軽登山講座────伊藤幸司
*この講座はBIGLOBE(NECビッグローブ)が公式に設置したstation50において2005年から2010年にかけて105回連載したものです。

【伊藤幸司の軽登山講座079】靴下をどうするか――2009.5.10



■防水ウォーキングシューズ――2009.2.24栃木県の大小山で。
ゴアテックスマークのついたブルックス。3Eと4Eがあって、登山用品店にはほとんどなくて、スーパーなどの運動靴売り場にある。



■防水ウォーキングシューズ――2009.4.26安達太良山で。
ゴアテックスマークのアシックス。雪解けのぬかるみを下ってきたので、泥落とし。


●私は2枚派

 じつは私は、登山における靴下の選択について、広い視野から考えるという立場にない。わたしが唱えている軽登山では、ランニング用のトレーニングシューズが私の常用であり、1足のみで毎月約8回(約10日)という目安で、1年〜1年半ではきつぶしている。冬ももちろん、軽アイゼンやスノーシューで歩く範囲に行動は限定されているが、メッシュのランニングシューズのまま防水ソックス(シールスキンズ社)を加えている。
 周囲の皆さんの中でヨーロッパアルプスに挑戦しようとする人などは本格的な登山靴をはいてくることがあり、多くの人はいわゆる軽登山靴がベースになっている。そして最近ではゴアテックス防水のウォーキングシューズが従来のハイキングシューズやトレッキングシューズを駆逐して、軽登山用の靴として違和感のない存在になりつつあるので、多くの人がそちらに移行している。
 靴の選び方と靴の中での足の補助・保護とは緊密に相関するので、ここでは軽登山靴〜トレッキングシューズ〜ハイキングシューズ〜防水ウォーキングシューズという領域に範囲を限定させていただきたい。そして季節的には春〜夏〜秋の北アルプスを一般登山道(登山道の一般ルート)で歩くぐらいまでと、マイナス10度Cぐらいまでの樹林帯の雪の山(北八ヶ岳稜線を基準として考えている)を行動範囲としておきたい。
 私は1足で通年使用するので、靴のサイズは冬に合わせている。肌着としてのインナーソックスと厚手の登山用ソックス、それに冬には防水ソックスと貼るカイロのミニ(土踏まずに貼る)が加わる。
 靴のサイズは2サイズ(約1cm)オーバー。トレーニングシューズは試合用よりは1サイズ大きかったりするので、スポーツシューズとしては3サイズオーバーかもしれない。
 軽登山靴くらいつくりがしっかりしていると、そのサイズではブカブカでよくないという判断がだれにでもできるだろう。しかしやわらかな靴の場合、靴ひもをきちんと(感覚的にはきつすぎるぐらい)締めると、靴全体が足に張りついてくるので、ブカブカ感はかなりのところまで減少する。
 周囲の皆さんがあこがれの登山靴(軽登山靴です、念のため)を買うときに、靴下1枚ではくのが今の常識といわれるらしいのだが、山靴に靴下のパッキング機能がいらないという常識はちょっと非常識だ。オーダーの山靴でもそういうふうにできあがる保証はない。まして既成靴で、左右同じサイズの靴が両足にフィットするなんて誰が信じているのだろう。足のサイズそのものだって、夕方にはかなりむくんで大きくなるというのが常識だ。
 はく人の足と、靴メーカーの木型との相性がよくなければ、サイズをいくら選んでも、どこかにフィットしないところが出る。靴は三次元の曲面で足とフィットしようとしていることを忘れてはいけない。
 靴がやわらかければ、たとえば地下足袋があまり厳密なサイズ選択を必要としないように、ルーズにフィットするという暗黙の了解を立てることができる。
 そこでちょっと視点を変えて、靴が足を守ってくれると考えずに、靴は外界側の環境に属して、足とのインターフェースとなっているとしてみよう。よほどフィットしたインターフェースなら片足は薄い靴下1枚、片足は薄い靴下2枚ぐらいの微調整で済むかもしれない。
 フィッティングというらしいが、それをできるだけ厳密にやろうとすれば、靴の内側にインナーソールというのを入れて左右の調整や足のでっぱり、へっこみの靴とのすりあわせを改善する。これを厳密にやると靴の運動性能が驚くほど向上するという。
 私はブカブカの運動靴を履いているのでフィッティングとはかなり縁遠いが、厚手の靴下を1年中はいている。冬には保温という機能を感じるけれど、それ以外の季節ではメッシュの薄い外殻から足を守ってくれる防御クッションという感じがする。厚手の靴下とメッシュの外殻とで靴が成立しているという感じがする。冬にはそこに防水靴下が加わる。
 内側に薄手の靴下をはくのだが、これは登山用の肌着としての湿り排除を期待している。あくまでも足側の肌の味方で、靴側の不備に対して専守防衛ラインを構築している。
 したがって、登山靴が足との関係をオーダーメイドで調整したり、インナーソールで関係改善をはかったりした場合には、肌着としての薄い靴下1枚でOKということは考えられる。なぜなら足と靴のインターフェースを向上させるためにはあいまいなパッキング機能はかえって邪魔になるからだ。


