キヤノン通信――1988〜2001


 「キヤノン通信」というものを目にした人はじつはあまり多くありません。その素性を先に明らかにしておくと、キヤノン販売(現キヤノンマーケティングジャパン)が特定の新聞記者・雑誌編集者に送った情報ツールです。1988.3に創刊し、2001.10に111号を最終号としてウエブ版に移行(そして終了)しました。
 私が参加したのは1988.10.7の第6号からで、バックナンバーを見直してみると当初、1年半ほどはほとんどひとりで書いていたようです。
 私はダイヤモンド社の「ダイヤモンドBOX」系のモノライターとして1本釣りされたのですが、マガジンハウス「ブルータス」、小学館「DIME」、日経ホーム出版「日経トレンディ」などで仕事しているフリーのモノライターが順次加わってきました。以後ほとんど毎月編集会議をおこない、キヤノン販売広報部のニュースソースをフル活用してキヤノンの技術者への内部取材を行い、情報としてマスコミに提供し続けました。後には新人記者・新人編集者を対象とした写真教室も定番化しました。

 要するに各社各様の広報ツールのひとつなのですが、キヤノンは精密機器メーカーとしてのキヤノン株式会社があり、その販売をキヤノンUSA、キヤノン・ヨーロッパ、そしてキヤノン・ジャパンにあたるキヤノン販売という3社体制で受け持っていました。
 じつは脆弱な子会社であったキヤノン販売に、キヤノンUSAを日系トップ企業に育て上げた名経営者・滝川精一氏がキヤノン販売社長となり、東証一部上場を目標にモーレツな拡大路線をとったのです。
 一方で上場企業を目指しながら、広報セクションはいびつな状態に置かれていました。日本の新聞・雑誌に対してはキヤノン株式会社に広報部があったからです。
 ところが日本での販売活動はキヤノン販売に任されていましたから、年間100億円といわれたテレビコマーシャルはキヤノン販売の予算で行われていました。広報部はその宣伝部の雑用係という立場に甘んじていたといえます。
 当時の広報副部長(後に部長)の藤森元之氏が本格的な広報部の立ち上げをもくろみます。「100億円の宣伝費をもつ企業なら5億円の広報予算が常識」という算術を考えたのですが、人がいません。広報部員ではとても手を広げられないというので、外部の人間を積極的に取り込む作戦に出たのです。

 私がかかわった「キヤノン通信」の発端は1987.3の35mmAF一眼レフシステム「EOSシリーズ」の発表だったといいます。その発表会を仕切ったキヤノン販売広報部はマスコミ各社との関係を恒常的なものとすべく「EOS通信」を創刊します。それが1年後にはキヤノン製品全般に及ぶものとして「キヤノン通信」となり、半年後の6号から、私がひきつぐ形になりました。

 じつは前年、ダイヤモンド社の電脳文具雑誌「ダイヤモンドBOX」で1年間キヤノンT70というカメラのタイアップシリーズを受け持っていました。それが直接のきっかけだったようですが、なぜか電通を通じて送り込まれたかたちになりました。
 広報部内にライター、編集者、デザイナー、イラストレーター、そしてDTP制作までのチームをコンパクトに構築してマスコミにユニークな発信をしたいということから、当初私にはDTPまでが期待され、マッキントッシュ・パソコンとレーザープリンター、それにプロ用レイアウトソフトなど一式約200万円が支給されました。以来私はマックユーザーになるのです。

 ここには、現在も(ひょっとして)資料的な価値があり、かならずしもキヤノンにこだわらずに読んでいただけると思うものをピックアップしたつもりです。


■7号 ワープロ進化史────キヤノワードを中心にして(1988.11)
■12号 第3のトップランナー────500 万台を突破したキヤノンの複写機技術(1989.6)
■13号 EOS-1に至る50年────キヤノンのカメラ技術史(1989.8)
■14号 取材写真・虎の巻────コンパクトカメラを上手に使う(1989.9)
■35号 キヤノンのもうひとつの顔・輸入事業────コンタクトレンズから半導体製造装置まで(1992.5)
■41号 キヤノンのTV放送機器────ズーム機能が支えるカウチポテトの愉しみ(1993.5)
■54号 Canonの腕をご覧ぜよ 「双眼鏡革命」宣言────新技術を古い器に盛りつける?(1995.7)
■61号 キヤノン販売とリンゴの話(1996.10)
■72号 知ってて知らないキヤノン・ロゴの話(1997.10)
■76号 キヤノンの医療機器部門にメスを入れる────眼内レンズ(1998.3)
■81号 キヤノン的手ブレ補正技術開発の世界戦略────2種類の光学式手ブレ補正機構を実用化(1998.9)
■98号 キヤノンの「眼もの」────眼科医療機器の新世紀(2000.4)
■107号 世界初の「DOレンズ」とは何か?────積層型回折光学素子(2001.4)


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