軽登山講座────伊藤幸司
*この講座はBIGLOBE(NECビッグローブ)が公式に設置したstation50において2005年から2010年にかけて105回連載したものです。

【伊藤幸司の軽登山講座071】「連続乗車券」の発見――2008.12.25



■糸魚川の雁木造――2008.9.29
白馬三山縦走は1日目の行動時間を長くするために新幹線で長野、バスで白馬へ。蓮華温泉からの帰路はバスで糸魚川へ。特急で越後湯沢、上越新幹線で東京へ。糸魚川→東京→長野という連続きっぷ使用のケース。



■東京駅で一時下車――2008.12.23
光都東京・LIGHTOPIA2008は12.19-28に丸の内周辺で行われていた。ホリデーパスだと帰りがけの都心部でも一時下車してみたくなることにも対応する。


●救いの神か「連続乗車券」

 最近「連続乗車券」というものがあることを知った。調べてみるとJRの基本的な切符のひとつで、片道乗車券、往復乗車券、連続乗車券という3本柱のひとつとされているという。「JTB時刻表」にはこう解説されている。
「乗車区間が一周を超える場合、または、乗車区間の一部が重複するなどで片道乗車券・往復乗車券にならない場合、片道乗車券2枚を組み合わせて発売する乗車券です。この場合、1枚目の券片(連続1)の着駅と2枚目の券片(連続2)の発駅は同じ駅になります。」
 キモは往復乗車券にならないので片道乗車券2枚にしなければならない場合に、連続乗車券とする手がある……という意味なのだが、そうすることで得られるメリットは何なのか。どんな御利益が期待できるのかで、最近、私たちはおおいに盛り上がったのだった。
 御利益のひとつは、有効期間が連続1と連続2の乗車券の合算日数になるということ。JRの切符の有効期間は101km以上〜200kmまでが2日、400kmまでが3日、600kmまでが4日……となっている。往路で1日使うと、その残りが帰路分に加わってくるので、登山では予備日が生まれるかたちになる。
 第2の御利益は片道乗車券2枚なら払い戻しの際に210円の手数料を2枚分支払わなければならないところ、連続1と連続2の乗車券は1枚分ですむ、というところ。
 なんだ、たいしたことではないと思われるかもしれないが、この御利益をもっとも期待されたのが学割だったという。「学生・生徒旅客運賃割引証」というのを学校からもらって2割引にするのだが、このときに、割引証が往復なら1枚、単純な往復ではない場合も、連続にすれば1枚ですむ。
 私たちは学生割引ではなくて、ジパング倶楽部(女性60歳以上、男性65歳以上、夫婦の場合は65歳以上の配偶者をもつ人)の割引だ。JR6社全域で201km以上の運賃や特急などの料金が3割引(初回3回は2割引)になる。ジパング倶楽部の割引は「JR乗車券購入証」を窓口に持参することによって、1年間に20回購入できる。そのときに、往復乗車券にできずに片道乗車券2枚になるのを、連続乗車券1枚ですますことができる。
 ところが、本来御利益の第1に挙げたくて、ワッ! と飛びついたのに、技術的によくわからないところがあって3番手に落ちたのが、じつは本命だった。
 ジパング倶楽部は年間20回しか割引購入ができないが、JR東日本の大人の休日倶楽部ではジパング倶楽部のローカル版を実施している。範囲がJR東日本(と一部JR北海道)に限定されるが、クレジットカードによって回数制限をなくしてしまった。片道乗車券で何枚買ってもかまわない。
 ところが日帰りの山の場合、「201km以上」という制限が大きな障害になってきた。201km以上というと、本州3社のJRでは3,570円以上に適応される。東京駅からの新幹線だと東北新幹線で郡山、上越新幹線では浦佐(ガーラ湯沢も)、長野新幹線になると長野となる。東海道新幹線はJR東海なので大人の休日倶楽部は適用外だが、掛川となる。
 しかしこれは片道乗車券の場合。往復乗車券になると101km(正確には100.5km)以上の駅ならいいので、東北新幹線で宇都宮、上越・長野新幹線で高崎、となる。ちなみに東海道新幹線では熱海。私たちがよく使う中央本線特急では、新宿から101km以上というと勝沼ぶどう郷になる。
 千葉の朝日カルチャーセンターでは中央本線沿線の山では午前6時38分千葉発の特急あずさ3号が定番となっているのだが、千葉から101km以上というと大月でOKとなる。各駅停車でなら中央本線では藤野。青梅線なら御嶽の次の川井まで行ける。しかし五日市線だと終点の武蔵五日市で91.6kmでちょっと足りない。そういうときには、千葉から8.9km以上下がった駅を始発駅にして201km以上の往復乗車券という条件を満たしていた。
 ところが、武蔵五日市駅からバスで白倉まで入り、大岳山〜御岳山とたどって青梅線の御嶽駅から帰ろうというときには、往復乗車券が成立しない。あえて考えれば両線が分岐する拝島までの往復で201km以上の駅を起点として、それぞれ乗り越すということになるだろうか。
 そんな悩みをみなさんそれぞれにお持ちだったのだが、ジパング倶楽部の割引の条件は「JR線の営業キロが片道・往復・連続で201km以上ご利用の場合」と明記されているではないか。(私はまだジパング世代ではないので真剣に考えてはいなかったのだが)連続乗車券というものが、ほとんどみなさんの頭の中になかったようなのだ。
 連続乗車券として考えるなら、いまの千葉→武蔵五日市、御嶽→千葉を、御嶽→千葉(連続1、100.8km)、千葉→武蔵五日市(連続2、91.6km)として201kmには8.6km足りないので、千葉駅を4.3km下がった駅に入れ替えればいいことになる。
 連続乗車券は「連続1」というきっぷと「連続2」というきっぷに分かれているので、「連続2」の切符のほうから使えばいい。千葉からのケースはローカルな感じがするけれど、横浜に置き換えても同様だろう。
 それよりも、JR東日本の電車特定区間では101〜120kmが1,790円だからその7割(1,253円)以上にあたる81〜90km(1,380円)より遠くに行くのであれば、大人の休日倶楽部の3割引は有効になる。自分の最寄り駅を通る路線で、合計201km以上になるような駅を探せばいい。
 連続乗車券は往復の途中で別の路線を利用したいという寄り道計画も可能にしてくれる。往復はむしろ連続のなかのもっともシンプルなかたちと考えるべきかもしれない。
 さっそく試した人の報告によると、連続乗車券を買う窓口で駅員が混乱する場合もあるというから、最寄り駅での最初の購入では、すいた時間にじっくりと構えてみることが必要といえそうだ。