●ポリプロピレンという誘惑

 東京で講座を開いて、その後希望者と登山用品店をのぞくという催しを毎月行っているのだが、昨秋、靴下を1枚買った。「ポリプロピレン」の靴下があったら買いたいといつも思っているのだが、それがあったのだ。たぶんそこにはふつうの靴下と五本指と両方があったらしいのだが、五本指しか目に入らずに、それを買った。
 以後50回ぐらい連続的にそれをはいて山に出かけているのだが、ちょっと期待を裏切られたかもしれないと感じている。
 昔の話になるが、デュポン社が乾式オーロンというのを開発した。オーロンはデュポン社のアクリル繊維を総称するブランドだそうだが、その繊維に(乾式という製造方法で)複雑な傷をつけて、ロウソクの芯が液体になったロウを毛細管現象で吸い上げるように、汗を外部に排出するウィックドライ機能を獲得した。
 その種の肌着は今ではアクリルではなくポリエステルに置き換えられているが、その乾式オーロンと競合したポリプロピレンの肌着もあった。
 ポリプロピレンは荷造りロープやポリ容器などで生活に密着しているが、繊維としては染色しにくいとか、混紡もしにくいらしく、最近では北欧や豪州の製品でときおり目にするぐらいになった。
 しかし私の経験では、ポリプロピレンの靴下にはほかの繊維とは比べられないと思っている利点がある。はくほどに繊維がしなやかになってくる。はく瞬間のソフトな肌触りがたまらない……というほどではないけれど、肌にやさしい。それが足にマメをつくるような場面で肌を守ってくれているというような気がしている。
 だからその、新しく買ったポリプロピレン100%の靴下を連続的にはいてきたのだが、いっこうに、これまでのようにしなやかになってこない。これまでずいぶん多くのポリプロピレン靴下をはいてきたが、はじめての経験だ。そろそろ放棄しようかと考えている。
 同時に、五本指の感触にも興味を持っていた。以前、はいてみたことがあるけれど、特段の効果を感じたことがなかった。五本指を評価している人たちの感触の一部でも味わいたいと思っているのだが、その外側に厚手の靴下をはいてしまうのがいけないらしいとは感じながら、五本指を手放したくない、とは思えない程度の状態で推移してきた。
 はくときのわずらわしさはもうほとんどないけれど、左右どういうふうにでもはけるふつうの靴下の方がやっぱりいい、と思い始めている。
 ポリプロピレンだからといって周囲の皆さんにすすめてもいけないかもしれないと慎重になり、五本指がいいとも言い難い。どこかでまたポリプロピレンの靴下を見つけたら、早めに判断して、いいとなればすこし買い占めておきたいと思っている。
 じつはポリプロピレンではないけれど、足の滑りがもっといい靴下があった。ミズノのブレスサーモの薄い靴下で、際立って薄いのが肌着として好ましい方向だと思った。ブレスサーモは水分を吸って発熱するという機能だから確かめてみたかったのだが、手袋も靴下も、それを実感するところまではいかなかった。しかしその薄い靴下が靴の中でものすごく滑りがいいのだ。滑りすぎると文句を言いたくなるくらい滑りがいい。
 足を濡らしたときなど履きかえた靴下を濡らさないようにポリ袋をはいたりするが、そのときの足の滑りに近い。しかし実際にはいていると、なじんでしまう程度の滑りだ。足にマメをつくりやすい人にはぜひはいてみてもらいたい。
 もちろんインナーソックスには、いまやいろいろな製品があって、ウィックドライ機能はもちろん標準装備、抗菌機能も常識的になりつつある。しかし私はほとんどはいてみていないので論評のしようがない。
 要するに、どんな場合でもそれを肌着としてはいていると足にやさしいと感じる靴下をきちんと確保しておきたいということだ。いまではビジネスソックスでも山に使えるものもあるかと思う。ポリエステルの薄手の靴下の中に、かなりいい条件のものがあると考えている。
 そういうわけで、インナーソックスをポリプロピレンで決めておけば外側の厚手の靴下はなんでもいいと長い間考えていた。ところがあるとき、防水靴下をまとめて仕入れたことがあって、そのときに厚手の靴下が1足、見本として同封されていた。「ゴアテックスのお墨付き」とかいわれてなにがそのお墨付きなのかとはいていたのだが、それが何年経ってもダメにならない。年間100日使っても別にどうということもない。
 なにか特別な靴下かと思っていたら、まったく同じものを登山用品店で見つけた。3,000円ぐらいの、ごくありふれた厚手の靴下で、ゴアテックス云々も見えなかった。そこでさっそく買って、2足をまぜこぜにしてはいてみると、たちまち見分けがつかなくなって、このまま何年もその2足で済んでしまうのではないかという気配。登山用の靴下は高いと思っていたけれど、しっかりつくられていると考えていいようだ。
 決まった靴下で足と靴とのインターフェースを固めると、足回りが安定すると私は感じる。


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