21倍×25mm=37.8〜58.8度=2.8〜1.2mm=?=?=295g=33,800円
10〜30倍×50mm=36〜60度=5〜1.7mm=7〜10mm=?=880g=34,000円
◎ニコン
6〜12倍×24mm=41.4〜?度=4〜2mm=17.6mm=5m=590g=47,000円
8〜16倍×40mm=41.6〜?度=5〜2.5mm=12mm=5m=875g=68,000円
◎ビクセン
7〜15倍×25mm=36.4〜55.4度=3.6〜1.7mm=13mm=4m=375g=19,500円
7〜21倍×40mm=38.5〜69.3度=5.7〜1.9mm=4.5〜9.5mm=12m=900g=26,000円
8〜24倍×50mm=40〜69.6度=6.3〜2.1mm=4.5〜9.5mm=17m=920g=29,000円
◎ミノルタ
7〜21倍×50mm=35〜63度=7.1〜2.4mm=?=?=1,060g=32,800円
8〜17倍×25mm=39.2〜52.7度=3.1〜1.5mm=?=?=295g=22,000円

●実現したい夢、実現して欲しい夢

 じつは私は四半世紀前、ナイル河への学生探検隊で技術・装備担当をやったことがあるのだが、そのときキヤノンから8×30と7×50の双眼鏡をいただいた。1957年に同時発売された6×30、7×35、7×50、8×30と、1961年発売の3倍オペラグラスがキヤノン双眼鏡のラインナップだった。残念なことにほとんど活躍してもらえないまま、現地で密かに行動資金に換えてしまった(外貨枠は1人500ドルしかなかったから、合計3.5トンの装備を抱えたタケノコ生活という手法をとっていたのデス)。
 金に換えたというのはともかく、双眼鏡がまったく身に着かないうちに手放してしまったということが私には長い間ひっかかっていた。道具と技術の素朴な関係(インターフェース)にこだわる私には、ささって取れない小骨のような苦い思いのひとつだった。
 キヤノンの古い双眼鏡は、一度ラインナップが整っただけで、その後カメラには次々に新しい技術が投入されていったのと比べれば、適切な救援もないまま歴史を閉じている。
 だからとくに、今度の双眼鏡開発では、キヤノンの新技術を全面的に投入するという大方針があったという。バリアングルプリズムの使用というのが最大のものだが、応用可能な技術を目につくものだけ拾ってもワクワクしてしまう。
 ひとつはEOS 5でデビューした視線入力。画面内の指示点を見るだけでそれが命令として実行される非接触の指示方式で、飯塚さんはそれを眼幅調節に導入したいと考えているようだ。目配りひとつで最良の立体視状態にできる。
 眼幅調節というのは接眼部の間隔をユーザーの眼幅に合わせるということだが、これができるなら左右の視度調節も同様。「遠方に合わせて両眼それぞれがよく見えるように調節してください」とガイドするだけですむではないか。
 キヤノンお得意のメカトロニクスは、ユーザーの要望が売れるというかたちで戻ってきさえすれば、どこまでも進んでいく。
 しかし私が最も期待するのはまったく新しいズーム双眼鏡の誕生だ。表7に今回の234機種の中のズーム双眼鏡18機種を並べてみたが、じつは飯塚さんたちはズーム双眼鏡に密かな野心を燃やしているようなのだ。聞いたのは一般論的な技術論だが、ある理由で、私はそれをいつか飯塚さんたちにかなえてほしい。
 飯塚さんはこう語ったのだ。
「双眼鏡のズーム方式は接眼ズームというのですが、これは像がボヨボヨでとうてい実用になりません。もしズーム双眼鏡が必要なら、カメラ用ズームレンズのように本格的なズームレンズとして設計しなくてはいけないと思いますね」
 ほんとうは5倍、6倍といった低倍率双眼鏡にこそ手ブレ防止機能がほしいのだ。いま12×36 ISをのぞくと、人間の髪の毛が1本1本見えてくるし、しわだってバッチリ見える。風景を見ると空気の揺らぎがちゃんと見える。しかしこれは12倍だからではない。半分の倍率の6倍だって、きちんとブレ止めすればそういうレベルで鮮明に見えるのだ。逆にいえばほとんどの双眼鏡は手ブレ付きなので、レンズの性能などがあまり厳密に要求されないということなのだ。
 6倍でもブレているということを(かなりベテラン面している私が)告白するのは、本気で――6倍にも手ブレ防止機能が欲しい、と思っているからである。
 でも、常識的には、12倍の次は15倍か20倍、倍率を下ろしても8倍だろう。
 そこで、12×36を「6〜12倍×36mm」というかたちで低倍率・広視界側にズームワイド。そうすると広視界の臨場感も十分なら射出ひとみ径は6倍時に6mmとなって「明るさ」も十分、もとより「薄暮係数」は12倍時に十分に高レベルなのだから、とてつもないオールラウンドプレーヤーとなってしまう。バッテリーが上がって手ブレ防止機能が働かなくても、6×36という双眼鏡なら邪魔にはならない。
 ――そういう私の「夢の双眼鏡」が1日も早く登場してくれるように祈りながら、まずは「12×36 IS」という(分かる人には衝撃的だが、その他の人には気づかれない恐れ十分の)力作が市場で評価され、開発チームの密かなる野心が次ぎ、また次ぎと実現され、双眼鏡に新しい風が吹き、新しい波が起こることを期待したい。