●ホリデーパスのありがたさ

 話はまた首都圏ローカルになってしまうけれど、JR東日本の「ホリデーパス」もJR6社の「青春18きっぷ」からの独自バージョンと見ておきたい。
 ひょっとして知らない人がいるかもしれないのだが、ゴールデンウィーク(4.29-5.5)、夏休み(7.20-8.31)、正月休み(12.29-1.3)に加えて、土休日のその日に、駅の券売機の「トクトクきっぷ」ボタンを押すと「ホリデーパス・2,300円」と出てくる。
 前売りの場合はみどりの窓口に並ばなければいけないので、当日出がけに購入するのが簡単だ。(ちなみに、該当する日でないと券売機には表示されない)
 首都圏で日帰りの山歩きをしている人にはなじみのきっぷだと思うので、くわしく説明してもしょうがないが、外縁にあたる駅を列記すれば次のようになる。熊谷、小山、土浦、成田空港、成東、茂原、木更津、羽田空港第2ビル、扇町、大川、海芝浦、久里浜、平塚、大月、武蔵五日市、奥多摩、高麗川。
 大ざっぱな距離感でいうと上野→熊谷61.1km(1,050円)、上野→土浦66km(1,050円)、東京→成田空港79.2km(1,210円)、東京→木更津74.3km(1,210円)、東京→久里浜70.4km(1,210円)、東京→平塚63.8km(1,050円)、新宿→大月77.5km(1,210円)、新宿→奥多摩64.4km(1,050円)というぐあい。山手線の駅から最遠駅まで往復したのではほぼトントンという計算でつくられている。
 言い方を変えれば、最遠駅まで行って帰れば、最寄り駅から山手線駅までの往復がトクになる。
 しかしこの割引切符がありがたいところは、JR東日本の新幹線、特急にも乗れるという点。「青春18きっぷ」が5回あるいは5人用となっている不便さに加えて、基本的に鈍行旅行専用割引になっていることが最終的にネックになる。
 登山の場合、日帰りでも予備時間というものが必要になる。最後の最後で特急なり新幹線の利用も可能なら、現地での予備時間に余裕がでる。つまり危機管理的な立場からすれば、最後の最後で鈍行にしか乗れないという制約はどうしても頭の隅にひっかかる。
 ホリデーパスは、乗越料金を払ったり、該当駅までのきっぷを買うことで、帰路高崎から新幹線にするか、快速にするか悩む余地を残してくれる。小山から東北新幹線という選択肢もあればありがたい。
 しかし、リーダーという立場の私にはもっとうれしい自由が与えられる。山の中でたっぷり時間をかけたいときに、風呂や食事がどんどんしにくくなっていく。電車の接続も条件がどんどん悪くなっていくので、幹線の主要駅まで出ておきたい。
 ところが東京近郊区間(ホリデーパスよりもうひとまわり広い)では途中下車が許されない。田舎の駅だったら、地元に金が落ちるケースでもあり、説明して黙認してもらう可能性もあるけれど、千葉とか横浜とか、八王子、大宮などで途中下車はむずかしい。
 ……というときに、ホリデーパスはすべての駅で乗り降り自由ということで、主要駅での入浴や食事の情報を得ていれば、帰路が遅くなった場合の次善の策が決定的に違ってくる。
 週末の登山者は、そういう危機管理的視点から、よほど損にならなければ、ホリデーパスを利用したほうがいい。なんらかの突発的理由でその日の予定を練り直す場合にも、ホリデーパスの融通無碍なところが発揮される。


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