軽登山講座────伊藤幸司
*この講座はBIGLOBE(NECビッグローブ)が公式に設置したstation50において2005年から2010年にかけて105回連載したものです。
【伊藤幸司の軽登山講座095】水について(2)温かい水――2010.2.11
*このシリーズは全6回で、(1)飲み方、2)暖かい水、(3)冷たい水、(4)非常用の水、(5)山の水、(6)スポーツドリンク、(7)運び方――となります。
■奥日光・高山(1,668m)の山頂。気温はマイナス5度Cで、ときおり冷たい風が吹き抜けた。中禅寺湖は見えていたが、白根山は雪雲で全く見えない。保温水筒の温かい飲み物が価値を増すシチュエーションだ。――――2010.1.26
●オールシーズン、お湯が欲しい
私たちのまわりには保温水筒を常備している人が多い。基本はお湯を持つためだ。
欧米人が保温水筒を持っているとすると、コーヒーが入っている確率が高い。山で熱いコーヒーを飲めると、その価値は絶大だ、ともいえる。
コーヒーを甘い紅茶に代えてみてもいい。冬の寒い日ならその甘みがカラダにしみて、ただの紅茶とは全然違うカロリードリンクになっている。
コーヒーや紅茶より日本のお茶の方がいいという人も多い。山小屋や旅館泊まりの朝に、保温水筒を持っている人はお茶をもらう派か、お湯をもらう派に二分する。
白湯をもらう人はどうするのか。おおよそは昼食時に定番の暖かい飲み物を考えている。お茶にしても、紅茶、コーヒーにしても、いまではフリーズドライのいい製品やティーバッグがいろいろある。お好みの味を山で楽しむことができるというわけだ。
白湯派にはもうすこしエスカレートした人たちがいて、みそ汁やスープ類を飲みたい人、インスタントラーメンを食べたい人もいる。
そういう人は熱湯を入れてそのまま昼まで開けないで、できるだけ冷えない状態で熱い飲み物にする。
しかし、いくぶん冷めたお湯でも有効な方法として、玉露を常備している人もいる。午後のお茶として楽しめるいい方法といえるだろう。上等な和菓子などもあればこれほどの贅沢はない。
私は季節に関わりなく水道水を入れた水筒をもっているだけなので、夏はぬるい水、冬は凍りかけた水をそのまま飲むことにしているけれど、熱い飲み物、暖かい飲み物は気持ちをホッとさせてくれる。歳をとると食事のときの飲み物としてどうしても暖かいものを用意したくなるというのが私の周囲の常識的な意見となっている。
つまり「暖かい」ということが重要な価値をもっていて、それは夏でも変わらないという。多くの人が体験的に感じているわけだから、山歩きに暖かい飲みのものはイイといえる。
私はときどき、危機管理的な立場からお湯を用意することがある。人数が少ない場合には保温水筒で用意することもあるけれど、10人に200ml として2リットルの湯が必要になるから、3リットルのお湯を沸かす範囲なら実施することがある。
そのときの問題は、寒さがからだにしみこむようなときほど暖かい飲み物は価値を増すけれど、用意する時間、じっと待っている間にカラダが冷えるデメリットも大きい。そこでお湯を沸かす時間を短縮するために保温水筒に湯を持っていくということはある。
せっかく手間と時間をかけてお湯を沸かすならさらにもうひと工夫と考えると、紅茶も牛乳をベースにしたロイヤルミルクティ(というよりインドのチャイ)にしたり、甘酒にしたりする。お湯だけ沸かして各種ハーブティのティーバッグも女性に喜ばれたりするけれど、男性の反応は一般に低調だ。
雪の山で、風の当たらない斜面に落ち着ける場所をさがして、ちょっとぜいたくなランチタイム。熱い飲み物も用意する……というような演出は、寒さを背景に利用するので雰囲気としての寒さを楽しむという表現をしやすくなる。
単独登山者がひとり用のコッヘル+ガスバーナーで暖かい食事をしている光景をよく見るけれど、私たちのようにグループだと宴会登山になってしまう。昼食に最低1時間は必要になり、天候に対する備えまで考えるとテントを張るなどという大げさなことになりかねない。そこで私の講習では10分休憩には小分けにエネルギー補給をして、山頂がダメならその前後でいい場所をみつけて15分とか20分の長い休みをとる。熱いお湯を持っている人たちは、そういう休憩に熱湯を利用する。
保温水筒は性能がよくなったので、満タンに入れた状態でもっていれば、昼までは熱いお湯が飲めるはず。もし性能がよくないと感じたら、注ぎ口のところがいちばん放熱しやすいのでチェックしてみたい。二重構造の金属ビンの内側と外側が飲み口のところで接している。だから内側のビンの熱が伝導で外に漏れだしてくる。その放熱部分に飲み口のプラスチック口金があるので、飲みやすい口金とさめにくい口金に分かれてくる。仲間で同じ条件にして保温実験をしてみると、けっこうはっきりその違いが見えてくる。
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