【キヤノン通信 75号 1998.2】

【コラム】Canon双眼鏡の新展開

●キヤノンIS双眼鏡のナニがドウ?

 一昨年のことになりますが、「キヤノン通信」54号(1995.7)では、手ブレ防止機能付き双眼鏡「BINOCULARS 12×36 IS」の特集をまとめ、タイトルを「双眼鏡革命宣言」としました。そこでは日本で買える代表的な12ブランドの双眼鏡全機種をさまざまな角度から一覧しながら、キヤノンの新しい双眼鏡がなぜ革命的なのかを探ったつもりです。
 その双眼鏡「12×36 IS」は価格が12万5000円でしたから、ドイツのツアイス、ライカ、シュタイナー、日本のニコン、フジノンといった世界的ブランドの超高級双眼鏡と真正面から競い合う価格帯にデビューしたのでした。
 続いて16万5000円という上級機種「15×45 IS」が、そして今回、6万5000円で「10×30 IS」がラインナップされてきたというわけです。
 この3機種を「キヤノン・ビノキュラーズISシリーズ」というようですが、ISというのはイメージ・スタビライザー(画像安定。すなわち手ブレ防止機能)を備えた双眼鏡という意味です。
 このIS双眼鏡をキヤノンが最初に開発発表したときには「10×50」と「15×50」の2機種だったので、フラッグシップモデルは15倍という開発当初からの戦略であったということがわかります。しかし試作機の「15×50」は重さが2,100gもあったのが、発売なった「15×45 IS」では1,020gと半減しています。10倍のものは「10×50」から「10×30 IS」となって、対物レンズの有効径を50mmから30mmに小さくしたため、1,700gから600gへとコンパクト優先に大きく変更したのでした。もちろん価格を6万5000円という、一流ブランドの実用機種群の価格帯まで大きく下げたのですから、価格戦略機といえるわけです。
 ――双眼鏡のことにあまりくわしくない方にはややこしい数字の羅列が目障りだと思うので簡単にふれますが、たとえば「10×35 IS」では、拡大倍率が10倍でレンズ先端の対物レンズが直径30mmあるという意味になります。倍率が大きいとそれなりに双眼鏡は大きくなりますが、大きく重くなる一番大きな要因は対物レンズの大きさなのです。
 双眼鏡にくわしい人はさらに、拡大倍率を1としたときの対物レンズのサイズから、この場合なら直径3mmという射出瞳径(双眼鏡をもった手を前方に伸ばしたときに接眼レンズの中に見える明るい画像の大きさ)という双眼鏡の明るさのひとつの指標を概算しているはずです。ここではくわしく書きませんが、射出瞳径は人間の瞳が暗いところでは7mmに開き、明るいところでは3mmまで絞られるということから、明るさを優先する双眼鏡では瞳径を7mm確保し、明るいところで使うことに割り切ってコンパクトさを求めるものでは3mm(最近では2.5mm)まで小さくする、というふうにグルーピングされています。そして倍率と明るさを加味して考えるドイツ流の薄暮係数では瞳径が5mm前後の高倍率双眼鏡がしだいに主力となってきつつあります。すなわち天体観測用や航海用では夜間の使用ということから「7×50」という伝統的な双眼鏡になるとしても、通常の使用では「8×30」とか「10×40」という双眼鏡が実用的とされています。
 双眼鏡は結局、倍率と明るさで用途を分けていくのですが、「双眼鏡革命宣言」の核心技術は「イメージ・スタビライザー」なのです。これはキヤノンが開発してビデオカメラやEOS用レンズに搭載しているバリアングル・プリズムによる手ブレ防止機能を、双眼鏡に標準装備することでまったく新しい世界を提供していこうという挑戦なのです。
「双眼鏡革命宣言」の中で、IS双眼鏡開発の中心となった田中一弘さんは次のように語っています。
「目標はツァイスでした。ツァイスには手持ち双眼鏡の決定版といわれている10×40(10倍で口径40mm、価格201,000円)があります。ライカの10×42(価格155,000円)もなかなかいいのですが、光学性能ではそのあたりと競い合うという設定です。それから手ブレ防止双眼鏡としてはフジノンのスタビスコープ(当時は100万円。現在は12×40が498,000円、16×40が548,000円)とツァイスの20×60S(750,000円)がありましたから、当然そのレベルをクリア。それでいて価格的にも一般ユーザーの手に届くもの、とターゲットを絞っていったのです」
 こうして12万5000円の「12×36 IS」と16万5000円の「15×45 IS」がデビューし、いよいよ普及機の「10×30 IS」が登場したというわけなのです。

