軽登山講座────伊藤幸司
*この講座はBIGLOBE(NECビッグローブ)が公式に設置したstation50において2005年から2010年にかけて105回連載したものです。
【伊藤幸司の軽登山講座034】「行動食」の試行錯誤――2007.3.10
■登りはじめの食事休憩――2003.7.12
白山の砂防新道には別当出合の登山口から1時間半ほどのところに中飯場という水場がある。これから始まる本格的な登りに備えてゆっくりと準備する。
■伊藤流ライスサンドイッチ――1998.2.5
最近のコンビニおにぎりは多彩だが、これは具をはさむだけで握らないし巻かないから簡単清潔。具は佃煮系から始めてありとあらゆる可能性を追求していただきたい。
●昼食休憩をとらない理由
私が実施する山歩き講座では「昼休み」がない。
いろいろな理由があるけれど、休憩場所とその時間、すなわちタイミングの選択こそ、私の重要な仕事だと考えていて、30分とか1時間のまとまった時間を予定した場所で過ごすという約束をしたくないのだ。その日その時の調子を見ながら、ライブ感覚で休憩を設定する「権利」を存分に行使したい。それから、5分休憩を10分に延長したり、10分休憩をを15分とか20分に延長するマジックで山歩きそのものの調子を整えていきたいと考えている。
宴会登山なら話は別だ。予定した場所に行くのが大きな目的だから選択の余地は少ない。天気が悪かったり、調子の悪い人がいた場合のことを軽く、危機管理的に想定しておけばいい。
もうひとつ、山頂で昼食というような計画を立てられることが無理な場合が多いのだ。出発時刻が遅いからだ。東京、上野、池袋、新宿など山手線の駅を起点として8時というのが早いほう。入門編では9時ということもある。従って新幹線や特急を多用するのだが、単独行に慣れている人たちは出発がうんと早いから鈍行で余裕をもって合流してくる。
理由のひとつは初心者に対して「家族を送り出してから出てこられる」という時刻設定をしたこと。そして参加者の範囲が広くて山手線まで2時間近くかかる人もいる可能性があるという地理的な事情による。
それが悪弊となっているともいえるのだが、みなさんの腹のぐあいは、昼食を食べてから登りはじめるという感じにもなる。
人によっては「けしからん」とお叱りを受けそうだ。山慣れてきた人に「もう少し出を早くしませんか」とたしなめられたりすることがしばしばある。しかしそれについてもいろいろあって、大筋は動かないまま11年続いてきた。
要するに、山歩きにおいて「昼食」というものの存在をあまり重要視していないといえそうだ。
最近、あるベテランにいわれたのだが、私の講座に参加するときにはおにぎりを小さめにするという。「伊藤さんは休憩が短いから」だそうだ。
はじめての人にはこう言うことにしている。
「お昼休みというのは、たぶんありません。休憩は一応5分か10分ですから、10分のときになにか一口食べてください」
休みごとに一口水を含んでもらう。10分休憩のときにはなにか一口食べてもらう。それを基本単位にして「行動食」というありかたを浸透させていきたいと考えている。
●弁当ではなくおにぎりで
要するに、山に「弁当」を持ってきてほしくないということでもある。1食分の弁当を一気に食べるということではなしに、小分けに食べてほしいのだ。
エネルギー補給のしかた、というふうにもいえるけれど、じつはもうすこし別のことを考えている。
休憩時にはまずザックを置き、水を取り出して一口飲んでほしい。そのこととまったく同じ考えで、少し長い休憩には水に加えてなにか一口食べてほしい。
時間が来たから食事、という流れからからだを解放してやりたいのだ。頭が行動を決めるのではなく、まずからだに聞いてみる。そこのところをきちんとやっておきたいのだ。
私の講座に参加しているお医者さんが「子どもに決まった時刻にトイレに行かせるしつけをしていると、子どものからだはガタガタになる」といっていた。山では1日の内容がずいぶん変化する。その変化をからだがどうとらえるかはその時々違うだろうし、人によっても違う。
その違いをだいじにするために、「まずからだに聴いてみたい」のだ。水を一口、食べものを一口というのは、その「聴く」ことにほかならない。からだが飲みたいのなら飲めばいいのだし、食べたいのなら食べればいい。
私の山歩きでは、行動を支配する頭からからだを解放してやりたいという思いが大きい。だから「からだに聴く」ということの突破口を飲むことと食べることに求めている。
その副産物として、10分休憩で一口食べられるとなれば、冬でもからだを冷やさずにエネルギー補給が可能になる。あるいはバテ気味の人に立ち直ってもらうために長めの休憩をとりたいとき、食事休憩にすることでチームにストレスを与えずに労務管理的休憩を挟み込むことができる。
そしてもちろん、気持ちのいい休憩場所があったら、ゆったりした気分で休んでもらうためにも「食べる」という要素を加えたい。
そういう意味で、私は山の弁当としてはおにぎりをすすめている。
まずはコンビニのおにぎりだ。3つか4つか、5つか6つか悩むところだが、ともかく個数で量が計れる。
補給するエネルギーの量が個数として明らかになる。
当初は当然、多めに持っていって、余りを見ながら量を調節するだろう。ところが余ったものは食べたくない。コンビニのおにぎりがうまくないというのではなくて、山で食べるおにぎりと下界で食べるおにぎりとは、どうしたって味が違う。
当然のことながら、山で食べきりたいと考える。そこで予備食兼非常食というものに対する具体的な要求が生じてくる。ザックに入れっぱなしにしておけて、足りないときには予備食としても必要量取り出せるものがあるといい。
おおよそ1食分の予備食兼非常食が常備されると、おにぎりからも解放される。パン類で考えてみたり、酢甘などの餅菓子系を試みてみたり、保冷ボックスを利用してさつま揚げなどの練り物系を考えてみたりする。当然、生ハムなどがあれば豪華なランチになってくる。
そして私のおすすめ。ライスサンドイッチというべきものを紹介しておきたい。
海苔を1枚敷いてふつうのご飯を薄くのせる。そこにたっぷりの具をのせて、巻かずに二つ折りに。半分に切ると食べやすい大きさになる。ラップフィルムで包んでおしまい。
おにぎりよりたくさんの具を入れられる。それから雑菌がつきにくい。お試しいただきたい。
★目次に戻ります
★トップページに戻ります