●理想の双眼鏡――私見

 筆者は最近、山歩きの仲間の一人にツアイスの「4×12」(4万3000円)を買わせることに成功しました。というのは倍率何十倍という双眼鏡が1万円で買える時代に、たった4倍の双眼鏡を4万円以上出して買おうという人はよほどの訳知りか、思いこみの激しい人しかいないわけです。おそらく日本ではほとんど売れていない双眼鏡のはずで、筆者も実物にさわったことがなかったのでした。しかしどう考えてもこのポケット双眼鏡はツアイスならではの野心的なものであって、デザインセレクションという新しいシリーズの「6×18」と「4×12」の低倍率のほうを周囲の人に手に入れてもらいたかったというわけです。
 のぞいてみると、だれもがオ〜ッという驚きの声を上げます。そのときは赤い木の実を見上げたのですが、単に大きく、近づいて見えるというだけではなく、まろやかさや、表皮のさりげないおうとつなど、質感が迫ってくるのです。ツアイス神話にはまったような言い方ですが、ほんとうに、双眼鏡を通すことによって見えるものが質を変えてしまうのです。
 そしてこの4倍双眼鏡は、風景を見るときにはほとんどピント操作がいらないし、倍率が低いだけ広い範囲を一度に見ることができるから、オペラグラスやスポーツグラスとして使いやすい。そしてもっともありがたいのは近距離のものまで見えること。足元の花を大きく見るための双眼鏡が、山道を踏み外さない善良な中高年登山者には必携の装備になりつつあるのです。それはじつはツアイスの低倍率単眼鏡「3×12」によって美術館・博物館用単眼鏡という世界が開かれたことから生まれた双眼鏡といえるのです。近寄れない絵に近寄るための高級双眼鏡という需要がじつはメインなのではないかと思うのです。
 機能としてはそれと同じもので価格が1万5800円というのにタスコのマルチフォーカス IIがあります。これは「5×21」で最短フォーカス距離が2mですからファミリーユースとして積極的におすすめできるものといえます。もちろん周辺の人の何人かがもっていますが、シャープによく見える――という以上のものではありません。安売りの双眼鏡のほとんどは、両眼の視野がきちんとそろっていないというくらいいい加減な双眼鏡が世の中にあふれている中で、タスコの「5×21」は安全なお買いものということができます。
 そういう筆者は何を使用しているかというと、ドイツのシュタイナーの「6×30」(6万6000円)という双眼鏡。これは船などの乗り物から景色を眺めると低倍率のよさを実感するのですが、手ブレがなくて、目に当てたまま風景を観賞できる低倍率の使いやすさがあるうえに、ピント調節が左右それぞれの接岸部であわせればいいというところが、周囲の人にまわして使ってもらうのに便利なのです。遠景の風景ならピント合わせは不要です。
 日本では双眼鏡に高倍率を求めるのが一般的であるようですが、みなさん望遠鏡と勘違いしているのです。双眼鏡は見るものを拡大するという以上に、肉眼の左右両眼の離れ具合を増幅するので、立体感が拡大されるのです。ですから双眼鏡を臨場感の増幅という視点から見ていくと、肉眼をどのようにアシストしてくれるのかというところが明快に見えてくるのです。
 さてキヤノンのIS双眼鏡です。最初の「12×36 IS」をのぞいたときに人の髪の毛が1本1本見えるのでビックリ仰天したのですが、じつは重くて、仰々しくて、とても持ち歩く気にはなりませんでした。つまり見たいものがあって見るにはいいだろうなと思うけれど、何気なくのぞくには、12倍の拡大率は(広視界設計にしてもそれはあくまで12倍に引き寄せられたうえでのことですから)見える範囲が小さすぎると感じました。木を見ても森は見えないと、風景派は思ったのです。
 今回の「10×30 IS」はずいぶん軽くなり、電池のもちもよくなったので安心して山歩きに持っていくと、IS機能が単なる手ブレ防止という以上の効果を発揮してくれるということに気づいたのです。それは手持ちで双眼鏡を見ているときの映像が、ISボタンを押した瞬間に静止画に変わるという風に見えるのです。他人が読んでいる新聞の文字を遠くから読むときなどは手ブレ防止で想像を超えるクッキリ、ハッキリなのですが、最短フォーカスの4.2mあたりでごく普通の葉っぱや、木の幹を見ていると、静止画の1枚1枚がハラリとめくられるというようなドラマチックな気分に浸ることができるのです。単にシャープだとか、コントラストがいいだとかいうのではなくて、記憶に残る映像が飛び込んでくるのです。双眼鏡がそのIS機能によって、まったく新しい鑑賞領域を開きつつあると、認識を新たにしているところです。
 ……で、本論。ツアイスの4倍双眼鏡が野心的だということをこの項の最初に長々と書きましたが、そこがキヤノン通信の「「双眼鏡革命宣言」と重要な関わりを持ってくるのです。特集の最後のところを引用してみます。

────しかし私が最も期待するのはまったく新しいズーム双眼鏡の誕生だ。表7に今回の234機種の中のズーム双眼鏡18機種を並べてみたが、じつは飯塚さん(双眼鏡設計チームのチームリーダー飯塚俊美さん)たちはズーム双眼鏡に密かな野心を燃やしているようなのだ。聞いたのは一般論的な技術論だが、ある理由で、私はそれをいつか飯塚さんたちにかなえてほしい。
 飯塚さんはこう語ったのだ。
「双眼鏡のズーム方式は接眼ズームというのですが、これは像がボヨボヨでとうてい実用になりません。もしズーム双眼鏡が必要なら、カメラ用ズームレンズのように本格的な対物ズームレンズとして設計しなくてはいけないと思いますね」
 ほんとうは5倍、6倍といった低倍率双眼鏡にこそ手ブレ防止機能がほしいのだ。いま12×36 ISをのぞくと、人間の髪の毛が1本1本見えてくるし、しわだってバッチリ見える。風景を見ると空気の揺らぎがちゃんと見える。しかしこれは12倍だからではない。半分の倍率の6倍だって、きちんとブレ止めすればそういうレベルで鮮明に見えるのだ。逆にいえばほとんどの双眼鏡は手ブレ付きなので、レンズの性能などがあまり厳密に要求されないということなのだ。
 6倍でもブレているということを(かなりベテラン面している私が)告白するのは、本気で――6倍にも手ブレ防止機能が欲しい、と思っているからである。
 でも、常識的には、12倍の次は15倍か20倍、倍率を下ろしても8倍だろう。
 そこで、12×36を「6〜12倍×36mm」というかたちで低倍率・広視界側にズームワイド。そうすると広視界の臨場感も十分なら射出ひとみ径は6倍時に6mmとなって「明るさ」も十分、もとより「薄暮係数」は12倍時に十分に高レベルなのだから、とてつもないオールラウンドプレーヤーとなってしまう。バッテリーが上がって手ブレ防止機能が働かなくても、6×36という双眼鏡なら邪魔にはならない。
 ――そういう私の「夢の双眼鏡」が1日も早く登場してくれるように祈りながら、まずは「12×36 IS」という(分かる人には衝撃的だが、その他の人には気づかれない恐れ十分の)力作が市場で評価され、開発チームの密かなる野心が次ぎ、また次ぎと実現され、双眼鏡に新しい風が吹き、新しい波が起こることを期待したい。────

 この1995年7月のほのかな期待が、「10×30 IS」という普及価格機の登場でさらに大きくふくらんできたのです。IS双眼鏡が一眼レフカメラ用の「標準系ズーム」の機能を重ねたとき、ドイツのカール・ツアイス社が1世紀をかけて育ててきた近代双眼鏡が、新しい世紀に入るということができるでしょう。
 ともあれ、キヤノンのIS双眼鏡はこれまでの双眼鏡では得られなかった「静止画」的印象を、すでにスタンダードなものとして確立しつつあるといえます。

●キヤノンの双眼鏡革命・依然進行中

 キヤノンが手ブレ補正という技術によって本格的に双眼鏡メーカーとしてデビューしたのは1995年のことだった。(キヤノン通信・紙版54号特集「双眼鏡革命」宣言・1995.7参照)
 当時、手ブレ補正の双眼鏡としてはツァイス20×60S(20倍×対物有効口径60mm。75万円)とフジノンS1240(12倍×対物有効口径40mm。49万8000円)、S1640(16倍×対物有効口径40mm。54万8000円)があったが、そこにキヤノンが『12×36IS』(12倍×対物有効口径36mm。12万5000円)を投入したのだった。それによってツァイスもフジノンも値下げで応戦したが、キヤノンはラインアップを拡充するという動きで防振双眼鏡革命を押し進めている。

 4月、キヤノンは5機種目に当たる手ブレ補正機構搭載の双眼鏡を発売した。キヤノンが押し進める防振双眼化革命は着々とそのラインアップを拡充しているので、報告したい。
 まずは対物レンズ有効口径50@の重量級として『18×50IS』(18万9000円)、『15×50IS』(16万9000円)の兄弟機種があり、全天候対応のヘビーデューティ仕様になっている。
 キヤノンの「防振双眼」として最初に登場したスタンダードタイプは『12×36IS』(12万5000円)で、これは現在ではひとまわり小型で防滴構造とという位置づけになっている。
 普及タイプとして登場したのは、まず『10×30IS』(6万5000円)で、これは重さ600gで、同クラスの双眼鏡と比べて同等のコンパクトさにまとめられた。
 その12倍と10倍は、対物レンズの有効口径(mm)を倍率で割ると3(mm)となる。双眼鏡の明るさを示す瞳径が3mmということで、接眼レンズから肉眼に渡される映像が直径3mmの光束となって入ってくる。これは日中の通常の使用にはまったく問題のない明るさとなっている。夜間など、肉眼の瞳が大きく見開くと一般に直径7mmといわれるので、その際には瞳径をもう少し大きくしたいが、夕暮れ時にはドイツで用いられている薄暮係数によると倍率による集光力が効いてくるので、12倍も10倍も肉眼より明るく見える。
 そのようなラインアップに新しく『8×25IS』(5万5000円)が加わったのだ。瞳径3mmのシリーズと考えてよく、倍率も抑えた普及タイプで、重さ490gという思い切ったコンパクト設計になっている。

●第3の手ブレ補正機構「ティルト方式」とはなにか

 キヤノン販売ではカメラマーケティング部の中村和行さんが担当だということで、軽くリサーチしてみた。
「キヤノンのIS双眼鏡は価格も高くてヘビーユーザー向けでしたから、なんとか安く、軽くしたかった」という。そのためにボディーをラバーからプラスチックのみにして、手ブレ補正機構も、新開発の「ティルト方式」を搭載したという。
 キヤノンの光学製品に大きな付加価値を与えているIS(イメージ・スタビライザー)すなわち光学式手ブレ補正機構は、バリアングルプリズムによるVAP方式とレンズを光軸に対して直角に動かすシフトレンズ方式の2系統があり、それぞれ各種プロ用撮影レンズにまで採用されてきている。双眼鏡にはVAP方式が使われてきた。
 ところが今度は「ティルト方式」だというのだ。第3のIS方式になるではないか。なにがどうティルトなのか?
 これはどうしても、開発技術者に直接聞いてみなければ……ということで、キヤノン株式会社イメージコミュニケーション事業本部レンズ開発センターの主任研究員・山内晴比古さんに直撃インタビュー。
「VAP方式では防振ユニットを対物レンズ部に固定するので、どうしても大型になってしまうんです」
 レンズ群の一部をスライドさせて光軸のブレを補正するシフトレンズはEOSシリーズ用のEFレンズから、デジタルビデオカメラの小さなレンズにまで使用されている。小型化は実証済みだ。
「ところが双眼鏡ではレンズ2つを同時に動かそうとするので、問題が出るんです。眼鏡のようなレンズ2つのユニットを動かしてみると、長辺側の左右の動きはともかく、短辺側の上下ではこじれが生じてくる。ギギギッギと引っかかるような動きが生じてしまう」
 双眼鏡では左右のレンズの光軸が狂わないことも重要なので、2つのレンズを同時に制御したい。そこで考え出したのが上下・左右に動かすのではなく、ピッチ回転軸とヨー回転軸をもつジンバル機構によってレンズを振るという方式。2つのレンズを連結させた平行四辺形の枠を上下左右に最大1度振ることによって手ブレを補正する。
「回転角を利用するので、構造がシンプルで小型化に向いています」
 キヤノンの防振双眼鏡はいよいよ普及タイプへの進出を本格化する。でも、8倍では手ブレ補正の必要も少ないのではないのか?
「ISの8倍が必要かどうか、不要論がもちろんありました」と山内さんはいう。
「ところが手ブレ補正がどの程度有効か視力チャートでいろいろチェックしてみると、倍率には関係ないんです。視力アップという意味で8割方アップします。評価部門できちんと調べてもらいました」
 ちょうどカメラのピントの悪さがしばしば手ブレによるのと同じで、双眼鏡でも手ブレは発生していて、それを止めるとそれだけ情報量がアップするという。高倍率双眼鏡を手持ちで使うための手ブレ補正から、双眼鏡のレンズ性能を100%発揮させるための手ブレ補正へと活躍の場を広げようというのだ。
 かくしてある意味で常識を超える『8×25IS』が登場した。これはどうも、もっとコンパクトで、もっと低価格の防振双眼鏡へのワンステップになるような気配がある。順調に売れてくれればの話だが……。


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